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【連載版を始めました】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

作者: 曽根原ツタ

ご好評につき、連載版をはじめました…!

下にリンクが張ってあるので、ご興味を持っていただけましたらよろしくお願いいたします!


 

 婚約者のヴィンスは、妹のエスターと愛し合っていた。


 ベルナール王国を統治するアントワール王家には――女しか生まれない。というのも、王家はその昔、精霊たちを支配しようと湖の下に広がる精霊の国を――滅ぼしたことがあり、それ以来王子がめっきり誕生しなくなったのだ。


 女王を立ててなんとか王権を維持してきたものの、他の国々からは『精霊に呪われた王家』と密かに揶揄(やゆ)されている。


 そんな王家に、ノルティマは第一王女として生まれた。王位継承権は一位であり、次期女王として幼いころから厳しい教育を受けてきた。


 ヴィンスは筆頭公爵家の子息であり、従兄弟に当たる。そして、将来女王を支える次期王配――ノルティマの婚約者だ。


 ある日、一日の王太女教育を終えたノルティマが講義室から自室へ移動していると、応接間から聞き覚えがある男女の声がして、廊下の途中で立ち止まる。


「んっ……ヴィンス様ったら、扉が開いているのにだめよ。誰か来るかもしれないわ」

「許してくれ、こんなにかわいらしいエスターが目の前にいて、自制が効かないんだ。人が来たら見せつけてやればいい。――愛している」


 わずかに開いた扉の隙間から、ヴィンスがチェストの上に座るエスターの頬に手を添えて、口付けをしているのが見えた。

 エスターも満更ではなさそうに、うっとりした眼差しで彼を見上げている。


(嘘、どうして……)


 ――バサリ。驚いたノルティマは、抱えていた本の山を床に落とした。

 その音に気づいたふたりがこちらを振り返る。


「あー、お姉様? もしかして今の……見てた?」


 彼女はくすっと可憐に笑って、チェストの上から降りる。ヴィンスの腕に自身の腕を絡ませ、ぴったりと隙間なく身を寄せながらこちらに歩いてきた。


 エスター・アントワール。彼女はこの国の第二王女であり、ノルティマの妹だ。


 かわいらしい容姿に加え、大人しくて控えめなノルティマと違って明るくて愛嬌がある。


「実はね、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから――邪魔者は消えてくれない?」

「…………はい?」


 一瞬、耳を疑った。将来の王配と不義理を働いたのはエスターなのに、何も悪くないノルティマの方がなぜ消えなくてはならないのか。


「な、何言ってるのよ。ヴィンス様は廷臣たちの話し合いで決まった王配となるお方。私だって、あなたの恋を叶えるために消えることなんてできる立場ではないのよ」


 ノルティマは第一王女だ。いつか女王になって、この国と民衆を守っていかなければならない。


 なけなしの平常心をかき集めてきわめて冷静に諭していると、ヴィンスが口を開いた。


「いっそ――お前が死んでくれたらいいんだがな」

「なんですって?」

「ずっと気に入らなかったんだ。面白みも愛想もなくて、お前には女としての魅力を一切感じない。エスターはお前とは真逆で、明るくてこんなにもかわいらしい。心移りするのも無理ないだろう?」


 婚約者からの『死んでくれたらいいんだがな』という言葉に、頭をがつん、と殴られたような衝撃を受ける。


 ノルティマはただ、次期女王にふさわしくあるために頑張っていただけだ。


「お前が消えれば俺だけではなくみんな喜ぶだろうな!」

「本当にそう。お姉様のことが好きな人なんて、王宮にも、この国のどこにもいないもの」


 婚約者は、ノルティマではなく妹を選ぶという訳か。

 こちらに、早く死ねと言わんばかりに追い詰めながらふたりはくつくつと肩を揺らし、愉悦に浸っている。


 彼らの悪意をつぶさに捉えたノルティマは、拳をぎゅっと固く握り締め、玲瓏とした声で答えた。


「分かったわ」

「「えっ……」」

「あなた方のお望み通り――消えて差し上げましょう」


 まさか承諾するとは思っていなかったらしいふたりは、拍子抜けした顔をする。


 でも、これでいいのかもしれない。ノルティマだって望んで王太女になったわけではないのだから。


 生まれたときから自由を奪われ、国のために働かされてきた。ヴィンスや女王、廷臣たちに散々仕事を押付けられ、ノルティマは常に目の下にクマができており、やつれている。


 現女王の王権は、ノルティマという奴隷の支えによってなんとか成り立ってきたのだ。


 ノルティマがいなくなれば、役目を引き継ぐエスターたちはさぞかし困ることになるだろう。けれど、もう知らない。それを望んだのは、紛れもなくこのふたりなのだから。


 冷たい眼差しで妹とヴィンスのことを見据え、地を這うような声で告げる。


「――ただし。私を追い出したこと、後悔しても知らないわよ?」


 こちらの底冷えしそうな目に、ふたりは背筋に冷たいものが流れるのを感じた。

 当惑する彼女たちを無視して、全てを手放す意思表示をしたノルティマは踵を返し、自室へと向かうのだった。


 ◇◇◇


 

 自室へと戻ったノルティマは、机の前の椅子に腰を下ろして、別れの手紙をしたためた。


『遺言者ノルティマ・アントワールは次の通りに遺言する。


 一、王位継承権は妹エスター・アントワールに譲渡する。

 二、次期王配ヴィンス・シュベリエとの婚約は解消し、新たにエスターと結ばせる。

 三、私の財産は全て――精霊の慰霊碑の管理費とする。


 付言、長い間お世話になりました。エスターにヴィンス様、並びにお世話になった方々、ご健勝をお祈り申し上げます。さようなら。

         ノルティマ・アントワール』


 使い終わったペンをことん、と机の上に置き、手紙の内容をゆっくりと見直す。


 そのあと、引き出しから王太女の印章を引っ張り出し、名前の隣に押した。便箋を折りたたみ、封筒に入れてから机の上にそっと置く。


(よし。こんなものかしらね)


 椅子から立ち上がり、今度は衣装棚から黒いローブを取り出して、姿見の前で身にまとう。そして、いつも髪を後ろでまとめている髪留めを外した。


 ノルティマは手のひらの上の髪留めを見下ろしながら、小さくため息を吐く。


(思えば昔から……エスターに振り回されてばかりだった)


 この髪留めは昔、エスターに交換してとせがまれて交換してあげたものだ。


 彼女は生まれつき身体が弱く、しょっちゅう熱を出して伏せってしまうような子だったので、その分両親も過保護になった。


 周りの人たちが彼女の望みを何でも叶え、蝶よ花よと甘やかしたために、彼女はどんどんわがままになっていった。


『私、お姉さまの冠が欲しい!』


 もう何年も昔、まだノルティマが子どもだったころに、王太女の戴冠式が行われた。儀式の中で司教からノルティマに、次期女王のための冠が授けられたのだが、あろうことかエスターはそれを欲しがったのだ。


