54話 二本柱
日本シリーズ第二戦の舞台は変わらず東京ドームで行われる。
初戦を大勝して二戦目を迎えたカウボーイズの選手たちは、初戦時に比べれば比較的落ち着いた様子で、試合前の練習に望んでいた。
しかし日本一を決める戦いがそう簡単にいかないことなど、大半が日本シリーズ未経験のカウボーイズの面々であっても、ちゃんと理解している。
今日の相手の先発は、ウォーリアーズの誇る二本柱の一人、絶対的エース上菅雅己で、明後日行われる第三戦の先発は、ヴィンセント・ケントだ。
セリーグの投手タイトルを独占した二人が、今日からの二試合に先発してくる。
あえて初戦のカウボーイズの絶対的エース森本玲央を避けて、二戦目三戦目に二人を投入してきたということは、ウォーリアーズの戦略としては初戦を落とすのはある程度予想通り。
計算済みということだ。
しかし逆にいえば、この第二戦、上菅が投げるこの試合を取ってしまえば、ウォーリアーズの計算は狂い、一気にカウボーイズ有利となる。
二連勝して、ホームの大阪ドームに戻れる。
少なくとも、第四戦、第五戦には上菅とケントは出てこないだろうし、森本玲央はもう一試合は投げられる。
今日の試合はウォーリアーズにとって勝利は必須で、カウボーイズにしてみれば負けは想定内だけども、勝てば日本一がぐっと近づくというゲームになる。
どっちがプレッシャーのかかるかは明白だ。
百戦錬磨の上菅といえど、この試合にかかる重圧ということを考えれば、少しは調子を乱してくれるだろうか。
いや、あの人に限ってそんなことを期待してはいけない。
このような大舞台でプレッシャーのかかる局面での登板など、何度も経験している。
上菅のプロ七年のキャリアのうち、日本シリーズ出場は四回目。
日本代表でもエース格として、何度も日の丸を背負って国際試合に登板している。
中でも上菅が最も輝いた瞬間といえば、プロ二年目で出場したWBCだろう。
最初は中継ぎとしての登板だったものの、その調子の良さから準決勝アメリカ戦での先発に抜擢された。
総年俸150億越えのスター集団相手に、プロ二年目の上菅は一歩も引かない投球を見せた。
試合は日本代表が接戦で競り負けたものの、上菅は六回を投げ無失点の10奪三振。
WBCルールの球数制限が無ければ、まだ投げられただろうし、上菅がもうちょっと投げれば日本代表は勝っていたかもしれない。
上菅という名前を、世界の野球に知らしめた試合だった。
当時高校生だった陽翔は、その試合をテレビにかじりついて見ていた。
WBC準決勝という大きな試合だということで、部活は休みになり、友達の家に集まって試合を見ていた。
メジャーの強打者たち相手に一歩も引かなった上菅の快投は強く印象に残っている。
上菅がどうであれ、今日は山上に期待するしかない。
今日の試合の先発は、昨日の初戦の裏返しのようなマッチアップとなっている。
昨日はカウボーイズが絶対的エース森本で、ウォーリアーズが若き横峯。
反対に今日はウォーリアーズが絶対的エース上菅で、カウボーイズが若き山上。
山上は二年目の右腕で、横峯は三年目のサウスポー。
プロの年数や利き腕の違いはあれど、共に日本の将来を担う投手たちだ。
昨日は横峯が崩れたが、山上はどうなるか。
もし今日山上が、上菅相手に投げ勝てば、チームにとっても、山上本人にとっても大きな勝利になるに違いない。
◇◇◇◇
試合は、両先発の素晴らしい立ち上がりから始めった。
初回、上菅は栞緑を三振、パーキンスをサードゴロ、陽翔をセンターフライに抑え、三者凡退に抑える。
対して山上は、一番吉村をセカンドゴロ、二番の松井を三振、三番の坂根も三振に切って取る。
二回以降も両者は相手に付け入る隙を与えなかった。
単発のヒットこそ許せども、四球すら与えず、ランナーを一塁より先には進ませない。
両者の素晴らしい投げ合いを邪魔できないかというように、互いの守備陣もファインプレーを連発する。
両チーム無得点のまま速いテンポで試合は進む。
試合開始たった1時間ちょっとで、五回裏が終わる。
膠着した展開を打開したいカウボーイズは、ダグアウト前で円陣を組んだ。
「とりあえず、狙い球を絞っていこう」
そういう話にはなったが、チームとしてどの球を狙っていこうという話までは至らなかった。
あくまでバッター個人で狙い球を考えろ、という話である。
決してそれは首脳陣やデータ班の怠慢ではない。
上菅の投球は全ての球で空振りがとれ、かつ、どの球種を投じる際も投球フォームが一緒だ。
