47話 10.4③
四回裏に飛び出した三浦の特大の一発は、陽翔にとっては本塁打王争いで再び並ばれたことになったが、カウボーイズの一員としてはかなり大きな一発であったように思う。
森本と林崎、両チームの先発が快投を続ける中、試合は緊迫し、膠着しかけていた。
その中で飛び出した主砲の一発は、カウボーイズ二十年ぶりの優勝へ向け、チームを勢いづかせるものになる。
陽翔ももちろん、チームメイトも、首脳陣もファンも、誰もがそう思ったはず。
五回表のマウンドにももちろん、森本玲央が上がる。
先頭の五番、ホルヘ・デルパイネは森本のカーブを叩き、レフト前に運んだ。
続く六番のデヴィット・ライヤ―は森本の投球に一度もバットをスイングさせてもらえなかった。
二球ストライクの後、一球ボールを挟んで、最後は外角低めへストレートが突き刺さった。
球審の右腕が高らかに突きあがる。
まずワンアウト、森本はバックへ向けて人差し指を一本立てる。
七番の下川佑馬は気合十分で、全球フルスイングをしてきた。
しかれども、まったくバットに当たらず、カーブ、ストレート、スプリットと多彩な投球で下川を翻弄する。
二者連続三振で、ツーアウト。
八番の東口は初球、セーフティーバントを狙う。
森本の豪速球はバントすら許さず、打球は真後ろへと飛んでいくファウルになる。
二球目はカットボールに手が出ない。
三球目は高めのストレートを打ちにいき、完全に打球は死ぬ。
ショートゴロでスリーアウトになる。
一人目こそヒットを許したが、その後は危なげない投球だった。
ここまでの森本は五回にして奪三振9で、柳沢にホームランを許した以外は、ケチをつける人間が気狂い扱いされるほどの快投だ。
攻守入れ替わり、五回裏のマウンドには林崎が上がる。
先頭の六番マイク・ハーパーに四球を与えたものの、七、八、九番と順当に抑え、こちらもゼロで攻撃を終えた。
林崎は五回までで奪三振は9と、森本に劣らない好投だ。
六回表、森本に対しシーホークス九番の嘉山はバットを短く持ち、粘りに粘った。
オールスター、日本代表の常連でもある嘉山は、森本の投球をキャッチャーとして何度も受けた経験がある。
そのせいか、森本の投球にもしっかりと付いていっていた。
八球粘った末に、森本が根負けし、フォアボールとなる。
五回に続いて、先頭バッターが塁に出る。
先ほどと違うのは、ノーアウト一塁で迎えるのは、シーホークスの誇る上位打線ということだ。
一番の本田はセーフティーバント気味の送りバントで、嘉山を二塁に送る。
自身はアウトになったが、ワンアウト二塁、シーホークスにとっては同点のチャンスを迎える。
二番の川端は初球を叩き、弱い当たりのセカンドゴロになった。
ランナーの嘉山は次の塁へ。
局面はツーアウト三塁。
打席に向かう柳沢に、今まで鳴りを潜めていたレフトスタンドから、シーホークスファンの大声援が送られる。
先制のホームランを放っている打者相手に、さすがの森本も慎重に投球を進めた。
初球、二球目はボールだった。
ここはあと二つボールを重ねて柳沢を歩かせるかと思ったが、三球目に158キロのストレート、四球目に159キロのストレートを連続で投じた。
柳沢のバットは二度空転し、カウントをツーストライクツーボールの平行カウントに戻した。
五球目は空振りを取りに行ったスプリットだった。
ストライクゾーンからボールゾーンへ落ちる、145キロの速度を持った完璧な球で、柳沢を仕留めにかかる。
柳沢はそれを掬った、拾った。
陽翔の前へと綺麗に落ちるセンター前ヒットで、バットの当たる瞬間にスターを切っていた嘉山は、陽翔のバックホームより早く本塁を陥れた。
森本は苦笑いである。