『もう、エスター。これはお姉さまの身分を示す大切な冠なのよ? あげたりできるようなものではないの。あなたにはそのかわいい髪留めがあるじゃない』

『えーやだやだっ! お姉さまのやつの方がかわいいもん! 欲しい欲しい……!』

『まぁ……』


 女王アナスタシアがエスターを諭すが、彼女は聞き分けが悪かった。母は国を治める長としてはそれなりに優秀だが、病弱な妹に対してはどうにも同情的で、ことごとく甘かった。


 アナスタシアが申し訳なさそうにこちらを見つめてきたとき、ノルティマの胸がきゅっと締め付けられる。


(まさか……)


 母がこういう顔をするときは、決まって妹のために何かをしてくれと頼んでくるときだ。


 小さなころからそうして、ノルティマは大切にしてきたものを譲ったり、我慢したりしてきた。

 女王の言葉の続きは、聞くまでもなく予想できた。


『悪いけどその冠、エスターに譲ってくれる?』

『え……でもこれは、祭祀でこれからも使う大切な冠で――』

『必要なときはエスターに貸してもらえばいいでしょ? あなたの方がお姉さんなのだから、譲ってあげなさい。ね?』

『……分かり、ました』


 冠の件だけではない。ノルティマのものはエスターのもの。いつだって、身体が弱くてかわいそうな妹のために、我慢をさせられてきた。


 譲った冠は数日もしないうちにどこかでなくしてしまい、その後出てくることはなかった。ノルティマは冠なしで国の祭祀に参加し、恥をかくことになったのである。


 エスターが好きなことをしてのんびり過ごしている傍らで、ノルティマは厳しい王太女教育を施され、仕事をあちらこちらから押し付けられ、国政のために自分を犠牲にしてきた。

 もちろん、両親を含んだ周りの人々はエスターのことしか頭にないという感じで、ノルティマが頑張るのは当然のこととしてきた。だってあなたはお姉さんで、エスターと違って健康なのだから、と誰も心にかけてはくれなかった。


 ノルティマは婚約者だけではなく、家族にも、周りの誰にも――選ばれなかったのである。


 苦い過去の回想から現実に意識を引き戻すノルティマ。


 手に持っていた古びた髪飾りを、手紙の上に重し代わりにそっと置く。


(もういいわ。エスターも、ヴィンス様も、私を蔑ろにしてきた人たちみんな、好きにすればいい。私ももう……楽になったっていいわよね。ずっと、我慢してきたんだから)


 胸にあるのはただそれだけだった。心も身体も疲れてぼろぼろだ。もう休みたい。すぐに眠りたい。一秒でも早く、泡のように弾けて消えて楽になりたい。


 飾り気がなく閑散とした部屋を一度見渡してから、ノルティマは自室を出るのだった。



 ◇◇◇


 


 王宮を発つ前、最後に立ち寄ったのは、敷地の中央に佇む精霊の慰霊碑だった。慰霊碑は、日干しれんがを積み上げた分厚い壁で何重にも覆い隠されている。


 アントワール王家は五百年前、王都にあるリノール湖の下に広がる、『水の精霊国』と呼ばれる国を滅ぼした。


 現代もベルナール王国以外の国では精霊信仰があり、精霊は不思議な力で、病を治し、乾いた土地を潤し、濁水を清め、災いを浄化すると言われている。 精霊たちを畏れ敬うことで、人々はその恩恵を享受し、豊かな生活を送ってきた。


 かつてのアントワール王家は、精霊たちの神秘的な力を我がものにしようと画策し、暴力で支配しようとしたものの、自由を望む精霊たちは懸命に抵抗した。そして王家は、思い通りにならなかった報復として、湖を埋め立て、国そのものを滅ぼしたのである。

 住処を失った精霊たちの大半が滅び、生き残りはどこかへ移り住んでいったという。


 精霊たちにすっかり愛想を尽かされた今、世界の中でこの国にのみ、精霊が存在していない。


 ノルティマは石造りの慰霊碑の前で腰を下ろし、手を組んで、ゆっくりと唇を開く。


「精霊さんたち……申し訳ございません、我が一族が本当に悪いことをしました。心からお詫び申し上げます。ですからどうか、お怒りを鎮めてくださ――っく」


 精霊の国を滅ぼしたのと同時期に、アントワール王家には一切王子が生まれなくなった。そのことを他国から、『精霊の呪い』と呼ばれていることで有名だが、実際には呪いではなく、近親婚による弊害だった。

 そして、長らく秘密のベールに覆われてきた呪いは――別にあった。


「うっ……ぁ……ぁあっ――」


 祈りを捧げていたノルティマは突然、苦しみ出す。


 その苦しみ方は並々ならないもので、芝生の上に両手をつき、額に脂汗を滲ませ、くぐもった呻き声や悲鳴を漏らす。


(どうか怒りをお収めください。私の先祖がひどいことをして、申し訳ございません。お願い、許して……)


 とうとう声を出すこともできなくなり、心の中で謝罪と懇願の言葉を唱え続け、七転八倒の苦痛に苛まれること三十分。

 ようやく身体の痛みが引いていき、疲弊しきったまま芝生の上にくたりと倒れ込み、はぁと息を吐く。


 故郷を奪われた精霊たちは、よほど王家の者が憎いのだろう。


 毎日欠かさず王家の純粋な血を引く女が、祈りを捧げなければ、ベルナール王国には雨が降らない。そして――アントワール王家の王位を維持する限り続く。それこそが、精霊たちの報復だった。


「はぁっ……はっ……」


 喉の奥を震わせながら俯いているいたいけな娘の肩ひとつに、このベルナール王国の命運が委ねられているということだ。彼女が祈りをやめれば、この国に雨は降らなくなり、大地は枯れていく。


 礼拝を始めたのは物心がついてまもないころだった。


 この呪いのことを知っているのは王族のごく一部の者だけで、公にはされていない。エスターは、精神的な不安が体調に影響を与えるかもしれないという理由で、知らされていない。

 そして、毎日の祈りの義務を課せられるのは、代々王太女の役割として決まっている。


 呪いの効果で、祈りを捧げている間、肉体にのたうち回るような苦痛が現れる。だから、女王では政務に支障が出るため、王太女が代わりにその責任を果たす慣わしであった。もっともアナスタシアは、呪いの辛さを分かっていながら政務さえノルティマに押し付けてきたのだけれど。


 ノルティマがいなくなればその役割はおのずとエスターに移ることになる。今の代で、アントワール王家に王女はふたりしかいないから。


 これまで、本当の精霊の呪いを一族以外に知られないために、近親婚が繰り返され、女しか生まれなくなった。エスターが生まれながら病弱だったのも、この近親婚による弊害であり、アントワール王家にはよくあることだ。


 痛めつけられていた身体でよろよろと立ち上がり、慰霊碑を見据えた。


「私がここで祈りを捧げるのは今日で――最後です。明日からはきっと、妹がここに来るでしょう」


(この祈りの時間は、とても辛いものだったけど、もう今日でおしまい。もしもエスターがこの礼拝を拒めば……この国はどうなるのかしらね)


