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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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46話 10.4②

 陽翔にホームランを打たれた瞬間、林崎真は自身の心が激しく動揺したのを感じた。

 瞬間的にグラブを叩きつけたが、すぐに自分を取り戻した。

 ある意味では、グラブに怒りをぶつけることは、冷静さを取り戻すためのルーティンだった。


『四番、ファーストベースマン、みうらーたけなり!』


 三浦の登場によって大歓声がドームを満たすが、それらはほとんど自分を敵とみなしたものだ。

 真は過去にこれと同じような歓声――ヒールへと浴びせられる声を、試合会場全体から受けたことがある。


 真は高校時代、名門大阪樟蔭のエースとして活躍した。

 春夏連覇がかかった高校三年の夏の甲子園、決勝の相手は秋田県代表の公立高校だった。

 私立の名門校を相手に奇跡的な勝利を繰り返し、ついに決勝まで勝ち上がったその高校は、日本中の注目を集めた。


 決勝の日、さしずめラスボスである常勝の名門校に挑む主人公校のような構図に、マスコミが煽りに煽り、甲子園全体が真たち大阪樟蔭ではなく、相手を応援していた。


 そんなアウェーの中でも、真は完璧な投球を見せた。

 相手にたったの三安打しか許さずの完封勝利。

 打線も二桁得点を奪う快勝で、奇跡・・を目撃に来た甲子園の観客たちに現実を見せつけ、表情を失わせた。


 気持ちよかった。

 だんだんと相手への声援が萎んでいくあの感覚。

 今日の優勝がかかるビジター戦も、同じ感覚を味わってやろうと思った。

 なのに、よりによって、あいつ(・・・)に打たれるなんて。


 陽翔に打たれた後、対峙するのはカウボーイズの四番、三浦豪成だ。

 真の三球目のストレートを、三浦は打ちにいった。

 結構な飛距離の出たライトへの大飛球で、連続ホームランを期待する観客の期待が高まったのがわかったが、真は、自身の球威で日本最強バッターを詰まらせたのがわかった。


 予想通り、フェンス手前でライトがボールを掴む。

 真はダグアウトに戻り、グラブを椅子に叩きつけた。


 ◇◇◇◇


 中学生のころ、真が陽翔へと抱えていた感情は“嫉妬”に他ならない。

 体格にも恵まれず、決して野球を極めようという意志も感じられない。

 なのに、真を相手にしても劣らない野球の才能を、いや、上回る才能を持っている。

 よく真が投手で、陽翔がバッターで勝負した時、陽翔に打たれることの方が多かった。


 今でこそ、陽翔の才能を日本中が認めている。

 でも、世界で最も早く彼の才能に気づいたのは、自分だと真は自負している。

 真は陽翔に嫉妬していたし、彼に負けたくないという意識があったからこそ、自分の才能を磨くことができたと思う。


 だからこそ中学三年生の時、陽翔の決断は腹立たしかった。

 県外の名門校に入らず、地元での仲良し野球を選んだ陽翔に怒りを覚えた。

 島根の高校野球のレベルは決して高いとはいえず、競争力もない。

 陽翔の進んだ公立高校には、まともな指導者もいない。

 真は、陽翔に強豪校で才能を磨き、これからも切磋琢磨し合える存在でいて欲しかった。


 名門校で進学した真と地元に残った陽翔で、袂は分かれた。

 高校時代、真は陽翔のことなど一ミリも思い出さず、野球だけに集中し、高校生らしいことなど1ミリもしなかった。


 全てを野球に捧げた結果、甲子園春夏連覇を果たし、その年のドラフトで福岡シーホークスにドラフト一位で入団した。

 人生の絶頂ともいえるドラフトの日、一位指名を受けた夜、マスコミの取材、チームメイトの祝福など、慌ただしいながらも幸せな時間を過ごしていた最中、衝撃のニュースを聞いた。