ようするに絞ることは不可能で、あくまで個人の感覚で打てそうな球を狙いにいくしかない。
実際、今日の上菅はどの球も優劣つけられずキレがあり、バッターを打ち取っている球に偏りがなく、満遍ない球種でバッターを打ち取っている。
この回の打順は、九番のピッチャー山上からだった。
山上は打つ気満々だったが、本職野手すら打てない上菅相手に手も足も出ず、あえなく三振に終わる。
一番の栞緑は、二球目を打ちにいった。
右バッターの内角を抉るツーシームを、完全にバットの根っこで当てる。
バットが折れたが、完全に勢いの死んだ打球は、飛んだ場所が良く、ぼてぼてのサード前に転がる。
サードの岡村は前進して打球を処理するが、送球が一塁手のミットに収まる前に栞緑が一塁を駆け抜ける。
内野安打で、ワンアウトランナー一塁となる。
二番のパーキンスは、初球バントの構えを見せた。
ベンチからのサインではなく、自発的な策だ。
おそらく、上菅相手にヒットを打つことを厳しいと感じ、得点圏にランナーを送って陽翔を迎えることを優先したのだろう。
パーキンスのバントは見事に決まり、栞緑は二塁へと局面が変わる。
カウボーイズが今日初めて感じる得点の気配に、カウボーイズファンが今日一の歓声で加勢する。
陽翔は左バッターボックスに立つ。
今日は未だ塁に出ることができておらず、三回目の打席。
足場をならす。
上菅を見据え、狙い球を絞った。
初球、陽翔の狙い通り、内側へ食い込んでくるカットボールが来る。
陽翔は強く振りに行き、バットの芯でボールを喰いにいったが、少し照準がずれる。
それのずれが、打球の行方として結果に出た。
「アウトっ!」
火の吹くような痛烈なライナーだったが、打球に角度がつかず、セカンド真正面に飛んだ。
セカンド吉村は労することなく打球を掴み、セカンドライナーでスリーアウトとなった。
その裏のウォーリアーズの攻撃。
打順は九番のピッチャー上菅から。
0-0という何としても点を取りたい場面、ピッチャーの上菅であっても、やはり合十分という様子で打席に入っていた。
上菅は初球から打ちにいった。
ストレートを叩き、打球は角度よく上がっていった。
陽翔は入るな! という想いながら打球の行方を追い、二塁ベースに着いた。
打球はセンターフェンスに当たった。
ホームランにはならなかったが、ノーアウトランナー二塁。
今度はウォーリアーズがチャンスを迎える。
それも、さっきのカウボーイズよりも何倍か得点確率の高い局面だ。
悠々と二塁に到達した上菅はガッツポーズをウォーリアーズベンチに向けて作った後、上機嫌な様子で陽翔へ話しかけてきた。
「よう五十嵐」
「どうも」
今日初めてのピンチを迎えたこともあり、キャッチャーの坂本が山上の元へ向かう。
上菅はそんな気にもせず陽翔へ話し続ける。
「おいお前、俺が初戦に投げないと聞いて、どう思った?」
「ええと……」
なんだか正直に答えにくい質問だった。
「逃げたか、ですかね。正直残念というか、玲央さんとの投げ合いをみんな見たかったと思いますよ」
「そうだよな。俺だって、玲央と最後の決着をつけたかった。エンタメとして、あの采配はどうかと思う」
森田監督への批判を、上菅から聞くとは思わなかった。
確かに日本一という目的を果たすためならば、エース対決を避けるというのも一種の策なのかもしれない。
とはいえ、エンタメとして考えるなら、森本VS上菅という誰もが見たかったゴールデンカードを避けるのはありえない。
この辺は考えた方の違いではあるが、陽翔がただの野球ファンとしてこの日本シリーズを見ていたならば、森田監督の采配は、さぞかしがっかりしただろう。
「玲央と三浦、そしてお前をぶっ潰すのが俺のこの日本シリーズの目的であったわけだが、一つは叶えられそうになくなったな」
坂本が定位置に戻り、試合は再開する。
もうプレーは始まっているのに、なおも上菅は話しかけてくる。
「ていうかお前、楓ちゃんに手出してないよな」
「試合中ですよ、集中しましょう」
上菅のツーベースを足掛かりにウォーリアーズは得点を奪う。
一番の吉村がセカンドゴロでランナーが二塁に進み、二番の松井の犠牲フライで上菅は本塁へ生還する。
重々しかった均衡は遂に割れ、ウォーリアーズのスコアに1という数字が加わる。
さらには、三番の坂根が放った打球は、レフトスタンドのカウボーイズファンを沈黙させた。
レフトスタンド上段、カウボーイズファンの集う箇所へ突き刺さった打球は、貴重な二点目となるホームラン――二試合連続の一発となった。
