9話 シーズン開幕戦①
福岡ドームに日本国歌が流れる。
試合前の国歌斉唱は、年末の風物詩、紅白歌合戦に何度も出場しているという有名歌手だった。
ドームがより一層、緊張感で引き締まる。
国歌斉唱が終わると、びっしり詰まった観客席から拍手が溢れた。
試合前のセレモニーが終わる。
一塁線、三塁線にそれぞれ並んでいたホーム、ビジターの選手たちがばらけていく。
陽翔はそのままレフトのあたりへ小走りでいった。
もう少し、体を動かしていたかった。
開幕戦、大阪カウボーイズと福岡シーホークスの試合開始まであと少し。
シーホークスは何といっても昨年の日本一、今シーズンもぶっちぎりの優勝候補である。
カウボーイズ勝利へのポイントとしては、シーホークス先発の千堂をどう打ち崩すかだ。
三年前にはプロ野球における投手最高の名誉、沢村賞を獲得。
昨年は勝利数、防御率、奪三振数の三つの項目でリーグ三位以上の成績を残した。
数年後のメジャー挑戦が噂される日本トップクラスの右投手である。
ストレートの最高球速は160キロを超える。
その国内屈指の球速を誇るストレートとともに千堂の代名詞として挙げられるのが、フォークボールである。
初めて千堂のフォークをバッターボックスで見た選手は、途中でボールが消えたと錯覚するという。
単純にストレートだけでもやっかいなのに、その“消える魔球があれば鬼に金棒だ。
二つの球種両方を対応しようとするのは無理筋くさい。
追い込まれたらノーチャンスと思っていい。
千堂に対しカウボーイズは多くの点は取れない。
対しカウボーイズ先発もエースの森本玲央で、超強力打線のシーホークス打線といえども打ち崩すのは困難である。
両チームの中継ぎも強力だ。
チームに勢いをつけるため、両チーム開幕戦は是が非でも取りたい。
双方ともに互いのエースからとれて1、2点、さらに強力な中継ぎ陣を惜しげもなく投入していく可能性が高いため、今日の試合は両チーム点の取れない、投手戦だという予想が多い。
後攻めのシーホークスナインが守りに着く。
先発の千堂はゆっくりマウンドに登ると、投球練習を開始した。
ダグアウトでじっと眺めていた陽翔は、少しの勝機を感じた。
福岡出身でシーホークスファンだというアイドルが始球式を行う。
山なりのボールはノーバウンドで嘉山のミットに届かなかったが、球場からは拍手が起こった。
『一番ショート、島岡壮太』
レフトスタンドの一角から拍手と歓声が上がった。
ドーム一杯に詰まった観客の大半はシーホークスファン。
でも、カウボーイズファンも数は少ないが、過半数のシーホークスに負けない声援を送ってくれる。
カウボーイズ一番の島岡が左打席に入る。
いつもとてもおしゃべりで、せわしなく動いている島岡だが、打席内ではとにかく動かない。
構えると余計な動作をせず、静かにピッチャーを視界へ捉える。
あとは獲物がやってくるのを待つだけ。
狙撃のタイミングを見はからうスナイパーのよう。
千堂が右足を上げ、右腕を振るう。
初球、ストレートが甘く浮く。
島岡は迷わず打ちにいった。
打球は、千堂の横を鋭く抜けていった。
無死一塁、出鼻をくじく。
『二番レフト、ウィル・パーキンス』
右打席に今年から加入の新外国人、パーキンスが入る。
彼はオープン戦序盤、まったく打てなかった。
しかし彼は研究熱心で、毎日コーチにつきっきりで指導をしてもらった。
終盤には、日本のピッチャーに対し完全に適応したといってもよく、最後の実戦三試合は連続マルチヒットだった。
なんでも来日前から日本文化に興味あったというパーキンスは、既に日本語も日常会話程度なら完璧にこなす。
性格の良さが溢れ出る人格者の彼は、まだシーズン開幕という段階でチームメイト、ファンから愛されている。
パーキンスも千堂のストレートを狙い打った。
二球目の156キロの球を引っ張り、詰まりながらもレフト前に落とす。
『三番センター、五十嵐陽翔』
無死一二塁、千堂相手に初回から絶好のチャンスだ。
左打席に入る。
レフトスタンドから大きな歓声を受ける。
長らくカウボーイズは得点力が課題だった。
三浦という球界最高峰の四番打者を抱えながら、それ以外の打者が貧弱だったのである。
特に一二番が問題だった。
彼らが出塁できず、三番の島岡、四番の三浦の前にランナーがいる機会がなかなかなかった。
しかし今年は違うはず。
島岡を一番に回すことができ、パーキンスが活躍すれば、一番二番はリーグ屈指のものとなる。
そして三番の陽翔次第では、シーホークスを超える打線になり得る。
開幕して最初の打席だが、今シーズンの打線を占う上で大事な場面だった。
