四話:空から来たもの達
俺が空に見たもの。それは空に留まる五匹の白色ドラゴンと、その背に乗る五人の人影…………いやたったさっき1人降りてきた。というより……………落ちてきた。顔はよく見えないが、赤い重厚な鎧に身を包んでいる黒い髪の人物という事は分かる。その人は鈍い風の音を響かせながらこちら、正確に言うと男の真上に着地しようとしている。
「は?あれほんとに人間?」
異世界。その一言で全てが片付いてしまうのか。
男がようやく違和感に気づいたのか上を見上げる。一瞬驚いたような青ざめた顔をした。完全に闘争心を失ったのかナイフを捨てた。しかし、時既に遅し。
赤い鎧の人が男の上に着地する。男の頭を鷲掴みにして着地したように見えたが気のせいだろうか。
ともかく危機は去った。そう思った直後後ろでまたも突風が吹いたかと思うと、俺の後頭部に硬い
物が突きつけられる。
「おーい。動くなぁ」
耳に残る特徴的な、男性と思われる声が聞こえてきたのはほぼ同時だ。
「そのままじっとしてろぉ」
男がその場から動こうとする気配はない。俺はどうすればいいんだ。このまま動けば後ろの奴になにされるか分かったもんじゃない。かといって動かなければアマちゃんの様子を見に行くことだってできない。それにこいつらがアマちゃんに危害を加えないとも限らない。
「なぁ」
「あー?」
返事は少し遅れて帰ってきた。
「あっちに女の子がいるんだ。さっきナイフを持った男に頭をつかまれたんだ」
できるだけ怯えないように少し強い口調で言う。
「あー。いんのか?まあそっちは副団が調べてるんじゃね?」
複数人か。
「副団?」
俺はできるだけ情報を得ようと質問を続ける。
「あぁ。あいつが現場の報告書とか書くからな。お前を逃がさないのもそういうわーけ」
報告書。なにかの団体か?いや、今はそれより聞かなきゃならない事があるだろう。
「じゃあ副団さんに聞いてきてくれ、女の子は無事かって。怪我してないかって」
ついつい熱くなって後ろの男の方向を見ようと体を動かしてしまった。俺の頬が硬いものでムニュっとされる。
「だから動くなって。警告一回。次はないからな」
淡々と告げられた。しかしこれで分かった気がする。こいつらは現世で言う警察みたいな組織だ。厳格なルール。報告書。副団とは副団長の略だろうし、間違ってはいないと思う。
「だから、女の子が無事どうか聞いてください」
俺は引かずにさらに問う。しかし返事はない。
「女の子は無事なんですか!」
俺はとうとう立ち上がってしまう。
「おい!だから動くなって!」
ついに取り押さえられてしまった。腕を後ろで組まれて体をよじったりするが一切動けない。
「警告二回目。これでもう容赦はできないからな」
中々強い。いや痛いほど強い。骨が軋む音が聞こえてきそうだ。苦痛で顔が歪んでしまう。
「おいぃ?こんなほっそい腕で抵抗しようとしたのか?」
男が息を荒くして言う。それと同時に加えられる力がさらに強くなったそれと同時に変な感覚が加わる。足をバタつかせて抵抗するが効果は全くないようだ。
もう折れる。そう思った時「メル先輩。そこまでです」と優しくも厳しい女性の声が聞こえた。
「あっ?」
男の力が弱まった。非常にありがたいが、これは誰の声だ?
