45話 10.4①
10月4日、10.4。
最終戦までもつれたパリーグの優勝チームは今日、必ず決まる。
一位シーホークスと二位カウボーイズのゲーム差は0.5で、勝った方が優勝となる。
野球とは不思議なもので、日本なら143試合、メジャーなら162試合のシーズンを戦い、最後の最後まで競り合い、優勝が決まらないこともある。
他のスポーツのリーグ戦だったらもっと少ない試合数で、優勝チームが全勝し、早々に順位を確定させることもある。
百試合以上も試合をして、優勝チームが勝率7割にも満たないスポーツは野球ぐらいだろう。
決戦の前日から当日、いろんな人から激励の電話やメッセージを貰った。
親や親戚、高校時代の監督などの恩師、友達など、たくさんの激励は、この試合の注目度の高さを裏付けていた。
なかでも、印象に残ったのは、ともに少年時代、白球を追った元チームメイトたちからのメッセージだった。
「もしもし?」
「お、良かった繋がって。今大丈夫?」
「うん、大丈夫。久しぶり、裕太」
裕太は小学校から高校まで一緒に野球をしていた。
体格に優れ、リーダーシップある性格で、少年野球チームから中学の部活、高校野球において、チームのキャプテンを務めていた。
ポジションはキャッチャーで、中学までは林崎とバッテリーを組んでいた。
「今日、頑張れよ。みんなで応援に行くから」
「みんな?」
「おう、みんなだ。どうしてもこれなかったジュンと」
「おーそれは嬉しいな」
「まさか、お前らがこんな注目度の高い試合で激突するなんてな。地元はお前と真の話題でもちきりだぜ。お前も里帰りできねえよ、スーパースター」
「はは……真にも来るって言った?」
「いや、言ってない。もう八年ぐらい話してないから、連絡しにくくて」
バッテリーということもあり、小中学生時代、真――林崎と一番仲良かったのが裕太であったように思う。
そういう裕太であっても、陽翔と同じく中学卒業以来、林崎と話す機会が無かったというのなら、林崎は昔の仲間と一切関わっていないのだろう。
「陽翔は、あいつと話すことあるか?」
「あ、うん。ちょっとだけ。会った途端、因縁つけられたけど」
「はは、あいつらしい。真のやつ、陽翔をずっとライバル視してたもんな……後で連絡してみるか。久しぶりに、声聞きたいしな」
裕太は、「ああごめん、長話をするつもりはなかったんだ」と言い、
「陽翔今日は頑張れよ。真のことも応援しないわけじゃないが、やっぱ、陽翔の方を肩入れして応援するから。三冠王、期待してる。みんなで声を枯らすぜ」
「ありがとう。頑張るよ!」
少しだけ電話越しに沈黙が降りて、陽翔が「じゃあ、また」と言いかけた瞬間、
「……今思うと、陽翔、お前も真と一緒に名門高に行った方が良かったかもな。俺らなんかに付き合ったりせず、もっと高いレベルでやってれば、真みたいにもっと早く活躍してたかもな」
「ううん。俺は思ってないし。そんなこと、考えなくて良いよ」
「そっか」
陽翔と裕太が「じゃあな」と言いあって、電話は切れた。
◇◇◇◇
想像の、何倍もの声援だった。
優勝決定戦と言うこともあり、大阪ドームにはたくさんのファンが詰めかけている。
大きな声援を受けるのは想像通りだが、あまりにも桁違いな応援の圧を感じた。
最終戦をホームで戦えるのは、カウボーイズにとってかなりのアドバンテージだと感じた。
どことなくカウボーイズの選手たちに重々しい雰囲気が漂う中、栞緑だけずれた会話をしていた。
「昨日、真先輩にライン送ったんですよね。お手柔らかにお願いしますって。そしたら、ここまで無視ですよ」
「いや、そりゃそうだろ」
「陽翔先輩は、真先輩に何か話しましたか?」
「何も」
こんな大一番を前に、わざわざあいつ相手に、言うことなどない。
陽翔は続けて、
「なんせ、最近まで八年間会話してなかったら、今さら会話なんてできない」
「話したくないんですか」
「うーん、どうだろう」
大人になってお互いにプロ野球選手になった今、話したい事、聞いてみたいこともある。
でも――。
「今は、グラウンドの中で、勝負できたらって感じ」
「わ、かっこいい。先輩たちの戦い、楽しみにしてます」
◇◇◇◇
「泣いても笑っても、この試合ですべてが決まる」
試合前、カウボーイズの円陣の中心にいたのは、もちろん島岡だった。
「おい陽翔、なんかあるか?」
「えっ?」
チームメイトの視線が陽翔に集まる。
唐突にバトンを渡された陽翔は、何も思いつかなかった。
「あ、ええと……頑張りましょう!」
「なんや、しょっぱいな」
円陣に笑いが起きた。
辱めは受けたが、皆の緊張が少しは解けたということで良しとしよう。
「次、三浦!」
「……特に気負う必要はない。いつもどおり、俺がホームランを打って、森本が完封すれば良いだけの話。優勝とか意識しなくていい」
あっけにとられたか、円陣は静まり返った。
発言の張本人は、どこ吹く風で鉄仮面のままだった。
「けっ、相変わらずやな。まあ、こんな大一番でもお前らしくて安心したわ」
島岡は場所を取りなすように手を大きく叩き、
「20年もの間、カウボーイズは優勝がなかった。ファンは待ちくたびれとる。俺らも、この時を待ちに待った。今日の夜、シーホークスと決着をつけて、俺らで歴史を変えようや!」
「おー!」とか「おう!」とか「はい!」とか、島岡の言葉に返す選手の言葉が重なる。
選手の頭上、一塁側の観客席から拍手が降り注いだ。