その後、三浦に二試合連続となる一発が飛び出し、カウボーイズも一点を返したが、反撃はそこまでだった。
1-2で9回表のカウボーイズの攻撃は終わり、スコアボードに“×”が刻まれる。
1勝1敗、日本シリーズの勝敗は再び五分に戻った。
◇◇◇◇
一勝一敗の五分で迎えた第三戦。
カウボーイズのホーム――大阪ドームへと日本シリーズの舞台は移る。
今日の両チームの先発は、カウボーイズが結木亮、ウォーリアーズがヴィンセント・ケントである。
結木は今季12勝5敗、防御率は3.02とリーグ8位の成績を残した好投手であるけども、やはり先発の名前だけ見ると、今日もウォーリアーズ有利となる。
カウボーイズとしては、昨日と同様にケントを攻略し勝利できれば、上出来だと考えられる。
おそらく、ウォーリアーズとしても上菅とケントの試合を全部取れるという計算を立てているだろうから、この二連戦のうちどちらかでも取れれば、計算を狂わすことができる。
今日二勝目を上げることができれば、あと一勝を森本玲央で取り、あと一つを残り三試合で一勝するという計算もできる。
とはいえ、星勘定の計算はあくまで机上の空論で、実際の勝敗はどう転ぶかわからない。
昨日だって上菅相手に勝つチャンスはあったわけだし、逆に森本の試合で負けることだって可能性としてはある。
首脳陣はゲームプラン、日本シリーズ全体のプランを持っておくべきだとは思うけど、選手としては目の前の試合に勝ちにいくしかない、と陽翔は思う。
カウボーイズは前日より念入りにケント対策を重ねた。
今年一年の投球動画だけでなく、メジャー時代の投球も確認した。
分析班いわく、ケントの若い頃の持ち味は160キロを超える速球とカットボール。
近年は不摂生と衰えによって若い頃の投球ができなくなり、メジャーで通用しなくなった結果、日本でプレーすることになった。
実際キャンプ、オープン戦序盤ではまったく投球にキレがなかったが、春先まで二軍で調整すると見違えるように投球が改善し、全盛期に近いキレを取り戻した。
今年一年はそのキレを持続しており、結果としてあの好成績を残したという。
また若い頃のケントといえば、短気で有名だった。
ちょっと上手くいかないと調子を崩す。
球審の判定に激高し、退場処分を食らう。
今年日本ではそういった場面は見られなかった。
年を重ねて丸くなったのかもしれないが、そう簡単に人は変わるものではない。
できるだけケントの平静を乱し、できるならば怒らせて調子を崩す、というのもチームの方針になった。
試合前の練習中、必死にケントとの対戦をイメージし対策する陽翔の元へ、その張本人であるケントが通訳を伴ってやってきた。
「ハイ! イガラシ!」
「は、はい、ケント……!」
突然しゃべったことのない巨漢な外国人に話しかけられ陽翔はびっくりした。
ケントは2メートル近い体格に、口元から顎にかけてたっぷりのひげを蓄えている。
陽翔は、自分の想像するアメリカ人そのままだと思った。
それでもケントの表情はとても穏やかで、陽翔の警戒心はすぐに薄れた。
ケントはまず握手を求めてきた。
その後、まくしたてるように英語でしゃべっていたが、陽翔はまったく聞き取れなかった。
「このような日本シリーズと言う大舞台で、あなたのような選手と戦えるのは光栄だと言っています」
日本人通訳が訳してくれた言葉に、陽翔は「はあ、こちらこそ」と返した。
ケントは続けて英語で話し、通訳が訳す。
「あなたにオープン戦で打たれたことで、野球の面白さを再認識し、若い頃のようなモチベーションを取り戻ることができた、と言っています」
「はあ、こちらこそ」
陽翔は言ってみて、何が“こちらこそ”なのか自分でもわからなかった。
とにかく、なんて返していいか困って、適当に出た言葉だ。
その後は、ケントからメジャー願望はあるのかと聞かれ、陽翔が“YES”と答えると、アドバイスをくれた。
日本の野球とアメリカの野球の違いや、ケント自身が日本人メジャーリーガーのチームメイトがいた経験から、コミュニケーションのため、ある程度英語は話せた方が良いとか。
なぜ、ケントがこんな親身にアドバイスをくれるのか。
陽翔がケントへ抱いていた横暴なアメリカ人という印象は、崩れていった。
ケントと話した後、栞緑が陽翔の元へやってきて、
「何を話してたんですか?」
「うーん、英会話の重要性について」
「どういうことです?」
「いや、よくわからん」
「ていうか陽翔先輩、いつも誰かが話に来てますね。人気者だ」
