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朝の光が薄いカーテン越しに差し込み、寝台の上を優しく照らしていた。そんな中、私は静かに目を覚ました。


(もう朝か…)


そう考えながら身じろぎすると、私の胸元あたりに顔を押し付けて寝ているノエルが「んむぅ…」と何やらいいながら私にさらに擦り寄ってきた。少し丸まってすやすやと寝ている様子はまるで猫のようで、私は思わずふっと微笑みが零れる。


(私の黒猫ちゃん(ノエル)はまだ寝ていそうね…それにしてもなんて可愛いのかしら)


ノエルの穏やかな寝顔に、まだ幼い頬は柔らかく、規則正しい呼吸が静かな部屋に響く。昨夜は夜中にうなされていたが、今は何の不安もないような表情で眠っている。その姿が、たまらなく愛おしかった。


体を少し起こしてしばらくその寝顔を眺めていたが、そろそろ起こそうか…とそっと額にかかる髪を払ってやる。すると小さな身体がもぞもぞと動き、ゆっくりと目を開いた。少しぼんやりとした瞳が私を捉える。


「……おはよう…ございましゅ…」


舌ったらずな声でそう呟いたノエルは、まだ完全に目覚めていないのか、むにゃむにゃと再び目を閉じかける。


「おはよう。まだ眠いかしら?」


私がそう尋ねると、ノエルは小さく首を振った。そして、眠気の残るまま私の腕に寄りかかる。その仕草があまりにも無防備で、また私はくすりと微笑んだ。


そして昨夜のことを思い返す。夜中にノエルは突然うなされていた。心配になって起こしたが、焦点の定まらない瞳で泣き出した。


(何か怖い夢でも見たのかしら……)


そっと抱きしめると、彼は安堵したのか、そのまま再び眠りについた。その様子に私も安心し、そのままノエルを抱きしめたまま眠ったのだ。


しかし、今朝の様子を見る限り、ノエルはその出来事を覚えていないようだった。突然環境が変わったことが影響しているのだろうか。私は特に何も言わず、もしこれが続くようなら詳しい者に相談しようと心に決めるにとどめた。



◇ ◇ ◇



朝食の時間になり、私たちは昨日と同じように私の自室で食事をとることにする。テーブルには温かいスープや焼きたてのパン、果物が並び、それを美味しそうといった様子でノエルが見ていた。


「はい、あーん」


私がスプーンにスープをすくい、優しくノエルの口元へと差し出した。彼は目を丸くし、少し頬を染めながらも、戸惑いがちに口を開けた。


「おいしいかしら?」


私が尋ねると、ノエルは小さく頷いた。

しかし、次第に慣れてきたのか、彼はそっと自分のスプーンを握り、「じぶんで、できる」と小さな声で呟いた。


「ふふ、偉いわね」


私は優しく微笑みながら見守り、ノエルは少し得意げに自分でスープをすくい、ゆっくりと口に運んでいった。


「今日の予定なんだけど」


あらかた食べ終わったあたりで私が話しかけると、ノエルは興味深げに顔を上げた。

 

「ノエルのお洋服を揃えようと思うの。今着ているものは取り急ぎ城にあった子供用の服を持ってきただけだし、ぴったりのものを作った方がいいでしょう?新しく作るつもりでもあるんだけど、出来上がるまでに時間がかかるから、今日は採寸と既製品で揃えるつもりよ」


ノエルに出会った時、彼をお風呂に入れている間に城にある子供服を持ってきてもらって、それをとりあえず着せていた。おそらく、私の旦那様とかの小さい時のものなのかとは思うけれど。サイズがぴったりとはいえない状態だった。


私の言葉にノエルは小さく頷いた。

 

「それと、私の側近たちを紹介するわね。私と同じようにノエルの味方になってくれるわ」


私のその声で、朝食の時に給仕をしてくれていたアンドレアが、部屋の外へレオとヴィヴィを呼びにいってくれる。入ってきた二人と戻ってきたアンドレアは私とノエルの前まで来てくれた。


「左からレオンハルト・フランベルン、ヴィヴィエンヌ・アクアリス、アンドレア・スキュテリオンよ。レオは私のお仕事を手伝ってくれているの。ヴィヴィは私を守ってくれていて、とっても強いのよ。アンドレアは昨日もあったわね?私の身の回りを世話してくれているわ」


