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「姫様〜!見えてきましたよ〜!」

「本当だ。結構大きい領地だよな」

「美味しい食べ物あるかしら〜?」

「お前…本当にそればっかだよな…」


レオとヴィヴィののほほんとした会話を聴きつつ、私は馬車の外に目を向けた。国の国境を守るテネブレイド辺境伯家が所有する領地は広大だ。しかし険しい山々や不安定な気候でもある地域のため、辺境伯家の城がある都市は周囲の厳しい環境から領民たちを守れるように、硬い壁でぐるっと都市全体を囲っている構造だ。都市に続く門をくぐると多くの人々が行き交うメイン通りが見えてきた。商人たちが店を開き、領民たちが行き交っている。行き交う人々の中に、武器を所有した屈強な傭兵たちも多いのは国境付近ならではだろう。


メイン通りを抜けてさらに奥へ進むと都市の奥に聳え立つ山々の手前に大きな城が見えてきた。奥の山々をさらに進むと国境線がある。そこは過去に何度も戦争の舞台になってきた場所だ。領民や領地を含めて国を守るがごとく聳え立つ辺境伯家の所有する城は、王宮の豪奢な美しい雰囲気とは違い、砦といった方がしっくりくる佇まいだった。城へ向かう私たちの馬車を道ゆく人々が注目している。辺境伯家当主と王女の婚姻はすでに王国全体に知られているため、私たちがその輿入れする王女一行であることは明白だ。気になるのか皆が手を止め足を止め私たちの乗っている馬車をみている。ここに住まう人々はどんな人たちなのだろうか。新しい環境で新しい生活が待っていることを実感し、ワクワクしてきた。そうしてついに、私の新たな家となる辺境伯家の城に到着した。


「姫さん、さぁ行こうか」

「えぇ、いきましょう」


レオにエスコートを受けて馬車を降りると、辺境伯家に仕える使用人たちが勢揃いしていた。手前には執事と思われる茶髪の男性がいて、私たちに向かってお辞儀をして近づいてくる。まとめ役にしては少し若い印象だ。言うなれば旦那様となる辺境伯当主と同じくらいの年だろうか?彼の控える使用人たちもなぜか全体的に若い気がする。そしてそこから少し離れるようにして、これまた毛色の違う明らかに貴族出身ですといった装いの侍女らしき女性たちも出てきていた。なんだかまとまりがない使用人たちだけれど、この大きな城を管理するのに問題はないのだろうか?そんな疑問を抱きつつ、近づいてきた男性と私は正面から向き合った。


「ようこそおいでくださいました、アイリス姫殿下。辺境伯家使用人一同お会いできることを喜ばしく思っております」

「はじめまして、アイリス・ヴェントレアよ。いや、もう嫁いできたのだからアイリス・テネブレイドと言ったほうがいいわね。これからどうぞよろしくね」

「何卒、よろしくお願い申し上げます。私は現当主ノクス様に仕えております、ライナーと申します。平民ですので姓はございません。高貴な皆様方の案内役には不釣り合いかと存じますが何卒ご容赦いただきたく…」


申し訳なさそうにライナーは弱々しく微笑んだ。確かに辺境伯家を代表して出てくる人間が平民出身と言うのは、私たちでなければ場合によってはその場でライナーの首が飛んでいただろう。面倒な貴族たちは結構多く存在するから。だけど私たちにとっては目の前の彼が平民だろうが貴族だろうがあまり関係ない。というか気にしない。私の個人で所有する商会や暗部組織の上層部にも平民は多くいるし、前世を思い出す前も後も私はそういう階級の上下を気にせずに生きてきた。というかあまり感覚や考え方は昔から変わらないみたい。唯一の違いとしては黒髪好きになったということぐらいだろう。前世を思い出した今となっては、より一層才能あるものは平民でも貴族でも取り入れたい主義に変わっている。

申し訳なさそうな彼に話しかけようとした時、他の使用人たちとは少し離れた場所にいたあの毛色の違う侍女らしき女性陣の中から一人の女性が出てきて私に話し出した。


「まぁまぁ!姫殿下!そのような平民とお話しされる必要はございませんわ!そこの下賎なものよりも私共をお使いくださいませ!!」


いきなりしゃしゃり出てきた彼女にどんっと押され、困ったように横にどくライナー。どうやら立場として全体を任されているのは平民のライナーだが、目の前の彼女は貴族出身らしい。どう出ていいのかライナーもわからなそうにハラハラと様子を伺っている。


