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ノエルの着せ替えショーが私の部屋で始まった。ケイシーたちが用意してくれた服は、結構広めな私の部屋の半分を埋め尽くす勢いだった。通常、貴族の買い物でいうと商人や職人たちがあらかた商売相手の好みや希望を踏まえて数点ほど持ってきたりするか、そもそもがフルオーダーで作成することも多く、このように洋服がずらりと並ぶことはまずない。けれど、今回は私の方から、たくさん持ってきて並べて着せ替えて選びたいのだとリクエストした。前世の記憶が戻ってから、洋服店に並ぶ数多くの服の中から好きなものを選ぶというやり方に懐かしさがあったのもある。あとは色々なものを自ら試して、ノエルに一番合うものを選んであげたかった。


(人から「似合うよ」って褒めてもらったり、自分のために選んでもらったりする事って、とっても嬉しいもの。あとはノエルの自己肯定感を上げることや愛されていることの自覚にもつながってくれたら嬉しいわね)


そんなことを考えながら、私の隣で服の多さにびっくりといった様子で目を丸くしているノエルを見つめた。


(まぁ、一番の目的としては、単に私がノエルの服を着せ替えショーしながら自ら選びまくりたかったっていうのもある…。だっっって!!こんな可愛い黒猫ちゃん(ノエル)なのよ!?もちろんフルオーダーはブランドを立ち上げて大々的にやっていくつもりだけど、既製品だからといって手を抜くわけにはいかないじゃない!?)


私は、過去の推したちを思い出した。そう、黒髪のイケメンたちはなんでも似合う。ダサすぎるパジャマとかでさえきっと彼ら本来の素材の良さで打ち消して綺麗に着こなすことだろう。しかし、艶やかな黒髪がさらに美しく映えるような、そんな服を選び抜かなければならない。これは黒髪の美しい息子を持った私の義務なのよ!!


そんなわけで、内心ルンルンと心躍りながら私は目の前の大量の洋服たちを見つめていたのだった。


「さあ、どれから試してみたいかしら?」


ケイシーがうふふんと楽しそうに私たちに言った。


「そうね…」


私はざっと手前にある服から眺めたり手に取ったりしてピックアップしていく。


「まずはこれと…これ。それにこれと…こんな感じかしら?さぁ、ノエル。着てみてちょうだい?」

「う…うん!」


私が微笑みながらノエルを促すと、彼は少し緊張しながらも頷いた。


まずはシンプルながらも上品な装い。白いシャツにグレーの長ズボン、その上には金の見事な刺繍が施されたジャケットを羽織る。黒髪と金眼を持つ彼の美しさを際立たせる、洗練された一着だった。


「まあ!とてもよく似合っているわ!この金の刺繍がノエルの素敵な瞳とマッチして最高にいいっ!!なんて可愛らしいのかしら!!」


私は思わず感嘆の声を上げ、満面の笑みを浮かべる。


続いては海の雰囲気を取り入れたマリンコーデ。紺色のセーラーシャツに白のショートパンツ、そして胸元には海の色をそのまま閉じ込めたようなアクアマリンの宝石がついたタイをセレクト。ノエルに回ってみて?とお願いし、彼が鏡の前でくるりと回ると、軽やかに揺れる布地が可愛らしさを引き立てた。


「なんて爽やかで可愛いのかしら!ノエルは肌の色もブルーベースの透明感ある色だし、寒色系との相性が抜群ね!!そんな格好で海なんていったら、海の妖精にでも連れて行かれてしまうくらいの可愛らしさだわ!!」


私は手を叩きながら、再び彼を褒めちぎる。


さらに、華やかで少し気品のある装い。フリルのついた純白のシャツに、小さなルビーのブローチを胸元に飾る。短パンをサスペンダーで留めることで、クラシカルな雰囲気が漂っていた。