 ノルティマはフードを深く被り、そのまま王宮を後にした。

 こうして、王宮から王太女が忽然と姿を消したのである。



 ◆◆◆


 

「ノルティマは一体何を考えているんだ……?」


 応接室からノルティマが去っていったあと、目の前のヴィンスが動揺してそう呟く。


「まさか本当に、消えたり……死ぬつもりではないだろうな?」


 ヴィンスが焦ったように額に手を当てて深刻そうな顔をしたのを見て、エスターはきょとんと小首を傾げた。彼女はふたりにとっては恋を阻む障害でしかないはず。


(お姉様なんていなくなってくれたほうがいいじゃない)


 彼は王家の分家であるシュベリエ公爵家の次男であり、姉の婚約者だった。将来女王をその知恵と勇敢さで支える王配になるべく教育を受けていたが、肝心なノルティマとの関係は良好ではないようだった。


 ノルティマは物静かで真面目、悪く言えば面白みに欠ける人だった。だからこそ、ヴィンスは妹のエスターに思いを寄せるようになっていった。


「何をそう焦っていらっしゃるの? 先ほど死んでくれたらいいと言っていたのはヴィンス様なのに」

「あ、あれは……っただ軽い気持ちで言っただけに決まっているだろう!」 

「あら……」


 エスターはぱちくりと目を瞬かせた。だって、エスターは本心だったから。


「そう心配しなくたって大丈夫よ。お姉様はきっと拗ねてあんなことをおっしゃっただけ。明日にはいつも通りのはず」

「そう……だろうか」

「そうよ。だからねぇ……さっきの、続き――」


 エスターはおもむろに、自身の指を彼の指に絡め、口付けをねだる。


 エスターはこの人が好きだ。勉強や政治のことはさっぱり分からないけれど、見た目が好みだし、甘やかしてくれるから。

 昔から姉のものはなんでもほしくなった。戴冠式の冠も、次期女王の座も。ヴィンスも姉の婚約者だから、とりわけ魅力的に見えて、欲しくなった。


(これでようやく、独り占めできる)


 踵を持ち上げ、そっとヴィンスの唇に近づく。しかし、唇同士が触れるすんでのところで、彼はこちらの両肩に手を置いて押し離し、あろうことかエスターとのキスを拒んだ。


「きゃっ――」

「すまない。やっぱりノルティマのことが気になるから、様子を見てくる」

「まぁ、待って! ヴィンス様……」


 彼は応接間を飛び出していった。

 ひとりになったエスターはぎり……と爪を噛む。


(どうして、お姉様のことなんて構うのよ……!)


 ノルティマはこの国にとって、唯一無二の存在だ。

 いくらエスターが病弱で、王宮にいる人たちが大切にしてくれたとしても、序列で言えば、第二王女は王太女という地位には及ばない。

 姉はいつか女王となり、国中の人々から憧憬と敬愛を抱かれ、この国の象徴となる。


 それが、野心家のエスターには、たまらなく嫌だった。


 人々に一番愛されるのは、自分だけが良い。自分のことだけを見ていてほしい。

 だからずっと、ノルティマに消えて欲しかった。


 エスターはやむをえずに、ヴィンスの後ろを着いて行った。


 執務室や講義室を見に行ったが彼女の姿はなく、最後に向かったノルティマの部屋には手紙が残されていた。整然とした室内に本人の姿はなく、だだっ広い王宮内を探し回っているうちに彼女は去ったのだと理解した。

 手紙の内容を見て驚愕しているヴィンスに反し、エスターは舞い上がった。


(やったあっ! これで本当に、本当に邪魔者がいなくなったのね!? 女王の座も、ヴィンス様も私のもの……!)


 心の中でぐっと勝利の拳を握りつつ、喜びの感情を隠してしおらしい態度を取る。


「そんな……ま、まさかお姉様が本気だったなんて……」

「クソっ、大変なことになった。あんな言葉を真に受ける奴がいるか……!」


 ちらちらとヴィンスの様子を窺うと、彼は手紙をくしゃっと握った。


「至急、王宮の者たちを使って探させよう。今ならまだそう遠くへは行っていないはずだ」


 その言葉を聞いて、喜んでいた心が一気にしゅんとなる。


 せっかく目障りな姉がいなくなったのに、連れ戻すなんてもってのほかだ。

 全身の血の気が引いていくのを感じながら、なんとか説得を試みる。


「だめです、ヴィンス様っ!」

「なぜ止めるんだ?」

「だって、お姉様が消えたら、私たちは結ばれることができるのよ? ほら、ここにもそう書いてあるわ!」


 手紙の二項目目、『次期王配ヴィンス・シュベリエとの婚約は解消し、新たにエスターと結ばせる』という部分を、とんとんとこれみよがしに指差す。


「だから……この手紙には気がつかなかったことにするの。そして私は女王となり、ヴィンス様は王配になって、大勢の民衆に愛されながら――幸せに生きていきましょう?」


 両手をそっと重ね合わせ、うっとりとした表情で夢物語を語る。


 けれど、険しい顔をしたヴィンスに、素敵な提案はにべもなく撥ね除けられてしまう。


「…………だめだ」

「どうして……? 私のことを愛していらっしゃるのでしょう?」

「もちろんだ。俺は君を誰よりも慕っている。だが悔しいが、ノルティマは必要な存在なんだ。――精霊の呪いを君に味わわせるわけにはいかない」

「精霊の……呪い?」


 それがなんなのか分からず、頭に疑問符を浮かべる。


 確かに、精霊の呪いによって、アントワール王家には王子が生まれないと言われている。

 けれど、女王を据えることで、問題なく国の運営は行われているではないか。


 すると彼は、しばらく間を空けてから、ぎゅっと拳を握り締めて苦々しく言った。


「とにかく、早急にノルティマを探そう。これは他でもない――君のためだ」



 ◇◇◇

 


 ヴィンスの命令により、王宮の騎士や使用人たちが総出で失踪したノルティマの行方を探していたそのころ。


 ノルティマはひとり、馬に乗ってある場所に来ていた。


 そこは、王宮から馬を走らせて、一時間ほどの場所にある――リノール湖。うす気味の悪い、鬱蒼とした森の中にひっそりと佇んでいる。かつてこの湖を入り口とし、奥には精霊の神力によって作られた空間があった。それが、アントワール王家がかつて滅ぼした――水の精霊国だ。


 リノール湖は昔は王都の水源となる巨大な湖だったが、侵攻の際に埋め立てられて、ほとんどが陸地になってしまった。


「走り続けて疲れたでしょう? さ、お食べ」


 馬から降りたノルティマは、馬にりんごを与え、肩や首筋を優しく撫でてやった。それから、崖の上からリノール湖を見下ろす。


 水面はさながら鏡のように月の光を反射して、繊細な光を放つ。

 夜の冷たい風がノルティマの白い肌を撫で、銀色の髪をなびかせる。


 多忙な毎日の中でノルティマは心身をすり減らしてきた。毎晩よく眠れないし、呼吸は浅くなり、ずっとストレスで胃のあたりに違和感があった。


(ああ、やっと終わる。もう苦しまなくていいのね)


