九話:名前の由来はハッピーのハピー
「うあー。ありがとー」
男の子がこちらに飛びついてきた。俺の方は力がうまく入らずそのまま倒れてしまう。
「怖かったよー…………ありがとー」
かろうじてそう聞こえるぐらい泣いた声になっている。まあまあと俺は男の子を起こした。
「怪我はない?」
俺が聞くと少し落ち着いたのか今度はまじまじとこちらを見つめてくる。俺も自然と男の子の顔を見てしまう。金髪に薄い青色の目、病気ではないかと疑ってしまいそうな白い肌。そしてもう言うまでもないが、俺より低い身長に服の上からでも分かるお腹の大きさ。そう、小太り体型だ。
「怪我は………手首が痛いけど………特にないよ」
男の子はニコッと笑って見せているが無理をしているのが一目で分かる。
「じゃあとりあえずここから出よう?」
俺が言うと男の子は「そういえば、名前は?」と聞いてきた。
「俺の名前は、浪也。そっちは?」
そう言うと男の子は突然立ち上がり、手で服を払ってから言った。
「僕たんの名前は、チャップ・ハピー」
そう言うとフッフッフッと笑い始めた。
「一回は聞いたことあるでしょ。絶対!」
いや聞いたことがない。
そう言おうとしたが奇跡的に俺は知っていた。
「もしかしてお城みたいなホテルのチャップ?」
その言葉にハピーは目を輝かせて近づいてきた。
「だよね。絶対知ってると思った。じゃあやっぱりさっきの人が知らないだけかぁ」
言い草からあのホテルは相当有名らしい。
もしかしてハピーって御曹司てきな?
質問しようとしたがその前に俺はハピーに手を握られていた。
「さっきは本当ににありがとう」
「改まって言われなくても」
「だからさ、お礼に…………………その………………」
急に言葉が詰まるハピー。
「どうしたの?」
「さっきさ、僕たんの事、その………友達って……………」
ああ。咄嗟についた嘘だけど。まあ正直友達って難しいからね。特に相互認知済み関係の友達なんて……。
「僕たんとほんとの友達になってくれない?」
正直友達って難しい。でも少なくとも、元の世界でこんな事は一切無かった。
「うん。うん。OK。OK」
正直友達欲しい。でも少なくとも、元の世界でこんな事は一切無かった。悲しきかな。
「やったー!!!」
ハピーは跳ねて喜んでいる、だが少しだけ体が重いらしくすぐに息が上がってしまっている。少しだけ息が戻るとハピーは俺の手を掴んで走り出した。
「じゃあ…………僕たんの………ホテルへ招待するよ。………………初めての友達だもん……………」
そんなに急がなくてもいいし、まずは診察所行こうと言おうとしたが、急に手を引く動きが止まった。