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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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48/53

48話 10.4④

 一点が重くのしかかる展開。

 次の一点がそのまま優勝を決める決勝点になりかねない緊迫した展開のまま、試合は終盤戦、七回へと入っていく。

 試合の序盤はどこかお祭り騒ぎな雰囲気も感じられた大阪ドームも、徐々に緊迫感だけが支配する空間へと変わっていく。

 プレーひとつごとに歓声とため息が生まれ、荘厳そうごんな雰囲気さえ感じられる。


 戦前の予想では接戦となればシーホークス有利だという声が多かった。

 中継ぎ陣の潤沢さ、というのが理由の一つだ。


 モカイロ、サファットという左右のリーグ最強リリーバーに加え、今日は右のエース、千堂孝宏が中四日で中継ぎ待機している。

 勝っている形で終盤に入れば、まずシーホークス有利だろうというのが解説者のもっぱらの声だった。


 二つ目の理由として挙げられたのが、経験値の差、だ。

 シーホークスの選手たちはここ毎年、優勝争い、その先のクライマックスシリーズや日本シリーズを経験している。

 さらにシーホークスの主力選手は、日本代表として世界と負けられない短期決戦を戦ったものも多い。


 対してカウボーイズは、去年ひさしぶりのクライマックスシリーズ出場争いをしただけで、毎年のように下位に沈んでいた。

 森本と三浦の日本代表常連を除いて、負ければ終わりという重圧のかかった試合を経験した選手がいないのだ。


 七回表、カウボーイズのマウンドには森本が上がり続ける。

 現在の球数は85で、まだまだ投げられるし、できれば最後まで行ってくれというのがカウボーイズ首脳陣の本音だろうと思う。


 先頭バッターは平凡なサードゴロだったが、これを前川サードがファンブルし、エラーが記録された。

 守備に定評のある前川であれば、問題なく捌けるゴロであっただろうに、優勝争いの極限な場面であるが故のミスなのかもしれない。


 シーホークスは手堅く送りバントでランナーを二塁へ送る。

 ワンアウト二塁で迎えるのは八番、九番という下位のバッターだが、シーホークスベンチはここで動く。


 八番の東口へ代打、長迫ながさこを送る。

 彼が首位打者を取ったのは数年前、正確無比のバットコントロールによってヒットを量産し、カウボーイズ三浦の三冠王を阻止した。


 守備走塁の劣化によりスタメンを張ることはなくなったが、それでもDHやここぞという場面での代打として存在感を示している。

 打撃に関しては今なお職人芸を維持しており、代打での打率は両リーグトップの3割8分1厘を誇る。


 長迫と森本の勝負は長丁場となった。

 どこへ投げても、どの変化球でも長迫はついてきて、球数がかさんでいった。

 十球目に森本がストレートで見逃し三振にとり、嫌なバッターに根勝ちした。


 九番の嘉山もどこか打つ気はないというバッティングだった。

 バットを短く持ち、とにかく当てることに注力したような感じだ。

 森本に球数を投げさせ、早く降ろすこと、あわよくばフォアボールで出塁し、上位打線に繋げようという思惑が、如実に出ていた。


 嘉山の思惑は半分成功して、半分失敗した。

 どんなにファウルで逃げられようと森本はストライクを続け、最後は低めのストレートをバットに触れさせなかった。

 ワンアウト二塁から二人を連続三振に切って取り、森本はピンチを逃れる。


 それでも長迫と嘉山の二人は合わせて19球、森本に投げさせた。

 森本の球数は総じて110球になった。


 ◇◇◇◇


 七回の裏、カウボーイズの攻撃は五番のパーキンスからだった。

 マウンドには変わらず、林崎。

 投球数が90球を超えてきた林崎だったが、球威はなおも健在で、カウボーイズ打線を見事に三人で打ち取る。

 この回は2個の三振を取り、今日の試合の奪三振数は14を数える。


 八回表、カウボーイズのマウンドには森本が立つ。

 この回もランナーを出しながらも、ゼロに抑え、打線の反撃を待った。


 八回裏、先にマウンドを降りたのは林崎だった。

 左のリリーフエース、モカイロにマウンドを譲る。

 モカイロはカウボーイズ打線に対し、ひとり四球でランナーを出したものの、打たれる気配はなくゼロに抑える。 


 九回表、カウボーイズのマウンドには依然、森本が立った。

