53話 日本シリーズ第1戦
“昨日はありがとう!これからもよろしくね”というメッセージと共に、カウボーイズのユニフォームにメガホンを構えた楓の写真。
日本シリーズ開幕まであと数時間、陽翔はロッカールームで楓から送られてきたそれを見ていた。
「なんや、彼女か?」
「うわ、びっくりしたっ……」
急いでスマホの画面を隠して、陽翔は後ろを振り返った。
いつのまにか島岡と栞緑が後ろにいた。
「まあ、ええことや。大事な試合前に気合入れんとな」
「そうなんじゃないですけど……」
「憎きウォーリアーズを倒してやろうや!」
陽翔は何も言わず、栞緑が「おー」と島岡に呼応した。
「なんや、反応悪いなあ」
「憎きとか……関係なく勝ちたいです。このカウボーイズのメンバーとして」
プロ野球はずっと続くけど、二度と同じチームでやることはないと思う。
今年で退任する大黒監督、来年からメジャーに行く三浦と森本など、確実に来年チームにいない人たちは何人もいる。
それに、プロの世界はトレードなど移籍があり、怪我もあるし、成績を落とし一軍にいられないこともある。
今のメンバーが来年も一軍にいるとは限らない。
今年、陽翔にとっては初めて一軍としてシーズンを完走した。
こんな良いチームでプレーできたことはとても幸せだと思う。
だからこそ最後の戦い、この日本シリーズを勝って終わりたい。
外の人たちは陽翔のウォーリアーズ時代の因縁を焚き付けるけど、
「ま、そうやな」
シーズン最終戦にて手を怪我した島岡は、この日本シリーズもベンチに入らない。
しかし本人の意向もあり、練習を手伝いということで、こうしてチームに帯同している。
試合前の練習、東京ドームにていつも通りの調整を行う。
若い選手たちの一部は、いつもより言葉数が少なくいつもより気負っている感じがあったが、そこは島岡や前川のベテランたちが積極的に声を掛け、チームを盛り上げ、良い雰囲気になっていった。
陽翔の調子は悪くなかった。
体のキレはシーズンと変わらない。
あと、一応は慣れ親しんだ東京ドームでプレーできることも、陽翔にとってはプラスになっていると思う。
練習後、陽翔の元にはウォーリアーズ時代のチームメイトや知り合いのスタッフたちが何人か訪れた。
日本シリーズ前ということで長い話はしなかったが、陽翔とドラフト同期入団の元チームメイトとの話は少し感慨深いものがあった。
「久しぶりだな、陽翔」
「あ、内海さん。お久しぶりです」
内海は陽翔がウォーリアーズに育成ドラフト4位で入団した年、ドラフト3位で入団した。
彼は高校卒業後、三年間社会人でプレーしたのちドラフトにかかったため、高卒でプロの世界に飛び込んだ陽翔より3歳年上となる。
二軍でも一緒にプレーした時間は長く、ウォーリアーズ入団後に入った球団寮でもお世話になった。
陽翔にとっては頼れる兄貴分のような存在だった。
「しばらく会わんうちにスターになりやがって。ま、俺らにとっちゃ、同期の出世頭だな」
「いえいえ……内海さんも、結構一軍で投げてたみたいで」
内海は今年、シーズン途中から一軍に定着した。
左のワンポイントリリーフ、ロングリリーフ、時には先発、チームの便利屋としていろんな場面で投げた。
今期は25試合に登板し、今年だけで去年まで通算一軍登板数24試合を超えた。
「俺みたいなのはかろうじて投げてるってだけだ。去年のオフはガチで首になると思ったしな……まあ、一軍に一応居場所があるだけ、俺はマシなんだろう。知っているか、俺らの年のドラフト組で今、今年ずっと一軍にいたのはお前だけだ」
「えっ」
「かろうじて俺が一軍にしがみついているだけ、唯一の成功は他チーム……五年目でこの結果だと、あの年のドラフトは完全なる失敗、ってことなんだろうな」