 ノルティマは湖面をぼうっと見つめ、まるで吸い寄せられるかのように、崖の縁へと歩いていく。その後ろ姿を、馬が不思議そうに見つめている。


 今夜この場所に来たのは――この崖から飛び降りるため。


 崖から湖面まではかなりの高さがあり、飛び降りたらもちろん無事では済まない。湖面に打ち付けられた衝撃で即死かもしれないし、湖の中でじわじわと溺死していくかもしれない。ノルティマは湖の中で少しずつ水に溶けて、消えていくのだ。


 ずっと、心も身体も、痛い思いばかりしてきた。毎日の礼拝はもちろん肉体的に痛かったが、両親や周りの人たちの愛情がエスターにばかり向き、自分は誰にも見向きもされなかったことも同じくらいに痛かった。


 大勢の人々が居住する王宮にいても、ノルティマはひとりぼっちで、寂しかった。みんなエスターの味方で、ノルティマの心の支えはひとりとしていなくて。毎日痛い思いをして祈り、毎日一生懸命勉強しても、やって当然のことだと誰も褒めてくれなかった。


 あと少し進めば落ちる、ぎりぎりのところに一歩踏み出したそのとき、後ろの茂みから声がした。


「――見つけたぞ!」


 それは、聞き覚えのあるヴィンスの声だった。はっとして振り返れば、複数の足音が近づいてきて、王宮の騎士や使用人たちもノルティマを追うように集まっていた。


「ノルティ、」

「来ないで!  一歩でも近づいたら、すぐにここから飛び降りるわよ」

「……!」


 こちらに近づいて来ようとしたヴィンスは、その忠告によってやむをえず踏み留まった。まさかここを突き止められるとは思わなくて、きゅっと下唇を噛む。


 これまであらゆる不自由を強いてきただけでは飽き足らず、死ぬ自由までノルティマから奪おうというのだろうか。


「お、おいノルティマ。早まるな、考え直せ。俺が軽い気持ちで言ったことで傷つけたなら謝る。あれはその……ちょっとしたからかいみたいなものだ。だから、な?」


 今更こちらの顔色を窺ってきたところでもう遅い。それに、ヴィンスがわざわざノルティマを探しに来た魂胆など、見え透いているのだから。もちろん、ノルティマのことを心配して駆けつけた訳ではない。


 エスターが王太女になり、彼女が精霊の呪いで苦しんでほしくないのだろう。


「あなたに死んでくれと言われたことだけが、原因ではないわ。積もり積もった結果なのよ。ヴィンス様は……婚約者の私に一度として向き合おうとしてくださらなかった」

「それは当然だろう! なぜならエスターはお前と違って身体が弱いんだ。それなのによく頑張っていて、大切にするのは当たり前だ」

「なら……私の頑張りはなんになるの? あなたに政務を押し付けられて……どれほど苦労していたか分かっているの?」


 すると彼は言いよどみ、決まり悪そうに目を逸らす。


「とにかくだ。君がいなくなれば、王家は立ち行かなくなり、エスターは苦痛を味わうことになる。僕たちがどれだけ苦労させられるか分かっているのか!? 君のせいで――」

「うるさい!」


 張り上げた声が森中に響き渡り、夜鳥が木からびっくりしたように飛び立っていく。


 ノルティマだって、責任ある地位に立たされ、痛みにも耐え、頑張っているという点は同じではないか。ノルティマはずっとヴィンスとも良い関係を築こうと努力してきた。けれどノルティマに対しては壁を作り、自分が王太女の婚約者の責任を放棄してきたのだ。


 ここまで追い詰められているのだと訴えても、彼の心には少しも響いていない。なんて惨めで、情けないのだろうか。


「もう、やめて……っ。私は楽になりたいのよ……。お願いだから、最後くらい静かに眠らせて……っ」


 両手で耳を塞ぎ、駄々をこねる子どものように、いやいやと頭を横に振る。


 もうこれ以上、誰かに奴隷のように酷使されるのはうんざりだ。誰の言いなりにもならない。――逆らってやる。


 ノルティマが拳を握り締めた直後。


「ヴィンス様!」


 そのとき、茂みの奥から鈴が鳴るような声がして、エスターがヴィンスのもとに駆け寄ってきた。彼女はヴィンスの腰にくっつきながらこちらを見据える。


 ヴィンスの意識が一瞬逸れたのと、ノルティマが崖から飛び降りたのは同時だった。


「きゃああっ、お姉様が……っ」

「ノルティマッ!!」


 ノルティマが最後に視界に捉えたのは、切羽詰まった様子でこちらに手を伸ばすヴィンスと、悲鳴を上げつつも、口角だけはにやりと上がっている妹の意地の悪い顔だった。




 ――バシャンッ。




 激しい音とともに、ノルティマは湖の中へと落ちた。かなりの高さから水面に叩きつけられた衝撃で、身体中の骨が折れ、激痛が駆け巡る。


 ノルティマは大量の泡が水上へと昇っていくのをぼんやりと見つめながら、下へ下へと沈んでいった。


(ああ、これで終わる。やっと楽になれる……)


 元婚約者に妹、自分の立場のことも、何もかも忘れて、眠ろう。この冷たい湖にそっと溶け込んでしまおう。そう思って目を閉じたとき、瞼の裏に先ほどのエスターの勝ち誇ったような笑顔が思い浮かぶ。


(本当に……これでいいの?)


 このまま消えて、いいのか。これまで頑張ってきた事はまだ報われていないのに、不幸なまま人生を終了させてしまって良いのだろうか。


 そんなの……嫌だ。ノルティマだって、誰かに褒めてもらいたかった。誰かに必要とされ、愛されていることを実感したかった。幸せになりたかった。


 こんな惨めな最後では、死んでも死にきれない。生きたい、何もかも全部やり直して、頑張ってきた自分をめいっぱい甘やかし、幸せにしてあげたい。


(嫌だ、やっぱりまだ死にたくない……!)


 じわりと目に涙がにじみ、水に溶けていく。

 湖に落ちてようやく、自分の本当の気持ちに気づいた。


 水面にはわずかに星の光が見えていて、まるで暗闇に差し込む希望のように見えた。

 張り裂けそうなくらいに痛む手を必死に伸ばす。

 けれど何に届く訳でもなく、息がどんどん苦しくなっていき、弱々しい声を漏らした。


「誰か……っ、助け、て……」


 すると――意識が朦朧としてきたその直後、誰かがノルティマの手を掴んだ。


 閉じかけていた目を開くと、そこに金色の長い髪に金の瞳の成人男性のぼんやりとした姿が見えた。

 彼はノルティマのことを引き寄せたあと、頬に手を添え、自分の唇をノルティマの唇に隙間なく押し当て――ふっと息を吹き込む。


(……! この人は、誰……?)