 継投へと移ったシーホークスとは対照的な光景に、信頼できる投手の少なさを感じざるを得ないが、これは森本への信頼の証だとも思う。

 球数が130球を超えようが、カウボーイズ中継ぎ陣の誰よりも九回を抑える可能性が高いと、首脳陣は森本に託している。


 初回から全力投球で疲労も溜まっているだろうに、ここへきて最高の投球を森本は見せる。

 シーホークス打線を三者三振に切って取り、少なくとも9回まででのカウボーイズの負けは消えた。


 森本が吠え、ドームのボルテージは今日最高潮に達した

 重々しくもあったドームの雰囲気を壊し、再び試合序盤のような熱量が戻ってきた。


 陽翔の今日4回目の打席は、大声援とともに始まった。

 マウンドには前の回から変わらずモカイロが上がり、淡々と自身の投球術を駆使する。


 今季最も左バッターの被打率が低いリリーフピッチャーであるモカイロは、カーブとチェンジアップ、高速カットボールのコンビネーションを得意とする。

 陽翔もなんとか投球についていき、十球粘ったが、最後は外角低めのストレートにバットが出ず見逃し三振になった。


 四番の三浦もセンターフライ、五番のパーキンスは三振に終わり、この回もスコアボードにゼロが記録される。

 優勝決定戦は、延長戦へと突入した。


 十回表、ついに森本がカウボーイズのマウンドを降りる。

 本人は続投を志願したみたいだが、監督コーチ選手が総出で止めた。


 代わってマウンドに上がったのはクローザーのコディ・アレンビーだ。

 アレンビーは投球練習の時から気合十分で、160キロ越えのストレートを連発していた。


 九番の嘉山にも、ストレートでどんどん押していこうとした。

 しかし、ストライクが入らない。

 余りある気合が空回りしたか、一球もストライクゾーンを通らず、4球でフォアボールを与える。

 ドームがざわめいた。


 続く一番の本田への初球、とりあえず直球がストライクとなった。

 初球にてストライクが入ることを確認したシーホークスベンチは、本田に送りバントを命じる。

 二球目、サード前へと見事に転がし、ランナーを二塁に進める。

 本田自身も一塁セーフになりかけたが、それは前川サードが許さなかった。


 ワンアウト二塁。

 得点圏にランナーがいる状態で二番の川端、そして三番の柳沢を迎える。


 川端に対しては完全に球威で勝った。

 二球目のストレートを完全に詰まらせ、サードゴロに打ち取る。

 二塁ランナーの嘉山は動けなかった。


 三番の柳沢――シーホークスにおいて最も期待できるバッターが打席に立った時、レフトスタンドも今日一番の声援を上げた。

 しかし、その声援を360°から押しつぶすよう、カウボーイズファンも大歓声でアレンビーを後押しする。


 柳沢はアレンビーのストレートを芯でとらえたが、打球に角度はつかなかった。

 栞緑セカンドの真正面を突くセカンドライナーで、打球はグラブに収まる。

 スリーアウトでピンチを脱し、ドーム内は歓声よりか溜まった息を吐くような、安堵のリアクションの方が多かった。


 十回裏、シーホークスのマウンドには立ったのは、絶対的抑え、エリック・サファットだった。

 パリーグの3年連続セーブ王を確実としている2メートルを超える長身右腕は、この一点でも取られればサヨナラかつ優勝を逃す場面で、落ち着いた投球を見せる。

 角度あるストレートをテンポよくストライクゾーンに投げ込み、カウボーイズ打線に付け入る隙を与えない。

 簡単に三人で打ち取る。

 十回の攻防でも決着はつかず、試合は十一回へと移っていく。


 試合は十二回まで。

 現在2位のカウボーイズにとって勝利は必須条件で、あと二回の攻撃で点を取れなければ負けだ。

 逆に1位のシーホークスにとっては、あと二回抑えれば引き分けでも優勝が決まる。

 試合としては五分五分であっても、優勝という意味では、シーホークスの有利といっていい。


 十一回表、カウボーイズ首脳陣はこの回もアレンビーに託す。

 そのアレンビーは、十八番おはこのチェンジアップをシーホークス打線に狙い打たれた。


 四番の松山、五番のデルパイネに連続でシングルヒットを打たれる。

 六番のデヴィット・ライヤ―からは三振を奪ったものの、七番の下川には四球を与え、ワンアウト満塁になった。


 一度投手コーチがマウンドに来て、間を取る。

 アレンビーと一声交わし、ダグアウトに戻っていく。

 ドーム内に、拍手と声援が自然発生する。

 アレンビーを鼓舞する。


 ここで、シーホークスは代打を送る。

 先ほど代打を出された東口に代わりライトに入っていた野々村へ、さらに代打を送る。