私の紹介に合わせて、彼らもノエルに挨拶をした。


「ノエル坊ちゃん、初めまして。やっと会えましたね〜。レオって呼んでくれていいですよ?」


そう言ってどこか砕けた雰囲気を醸し出して、にやりと笑う。その態度に、ノエルは少し驚いたような顔をしながらも興味を持った様子だった。


「ヴィヴィエンヌです〜!ヴィヴィとお呼びくださいね〜!ノエル様」

「アンドレアと申します。よろしくお願い申し上げます」


その後に続きヴィヴィはいつも通りにのほほんとした口調で声をかけ、アンドレアは穏やかで落ち着いた雰囲気で丁寧に挨拶をした。


挨拶が終わったところで、アンドレアが私に向かって我が商会の衣装部隊が到着したことを告げた。


「わかったわ。準備ができたら入ってきてもらってちょうだい?」


そうして少し経ち、数名の商会の者たちが入ってきた。一番最初に入ってきた背の高い女性の格好をした人物が私とノエルの前に立ち、その後ろに他の者たちが並ぶ。


「アイリス姫殿下、ご無沙汰しておりますわ〜!お呼びと伺いましたので、つい私がきてしまいましたの」


背は高いが完璧に淑女の格好をした目の前の人物から、いきなり男性の声が聞こえてきて、ノエルが目を丸くした。


「ケイシー!あなたがきてくれたのね?嬉しいわ!」

「あら姫様、嬉しいこと言うじゃない?アンドレア様から姫様が新しい服を作りたがってるって聞いたからいてもたってもいられなくって!ここに来たいと言ってた子は多かったんだけど、勝ち取ってきたわぁ」


そう言ってケイシーはパチンとウィンクをした。


「それでそれで?子供服って聞いたけど、このお方の服をメインに作るおつもりかしら?」


ケイシーは私の隣にいるノエルを見て言った。その言葉に私は頷いて答える。


「えぇ、そうよ。どうせなら子供服のブランドでも立ち上げるのはどうかと思ってるのよ」

「あら〜!いいわね!久々の新しい取り組みにみんな喜ぶと思うわ〜!」


ポカンと口を開けてケイシーを不思議そうに見つめているノエルに、私はケイシーを紹介する。


「彼女はケイシー。男性ではあるけれど、心も外見も女性なの。優秀な服職人で、私の服も彼女に作ってもらうのよ」

「優秀だなんてて、もうっ!姫様ったら嬉しいこと言ってくれるんだからぁ!」


そう言ってケイシーは、ノエルに恭しく挨拶をする。


「初めまして、辺境伯ご子息。服職人としてアイリス姫殿下に仕えております、ケイシー・ルモワーヌと申します。以後お見知り置きを」


まだケイシーの外見と声のギャップにびっくりしているノエルが答える。


「よ…よろしく」


そんなノエルが面白くて、ふふっと笑ってしまった私は、ケイシーに改めてノエルを紹介した。


「ケイシー、こちらは辺境伯のご子息であり私の息子になったノエルよ。今日はひとまずあなたたちが持ってきた既製品の中からこの子に合うものをいくつか見繕いたいの。採寸からお願いできるかしら?」

「もちろんですわ、姫様」


そう言ってケイシーは後ろに控えていた仲間たちに指示を出し始める。準備が整い、スムーズに採寸が始まった。測定が終わると、既製品の服が大量に部屋へと運び込まれる。


その様子にノエルは目を丸くした。


「こんなに……?」


私は楽しそうに微笑みながら、次々と服を手に取る。

 

「さすがね、ケイシー!選び甲斐がありそうだわ!」

「うふふっ!そうでしょう、姫様!ご存分に選んでちょうだいな」


私はノエルに向かってにっこりと微笑んで言った。


「たくさんあるでしょう? さあ、どれが一番似合うか試してみましょうね。」

「う…うん…!」


そうして、しばらくノエルの着せ替えショーの始まりとなった。


新キャラ登場です!

ケイシーはアイリスの商会の服飾部門のトップです。外見は身長が高めの綺麗めな淑女で派手目なドレスを身に纏っていますが、性別は男性のいわゆるオネェさん。アイリスや周りの者たちはケイシーを女性として扱います。これから先のノエルやまだみぬ旦那様のお洋服も、彼女とアイリスがメインとなって作成していく予定。


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