「…あなたは?」

「私は辺境伯前夫人のビビアナ様にお仕えしておりました、オリビエ・ルアーと申します!ルアー男爵家の次女でございますわ!この度は王家直系の姫殿下をお迎えすることができ非常に嬉しく存じます!そこの下賎な平民ではなく私どもが尊き御身であらせられる姫殿下をご案内しますわ!」

「…オリビエ様、そのような勝手は困ります」

「だまりなさい!平民風情が偉そうに!そもそも呪われた辺境伯当主もなぜこのような平民を使うのか意味がわからないわ!穢らわしいからよらないでちょうだい!」


なるほど。前夫人が連れてきた侍女たちがまだ城に残っているわけか。王女の私がいる手前、どのように彼女を対処するべきか伺っている様子のライナーと、そんなことにも気づかず私に取り立ててもらおうとするオリビエ。面倒だけれど城の中の人員についても検討の余地がありそうだ。そもそも、階級差別をしまくっているオリビエだが、このように私の前にしゃしゃり出てくる時点で教養のかけらもないことが伺える。前夫人はあまり良い人材を置いていないようね。


(こういう面倒な女たちはいらないのだけれど、どこかで一掃するとしましょうか)


そんなことを考えつつ、ちらりと後ろに控えているレオを伺うと、楽しそうにニヤリと口元を緩ませオリビエを見つめていた。


(あ、すでに獲物を捉えたような目をしているわね、レオ…。それなら放っておいてよさそう)


レオはどっちかというと頭を働かせることや人を動かすことに長けている。そしてそんな彼の大好物は、オリビエのような面倒な奴らをどん底に叩き落とすことだ。オリビエ…あなたはもう終わりだわ…可哀想に…

私としてはそんなレオの性格も含めて好んでいるし、助かることも大いにあるため放っておいている。


(とりあえず、この面倒な女は放っておいて中に入りましょうか)


私はあえてオリビエを無視するような形でライナーに向き合った。


「あら、ライナーは平民出身なのね。でもこの辺境伯家を任されるくらいなのですもの。努力されてきた結果なのではないかしら。私はあなたが平民でも気にしないからそんなに申し訳なさそうな顔をしないでちょうだい」

「姫殿下の寛大なお言葉に感謝いたします…!私がここまで頑張ってこられたのも全ては主であるノクス様に救っていただいたからに他なりません。大事な主のご家族として姫殿下のような尊きお方を迎えることができますこと、非常に嬉しく存じます」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。急な輿入れでバタバタさせてしまったでしょう?私の部下や使用人たちも連れてきているから、何でも言ってちょうだいね」

「ありがとうございます!」


ライナーは私の言葉を聞いてほっとした表情をした。確かにオリビエのような使用人を連れてきた前夫人を見ていれば、後妻である私も同じような貴族だったらどうしようという不安があっただろう。

ほっとしていた表情からまた不安そうにしながらライナーが言った。


「その…大変申し訳ないのですが、ノクス様は今国境沿いの見回りに出ておりまして、姫殿下をお迎えすることが難しく…本当に申し訳ございません」


おや、使用人とライナーしかいない時点で私の旦那様は不在なのだとは感じたが本当にいないらしい。黒髪のイケメンをついに拝めると思ったんだけど、残念だわ…


「あら、そうなの。わかったわ。どれくらいで戻られるのかしら?」

「おそらく1週間後には戻られるかと思います…申し訳ございません…」

「いいのよ、では戻ったら教えてくださいね」

「もちろんです!それでは城の中へご案内させていただきますね」

「えぇ、よろしくね」


私にさっきからずっと無視され続けているオリビエは、横でキィキィと喚いているが放っておいて、ライナーの案内を受けながら私は城へ足を踏み入れた。

黒髪イケメンを拝むことはまだできそうにないが、新天地での新しい生活に向けてまずは城の中を確認しなくては!


辺境伯家に到着です!

苦労人ライナーくんと典型的なモブ悪役令嬢オリビエちゃん。

オリビエちゃんは早くも死亡フラグ立ってますがどうなるのでしょう。


次回はみんなで相談会議です

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