「先輩は警告二回目とおっしゃいましたね」
正体がようやく分かった。そこにいたのは鉄の鎧に革製のズボンを履いている女性だ。透き通るような肌に煌めく金髪。特に目を惹かれたのは顔だ。今までに見た事のないほど、どこぞの王女並みと言っても過言ではないだろう。こちらに近づく足も恐ろしく細く、身長もかなり高いように見える。
「そもそも二回目では制圧行動は禁止されているはずです。そのための警告、なのですから」
女性もこの男と同じ派閥と考えられるけど、この二人はあまり仲が良くないように見える。
「おい?こいつは怪しいから、私が怪しいと判断したから今拘束してるんだ」
怒鳴るような声でこのメルと呼ばれた男が反論する。しかし女性の方はそんな事を気にせず涼しい顔で言う。
「ええ。先輩の判断で。でも先輩は団長の警護を頼まれていましたよね?」
「あっ」
メルが急に抜けたな声を出す。これを好機と見たのか女性はにやりと綺麗な下弦の三日月形の笑みを浮かべた。
「国軍の兵士が自らの仕事を放棄し、あまつさえ一般人に危害を加えた。そう見られてもおかしくないような状況ですよね」
女性がそう言うなり急に押さえつけられる力が消えた。かと思うとガチャガチャと鎧の音が遠ざかって行く。
「けがはございませんか?」
女性が優しい声に戻り俺に尋ねる。
「ええ……体が痛いぐらいですけど」
そう言いながら地面に座り込むと目の前の女性が驚いた顔をしている。
「え!?やっぱりメル先輩の力が強かったからですよね?どこが痛むんですか?大丈夫ですか?」
先ほどの、かっこいいと密かに思っていた雰囲気はどこへやら。目の前にはとんでもなく慌てているかわいい少女がいる。
「あぁ伝え方が悪かったですね。その………メルさん?に押さえられた痛みじゃないです。ナイフを持った男に投げられた時の痛みが少し残っているくらいです」
あたふたしている少女につられてこちらも少しあたふたした伝え方になってしまったが、俺の話を聞くと落ち着きを取り戻したようで胸を撫で下ろしている。
「すみません慌てちゃって。まだ新人なものですから」
少女は申し訳なさそうにしている。
これでも新人なんだ。確かに鎧が鏡かって程綺麗だけど……………。
「おいくつですか」
「え?」
女性は思考が停止したように止まってしまった。
「……………………すみません。どうしても大人っぽく見えるというか……………でも新人の方ならお若いはずだなと思いまして…………………」
自分で言っといてなんだが、ぜったい失礼。ぜっったい失礼。
恐る恐る女性の顔を見てみると、そこには般若が…………………という訳ではなくむしろ頬を赤らめている。
「私………そんなに大人ですか?」
ニィヒィニィヒィ笑っているところを見ると先ほどまでのイメージが全て壊れ、自分と同じぐらいか、自分より下の年齢に見えてくる。
「そんなこと言われたことないので…………年はシークレットですが、名前なら。レーイと言います」
可愛い笑顔で答えてくれる。
「レーイさん。皆さんはどうして助けてくださったんですか」
そう言うとレーイさんは急に真面目な顔に戻る。
「私たちは上空からこのあたりをパトロールしていたんです」
女性は五匹の白竜を自慢げに見ている。当の竜たちは首をもたげていたり、完全に伏していたり、飛んでいるものもいる。
「そこであなた方が襲われていることに気づいたので、助けに来ました」
優しい。まあ国軍だから当たり前か。
「………………そういえばあなたと一緒にいた方……………女の子でしたよね?あの方は?」
「あっ!アマちゃん!」
俺は慌てて立ち上がり、先ほどの、アマちゃんの落下地点まで駆けていく。全身の痛みと、特に腕の痛みがひどいが気にしている場合ではない。
アマちゃんの近くまで行くと例のナイフ男と四人の鎧を着た人物がいた。四人の姿形は全然違うが、そのうちの一人の女性が「おまぇ!こっちに来るな!」と聞き覚えのある低い声でこちらを止めようとしてくる。
今はそれどころじゃないって言うのに!
俺は止まらず走り続ける。草を踏む音が心地良く聞こえ、風が穏やかに俺の顔面に当たる。
「おい、警告3回目だ!これより制圧に移る!」