 口移しで送り込まれた酸素を吸い込む。男はノルティマの耳元で優しく囁いた。



「もう苦しまなくていい。俺の元へおいで。――ノルティマ」



 とても、優しい声。水の中だが、鼓膜に直接注がれたその言葉ははっきりと聞き取れた。どうしてノルティマの名前を知っているのだろうか。


 男はノルティマのことを抱き抱えたまま泳ぎ、みるみるうちに水面へと上昇していく。


 彼に身を預けたノルティマは、張り詰めていた糸がぷつりと切れるかのように――意識を手放していた。



 ◇◇◇


 

「ん……」


 次にノルティマが目を覚ましたとき、馬車の荷台の上にいた。がたがたと砂利道を走る揺れに気づき、瞼を持ち上げて半身を起こす。

 照りつける朝の陽光の眩しさに目を眇めた。


(どうして、馬車に……?)


 ゆっくりと視線を落として手のひらを見つめる。かなりの高所から湖に転落し、体中の骨が折れたはずなのにどこにも痛みがない。だが服はびっしょりと濡れており、湖に落ちたのは夢ではなかったと実感する。

 不思議に思って首を傾げたそのとき、後ろから声がした。


「あ、気がついたみたいだね」

「!」


 爽やかな声を聞き振り返れば、そこには十三歳くらいの少年が座っていた。

 金色の短い髪に金色の瞳をした、飄々とした雰囲気の子ども。


「あなたは……?」

「俺はエルゼ。朝リノール湖を散歩してたら、あなたが岸に倒れているのを見かけてね。そのまま放っておく訳にもいかないから、連れて来たんだよ」


 この荷馬車はどうやら、国境に向かっているらしい。岸に運んでくれたのは長髪の成人男性だ。髪と瞳の色、それに声もどことなくエルゼと似ている気がするが、エルゼはまだ子どもだ。

 ノルティマを助けてくれたあの人は、一体どこに行ってしまったのだろう。


 エルゼは座ったまま頬杖をつき、澄んだ瞳でこちらを見据えて言った。


「お姉さんの名前は? どうしてあんな場所で倒れてたの?」

「私は……ノルティマ。あの場所にいたのは、えっと……」


 どう説明したものか。正直に死のうとして崖から湖に飛び降りたと言う訳にもいかず、あちらこちらに視線をさまよわせ、言い淀んでいると、エルゼはふっと小さく笑った。


「話したくないなら無理をする必要はないよ。人には言えない秘密のひとつやふたつ、あるものだからね」


 子どもの割に妙に達観した様子の彼は、頭の後ろで手を組みながら、伏し目がちに言った。


「俺にも秘密があるよ。例えば、たった一度親切にしてもらった相手のことを、忘れられずにいるとかね」


 その表情は子どもにそぐわないもので、澄んだ瞳の中にほんのりとした大人の甘さと色気が宿っている。


「へえ。初恋の人とか?」

「――内緒」


 エルゼはにこっと笑い、人差し指を唇の前に立てた。


「俺はこのまま国を出て、母国に向かうつもりだ。このあとお姉さんはどうするの? この馬車は国境に行く前、いくつか街に立ち寄るみたいだけど、行く当てはある?」

「……」


 ノルティマはぎゅっとスカートを握り締める。

 人通りのある街に行って、ひとたび姿を見られようものなら、すぐに失踪した王太女だと正体を見破られ、王宮に連れ戻されてしまうだろう。


 でももう……王宮には帰りたくない。


「行く当ては……ないわ。家出をしてきたの」


 年下の少年に助けを求めるように、情けなく眉をひそめ、しおらしげに打ち明けると、彼は笑顔を浮かべて言った。


「――なら、俺と一緒に来る?」

「え……?」


 予想外の少年の提案に、目を瞬かせる。

 彼は飄々とした様子で続けた。エルゼはこのベルナール王国のふたつ国を越えた先にある大国――シャルディア王国出身だという。


「シャルディア王国は移民も多く、異国人の働き先も見つかりやすい。治安も安定しているから、お姉さんも安心して生活していけるはずだよ」


 どうせ、この国にいることはできない。奴隷のように酷使される日々に戻るくらいならいっそ、あのまま王太女は湖で死んだことにでもして、一からやり直してみたい。


「行きたい……! 私もシャルディア王国へ行くわ……!」

「ふ。分かった、いいよ。あなたがいてくれたら、長い旅でも退屈しなそうだ」


 エルゼはこちらに手を差し伸べて、口の端を持ち上げる。


「それじゃあ、よろしくね。お姉さん」

「ええ。こちらこそ」


 きっとこれも、何かの縁なのだろう。そしてふたりは、握手を交わし笑い合った。


(生きていたらまたどこかで、助けてくれたあの方にも会えるわよね。きっと)


 どこからともなく颯爽と現れて、水底に沈んでいくノルティマを救い上げてくれた男性は、ノルティマを岸辺に運んだきり去ってしまったのだろうか。


 ノルティマに息吹を吹き込んでくれた、唇の感触がまだ残っている。肌とも粘膜とも違う、温かな感触が確かにノルティマの唇に降ってきたのだった。


(私の……ファーストキス)


 耳の先まで熱がのぼっていくのを感じながら、唇に手を伸ばしていると、エルゼが荷台の外に少し身を乗り出しながら、服をぎゅっと絞り始めた。ぽたぽたと水が地面に落ちていくのを眺めながら、小首を傾げる。

 

(あら……?)


 倒れていたノルティマを運んだだけなら、彼までずぶ濡れになることはない。それなのになぜか、湖に落ちた自分だけではなく、エルゼの服も同じくらいに濡れていた。



 ◆◆◆


  

 一方、王太女ノルティマが消えたあとの王宮は、大混乱に陥っていた。


「ノルティマの遺体が見つからないだと!? それはどういうことだ……!?」


 執務室の机をヴィンスがどんっと両手で叩き、書類が一瞬だけ宙に浮かぶ。

 机を挟んで向かいに立つ騎士たちが、恭しく頭を垂れた。


「は、はい。十日間、総力を挙げてリノール湖を捜索しておりますが、ノルティマ様の発見には至らず……」

「どういう訳だ? 確かに、彼女が湖に沈んでいく姿をこの目で見たはずなのに……」


 十日前、ノルティマが目の前で崖から飛び降りた瞬間を思い出し、背筋がぞわぞわと粟立つのを感じる。


(あんなに衝撃を受けて、無事でいられるはずはない。だが、なぜだ?)