今の球を打たれたらしょうがないとも言いだけな表情だった。
おそらくカウボーイズの選手も、ファンも、誰一人として森本を責めないだろう。
これで試合は振り出しに戻る。
森本は四番の松山にもヒットを打たれたが、五番のデルパイネを抑え、この回を最少失点に食い止める。
◇◇◇◇
六回裏のカウボーイズの攻撃は、一番の島岡からだ。
シーホークスは先発の林崎が登り続けて、これから陽翔たちとは今日三回目の対決となる。
同点に追いつかれた直後の、一番からの攻撃。
言うまでもなくカウボーイズにとっては得点が欲しい回だし、シーホークスにとっては抑えて勢いに乗りたい。
試合の大きなターニングポイントになりそうなのが、陽翔と三浦の打席になる。
今日林崎が打たれたヒットは、二人のホームランだけで、他のバッターには打たれる気配がない。
普通は、先発投手が投球回を重ね、バッターとの対決が増えるほど、バッターへ有利は働く。
ピッチャーは疲労するし、バッターは目が慣れる。
でも、林崎にとっては一般論など通用しなかった。
一番の島岡と二番の栞緑をあっさりと打ち取り、ツーアウトになった。
『三番、センターフィールダー、いがらしーはるとー!』
さっきの柳沢へのシーホークスファンの歓声より、何倍も重厚な歓声が、全方位から上がる。
左打席に立ち、バッターボックスの土を足で均しながら、この打席がこの試合最後の林崎との対決だろうと陽翔は思った。
構え、対峙すると、視線が交差した。
二メートル以上のあいつがマウンドに登ると、かなり見下ろされる形になって、混じりっ気のない対抗心と負けん気を感じた。
互いのピッチングとバッティングが相対する体勢が整い、初球、陽翔のバットは出ない。
球審のストライクコールが響く。
161キロとバックスクリーンに喧伝され、シーホークスファンももちろん、カウボーイズファンも唸った。
二球目、スプリットがストレートと同じ軌道から、急速に軌道を変え、キャッチャーの手前でワンバウンドした。
これには反応しない。
ボールが宣告され、ワンストライク、ワンボール。
三球目、外角低めへのスライダーだった。
陽翔から外へと逃げていく球を、バットの芯で辛うじて拾った。
角度は良かった。
レフトへとフライが上がる。
平凡なフライを確信したファンたちの落胆の声が、徐々にどよめきのような驚嘆の声へと変わる。
スタンドに達した瞬間は歓声が上がったものの、審判の判断が決した瞬間、それは落胆へと移った。
「ファウル! ファルル!」
白球はレフトにそびえる黄色のポール――フェアとファウルの基準の内を通ったか、外を通ったか、巻いたか、巻かなかったか、微妙な判定となったが、審判は“ファウル”を宣告した。
その後審判たちが一か所に集まり、協議を始めた。
そしてビデオ判定になる。
ホームランかファウルか、勝ち越しか同点のままか、陽翔と林崎、カウボーイズとシーホークスにとっては天国か地獄か、勝敗の分水嶺となるジャッジは、再度、検証をされることになった。
陽翔は軽くスイングをしながら、判定を待った。
同様に林崎も軽く投球を行っていた。
その表情からは、やがて告げられる判定を確信しているかのような、余裕を感じられた。
数分後、審判団が出てくる。
マイクを持った審判は場内へ、判定は当初のものと同じ、ファウルであると告げる。
再びドームを落胆が支配した。
いいところに投げられた……もう少しだけ内側に来ていたら、フェアに入れられたのに。
ツーストライクワンボールからの仕切り直しの四球目、高めへのストレートだった。
陽翔のスイングは投球の勢いに負け、ファウルになった。
五球目は低めへのスプリットで、陽翔はこれを見逃す。
判定はボール。