ドラフト同期たちの顔を思い浮かべてみる。
あの時、田舎の大して強くない高校から入団した陽翔には、同期の面々は雲の上の存在に思えた。
東京六大学三冠王のドラフト1位も、甲子園で活躍後、高校日本代表になりU-18野球ワールドカップでベストナインになったドラフト2位も、今年、一軍で見かけなかった。
同期の中には、首になった者も少なくない。
期待値の低い育成ドラフト組にいたっては、陽翔以外のほとんどが契約を切られ、誰も一軍に出場していない。
「改めて考えると、厳しい世界だよな、プロってのは。そんな中、お前の存在は、俺らにとっちゃ希望ではある。今回は敵だが、ずっと応援してるよ」
「あ、ありがとうございます。内海さんも、頑張ってください。そういえば、聞いたんですけど結婚するんでしょう? おめでとうございます」
「あ、うん。ありがとう。ま、なんとか一軍にはしがみついてみせるよ。対戦するかはわからんが、お互いベストをつくそうな。でも、お手柔らかにな」
「それは無理かもしれないですけど、頑張りましょう」
◇◇◇◇
試合前、最初にグラウンドへ登場したのは、ビジターであるカウボーイズだ。
ベンチ入りメンバーがグラウンドに出た後、スタメンの面々が一人ずつ呼ばれていく。
一番セカンド田中栞緑、二番レフトウィル・パーキンスと順に呼ばれ、東京ドームのレフトスタンド、三塁側内野席を占めるカウボーイファンからの大歓声が起きる。
三番ショート、五十嵐陽翔というアナウンスが流れ、陽翔は三塁側ダグアウトを飛び出した。
ドーム全体から包み込まれるような拍手が起きた。
「歓迎されているみたいですね、先輩」
栞緑が言った。
さっきの拍手はカウボーイズファンだけではなく、ウォーリアーズファンのそれも含まれていた。
ファンたちは、今でも陽翔の存在を悪くは思っていないらしい。
その後、四番の三浦が呼ばれ、最後に先発ピッチャー、森本玲央の名前が呼ばれる。
今度はウォーリアーズの面々が登場していく。
一番の吉村から順にスタメンが呼ばれて行き、最後は先発ピッチャー、21歳の横峯の名が呼ばれる。
その誰もがカウボーイズの面々以上の大歓声を受けていた。
中でも一番の大歓声を浴びていたのは、三番ショート、チームの大黒柱である坂根勇気だった。
日本シリーズということもあり、その後のセレモニーも長かった。
今年を彩った歌手による国歌斉唱があり、最後は日本シリーズのスポンサー企業のCMに出演している女優の始球式があって、ようやく試合の準備が整った。
『プレイボール!』
球審の声で、一番の栞緑が打席に入る。
横峯が高いリリースポイントから第一球を、左腕から投じた。
『ストライクっ!』
力強い宣告。
157キロというバックスクリーンの表示とともに、ドームを埋め尽くすウォーリアーズファンからの歓声が上がった。
二球目は、ドロンと落ちていくドロップカーブに、栞緑は手が出なかった。
ストライクと、球審は右腕を上げる。
三球目はフォークボールにバットが空を切り、三球三振となった。
ドームのウォーリアーズファンは横峯へ喝采を送る。
栞緑は項垂れるようにダグアウトへ戻ってくる。
二番のパーキンスも150キロ後半のストレートに対しバットに当てるのが精いっぱいで、簡単に追い込まれる。
またも、最後はフォークだった。
パーキンスのバットは簡単に空を切り、二者連続の三振となる。
横峯は左腕で拳を握り、軽くガッツポーズをした。
気合は入っているが、気負っているわけではない。
自身の投球ができれば、決して打たれることはないだろう、という自信が投球に満ちている。