 水死すると、腐敗していく過程で肺や胃の中にガスが溜まり、大抵の場合は浮かんでくるものだ。しかしノルティマはリベール湖をくまなく探しても見つからず、浮かんでくることもなかった。


 崇敬される次期女王が、王宮での暮らしに耐えかねて身投げしたなど――アントワール王家始まって以来の醜聞になる。


 最悪の想定は、遺体が別の誰かに渡っていることとして。もし良い方に予想が外れたとしたら、彼女はどこかで生きているかもしれない。そんな思いがあって、人員を割いて大掛かりな捜索を続けさせている。


「ヴィンス様、もうお姉様のことを諦めましょう? きっと湖の底に沈んだに違いないもの。探すだけ時間の無駄だわ……!」


 騎士たちと話をしているところに、エスターが割り込む。

 ヴィンスだって、探したくて探しているわけではない。ノルティマがいなくなれば、エスターが精霊の呪いで苦しむことになるし、今まで仕事を押し付けてきた分が返ってくることになるから、こうも躍起になっているのだ。


 ヴィンスは子どものころから、次期王配になることが定められており、教育を施されてきた。

 ノルティマは聡明で、昔から成績が優秀だった。対して自分は彼女より劣っていた。


 ノルティマが有能であればあるほど、プライドが傷つけられていった。いつしか彼女に対して劣等感と嫉妬を募らせていき、毛嫌いするようになっていた。


 そして自然と、妹のエスターに思いを寄せるようになった。


 それからヴィンスは、度々政務をノルティマに押し付け、嫌味を零しては鬱憤の捌け口にし、当てつけのようにエスターのことを可愛がった。


 それがこの数日、ノルティマの不在によって仕事が増えて手が回らなくなり、睡眠時間を返上していたため、ヴィンスの目の下にはくっきりとクマができている。


 エスターは執務机に両手をつき、こちらに身を乗り出す。


「それより、今から一緒にお出かけしましょうよ! 新しい劇をやっているみたいだから気晴らしにでも」


 今まで仕事をサボって遊べていたのは、ノルティマという押し付ける相手がいたからだ。

 

「悪いが、また今度にしよう」

「ええ……そんなぁ……」


 しゅんと肩を落とすエスター。今までずっと、彼女のわがままをかわいいと思っていたのに、この危難のときにものんきに遊ぶことばかり考えていて、わずかに苛立ちを覚えた。


 必ず埋め合わせをするようにとねだるエスターを尻目に、騎士たちに命じる。


「ノルティマの捜索は、より人数を増やして継続しろ」

「かしこまりまし――」


 騎士のひとりが承諾を口にしかけたそのとき、執務室の扉が開いた。


「――その必要はないわ」

「じ、女王陛下……!」


 女王アナスタシアは、複数の近衛騎士と使用人たちを付き従えて、峻厳とした佇まいでそこにいた。


「王国騎士団は常に人手不足。先日西の町で深刻な野盗被害が出て、そこに人員を割かなくてはならないわ。ノルティマの捜索は今後規模を縮小する。いいわね」

「「御意」」

「そなたたちは下がっていなさい。わたくしはヴィンスに話があるから」

「「はっ!」」


 彼女は人払いし、執務室にはヴィンスとエスター、アナスタシアの三人きりになる。


「面を上げなさい」

「はい」

「いい? ヴィンス。今は何より重要なことがあるでしょう。わたくしたち王家が安全に国家を運営していくためには――精霊の怒りを鎮める祈りを捧げなくてはならない」


 アナスタシアはひと呼吸置き、額を手で抑えながら言う。


「わたくしたちは取り返しのつかないことをしたのよ。あの子は強い子だから大丈夫だと思い込んで、知らず知らずのうちに追い詰めてしまったんだわ。それがまさか、こんなことになるだなんて……」

「で、ではまさか、慰霊碑の礼拝はエスターにやらせるということですか?」

「それしかないでしょう。祈りが有効なのは、王家直系の女に限る。アントワール王家には、ノルティマの他にエスターしかいないわ」

「ですが、彼女の身体ではとてもあのような苦痛に耐えられません!」

「――それでも! ノルティマは弱音ひとつ吐かずに、祈りの務めとして全うしていたわ」


 眉間に縦じわを刻み、切羽詰まった様子で声を張り上げる女王。


 だが、彼女を労わず、当然のこととして済ませていたのはヴィンスに限ったことではなく、アナスタシアも同じだ。


 彼女だって病弱なエスターばかりに心をかけて、ノルティマのことを蔑ろにしてきたのだ。女王の仕事の多くを娘に押し付けて自分が楽をしたり、外遊にばかり出かけて享楽に耽っていた。今更後悔したところでもう遅い。


「ヴィンス。ノルティマがいなくなって政務が滞っていると聞いたわ。もっとしっかりなさい。これからは将来の王配として、そして新たな王太女――エスターの婚約者として支えてもらわなくてはならないのだから」

「やったあっ!」


 そのとき、深刻な話し合いの場には明らかにそぐわない、弾んだ声が飛んできた。横にいたエスターがぴょんと飛ぶ。


「私がお姉様に代わって次の女王様になるのね! 嬉しい、ずっとお姉様が羨ましくて仕方がなかったの」

「「…………」」


 あまりに浮かれた様子に、ヴィンスとアナスタシアはぽかんと呆気に取られる。

 すると、アナスタシアが口を開いた。


「あなた、女王になりたいと思っていたの……?」

「うん。だって女王ってかっこいいし。みんなにちやほやされるってことでしょ?」

「それだけではないわ。女王は国の長であり、この国を着実に運営していく責務があるの。――要するに、とても大変なことが沢山あるということ。勉強だって頑張らなくちゃいけない。それを分かって言っているの!?」

「平気よ。だってヴィンス様やお母様、他の廷臣の方々が助けてくださるもの」

「はぁ……」


 頭の中に花畑でも広がっているような底抜けの前向きさだ。

 そんなエスターに毒気を抜かれたのか、あるいは呆れているのか、アナスタシアはため息を吐いた。


「これまであなたを甘やかしてきたこと、今になって後悔しているわ。いい? エスター。あなたはこれから礼拝を捧げなくてはならないの。それは耐えがたい痛みを伴うけれど、アントワール王家が大昔に犯した大罪の償いであり、王国の平和を守るために必要なことなのよ」

「礼拝……?」


 そしてアナスタシアは、アントワール王家が過去に精霊の国を滅ぼしたことで恨みを買い、祈りを捧げて怒りを鎮めなくては雨が降らなくなったということを語るのだった。


 そして今後は自分がその役目を引き受けなければならないと知ったエスターだが、ことの深刻さを理解していないらしく、手を合わせてはにかむ。


「ふふ、手を合わせてお祈りするくらい、わけないわ。お姉様でも耐えられたなら大丈夫よ。そのくらい私にも乗り越えられるわ」

「「…………」」


 しかしこの日、礼拝による苦痛を実際に経験したエスターは、すっかり音を上げることになるのである。



 ◆◆◆



 その日の夜、エスターはヴィンスとアナスタシアとともに、精霊の慰霊碑の前に来ていた。

 アナスタシアに礼拝の手順を教えてもらい、慰霊碑の前に両膝を突く。


「本当に大丈夫か……?」

「ふふ、ヴィンス様は過保護ね。お姉様がずっとできていたんだから、私も平気よ」


 ヴィンスやアナスタシアの心配をよそに、すっかり高を括っていたエスターは、そっと目を閉じて手を組み、おもむろに呟く。


「……鎮まりたまえ」


 それっぽい祈りを捧げ始めた刹那、ずどんっと頭に雷が落ちたような衝撃が走った。辛いとか苦しいとか、そんな言葉で表現できるような生易しいものではない。頭からつま先まで、四方から引き裂かれるような鋭い痛みが、絶え間なく襲ってくる。


「ぁあっ……ぅ……ああっ、痛い痛い痛い……!」

「「エスターッ!」」


 エスターは転がるように倒れ、芝生を強く握り締めた。エスターにむしられた芝生がぱらぱらと地面に舞い落ちていく。


「こんなの、耐えられないっ。お母様、止めて……! 助けて!」

「それはできないのよ、エスター……! 一度痛み始めたらしばらくは治まらないの。どうにか辛抱してちょうだい。全ては王家の地位を守るためなのよ……!」

「うそっ……痛い、痛い……っひぐ」


 ヴィンスとアナスタシアに背を擦られながら、痛い、痛い、とのたうち回る。

 ようやく三十分ほどして苦痛が治まったとき、エスターの愛らしい顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、髪や衣装もぼろぼろに乱れてしまっていた。


(こんなものをお姉さまは何年も耐え続けていたの……!? 正気じゃないわ、私には――とても耐えられない……)


 心の中で、死んでいるかもしれない姉を思い浮かべ、切願する。


(やっぱりお姉様、帰ってきて……!)