六球目、七球目、八球目と、林崎は多彩な変化球を駆使して、空振りを取りに来た。
陽翔のバットは白球を完全には捕まえられなかったが、それでもキャッチャーのミットへ素通りはさせない。
全部バットに当て、ファウルになる。
投球の度、どんどんあいつの球の速度、キレが増していくような気がした。
同時に、自分の反応速度、スイングスピードも上がっていく感じもする。
マウンドのあいつと目があったとき、笑みを浮かべた気がした。
ああ、やっぱり、楽しい。
昔はあいつと勝負しているだけで楽しくて、今でも、その感覚に浸れることに気づいた。
でも、ちょっと違う。
ただ楽しかっただけの昔と違って、今はあいつと勝負することで、自分がどんどん研ぎ澄まされていくのがわかる。
たぶんあいつは昔からそうだったのだと思う。
楽しい野球をしたかった自分と違って、あいつはもっと上手くなりたくて、いつも勝負をしていたのだろうと思う。
九球目はカットボールがボールとなり、ツーストライクスリーボール、カウントが埋まる。
十球目、内角低めへと精密にコントロールされた豪速球を、陽翔は腕を畳み、体の回転によって、ライトへと運んだ。
快音だった。
完全にスタンドへと着弾するかと思い、走り出すのが遅れた。
打球に強烈なドライブがかかっていたのか、ボールはフェンスに直接当たった。
東口が上手くクッションボール――フェンスから跳ね返ってきたボールを処理し、すばやく二塁に送球した。
打球が早すぎたせいもあり、陽翔は一塁で止まらざるを得なかった。
ホームランの打ち直しになるかと思ったのに、実際はシングルヒットに終わった。
あとは後のバッターに掛けるしかない。
打たれた林崎はというと、どこか悟った表情で、次の三浦を見据えていた。
陽翔を三振に切って取りながら、三浦に本塁打を打たれた先ほどと同じ轍を踏まない、といったところか。
三浦への初球、陽翔は一目散に二塁へ駆ける。
バッターへ最大限の注意を払っていた相手バッテリーの隙をかいくぐり、悠々と二塁を陥れた。
おそらくこの緊迫の場面では誰も気にしていなかっただろうが、これによって今期の陽翔の盗塁数は40に達した。
本塁打40本と盗塁数40を同時に記録するプロ野球史上初の快挙、40-40の達成となった。
ツーアウト二塁、勝ち越しのチャンス。
先ほどホームランを打たれた三浦相手に、林崎はストレートで押した。
最後はスプリットで空振り三振を奪った。
大きなガッツポーズを取り、林崎は三塁ダグアウトに帰る。
2-2のまま、試合は七回へと移っていく。
今シーズンの最終戦、パリーグの優勝を決める10.4は、一点の重い緊迫した展開のまま、終盤戦が始まる。
◇◇◇◇
415.牛を飼う名無し
どうやって打つんだよこの化け物……
と思ったら2点取ってたわ
431.牛を飼う名無し
投げるのも打つのも化け物やん…
449.牛を飼う名無し
2点取れてて良かったとしか
451.牛を飼う名無し
こうなってくると中継ぎ強いシーホークス有利なんだよなあ
千堂も投げれるし
460.牛を飼う名無し
森本現在85球どこまでいけるか
471.牛を飼う名無し
>>460
最後まで投げろ
中継ぎ勝負じゃ勝てん
472.牛を飼う名無し
しれっと五十嵐40-40達成してる
491.牛を飼う名無し
他に見どころ多すぎて40-40がついで扱いされるのは草
500.牛を飼う名無し
>>491
五十嵐ならこれから毎年やりそうやししゃーない
504.牛を飼う名無し
勝てば優勝のシーズン最終戦
五十嵐と三浦の三冠王争い
森本VS林崎
面白しろすぎる
512.牛を飼う名無し
面白いけど心臓に悪すぎるわ
527.牛を飼う名無し
これプロ野球史上最高の試合やろ