 陽翔が、育成ドラフトで東京ウォーリアーズに指名されたことで、真の幸福な夜は、一瞬にして様相が変わった。

 感情をかき乱されているのがわかった。


 かつて自分が否定した存在が、同じ舞台に上がってきた。

 おそらく陽翔本人は、プロになる気で高校時代を過ごしていなかっただろうに、またも真と同じ舞台へと上がってくる彼に、数年ぶりに嫉妬を覚えた。

 プロの世界に飛び込んだ元チームメイトに対し、祝福する気にはなれなかった。


 とはいえ育成ドラフトの指名だ。

 特になにもなければ、陽翔は数年で首になる。

 ドラフト一位でプロの世界に入った自分とは、立場が違う。


 プロ一、二年目、真が順調に一軍でのキャリアを積む中、陽翔はそれなりにプロに順応しているようだった。

 三年目、真がシーホークスのエースと呼ばれるようになったころ、陽翔も一軍帯同を果たし、代走、守備固め要因ながら試合の出場機会を増やしてきていた。


 その時の交流戦の時期、真はそわそわしだしていた。

 このままだと、陽翔のいるウォーリアーズと真のいるシーホークスは交流戦で対戦する。

 しかも、このままの先発ローテーションでいくと、真はウォーリアーズ戦に先発予定で、中学生以来の邂逅かいこうの日が近い。


 しかし、その日は来なかった。

 直前のカードで、唐突に陽翔は二軍に落ちた。


 会わなかったことに対してはホッとしたが、陽翔に何が起きたか、気になってしょうがなかった。

 二軍落ち前、最後の一軍出場となった試合で、陽翔はプロ初ホームラン――それもサヨナラホームランを放っている。

 カウボーイズ抑えのコディ・アレンビーのストレートを完璧に捉えた見事なホームランだった。


 かつて真が陽翔に見出した才能、ついにプロでもその片鱗を見せた。

 また激しく嫉妬を覚えたと同時に、どこか嬉しく思った自分に驚いた。

 だからこそ、なぜ二軍に落ち、その後、なぜ下で干されていたか、まったく納得できなかった。


 結局その年、陽翔は一軍に再び戻ってくることは無かった。

 真がピッチャーとして最高の名誉、沢村賞を獲得したそのオフには、陽翔は人的補償によるカウボーイズ移籍が決まった。


 翌年、シーズン序盤に肘を痛めた真は、肘の靭帯再生手術、トミージョン手術を受けることになった。

 カウボーイズに移籍した陽翔は、二軍にて試合に出ているようだが、どこかウォーリアーズ時代と違ってみえた。

 守備、足に期待されていた前所属とは異なり、カウボーイズは、陽翔に本来備わった才能に期待している、そのことがわかった時、やはり、真の心には、複雑な感情が渦巻いた。


 その年の最終戦に一軍昇格を果たした陽翔。

 そして翌年――今年の活躍については語る必要はない。


 カウボーイズとシーホークスは同一リーグで、いずれ交わることになる。

 今年のシーズン序盤、真が手術からの復帰に向けてトレーニングに励む中、パリーグは陽翔中心に動いていた。

 陽翔の活躍に焦りもあったが、再びお互いプロになった立場で対戦できるのを心待ちにしている自分もいた。


 だが、負けてはならないことはわかっている。

 全てを野球に捧げてきた自分が負けてしまったら、何が残るのだろう。


 ◇◇◇◇


 相手先発の森本も、真と同じような投球内容だった。

 初回に一発こそ打たれども、その後は完璧な投球を続けた。


 二回表、森本がシーホークスの5、6、7番を三者三振。

 二回裏、真がカウボーイズの5、6、7番を三者三振。

 三回表、森本がシーホークスの8、9、1番を三者三振。

 三回裏、真がシーホークスの8、9、1番を三者三振。


 ホームランで点を取り合った一回とは様相が異なり、両投手のポテンシャルが発揮された、奪三振ショーが繰り広げられる。


 四回表、森本がシーホークスの上位打線と対峙する。

 二番の川端をセカンドゴロに打ち取る。

 先ほどホームランの柳沢を三振に切り、リベンジを果たす。

 四番の松山もセカンドフライで打ち取り、この回も無得点で終わる。


 四回裏、真は一人目の二番田中栞緑をサードゴロでアウトに取る。

 次打者がネクストバッターズサークルから左打席に向かっただけで、球場のボルテージが何段階も上がった気がした。


『三番、センターフィールダー、いがらしー、はると!』