「なんてこと!!小さな貴公子の爆誕だわ!!青系も似合うと思ったけど、赤もいける!最高だわ!!私のノエルはなんでも似合う最高に可愛らしい子ね!」


私は興奮して怒涛の勢いで褒めちぎった。そんな様子を若干引き気味にレオが見ていた。


「姫さん、落ち着けって。途中何言ってるかわかんなくなってたぞ」

「姫様、お言葉が乱れていらっしゃいますわ」


アンドレアが私の口調を注意する。


「だぁって!こんなに可愛いのよ??存在が奇跡じゃなくって?予想以上の素晴らしさに私、感動で胸がいっぱいよ!!」

「わぁかったって!」


レオが呆れたように苦笑し、隣にいたヴィヴィが「姫様楽しそうでよかったわね〜」と微笑んでいる。私は興奮冷めやらぬ中、私の褒めちぎる言葉に恥ずかしそうにしているノエルに話しかけた。


「どう?嫌いな服はなかったかしら?」

「な…ない!!全部とっても素敵だった」


ノエルはそう言って少し恥ずかしそうにしながらも、喜びを隠せない様子だった。


「私が選んでばかりいたけれど、ノエルは何か着てみたいお洋服はあった?」


そう私が尋ねると、ノエルはちょうど私たちの近くに飾ってあった服を指差した。それは、私の髪の色によく似たラベンダー色のシャツだった。


「アイリス様と同じ色…。あれが好き」


(まぁ、なんてことでしょう。なんっって可愛いのかしらこの子!!)


私が喜びのまま無言で悶えていると、ケイシーが別のところに置いてあった小物を取ってきて私たちに見せてきた。


「姫様と同じような色がお好きなら、こんなサファイアのブローチがついたリボンをつけるのはどうです?」

「わぁぁ!アイリス様の目の色とそっくりだ!!」


ケイシーが持ってきたブローチを受け取って、嬉しそうに輝く宝石を見つめるノエル。


(か…可愛すぎる。可愛いの大渋滞よ…!!!)


私は目の前のノエルのあまりの可愛らしさに意識が遠のきそうだった。


(は…!!ダメよ、まだ終わってないわ)


なんとか意識を保って、引き続き服を選んでは試着してもらってを繰り返していった。

次々と服を試着していく中で、最初は戸惑っていたノエルの表情も徐々に明るくなっていった。だが、一方で彼の目には、少しの戸惑いが見え隠れしているようだった。


「こんなにたくさん、いいの……?」


こんなにも多くの衣装を持つということに不安を覚えていたらしい。それに気づき、私はそっと膝をついて、ノエルの手を優しく握る。

 

「ノエルは私の息子なのだから、私が服を用意するのは当然なのよ。それに、ノエルに似合う服を選ぶのは私にとっても幸せなことだわ。さっきからとっても笑顔でいるでしょう?だから、何も気にしなくていいの」


ノエルはしばらく私を見つめていたが、やがて小さく頷いた。その頬には、ほんのりと嬉しさが滲んでいた。



◇ ◇ ◇



そうして着せ替えショーは幕を閉じた。おおかた必要そうなものは取り揃え、ひとまず別室に運んでもらう。ノエルは何着も試着を繰り返したこともあって、お疲れ気味のようだった。軽く昼食をとったあとに昨日と同じように昼寝をさせることにした。


ノエルが寝るまで寝室で一緒に過ごしたあと、彼が寝静まったのを確認して寝室を出る。そしてケイシーとレオを呼んでもらって、あることを相談することにした。ほどなくして二人が部屋へと入ってきた。座ってもらい相談を始める。