 一度きりの礼拝がすっかりトラウマになったエスターは、この日から体調不良を口実にして――礼拝に一切行かなくなった。


 そして、ベルナール王国には雨が全く降らなくなったのである。



 ◆◆◆


 

 アントワール王家によって滅ぼされた精霊の国――元精霊王のエルゼには、呪いがあった。


(四百……いや、五百年になるのか)


 リノール湖の岸辺に腰を下ろしながら、精霊の国が滅んでからの年数を指折り数えるエルゼ。五百年ともなると、両手の指がいくらあっても足りない。


 五百年前にアントワール王家によって、水の精霊国は滅ぼされた。それこそ当時は強い恨みと憎しみを燃やしていたが、五百年も経てばそういう気持ちも癒えてしまうものだ。今は恨みも憎しみもすっかり手放して、悪霊となった水の精霊がさまよっていないか、時々リノール湖を訪れて確かめ、見つけたら浄化をしている。


 もう随分昔から生活の拠点をシャルディア王国に置いているのだが、その日は久しぶりにリノール湖に赴いていた。シャルディア王国で暮らしているのは、精霊への信仰心が他国よりことさら強く、エルゼが暮らすのには快適だったからだ。


「……多いな」


 湖の中の悪霊の気配に目を伏せる。

 アントワール家に国を滅ぼされ、住処を失った精霊たちは一斉に離散した。中には、悪霊となってこうして故郷に戻ってくることもしばしば。


「――浄化(ピュリフィケーション)


 湖面に手をかざして呪文を唱えれば、数分ほどで湖ごと精霊たちは清められた。

 しかし、神力を使いすぎたせいで、大人の姿を保てなくなり、みるみるうちに体が縮んでいく。


「クゥーン」


 それは、白い幼獣だった。成獣の姿にもなれないとは、よほど力を使いすぎたらしい。シャルディア王国へ戻るための力もなく、木の幹に寄りかかりながらしばらく休むことにした。昔からのことなので慣れてはいるが、同族を浄化しようとするとどうにも神力の消耗が著しい。


 微睡みに沈んでいると、ある瞬間身体が宙に浮く感覚がしてはっと目を覚ます。


「なんだー? この変なの」

「きっと生まれ損ないのうさぎか何かよ。バイ菌を持っているに違いないわ。早く捨てた方がいいわよ」


 頭上から幼い声が降ってきたので顔を上げると、少年と少女だった。

 腕から解放されようとじたばた暴れてみるが、小動物のような姿のままでは、無駄な足掻きにしかならず。


「そうだ、面白いこと思いついた! ちょっとこれ持ってろ!」

「何よ。私こんなの触りたくないんだけど。――わっ」


 少年が少女にエルゼを預けて、地面に置いた荷物をがさがさと漁り始める。その間も逃げようと暴れるが、少女が抱く力を強めて阻む。


「ちょっと! じっとしてなさい! 言うことを聞かないとこうよっ!」

「ギャンッ」


 少女に爪を立てたまま抓られ、思わず悲鳴を漏らす。白い毛に血が滲んだのと、少年が鞄から取り出した蝋燭に火をつけたのは同時だった。


 エルゼの瞳に、燃えた火が映る。エルゼはひゅっと喉の奥を鳴らして、少年の手に注目した。その蝋燭で何をするつもりかは容易に想像ができる。


「これをこうして――」


 無防備なエルゼは、ぎゅっと瞼を閉じて熱を受け止める覚悟をした。けれどそのとき、ふたりとは違う声が降ってきた。


「やめなさい」


 おずおずと瞼を持ち上げてみれば、別の少女が左腕を伸ばしてエルゼのことを庇い立っていた。

 火のついた蝋燭の先端が少女の柔らかな肌にぐっと押し付けられて、焦げた匂いが鼻を掠めた。


「ひっ……」


 少女の手から血が流れたのを見て、意地悪な子どもたちはようやく自分たちがしでかしたことを理解し、青ざめる。

 一方、助けに入った銀髪の少女は、火傷を負っても全く痛がる様子はなく、エルゼを取り上げながらふたりに言う。


「私の腕の火傷、この子にも負わせるつもりだったの?」

「それは……」

「動物も私たちと同じ生き物なの。傷つけられれば、私たちと同じように痛いのよ。だから、ひどいことをしてはだめ」

「「ごめんなさい……!」」


 咎められた少年たちは、転がるように逃げていった。

 少女はエルゼを地面にそっとおき、申し訳なさそうにこちらを見下ろした。


「ひどいことをしてごめんね。どこも怪我はしていない?」

「クゥーン……」


 言葉を話すことができないので、鳴き声で無事をどうにか表現することしかできなかった。エルゼがあまりに必死に訴えるので、彼女は困ったように笑いながら「分かった、分かった」と頭を撫でてきた。


 先ほどの少年少女と同じくらいの年頃なのに、彼女は妙に大人びていて落ち着きがあり、優しかった。

 長く伸びた銀髪を後ろで束ねて、長ズボンを履き、シャツを着ている。また、手には短い鞭が握られており、その格好から、乗馬の最中なのだと予想した。


 少女の腕にひどい火傷ができているのが目に留まって、すぐに直してやりたいところだが、あいにくただの幼獣である自分に治癒能力はない。


(それにしても、彼女はどうして痛がらないんだ?)