◇◇◇◇
重々しい空気とカウボーイズを鼓舞する大歓声がドームを支配する中、試合は始まる。
一回表、エースの森本玲央が万雷の拍手の中、カウボーイズのマウンドに上がる。
投球練習をする姿を見た陽翔は、森本はいつも通りだと感じた。
前の先発から中4日で登板するエースは、淡々とキャッチャーの坂本に投げ込み、シーホークス打線へ対峙する準備を静かに整えているように見えた。
大阪ドームが森本によるショーの舞台となったのは、投球練習が終わり、一番の本田が打席に立った時だった。
森本はボールを持った右手を、大きく上に掲げた。
そして「よっしゃー行くぞ!」とバックを守るチームメイトたちへ向かって声を上げる。
観客の声援に満たされたドームの中でも、陽翔の耳へ、しっかりと響く声量だった。
チームメイトたちも熱い言葉で呼応し、連鎖するように観客の声援が上がる。
森本の行動は、気合を入れるためか、チームメイトを鼓舞するためか、ドームを味方にするためか、その真意はわからないが、あっという間にドームを支配した。
パフォーマンスの興奮が冷めやらぬ中、森本は第一球を投じた。
本田は初球から打ってきて、力の無いセカンドゴロとなる。
栞緑が問題なく捌き、一つ目のアウトカウントが灯る。
一つアウトを取っただけで、ドームはお祭り騒ぎだった。
二番の川端は、本田とは違い、ボールを見ていこうという意識が見て取れた。
バッテリーはそれをあざ笑うかのように三球ストライクを続け、一回もバットを振らせることなく、簡単にツーアウトを取った。
『三番センター、柳沢来斗』
柳沢の登場に、今まで鳴りをひそめていたレフトスタンドのシーホークス応援団のボルテージが上がる。
カウボーイズの応援ばかり耳に入るが、シーホークスを応援する声もいつもより大きい。
森本と柳沢の対決は長丁場になった。
森本の繰り出すストレート、スプリット、カーブ――どれも一級品の球種に、柳沢は付いてくる。
ファウル、ファウル、ファウルと続き、ツーストライクスリーボールとなった十球目、決着がつく。
最後は、柳沢のスイングが森本の球を飲み込んだ。
内角低めを襲う158キロのストレートを、掬い上げ、ライナーでライトスタンドに持って行った。
この重要な優勝決定戦――10.4は、シーホークスの先制で幕が上がる。
カウボーイズファンが多くを占めるドームは、やはり沈黙が降り、レフトスタンドの一角だけが盛り上がりを見せた。
それでも、森本を鼓舞する声はすぐに復活し、ドーム全体を暖かい拍手と声が包んだ。
森本は次のデルパイネを簡単に打ち取り、一回表を終えた。
◇◇◇◇
林崎がマウンドで投球練習する様を見ていて思ったのは、この大一番でも余裕があるな、ということだ。
若くして沢村賞を獲得、今期はシーズン途中の登場ながらも防御率は1.52で奪三振率は、森本、佐々山、千堂というパリーグトップクラスの先発たちを上回る12.2という数字。
林崎のキャリアの充実っぷりが、今の自信あふれる姿に見て取れる。
『一番、ショートストップ、しまおかーそうたー!』
大歓声を浴び左打席に立った島岡だったが、林崎の投球に、まったくもって相手にされなかった。
159キロのストレートに空振り。
151キロのカットボールに見逃し。
最後は147キロのスプリットに辛うじてバットに当てたが、打球の死んだショートゴロだった。
すべての球が空振りを取れるような切れ味を持っており、おまけに二メートルの身長を誇る。
プロ野球において唯一無二の角度から、サウスポーとして唯一の160キロ越えのストレートを投じる。
おまけにコントロールもいい。
陽翔とチームメイトだった時、すなわち子供のころはただ体がでかくて球が馬鹿速いだったけど、高校時代に名門校で指導を受け、林崎は変わった。
器用さ、精密さを身に着け、プロでも無双するレベルの化け物へと変貌した。
二番の栞緑はまったくバットに当たらず、三球三振に終わる。
林崎を打たないとチームは勝てない。
『三番、センターフィールダー、いがらしーはるとぉ!』
いつもより強めのアナウンスと声援を背中に受け、陽翔は左打席に立つ。
林崎と一瞬、目が合ったが、お互いすぐに逸らした。
言葉も、表情のやり取りも今はいらない。
必要なのはボールとバットのやり取りだけ。
一球目から陽翔は仕掛けた。
内角低めのストレート――判断する者によってはボールといいかねない球を打ちに行き、そして、バットに乗せる。
ふさわしい位置、角度でバットにボールを乗せれば、自然とホームランになる。
八月以降、完全に要領を掴んだ。
これも、ライトスタンドに突き刺さる。
陽翔のリーグ単独トップとなる44本目のホームランで、カウボーイズは同点に追いつく。
◇◇◇◇
871.牛を飼う名無し
キターーーーーー
881.牛を飼う名無し
ファッ!?
901.牛を飼う名無し
単独ホームラン王
909.牛を飼う名無し
MVP!MVP!MVP!
912.牛を飼う名無し
ボール球やんけ…
932.牛を飼う名無し
展開熱すぎぃ!
951.牛を飼う名無し
林崎真さん
今シーズン初めての左バッターからの被弾をしてしまう
979.牛を飼う名無し
>>951
林崎が凄いのか
五十嵐が凄いのか
両方か
981.牛を飼う名無し
三浦連発いったれ!
995.牛を飼う名無し
初回からこんなに動かれたら心臓持たんわ
1000.牛を飼う名無し
ワイ、もう泣いてる