栞緑のいつもの調子の“持ち上げ”を無視して、陽翔は言った。
「短気で、ちょっと上手くいかないと調子を崩す。誰の事なんだ?」
栞緑は何のことかわからないように、首を傾げた。
◇◇◇◇
ケントの圧巻の投球により、試合のペースはウォーリアーズで進んだ。
陽翔や三浦、助っ人外国人の中軸以外は、とにかくケントのペースを揺さぶろうとセーフティーバントを試み、ひたすらボールを見る待球作戦を実行した。
しかし、ケントのペースは決して乱れず、持ち前の剛速球と得意のカットボールをストライクゾーンにどんどん投げ込んでくる。
ストライクゾーンを通った球をボールと球審に判定されても、表情を崩さない。
逆にカウボーイズ先発の結木は、毎回のようにランナーを背負った。
ウォーリアーズ打線は、結木の球などいつでも打てるかのように、下位打線も積極的にバットを振ってくる。
毎回のようにヒットを打たれ、ホームランの可能性が高い坂根らにはボールが先行し、四球を連発。
苦しい投球になった。
それでも結木と、カウボーイズ守備陣は得点を許さなかった。
要所にて奪三振を取り、守りもファインプレーを連発した。
気付けば五回まで無失点に抑えた。
先にカウボーイズは継投に入った。
佐山が六回、平山が七回をゼロに抑えた後の裏の攻撃、四番の三浦にホームランが飛び出し、待望の先制点が入った。
しかし八回、木嶋が岡村にホームランを許し、同点に追いつかれる。
九回は両チームの守護神、カウボーイズのアレンビー、ウォーリアーズの西本がゼロに抑える。
日本シリーズ第三戦は、延長に入った。
カウボーイズは守護神のアレンビーが続投した。
しかし先頭バッターにヒットを許し、チャンスを作られる。
そして坂根にタイムリーヒットを打たれ、痛恨の勝ち越し点を奪われる。
アレンビーはその後はゼロに抑えた。
その裏、ウォーリアーズは西本を続投。
先頭バッターの二番パーキンスをあっさりと抑える。
ワンアウト。
三番の陽翔の登場でドームは盛り上がったが、そこでウォーリアーズ森田監督は動いた。
西本から勝利の方程式の一角のサウスポーの山居を投入する。
山居の外へ逃げていくスライダーにタイミングが合わず、陽翔は三振を喫する。
ツーアウト。
陽翔がだめでも四番の三浦がいる、そう言わんばかりに大阪ドームのカウボーイズファンは大声援をあげたが、森田監督はまたしても動く。
西本、山居と並ぶ勝利の方程式、最後の一人であるサンダーソンにスイッチする。
サンダーソンの初球を三浦は叩いた。
打球は高い放物線を描き、ドームの期待を背負ったが、フェンスを越えることなく、センターのグラブに収まった。
スリーアウト、1-2でゲームセット。
カウボーイズは上菅、ケントという二本柱に連敗をし、シリーズの勝敗は1勝2敗となった。
第四戦、舞台は変わらず大阪ドーム。
負けたら王手を掛けられるという試合に、カウボーイズは望むことになる。
◇◇◇◇
612.牛を飼う名無し
敗因:中継ぎの差
620.牛を飼う名無し
延長10回に西本→山居→サンダーソンのリレーはせこすぎるだろ…
こっちはアレンビー続投しかなかったのに
625.牛を飼う名無し
やっぱケントに8回まで投げられたのがね
あの時点できつかった
631.牛を飼う名無し
やっぱり上菅ケントの二本柱は反則やな
640.牛を飼う名無し
>>631
7戦までいけば2人ともあと1回は出てくるよな?
648.牛を飼う名無し
>>640
第7戦までいけるんですかね
このままだと第5戦で終わりそうやが
660.牛を飼う名無し
坂根怖すぎる
670.牛を飼う名無し
坂根も阿田も岡村も怖い
688.牛を飼う名無し
三浦さん地味に3試合連続ホームラン
691.牛を飼う名無し
>>688
日本シリーズMVP確実やな
700.牛を飼う名無し
>>691
(カウボーイズが日本一になれば)
704.牛を飼う名無し
>>691
やっと負傷した靭帯が治ったらしい
710.牛を飼う名無し
>>704
シーズンの最期は負傷したままプレーしてたのか(困惑)
719.牛を飼う名無し
別に打っていないわけじゃないけど五十嵐はこのシリーズ地味やな
725.牛を飼う名無し
五十嵐のための日本シリーズとか言われてたのに
732.牛を飼う名無し
第四戦予告先発
カウボーイズ 川田 8勝4敗 防御率3.52
ウォーリアーズ グリッチ 11勝7敗 防御率3.17
なんともいえんな
739.牛を飼う名無し
まだまだこれからやろ