森田監督が横峯を日本シリーズ第一戦に持ってきたのは、決して相手の絶対的エース森本玲央相手に捨て試合を作ったわけではなく、勝つための選択肢だったということを、自らの左腕で証明しようとしている気がした。
陽翔は、なるほど、と心の中で呟いた。
映像を見る以上に、生で見ると林崎二世と呼ばれる所以がわかる。
背丈、投球スタイル、それに投げっぷりもそっくりだ。
今は21歳、順調にいけばとんでもない投手になる。
『三番ショート、五十嵐陽翔』
名前を呼ばれ、陽翔はネクストバッターズサークルから左バッターボックスに足を踏み入れる。
さすがにウォーリアーズファンからの拍手はもう無かったが、代わりにカウボーイズファンからの溢れんばかりの歓声が届いた。
バッターボックスで足場を整えていると、相手キャッチャーの阿田に声を掛けられた。
「よう、久しぶりだな、元気にしてたか?」
「ぼちぼちです」
「そういえば、監督の娘とはどうなんだ?」
阿田の口元に浮かんだニヤニヤを見て、陽翔はこの人は元チームメイトとの再会を喜んでいるのではなく、煽って相手のペースを乱そうとしているのだとわかった。
いわゆる“ささやき戦術”。
キャッチャーがバッターに話しかけて、調子を崩そうとする技術だ。
「それいじっている人、もういませんよ」
「お前が望むならウォーリアーズに帰ってきていいんだぞ」
「あまり興味ないです」
陽翔は阿田との戦闘モードを切り替え、マウンドの横峯に対する。
横峯はバッターのことを喰ってやろうと言わんばかりに、激しい目つきで陽翔を見つめる。
陽翔はにらみ合いをすることなく、視線を逸らす。
冷静に。
第一球は、陽翔の体近くを通るストレートだった。
陽翔は仰け反り、投球を避ける。
危険な投球に、カウボーイズファンからブーイングが上がった。
横峯はマウンドで仁王立ちをし、ブーイングを意に介す様子がなかった。
「おいおい、力むな力むな。すまんな陽翔」
阿田はそう言いながら、表向きは謝っているが、本心ではないことは口元から丸わかりだった。
実際のところ、今の投球は阿田の指示かもしれないし、もしかしたら森田監督の指示かもしれない。
まあ、どうでもいいかと陽翔は思った。
実際には当たってないし、恐怖心で次以降の球に踏み込めないとかもない。
ただ、ボール球が一個増えただけ。
あれぐらいなら、全然避けられるし、危険な球の範疇に入らない。
二球目の球は外角低めへのストレートだった。
もし一球目の球に恐怖心を持ったなら強く踏み込めず、絶対に打てない球。
陽翔は強く踏み込んで、バットにボールの乗せ、角度をつけて打ち上げた。
打球はレフトスタンドを超え、カウボーイズファンの待つ外野席へ飛び込んだ。
陽翔のホームランで、まず一点先制。
マウンドの横峯は呆然の打球の消えていったレフトスタンドへ
本塁へ還ってきた陽翔は、阿田へ言った。
「いいシリーズにしましょう、阿田さん」
「お前、調子に乗ってんなあ」
そう言った阿田の口元は笑っていたが、目は笑っていなかった。
◇◇◇◇
試合は一方的な展開となった。
二回以降制球の定まらなくなった横峯を、カウボーイズ打線は逃さなかった。
二回に1点、三回には三浦にスリーランホームランが飛び出す。
三回途中5失点で、横峯をマウンドから降ろした。
陽翔と内海の対決は、六回に訪れた。
点差がつき、相手はエースの森本玲央という状況に、森田監督はこの試合を捨てたか、明らかに力の劣る中継ぎを投入し始めた。
内海は五回から投入され、六回は二イニング目となる。
ランナーが二塁、三塁にいる状況で、陽翔は対峙した。
ウォーリアーズ時代の紅白戦以来の同期対決となったが、陽翔がセンター前ヒットを放ち、ランナー二人が還った。
