第3話 クラスメイト
清崎学園高校の有名人といえば、篠塚小夜子置いて他にない
一年前の入学式
新入生代表として壇上に上がった彼女を見て、男子生徒を中心に静かなどよめきが起きた
落ち着いた、堂々とした足取りで壇上に上がった小夜子は、綺麗なよく通る声で大人顔負けの挨拶をしていた…気がするが、涼は内容をよく覚えていない
そう言った挨拶をいつもまともに聞いていないと言うのもあるかも知れないが、単純に見たことないほどの美少女と、整った顔によく合う綺麗な声に唖然としていた、と言う方が正しい
圧倒的な成績で入試を突破したらしい
その日は彼女の顔を見る為に上級生達も一年生の彼女の教室の前を彷徨いていたらしい
涼は別のクラスだから伝え聞いた限りだが
運動神経もかなり良い方らしいが、運動部には所属しておらず、天文部の部員だか、ほぼ幽霊部員だとか
…幽霊部員かあ
幽霊という言葉には思うところが色々出てきてしまう
そんな彼女は特待生らしく、1年間の試験をほぼ満点で学年一位を死守し続けた才色兼備である
いやはや天は二物も三物も与えて憚らない
普通なら絶対関わり合いにならない、同じ学校でも住む世界の違う住人の筈だったんだけどな
あれは何だったんだろう…
日本刀振り回して幽霊退治なんて絶対普通じゃない
涼は自分のことを普通じゃないなどと思っていたが
…いやはや、自分なんて全然でしたよ
同じ学校だし顔合わせる事もあるのかな
一応あの夜名前と学年を聞かれて答えた
もしかしたらあちらから声掛けてくるかな
どうすれば良いかも分からないし、そもそもあれは何だったのかも分からない
幽霊が今まで危害を加えてくるなんて無かったし、刀で切れるんだと言うところから驚きなのである
普通の刀じゃ無いからかも知れないけどな
出来れば自分よりもその界隈に明るそうなサムライ少女に早く相談の一つでもしたい
あの後は幸い黒いモヤが見えても、ドキドキしながら警戒してたのもバカらしく感じる程に何も無いが、それでも本当に大丈夫なのか知りたいし、アレが何だったのかとか、もしかしてゴーストバスターの人ですかとか、聞きたいことは山程ある
あの時初めて話をしたし、取っ付きにくそうな美人には気後れして上手く聞けない可能性もあるが
「あー、どうしたもんかな」
あの夜もこちらの聞いた情報をその場で誰かに電話で伝えた後、早々に立ち去ってしまったのだ
「何も分からない怪我人置いて行くし、冷たいと言うか、冷酷というか」
ブツブツ文句を独り言で呟き、不審者と化しながら
自転車を所定の駐輪場に停める
「ん?」
部室棟として使われている旧校舎のあたりに駐車場でもないのに何台か車が停まっている
スーツ姿の男性がその近くで携帯電話で話をしている
その側にいる変わった色合いの作業着を着た人達って…
断言は出来ないが、ニュース番組の映像でたまに見る、鑑識の人ではなかろうか
だとすると、スーツの人は刑事さん?
…なんだろ?何か盗まれたとかかな?
帰宅部でいつもギリギリ登校の涼にしては、今朝は早く学校に着いているが、今日はクラス分け発表がある為、少し早めに家を出ている
盗難事件?は帰宅部の自分には関係ないこととして、足早に掲示板に向かう
早起きの努力も虚しく、掲示板の前は人でごった返していて、クラスを確認するのは中々至難の技になりそうだ
しょうがないから少し人が捌けるのを待つか
暇を持て余した涼は春休み気分の抜けない頭で、篠塚小夜子と出会った夜を思い出している
あの日は小夜子は何も言わずにあのまま立ち去ってしまった
それ以降まだ会ってない
あの後涼も何が何だか分からずに、暫くぼんやりしてから立ち上がり、そのまま家に帰った
エナジードリンクは地面に置いて忘れて帰宅した上に、当然もう宿題をやる気分じゃなく、宿題はギリギリ春休み終了前日である昨日、友軍の助けを得てなんとか終わらせたのだ
「涼、また一緒のクラスだったな」
肩を叩きながら、高校からの友人で、一番親しい杉村貴樹が声をかけてくる
「マジ?あー安心した」
大袈裟に胸を撫で下ろす涼を、苦笑しながら肩をポンポン叩いてくる
「僕が居ないと宿題終わらないもんね?」
彼こそが春休みの宿題が終わらず、絶望していた涼を救った救世主、昨日になって突然の呼び出しに心よく応じてくれた大恩人なのである
「杉村君も1組だったんだね。あの、私も1組で、あ、えーと、これからよろしくね」
「ゆっきー良いなぁ、私3組になっちゃった!私も1組が良かったのにぃ」
「あれ、髪切った?カッコいい!でも、もう髪伸ばさないのー?染めなくても良いからもう一回伸ばして欲しいな。文化祭の時めっちゃ似合っててカッコよかったし」
「今日午後予定ある?皆でモールまで遊びに行くんだけど一緒に行こうよぉ」
クラス発表を見てきた女子生徒達が貴樹に話しかけてきて、囲まれだした
女子達に囲まれてあっという間に頭の先しか見えなくなる
貴樹は顔が良いのだ。あと、頭と運動神経も。涼が勝てているのなんて身長くらいか?
自分的にはそこそこ悪くない顔だと思ってるんだけどな…
「じゃあ、俺も掲示板見てくるから」
声をかけてから立ち去る
「わかった。また後で」
女子の中から手を振る貴樹に応えて手を振りつつ、掲示板に向かう
掲示板の前は混み合い、ガヤガヤ煩い
「あたしのクラスどこ?見つかんなーい」「よっしー同じ4組じゃん!えーっとユリナは1組みたい」「春休みの宿題マジでヤバくなかった?数学とかあの量ありえないから」「ぎゃー!知ってる人クラスに居ないんだけど!?」「俺の名前見つかんねー。知らない間に退学してたっけ?」「ねえねえアヤ、ユリナ見てない?今日まだ会ってないんだけど。ネクタイ渡さなきゃでさ」「3年のクラスどこ掲示されてんの?」「今年は紺色でさ模様も」「5組ってどこ?っていうかさ2年のクラスってどこ?」「先生の名前なんて読むの?ミスグリーン?」「知ってる女子いないのホント有りえない最悪」「模様?ホントだ!よく見たら音符付いてるね。もう自分のクラス行っちゃったんじゃ無い?ウチらも行こうよ」「4組担任タナ先とか割と当たりだよねー。小澤先生のとこはご愁傷様って感じ」「今日昼までだし、どこ食べ行く?米食いたい気分」「今日も部活あるのダルいんだけど。早く3年引退してくんないかな」「俺の名前マジでどこだよ」「俺のとこ新入生1人は入れないと廃部の危機なんだよね」「もう帰りてー」
まだまだ混み合って前に進みにくいが、少しは自分の教室に移動してくれていて、進めるようになってきた
1組とわかっているから、探すのは楽だ
クラスメイトに他に知り合いが居ないか確認する
「あ!」
知っている名前を見つけた
「ねえ、あなた」
その時涼やかな声が掛けられた
「後で時間ある?」
新しいクラスメイト、篠塚小夜子がそこにいた