「ケイシー、ブランドの立ち上げについて相談しようと思って。どうかしら?」

「そうね、姫様。先ほどの情熱的に服を選ぶ姿はとても素敵だったわよ?きっと新しいブランドも良いものになるはずだわぁ!」

「だいぶ、暴走し気味だった気がするけどな…」

「あら?良いじゃない?そんな姫様だからこそ、私も救われ今ここにいるし、レオ様も楽しくビジネスができているんだし」

「そ、それはまぁ…」

「それに、そんなに嫌いではないのでしょう?そんな姫様が」


むしろ好きなのよねぇ?といった様子で揶揄うケイシーの言葉に、気恥ずかしそうに目線を逸らすレオ。それから話題を変えるように話し出した。


「そ、そんなことより!ブランドの立ち上げだよな?どうするんだ?」


私はその辺については悩んでいることを伝えた。


「そうなのよねぇ。黒髪のノエルに似合う服が作りたいっていうのは大前提ではあって、でもどうせならもっと多くの人に着てもらいたいじゃない?」

「なるほど…。それは姫様らしい考え方ね?素敵だと思うわ。ただ、単に子供服の新ブランドを作るというだけではちょっとつまらないわね……」


そう言ってケイシーは考え込んだ。レオも続いて言う。


「そうだな。何か新しい試みというかコンセプトがないとつまらない気がするんだよな」


レオも顎に指を当て、考え込む。先に声を上げたのはケイシーだった。


「いっそ、子供服だけではなくて成人の男性服や女性服も手がけてみたらどう?」

「そうね!それも良いかもしれない。あとは何か新しい要素を取り入れたい…」


あっ!と私は急に思いついた。


(ノエルと私でお揃いコーデやポイントで色やテイストを合わせるリンクコーデもありだわ…!最高!とってもやりたい!)


ついでにまだみぬ旦那様にも着せたら最高に良いかもしれない。もしも息子であるノエルに似ているなら、きっと私好みの黒髪美形なことだろう。


「ねぇ、家族や婚約者同士とかでお揃いの服とか色やテイストを合わせる服とかなんてどうかしら?」

「あら?良いんじゃないかしら。そういえば意外とそういったファッションを取り入れるって今までなかったわね?」


ケイシーは私の意見に賛同してくれた。


(でも…まだ足りない気がする)


必死に頭を回転させ、何かないかと考える。そして、そういえば…!っと私はあることを思い出し、ケイシーに提案した。


「例えば……黒髪に似合う黒を取り入れたファッションラインを作る…とか!どう?」

「黒髪に似合う黒を取り入れた服?」


ケイシーはその言葉を反芻した。


この世界では、黒は忌避される色だ。それは身につけるものを含めた様々な部分でも影響を受けていた。服装などでは葬儀の場など一部の場面でしか使われない。だが、確かにノエルの黒髪と金の瞳はこの上なく美しく、それを引き立てる服があれば、きっと新たな価値観を生み出せるのではないか。


「確かに…。それは、面白いわね」


ケイシーは目を輝かせて言った。彼女は新しいファッションを考えたり流行らせることに心血を注いでいるから、斬新な考えのように映ったのだろう。


最初は受け入れてもらえないこともあるかもしれないが、黒髪であるノエルや私の旦那様の髪色は変えられない。一時的に色をかえる魔法などはあるかもしれないが、結局のところ根本的な解決にはならないのだ。それに少ないとはいえ、黒髪が全くこの大陸に存在しないわけではない。現に辺境伯家がそうであるように、少ないが一定数存在するのも事実だ。そんな彼らにとっても”黒”という色が受け入れられていく世の中になってくれれば少しは息がしやすくなることだろう。


(そういえば、前世ではブラックコーデ好きだったわね)


前世では推しがブラックコーデをよくすることもあり、影響を受けてブラックコーデをすることもあった。黒は結構きていたカラーだったのだ。


私は微笑み、ケイシーとしっかりと握手を交わした。

こうして、新たなブランドの構想が生まれた。子供服から始まり、成人用の衣服まで手がける黒髪に似合う黒を取り入れたファッションブランド。ついでにお揃いコーデやリンクコーデも打ち出していく。


「まずはノエルの服を仕上げて、その後ブランドの具体的なプランを立てましょう」


私の言葉に、ケイシーは満面の笑みで応えた。

私とケイシーの会話を聞いていたレオも、特段止める気はないのか何も言ってこない。彼の頭の中では、今後どのようにブランド立ち上げとその後の販売をしていくかなど、戦略がぐるぐると回っているのだろう。きっと最初は受け入れてもらえないことも多いかもしれない。しかし挑戦するにはやりがいがありそうな試みだった。


そうしてノエルの新しい服選びと共に、私の新たな挑戦が幕を開けるのであった。


ノエルの着せ替えショーからアイリスの商会の新作のブランド立ち上げまで、話が進みました。

しばらくはケイシーとレオにブランドの構想などは任せつつ、アイリスはノエルとの交流や城の改革に着手していきます。

ところで全く出てこない旦那様とはいつ会えるのか…もう少しだけ後になりそうなので、あと数話ほどアイリスによる黒髪少年を全力で愛でる様を追っていただければと思います。


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