第4話 新たなクラス
「え…あの」
他の生徒達がこちらをチラチラ見ているのを一顧だにせず、小夜子はその美しい黒曜石の様な瞳を真っ直ぐ涼に向けている
この間の夜に見た私服姿と違い、今日は当然制服だ
喪服の様に真っ黒なブレザー
プリーツのスカートは濃い灰色のチェックで地味な色合いにも関わらず、オシャレで人気がある
数年前に制服のデザインを変更するにあたり、我が高校のOGで、世界的にも人気のある若手の人気デザイナーにデザインを依頼したものらしい
自称進学校だった清崎学園高校を地域で一番の進学校に押し上げたのは制服あってのものと言うのは共通認識だ
本来ならばスカートと同じ色柄のリボンをつけるところだが、校則の制服規定にリボンに関する記載が無いことを、ある時気がついた先輩が居た
そんな訳で入学して暫くすると大体の女子生徒は他所で買ったリボンを付けて個性を主張する様になる
中にはネクタイをつけてくる女子もいて、部活動によってはお揃いのリボンやネクタイをつける事で連帯感をアップさせている所もある
小夜子も例に漏れず変更しているが、喪服に付ける様な真っ黒なネクタイで常識を疑いたくなるセンスだが
…しかし飛びきりの美人が来ているからか非常によく似合っている
因みに涼を含めた男子生徒は大体が濃い灰色の元からセットになっているネクタイを締めている
ノーネクタイも夏になると増えてくるが、涼は基本はネクタイ付ける派だ
突然声を掛けられて、思考をフリーズさせながらも小夜子の全身をジロジロ見る涼を尻目に一方的に話を続ける小夜子
「後でまた声掛けるから。勝手に帰らないでいて」
そのまま長く美しい濡羽色の髪を翻し立ち去ろうとする小夜子に慌てて涼は呼び止めようとした
「どこに行くんだよ!?」
「…?教室に決まってるでしょう。もう集合時間になるわ」
小夜子は少し眉を顰めてこちらをチラリと見て歩き続ける。
後頭部に黒いリボンが揺れている
…確かに、もう新年度最初のホームルームが始まるまで少ししかない
愛想笑いの一つも無い小夜子に憮然としつつ
涼も小夜子の揺れる艶やかな黒髪と、窓から吹く春風にふわりと舞うリボンを追って、2年1組に入る
今日は刀は持ってないんだな…
当たり前のことを考えながら、黒板に張り出された座席表の名前を確認し新しい自分の席を探す
窓側の席だ。貴樹とは少し離れてるな…
少し遅れて隣の席に女子が座る
「となり井守君なんだ。おはよー。知ってる人がとなりで良かったぁ」
「佐倉…おはよ」
内心の動揺を隠しながら返事をする
色素が薄めの茶色がかった猫っ毛のショートカットの小柄なこの女子は、去年も同じクラスだった佐倉沙凪だ
髪に桜のモチーフのヘアピンが可愛い
一見無地に見えた紺色のネクタイも小さい音符の模様がついていて女の子らしさがある
鞄につけたモコモコのよく分からないキャラクターのキーホルダーもよく分からないけどサイコーだ
くりくりとした瞳で見つめられて、ニコニコ微笑まれると中々心臓に悪いが、涼も彼女とまた一年同じクラスになれて安心した
彼女は涼の恩人だ
去年、入学して暫く経った頃周囲から孤立し掛けた涼を庇ってくれた学校生活の恩人だ
誰にでも分け隔ての無い彼女に涼は心からの尊敬と、淡いおもはゆい気持ちを抱いているのだ
地域で人気のマンモス高校のここは、成績と本人の志望によって、元有名進学塾の名物講師を擁した特別授業を受けることが出来る
海外大学への進学へのサポートも充実しているらしいが、涼には関係無いのでそこら辺は詳しく無い
涼の様なそこそこの学業成績の者から、県内トップ層までの進学先のサポートを網羅したここは様々な生徒が集まっている
そして
涼の小学校時代の同級生も当然ここには通っているのだ
中学は小学校時代の同級生達の来ないところに、通学時間が掛かっても無理して通学していたが、流石にここでは避けきれなかった
涼は小学校時代一年留年している
ここにいるクラスメイト達は皆、一学年分年下だ