 普通、彼女くらいの年頃なら、擦り傷ひとつで大泣きしていてもおかしくはない。火傷した部分をちろちろと舌で舐めると、彼女は目をわずかに見開く。


「平気よ。私は痛みには人一倍強いの」

「……?」

「あなたは私のこと、心配してくれるのね。家の人たちはみんな、エスターのことばかりで、誰も私のことを心にかけてはくれないのに」


 そう言って寂しそうに笑う表情に、年不相応の憂いが乗った。彼女はゆっくりと顔をこちらに近づけて顎をすくい、ちゅ、と額に口づけを落とした。そして、長いまつげに縁取られた双眸に射抜かれたとき、どきんと激しく心臓が波打つ。


「――ありがとう」

「…………!」


 彼女に口づけされた瞬間、体中に雷電が駆け巡るような衝撃を感じた。少女の微笑みはどんな花が咲くよりも可憐で、あまりの愛らしさに口から心臓が飛び出してしまいそうだった。心臓は全く言うことを聞いてくれずに加速し続け、のぼせ上がるくらいに顔が熱くなる。こういう気持ちは、初めてだった。

 そして――。


(呪いが……消失した)


 エルゼは目を大きくさせて硬直する。


 水の精霊国が滅んでからというもの、エルゼは多くの悪霊化した精霊たちを浄化してきた。その中には一筋縄ではいかない者もおり、国を守れなかった精霊王を憎んで、攻撃されたことも。


 そしてあるとき、非常に厄介な呪いをかけられた。それは――時が止まってしまう呪い。大抵、精霊の寿命は三百年ほどと言われており、エルゼは二百年近く生きていた。しかしその呪いによって、エルゼは寿命を取り上げられたのである。


 呪いをかけた精霊たちはエルゼに告げた。呪いを解く条件は――エルゼが誰かに恋をすること。そしてもう一つ。相手が、水の精霊術師であるか、その素質を持つ者であること。

 精霊たちはエルゼにそんな――馬鹿げた呪いを与えたのだった。


 それが今、少女の口づけによって解かれたのである。


(そうか、彼女には水の精霊術師の素質があるのか。そして俺は……)


 エルゼの驚愕につゆも気づかない彼女は、こちらの頭を撫でながらふわりと微笑んでいた。だが、その笑顔は次の瞬間に曇る。


「ノルティマ様! どこにいらっしゃるのですか!?」

「ノルティマ様!」


 複数の声が茂みの向こうから聞こえてきて、少女は大袈裟なくらいにびくりと肩を跳ねさせる。ついさっきまでこちらに見せてくれた、花が綻ぶような笑顔の面影はすっかりなく、冷めた表情で立ち上がる。


「それじゃ、元気でね。さよなら」

「キャン、キャンッ!」


 どうにか彼女をここに留めておきたいと、必死に吠えて呼び止めようとするが、とうとう彼女が振り返ることはなかった。


(ノルティマ……という名前なのか。可憐な名だ)


 ノルティマを迎えに来たのは、複数の騎士や侍女たちだった。


「ノルティマ様、どこに行っていらっしゃったのです!? あなた様には重要なお立場があるのです。このベルナール王国の――次期女王という重要なお立場が。一分一秒も無駄にはできないのですよ!」

「分かっているわ」

「早く乗馬の訓練の再開を。先生がお待ちですよ。乗馬を終わったあとは、歴史、刺繍、バイオリンの授業。そのあとは――」


 どうやら彼女は、精霊の国を滅ぼしたアントワール王家の子孫らしい。もし昔の自分だったら、彼女を憎んでいたかもしれないが、出自を知ったところで、ノルティマ自身への恨みが湧いてくることはなかった。


(彼女が笑顔で過ごせるよう――精霊王エルゼの祝福を)


 小さな少女の優しい青の眼差しに射抜かれたとき、五百年以上生きてきた精霊王は初めて――恋に落ちたのである。

 エルゼは自分の想いも乗せて、あどけない少女に加護をひっそりと送った。



 ◇◇◇



 授けた加護は、ノルティマがなんらかの助けを必要としたときに、エルゼを呼び出せるというもの。

 だが、エルゼは一向にノルティマに呼ばれることはなかった。助けを求められたらすぐに駆けつけるための加護だったのに、彼女は誰も頼ろうともしなかったのだ。


 彼女への恋心は、八年で色褪せることもなく、エルゼの心に深く根付いていた。ほんのひとときの邂逅だったのにもかかわらず、元精霊王は幼い少女に囚われたままだったのである。


 加護は八年後、突然に反応し、エルゼをノルティマの元へと導いた。光の玉のような精霊本来の姿で瞬間移動した先は――まさかの湖の中。


(……!? あれは――)


 そして、暗い湖の底に、恋い焦がれていたはずの彼女が沈んでいくではないか。慌てて彼女の元へ泳いでいく。

 あどけなかった少女は会わないうちに、美しい娘へと成長していた。


(まだ意識はある。が、どうしてこんな……)


 腕を掴んで引き寄せたが、彼女の腕はあまりにもか細く、頬はやつれ、目の下にクマができている。エルゼはぎゅうと胸が締め付けられるような思いで彼女の頬に手を添え、その小さな唇に息吹を吹き込んだ。


「もう苦しまなくていい。俺の元へおいで。――ノルティマ」


 ノルティマのことを掻き抱き、耳元で口を衝いたようにそう囁く。エルゼに身を委ねた彼女は、安心したように意識を手放していた。


 水面に浮上したあと、すぐさま彼女に精霊の力で治癒を施す。なぜか悪霊化した精霊たちがまとわりついていたため、それも浄化すると、大人の姿を維持できずに身体が縮んでしまった。


 すると、崖の上から数名がこちらを見下ろしていることに気づいた。人間程度の視力ではこちらの姿が見えないだろうが、精霊であるエルゼには、はっきりとその姿を捉えることができた。

 鋭い聴力で耳をそばだてれば、人間たちが『ノルティマが飛び降りた』と話しているのが聞こえてきた。そしてそこには、ノルティマの婚約者や妹がおり、ノルティマの心配よりも、自分たちの責任を問われることにおののいていた。


 ノルティマを取り巻く環境や、彼女が飛び降りた経緯をなんとなく察し、腸が煮えくり返りそうになる。

 同時に、彼女の苦労を知らず、何もしてやれなかった自分があまりにも情けなく、悔しくなった。


(――決して彼女は渡さない。アントワール王家にも、他の誰にも。そして、二度も俺を怒らせた王家のことを……許しはしない)







 王太女ノルティマが消えたあと、政務は滞るやら降雨は止まるやらで、ベルナール王国民のアントワール王家への不満は募っていき――王家は衰退の一途を辿っていく。


 ヴィンスたちがわずかな可能性を信じ、血眼になってノルティマを探すが、とうとう彼女を見つけることはできなかった。彼らもまさか、自分たちが滅ぼした精霊国の王の手の中にあるとは夢にも思わない。元精霊王はあらゆる力を行使して、アントワール王家の追っ手からノルティマを隠した。


 一方のノルティマはというと、あれこれと尽くそうとしてくれる殊勝でかわいい少年との旅に、人生で初めて楽しい時間を過ごし、心に負った傷を癒していく。


 呪いから解放された元王太女と元精霊王というふたりの不思議な旅。

 あどけない少年だと思っていた相手が、偉大な元精霊王だと知るのはきっと……彼が元の美しい成年の姿に戻ったそのとき。

最後までお読みいただきありがとうございました!

子どもの姿になっちゃう(だけど飄々としてる)ヒーローをどうしても描きたかったので、とても楽しかったです。

少しでも気に入っていただけましたら、ブックマークや☆評価で応援してくださると大変励みになります…!


また、連載版を始めましたので、そちらの方もよろしくお願いいたします…!

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