敗戦処理の内海は点を取られたものの続投し、それ以上点を取られなかった。
カウボーイズ先発の森本はいつも通りの快投を見せた。
坂根、阿田、岡村といった強打者たちにヒットを許さず、七回までに3安打11奪三振と、ウォーリアーズ打線に付け入る隙を与えない。
試合は八回表までに8-0とカウボーイズの大量リード。
ウォーリアーズの勝利を期待していただろう東京ドームのファンたちは意気消沈し、初回よりも明らかに熱量が下がっていた。
それでも八回裏、ランナー二人の状況で三番の坂根がホームランを放った時は、ドームが今日最高の盛り上がりを見せた。
この坂根のスリーランホームランは、ウォーリアーズからしてみれば最後に一矢報いて、明日以降に繋がるホームランになる。
それも、今日無安打で眠らせたままにしておきたかった坂根に飛び出したことも、二試合目以降に向けて嫌な感じがした。
8-3となった九回表、ツーアウトから一番の栞緑と二番のパーキンスが塁に出て、三番の陽翔の打席を迎える。
陽翔は右中間へのツーベースヒットを放ち、栞緑とパーキンスが本塁へ還る。
二点を追加し、点差は7点となった。
「調子良さそうだな」
相手ショート、坂根が陽翔に話しかけてくる。
陽翔は「まあまあです」と答えた。
「勇気さんこそ、調子良さそうですね。いい試合に――」
「今更だが、お前に言わないといけないことがある」
陽翔の言葉を遮った坂根は、続けて
「お前が監督に干されたの、実は俺のせいなんだ」
「は……?」
プレイがかかり、会話はそこで終わった。
三浦のタイムリーヒットで、カウボーイズはさらに一点を加え、11-3。
試合はそのまま終わり、日本シリーズ第一戦はカウボーイズの大勝となった。
◇◇◇◇
654.牛を飼う名無し
五十嵐と三浦にホームラン
森本好投で投手温存
100点の初戦やな
661.牛を飼う名無し
強すぎて草
負ける気せーへん
682.牛を飼う名無し
>>661
それはフラグなんだよなあ
691.牛を飼う名無し
坂根に打たれたのがね
あいつは最後まで眠らせておきたかった
701.牛を飼う名無し
森田からしてみれば予想通りやないか
横峯を先発にして勝ったら儲けもので負けてもまあいいやって感じやろ
712.牛を飼う名無し
明日以降がきついよなあ
上菅とケントが続くもんなあ
734.牛を飼う名無し
山上に期待するしかないやろ
755.牛を飼う名無し
山上対上菅か
勝ったら日本一確率90%はいくやろうな
761.牛を飼う名無し
五十嵐ウォーリアーズファンに拍手されてたやん
771.牛を飼う名無し
ウォーリアーズファンって五十嵐のことどう思っとるんやろうな
788.牛を飼う名無し
>>771
知り合いのウォーリアーズファンに聞いたけど
うちじゃ活躍できなかっただろうし
応援してるだってさ
795.牛を飼う名無し
フロントがアホだと思ってるだけで五十嵐のことは嫌ったりはせんやろ
812.牛を飼う名無し
ワイらも宮本を暖かく迎え入れてやらなあかんやん
829.牛を飼う名無し
>>812
宮本には感謝しかないやろ
あいつのFAのおかげで五十嵐獲得チケットを得られたわけやろ
839.牛を飼う名無し
>>829
トレードじゃなかったけ(すっとぼけ)
852.牛を飼う名無し
>>839
トレードとしても詐欺トレードなんだよなあ
873.牛を飼う名無し
試合中ずっと泣きそうだった
ホンマにカウボーイズの日本シリーズ出てるんやなって
もう満足やし死んでもいい
894.牛を飼う名無し
>>873
なんでや日本一まで見届けようや
906.牛を飼う名無し
カウボーイズの日本シリーズ出場が見られるだけで満足だと思ってたけど
やっぱ日本一が見たいわ




