浮気していたクラスメイトに憑依した
蝉の鳴く、昼下がりの校舎裏。
そこには、同じクラスである松田翔太と学園のマドンナ的存在、河北結羽がいた。
松田は、河北に向かって右手を差し出す。
何を喋っているかは分からないが、何をしているかは分かる。
なんとベタな告白だろう。彼らの姿は、まさに青春だった。
河北が松田の告白を受けた事も分かった。
だが、それはもう過去の事だ。
◇
東時生は夢が叶ったのか、神のいたずらなのか、それとも何かの罰なのか知らないが、10年前の松田翔太に憑依してしまった。しかも、高校2年生の松田翔太だ。
そして、タイミングも最悪、河北結羽と付き合い始めたばかりの松田にだ。
ただえさえ、大きな問題を多数抱えているのに更に大きな厄介事を抱えていた。
「松田先輩!最近連絡くれないから寂しかったです!」
廊下を歩いてると1人の少女が腕を絡めてきた。
如月優奈。くりくりとした目にウェーブのかかったの金髪、そして男子の視線を集めるスタイルを持つ少女だ。
我が凪高校の1年生で少なくとも、学年内では一番人気のある少女だ。代わりに、男子からチヤホヤされているので、一部の生徒からは良いようには思われていなかった。
「おい、やめろ」
急いで腕を振りほどく。こんな所、河北はおろか、他の生徒に見られたら、今までの憑依してから隠し続けてきた一ヶ月の努力が水の泡だ。
「えー?酷いです、先輩」
「頼むから、絡むな」
「酷い!あんなに好きって言ってたくせに!初めても奪ったくせに!」
「ちょっ!適当言うな!声でかい!」
如月は、こうやって人の居ない所を狙ってバレるかバレないか、ギリギリのやり取りを楽しむタイプらしい。俺は、好きなんか言ってないし、初めても奪ってない。
このまま喋られちゃたまらないので、彼女の口を塞ぎ、空き教室に引きずり込む。
「わぁ、大胆♡」
如月は、顔を赤らめて照れる仕草をする。
「ほんっとーに頼むから、今だけは勘弁してくれ」
土下座する勢いで、頭を下げる。
「浮気した松田先輩が悪いんですよ♡」
松田の浮気。松田になって数ヶ月経つがよく隠し通せてると思う。ってか何で俺が頭下げているのだ。
「もう勘弁してくれ...何かがお望みなんだ?」
「うーん。そうですねー。どうしよーかなー。」
如月はいつもの調子で考え込む振りをする、完全に俺を弄んで楽しんでいる。
「そんなに、俺を揶揄うのが楽しいか?」
「うん!色々私の為にやってくれるから。ね?東先輩!」
そして、俺のもうひとつの悩み。軽率だった。教えるべきでは無かったのだろう。俺は、すぐに戻ると思い、面倒事は避けようと、俺が松田ではなく、10年後の東時生だと伝えた。これが大失敗だった。
するとどうだろう。浮気を隠すことを出汁に俺で弄ぶようになった。まさに自業自得だ。
「はぁ..なんで浮気なんてしたんだ。」
こんなに悩みハッピーセットでよく耐えられていると思う。いや、もう崩壊しているのかもしれないが。
俺がため息をつくと、如月は唇に指をあて、妖艶な笑みを浮かべる。
「人が幸せそうにしてると、奪いたくなっちゃうんですよ」
「...別に、河北から松田を奪ったからって、勝ったとかじゃないと思うぞ、タイプ違うし」
「不安とは違いますよ。ただの暇つぶしです。河北先輩が選ぶくらいだから、すごい人なんだろう。好きになれるかなって」
「お前なら、3年でエースの高木先輩とか狙えばいいだろ」
「付き合いましたよ?中学の頃。まぁ、振りましたけど」
「高木先輩でもダメなら、この学校だいぶ無理だろうな」
「あっ、でも東先輩ならいいですよ〜。もちろんいまじゃなくて、10年後ですけど♡」
如月は、挑発的な笑みを浮かべる。
「適当言うな。好みじゃない。」
「じゃあ東先輩は、河北先輩好きなんですねー?」
「昔な!...あ」
「じゃあ、今いる東先輩は河北さんが好きって事ですか!?」
如月はしめしめとした顔でこちらを見つめる。最悪だ。
◇
あれから、林間学校から夏休み、修学旅行と如月に邪魔されながらも、どうにか河北文化祭デートをする事が出来た。
無事、恋愛のジンクスである後夜祭のダンスを河北と踊る事ができ、一件落着----と思いきや如月に校庭に呼び出された。
キャンプファイヤーは、消えかけ辺りは殆ど見えず、人も精々文化祭実行委員位だった。
周辺を歩いていると、如月がちょこんと体育座りをしていた。
「後夜祭のダンス、河北先輩と踊ったんですか?」
俺が隣に座ると、つまんなそうに転がっている石を拾っては投げ、拾っては投げを繰り返している。
「勿論だ。恋人御用達のジンクスだしな」
「...それは松田先輩として?」
「当たり前だろ」
「...河北先輩の事好きだったって言ってましたよね?辛くないんですか?」
「恋したの何年前だと思ってるんだ。別に気持ちが俺に向かっていなくても、むしろラッキーとさえ思ってしまったね」
「そうですか」
「如月は誰かと踊らなかったのか?」
「気になります?」
ニヤついた顔でこちらを見る。
「うん」
「えー。なんかつまんない反応」
うぇーと口を開けつまんなそうに言う。
「大分、如月と居るからなどういう反応を待っているか分かってきた。」
「えー?なんですかそれ」
はにかむように笑いながら如月は言う。
「結局、誰とも踊ってないですよ。いっぱい誘われましたけど」
「なので、先輩。私と踊ってくださいよ」
如月は、不意に笑みを浮かべる。そして、すっと手を俺の前に差し出した。
「...悪いが無理だ。ジンクスを信じるタイプなんでな」
「じゃあ、東先輩ならこの手取ってくれますか?」
初めて見た目付きだった。いつものようにからかいとは違う、何かがこもった目だった。
「俺...なら...」
「私はいつまでも待ってますからね?」
俺は...
◇
あれから俺は、無事に元の時代へ帰ることが出来た。理由は分からないが。
この時代では、コンビニ店員としてちゃんころをせっせと集めている。
そして、共に働いているのはJK如月紗奈。このJKは、如月の妹にあたる。何故かオレにはタメ口。
ふと、冗談話の様にタイムリープの話をしたら、家に来るよう言われた。どうやら、面白半分で如月に話したらしい。
「ひがし、お姉ちゃん見ても...まぁ...うん」
そう何か言いかけると、ふっと下を向く。何が起きたのだ。
場所は立派なマンションの一室。
ドアの前には優奈と書かれたボードが吊るされている。
コンコンとドアをノックすると数秒ガサゴソと音がした後、ドアが開く。
「あーい、どうしたん紗奈」
「おねーちゃんが言ってた人連れてきたよ」
中からは、ポリポリとボサボサなプリン頭を掻きながら女性が出てくる。
部屋は、ペットボトルやらポテチの袋、服ヤラでとっちらかっている。
なんとも変わり果ててしまったのだろう。
「如月...お前、変わったな。」
「ちょっ!?...あれ!?もしかして東先輩!?」
「ちょっと、妹さんと同じ職場でな」
すると、如月はあの時のようなニヤニヤとした顔つきになり
「ふふっ?10年間ずーーっと待ってましたよ?」
あぁ、やはり俺はとんでもない少女と出会ってしまったのかもしれない。