 この男を抑えなければ、シーホークスの勝ちはないし、真自身の因縁に決着をつけることができない。

 全身全霊とか、乾坤一擲とか、そんな言葉が思い浮かんだ。


 左足を持ち上げ、一旦下げ、また上げ、今度は地面まで降ろす。

 体にひねりを加え、下半身にため込んだ力を左腕に集め、指先からボールに力を伝える。

 スピンがかかった高めのストレートに、陽翔もフルスイングで抗ってきた。


 強烈なスイング――空気を切り裂く音がここまで聞こえた。

 ボールがキャッチャーミットに収まり、破裂するような音に、球審の「ストライクっ!」が続く。


 二球目、高めから低めへと斜めに落ちていくカーブ。

 2メートル越えのサウスポーである真のリリースポイントから、ストライクゾーンを真っ二つに両断するこの球は、左バッターにとっては魔球で、顔に当たるかというボールが、いつのまにか外角低めまで落ちていく感じという。


 事実左バッターに当てられることすら稀ではあるが、陽翔は当ててきた。

 しかし前に飛ぶことは無く、ファウルとなった。


 これでツーストライクと追い込んだ。

 後はストライクからボールゾーンへと落ちるスプリットで、並みのバッターなら簡単に三振に終わる。


 三球目、キャッチャー嘉山の要求も真の投げたい球も一致する。

 低めのボールへと落ちるスプリットで、陽翔のスイングは空を切るはず。


 しかし、陽翔のバットは少しだけ動くも、スイングまでいかず、ボールを見極める。

 ツーストライク、ワンボール。


 四球目以降、バッテリーはストレートにカットボール、スプリット、カーブと四種の球をかき混ぜ、内外高低とバッターの目線を散らして、持てる力を全て注いで三振を奪いに行った。

 しかし、陽翔はしつこい。

 ストライクはファウルとし、ボール球には手を出さない。


 気付けば十一球目になる。

 陽翔の打棒を期待する声も、この極限の勝負に気を取られているせいか、徐々にしぼんでいく。

 真は、小細工は通用しないと思った。


 子どもの頃とはいえ、何百、千と対戦している陽翔には、彼の想像を超えた球でないと、ねじ伏せることができない。

 初球の再現――最大限を持って陽翔にスイングに挑む。

 思えば、昔の二人の対決は、ストレートだけだったように思う。


 この対決で終わってもいい覚悟で、出力最大でボールに力を込めた。

 バットに当たることなくストレートが、キャッチャーミットに収まった瞬間、真は強く左腕でガッツポーズをした。

 163キロ――真の最速がここで出た。


 陽翔から三振を奪い、ツーアウトになる。

 真の心を例えようのない満足感と快感が支配する中、四番の三浦と対峙する。


 四番の三浦に投じた二球目だった。


 歓声を切り裂くよう、ボールとバットが重なる衝撃音が響く。

 打球に驚愕するかのような静寂がひとしきり続いた後、ドームが割れんばかりの歓声が360°から真の耳に届いた。

 レフトスタンドの上段へと届く――推定飛距離137メートルのホームランだった。


「ちくしょう……」


 これがカウボーイズ打線。

 陽翔を抑えたかと思っても、次は三浦。

 1-2、森本相手には致命的となる勝ち越し点を、シーホークスは許した。


 ◇◇◇◇


 371.牛を飼う名無し


 飛びすぎwwwwwwwww


 389.牛を飼う名無し


 44本!


 412.牛を飼う名無し


 五十嵐がだめでも三浦が打つ

 これがカウボーイズ打線や!


 419.牛を飼う名無し


 面白すぎて草

 テレビ局もうきうきやろうな


 471.牛を飼う名無し


 林崎は五十嵐を意識しすぎやな

 最後の球はやばかったが

 163は自己最速らしい


 491.牛を飼う名無し


 五十嵐と三浦の本塁打王争いも熱すぎる


 512.牛を飼う名無し


 この試合面白すぎて一生やっててほしい


 530.牛を飼う名無し


 >>510

 わかる

 延長12回まではとりあえずやって欲しい


 548.牛を飼う名無し


 >>530

 そこまでいったら引き分けでシーホークス優勝の可能性が高いんだよなあ


 560.牛を飼う名無し


 カウボーイズファンで良かった(小並感)

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