 “代打、中岡明人”がコールされ、シーホークスファンの期待に満ちた声が湧きだす。


 数年前には最多安打を獲得し、日本代表にも選ばれたことのある中岡がまだ(・・)残っているのは、シーホークスの層の厚さをはっきりと示している。


 中岡はアレンビーの初球のストレートを叩いた、

 無情にも打球はライトに抜けていき、三塁ランナーがホームに還る。

 二塁ランナーは三塁にストップした。


 均衡が壊れ、どこかから悲鳴染みた声が聞こえた。

 ここでカウボーイズはアレンビーを諦め、平山をマウンドへ。


 一点を勝ち越され、なおもワンアウト満塁という状況。

 この絶体絶命の局面でも、ベテラン平山は果敢に九番の嘉山に対しストライクを続ける。


 二球で追い込み、一球フォークが低めに外れた後の四球目だった。

 嘉山は外角のストレートを打ち上げ、外野まで運んだ。

 犠牲フライには十分な距離で、三塁ランナーのデルパイネの代走で出ていた岡田がホームに還り、シーホークスに四点目が入った。


 大きすぎる四点目に、三塁側ダグアウトのシーホークス選手たちとレフトスタンドのシーホークスファンはお祭り騒ぎだった。

 でも、大阪ドームの大半を占めるカウボーイズファンたちは口を閉ざし、この空間では、静寂の方が勝っている。

 そのせいでお祭りはどこかむなしさを感じるような、局所的な盛り上がりだった。


 カウボーイズの選手たちにとっても、延長十一回にもきて二点を勝ち越しされるのは、ダメージが大きいのだろう。

 点を取られた後、10秒ぐらいは口を閉ざし、シーホークスの歓喜を見つめていた。


 でも、カウボーイズの選手たちは我に返り、再び声を上げ始める。

 島岡を中心に“まだ”“これから”と口々に言う。


 平山は続投する。

 シーホークスは今日五回目の打席の本田が入る。

 初球、高々とセンターへフライが上がる。


 陽翔センターは下がっていく。

 あまり長打パワーのない本田だから、守備位置を前にしていた。

 ボールを追うのに夢中で、フェンスのことなど頭になかった。

 打球が落ちるであろう場所まで最短で走り、最後は腕を伸ばし、跳躍した。

 グラブがボールに収まり、体はフェンスにぶつかった。

 強い衝撃を受けたが、掴んだボールを離さない。


 ちょっと頭がふらついたが、審判にグラブの中のボールをアピールした。

 審判のアウトを宣告するジェスチャーが見えた。

 “アウト”という声は湧き上がった大声援にかき消され、聞こえなかった。


 一瞬ふらふらして立ち上がれなかった。

 でも平衡感覚を取り戻し、レフトのパーキンスに抱えられながら立ち上がり、一塁側のダグアウトに戻る。

 陽翔が立ち上がった時、もう一回拍手と声援がドームを包んだ。


 試合は十一回裏、シーホークスの二点リードで最後の攻防に移る。

 打順は、九番の坂本から。

 一人出れば、三番の陽翔に回る。


 ◇◇◇◇


 712.牛を飼う名無し


 終わった


 734.牛を飼う名無し


 サファットに千堂も残ってるのに

 2点は無理やろ…


 749.牛を飼う名無し


 良い夢見れたよ


 761.牛を飼う名無し


 大方の予想通りやったな

 中継ぎ勝負なら負けるって


 782.牛を飼う名無し


 森本が可哀想


 791.牛を飼う名無し


 >>782

 森本の日本でのシーズン最後の140球が報われないなんて


 800.牛を飼う名無し


 あ


 812.牛を飼う名無し


 うおおおおおおおおおおおおお


 822.牛を飼う名無し


 スーパープレー!


 838.牛を飼う名無し


 きたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 847.牛を飼う名無し


 大丈夫か!?


 861.牛を飼う名無し


 あかん


 889.牛を飼う名無し


 立ってお願い


 902.牛を飼う名無し


 良かった


 931.牛を飼う名無し


 このまま負けてもこんな試合見れて満足やわ


 953.牛を飼う名無し


 泣けてきた(数時間ぶり2度目)


 971.牛を飼う名無し


 前進してたよな?

 なんであれ追いつくねん…


  981.牛を飼う名無し


 陽翔まで回ればいける


 977.牛を飼う名無し


 島岡と田中出てクレメンス


 1000.牛を飼う名無し


 まだいける

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