一二番でチャンスをつくり、三番がいかに三浦に繋げるか。
新しい上位打線が千堂相手にいきなり結果を出せば、今年はいける、という雰囲気になるはず。
「プレイ!」
球審が宣告する。
ランナーを少し見たのち静止し、千堂の右足が上がった。
「ボール!」
陽翔への初球は、高めへと大きく上ずったストレートだった。
この球こそ、千堂の投球練習を見て陽翔が勝機を感じた所以だった。
全体的にストレートが高い。
開幕戦で気負っているのか、調子が悪いのか、それは分からない。
それでもストライクにさえ入ってくれれば、多少高めでも打たれないだろうという試算が相手バッテリーにあるのかもしれない。
千堂のストレートは甘かろうが、並みのバッターには打てない。
しかし、うちの一二番はストレートに強い。
そして、自分はもっとストレートに強い。
狙っていれば、甘いストレートならきっちり打てる。
陽翔へ二球目を投じようと、千堂が右足を上げて、下ろし、前の左足に体重が乗っていく。
対し、陽翔も軽く右足を上げ、タイミングを合わす。
もうストレートはないだろうと陽翔は思った。
自分がストレートにめっぽう強いことは相手も十分知っているはず。
今日のストレートなど、格好の餌食。
そして決め球のフォークはまだ来ない。
だとすれば、千堂のストライクを取りに来る球の一つ、カットボールだ。
千堂が右腕をしならせる。
縦と横の中間、スリークォーターぎみにボールを放る。
ボールは陽翔の近いところ、内角へ鋭く食い込んでくる。
陽翔はスイングを始動した。
体をひねって蓄えたエネルギーを一気に解放させ、腕を畳みながら回転し、ボールをバットの芯に合わす。
体の前の、絶好のポイントでボールを捕まえる。
そのまま押し込むと、ボールは快音を奏で放物線を描いた。
微妙だった。
打球は優にスタンドを超えそうだったが、問題はライトスタンドのポールの内側を通るか通らないかだった。
陽翔はフェアとなることだけを祈って、軽く走り出した。
ボールがスタンドに落ちた。
軌道は、フェアゾーンを通っていた。
一塁審が頭上で右腕を回し、ホームランを球場中に告げた。
ガッツポーズをしながら、ゆっくりと陽翔はダイヤモンドを一周した。
ホームを踏み最初に、次打者の三浦とハイタッチを交わした。
「ナイスバッティング!」
「やっぱすげえよお前は!」
ダグアウトでもみくちゃにされる。
三点先制、千堂相手にこの上ないスタートだった。
しかし、まだ終わらなかった。
四番三浦とエース千堂、日本を代表するピッチャーとバッターの激突は長丁場となった。
シーホークスバッテリーはストレート抜きでは相手打線を抑えられないと判断したか、直球を続けた。
三浦は二球続いたストレートに反応しなかった。
あっさりツーストライクと追い込まれる。
だが、そこからが凄かった。
千堂はフォークを含めた自信ありの球種を用い、バッターを仕留めに来た。
しかし三浦は反応しない。
ストライクはカットし、ボール球は全て見逃す。
気づけばスリーボールツーストライクのフルカウントとなった九球目。
千堂の落ちていくフォークを拾う。
打球はなかなか落ちず、そのままカウボーイズファンが集うレフトスタンドに突き刺さった。
ドームはほとんど騒然、唖然、レフトスタンドの一部だけ狂乱の騒ぎだった。
「あの人、いつも俺の後に打つよな……」
三浦は今シーズン第一号にも淡々とダイヤモンドを一周する。
ワンアウトも取れず四点を失い、千堂は肩を落とした。
しかし、その後の三人を連続奪三振で一回表が終わる。
千堂から初回に4点先取と、完璧な形で始まったシーホークスとの開幕戦。
裏のマウンドには、カウボーイズのエース、森本玲央が上がる。
◇◇◇◇
812.牛を飼う名無しさん
連発キターーーーーー
823.牛を飼う名無しさん
ファーーーーーーーーーー
846.牛を飼う名無しさん
やばすぎ
877.牛を飼う名無しさん
予言しとくわ
今年の優勝はカウボーイズや
891.牛を飼う名無しさん
千堂から初回に4点?
ホンマにこのチームカウボーイズか?
901.牛を飼う名無しさん
勝ったな
風呂入ってくるわ
932.牛を飼う名無しさん
>>901
フラグやめろ
943.牛を飼う名無しさん
五十嵐と三浦は地味に去年の最終戦から二打席連続アベックホームランなんだよな
961.牛を飼う名無しさん
>>943
そんなことあるんか……
979.牛を飼う名無しさん
>>943
連続はともかくアベックホームランは今シーズン何回も見れそう
991.牛を飼う名無しさん
さあ玲央頼むぞ!
999.牛を飼う名無しさん
開幕戦初回表だけどもう泣いてる




