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「姫様…!姫様、しっかりしてくださいませ!!」
「どうしましょう…」
「姫様…!!」
(うるさいなぁ…昨日は飲みすぎて頭痛がひどいのに、耳元でキンキンと騒がないでよ…)
「「姫様…!!!!」」
(だから…うるさいってば…!!!)
(っていうか姫様?姫様って誰よ??)
自分の周りで騒ぐうるさい声に観念して、二日酔いの私は目を開けて起きることにした。確かいつもの推し活メンバーたちと家飲みしたのが昨日で、私は家に帰って寝たはず。社会人になり実家を出た私はもちろん一人暮らしだ。そんな家で寝ているはずの私の近くでなぜ複数の他人の声がするのか。意味がわからない。目を開けた私の目の前に飛び込んできたのはよくアニメとかで見るようなメイドのお着せをきた女性数人だった。
「え…??」
「姫様、お目覚めになられましたのね!!」
「よかったですわ!!」
「早く皆様へ知らせなくては」
「私が行って参ります!」
「任せましたよ!」
私が目を覚ましたことに安堵するメイドさんたちはそんなやりとりをしてテキパキと行動している。家で寝ていたはずの私の目の前に広がるのは、自分の家とは全く違う景色。上には天井から垂れ下がる繊細なレースの天蓋、まるで雲のようにふわりとした純白の寝台になぜか私は寝ていた。壁には美しい花々が品よく描かれていて、一人の部屋というには大きすぎる面積の部屋に置かれたインテリアたちは気品と安らぎを漂わせていた。部屋の主人は紫が好きなのだろうか。紫と白を基調とした美しい空間になっていた。
(いや、ここどこ!?)
混乱しながら呆然とする私に、先程まで安堵の表情を浮かべていたメイドさんの一人が声をかける。
「姫様が目を覚まされてようございました…!このまま目を覚まさなければどうなっていたことか…」
(いやいや、だから姫様って誰よ!私のことを言っているの!?)
メイドさんには何も答えず、混乱した頭で自分自身に意識を向ける。長く垂れ下がった美しく手入れがされた淡いラベンダー色の髪の毛をサワサワと触り自分が昨日までの自分とは違うことを実感する。
「鏡…鏡をくれますか…?」
「鏡ですね…!少々お待ちくださいませ」
突然の鏡の所望にも特に疑問を持つことなく、メイドさんの一人が手鏡を持ってきてくれた。その鏡に映るのは、可愛らしい女の子の顔だった。サファイアのごとく透き通った深海の青を思わせる瞳に長いまつ毛。透明感があるツヤツヤな肌で、ふんわり丸みのある輪郭は鏡の中の女の子を一段と可愛くしている。
(めちゃくちゃ可愛い女の子がいる…っていうかこれが私!?夢でもみてる!?)
可愛らしい女の子の頬を引っ張ったりしてみるが、やはり痛さを感じる。ということはつまりこの鏡の中に映る可愛らしい女の子は私なわけで…
いや、意味がわからない。
「姫様、どうかされましたか?」
「いきなり倒れて3日もお目覚めになりませんでしたのよ!」
「心配いたしました」
「これもすべて急に決められてしまったご結婚のせいですわ」
「本当に!なぜ姫様がよりによってあの呪われた辺境伯家に嫁がねばならないのでしょう」
混乱して何も言えない私をよそにペラペラと話し出すメイドさんたち。それを呆然とみていると誰かに報告に行ったらしいメイドさんを連れて誰か入ってきた。
「コラコラ、君たち。目覚めたばっかりの姫さんの前で余計なことを言わないの」
「そうよ〜。それぞれの持ち場に戻っていいわ〜」
「レオンハルト様!ヴィヴィエンヌ様!」
「「申し訳ございません!失礼いたします」」
入ってきた二人に注意されたメイドさんたちは綺麗にお辞儀をして部屋から退出していく。残ったのは先ほどの2人と、メイドさんたちの中でも指示出しをメインにしていたらしきメイドさん1人のみ。
「姫さん、やっとお目覚めですか」
「姫様〜、よかったですわ〜」
「本当によかったです…!」
残っているメイドさんを含めて、おそらく姫様と呼ばれている、私が今現在入り込んでいる女の子の近しい人物たちなのだろう。そんな親しみを感じる雰囲気で話しかけられ、どう答えようか悩んでしまう。何せ、いきなり他人の中に入ってしまったこの状況自体に混乱しているのだ。そもそもこの二人は何者なんだろうか。よーく二人の顔を観察してみると、なんとなく自分ではないおそらくこの女の子の記憶が思い出されてきて…ということはなさそうで正直本当に何もわからない。困った。どうしようもないので素直に話した方が良さそうと考えた私は、目の前の3人に言った。
「あの〜、ここはどちらで、貴方たちは誰で、私は何者なのでしょうか…?」
「「「はぁ!????」」」
どうやら私、昨日とは別の人間になったようです…
なぜ…????
よくあるテンプレ系なスタートで始まりました〜!
次回は主人公や主人公の状況についてのお話がメイン。
まだ黒髪イケメンは出てきません。