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4話 シーズン最終戦②

 幸先よく二点を先制したカウボーイズだったが、その後の展開は苦しいものとなった。

 三回の表にネッツの主軸、鳥内、浅山のタイムリーヒットでネッツに同点に追いつかれる。

 打線は則広の前にチャンスは作るものの、あと一本が出ない。


 そして7回の表、カウボーイズは先発の結木を下げ、ベテランの中継ぎ投手、平山ひらやまに切り替えた。

 あと三回抑えれば勝利、それに向かって信頼ある中継ぎ投手で試合を締めにいく。

 いわゆる勝ちパターンが投入され、その先陣として平山がマウンドに上がる。

 しかし、その平山が誤算だった。


 回の先頭バッターに死球デッドボールを与えると、続く二人のバッターに連続ヒットを打たれ、あっさりとネッツに勝ち越し点となる3点目を許した。


 この試合最初のリードを許し、ノーアウト一三塁とピンチが続く。

 さらには同時刻に行われている試合において、リーグ3位の千葉オウルズは勝っているという現実も、カウボーイズに重くのしかかってくる。


 仮にこの試合、カウボーイズが逆転勝利をしても、オウルズが勝ってしまえば何の意味もない。

 多くの観客がその現状を理解しているのか、重苦しい雰囲気がドームを包む。


 しかし、その陰鬱とした雰囲気は、ある男の登場で一変する。


『カウボーイズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー平山に代わりまして森本。ピッチャー、もりもとーれおー! 背番号18』


 エースの登場だった。

 本来なら森本は先発投手、試合の途中から出てくることは無い。

 しかも3日前に9回を完投している。

 普通に考えれば、今日は休養日である。


 しかし今日の試合はカウボーイズにとっての全てを掛けた大一番ということもあり、森本は自らベンチ入りを志願。

 これ以上点を許したくない、カウボーイズ絶体絶命の危機に、大黒監督は絶対的な信頼を置く森本を投入した。


 登場曲に合わせ、森本は投球練習を行う。

 今シーズン防御率、奪三振数でリーグ1位の彼は、身長170センチ半ばと、プロ野球選手として決して体は大きくない。


 しかし、そんな小柄な体格から160キロ近い速球、速度と落差を兼ね備えたパワーカーブ、魔球と評されるスプリットを武器に、近年のプロ野球でトップクラスのピッチャーとして君臨し続けた。

 森本こそが、現在のプロ野球最強のピッチャーだと言う者も少なくない。


 投球練習を終え、森本が対峙したのは、ネッツで最も警戒すべきバッター、3番の浅山だった。

 2年前、ネッツに移籍してきた浅山は、打点王を三回獲得しているパリーグトップクラスのバッターである。

 今シーズンの成績は打率.302、本塁打24本、打点105。

 様々な指標において低空飛行を成績を見せたネッツ打撃陣において、唯一気を吐いた選手だ。


 森本は中2日登板の疲れを感じさせない投球を、浅山相手に披露した。

 セットポジションから155キロのストレート、さらにパワーカーブを駆使し連続で空振りを取り、2球で追い込む。

 そして三球目、140キロ後半のスプリットに、浅山のバットは空を切る。

 三球三振だった。


 続く四番、五番も三振に打ち取り、ノーアウト一三塁の大ピンチを、三者連続三振で切り抜けた。


「っしゃー!」


 森本は大歓声の中でもはっきりと届くぐらいの雄叫びをあげ、大きなガッツポーズを見せた。

 さらには両腕を振り上げ、観客にもっと盛り上がれ! と煽る仕草を見せる。

 さっきまでドームを支配していた沈鬱な雰囲気は、もう消え失せた。


「すっげ……」


 陽翔は呟いた。

 感情を滅多に表さない三浦が“静”なら、大いにさらけ出す森本は“動”か。

 これがスターかと、二人の活躍に、ただの一ファンになったかのような興奮を覚えた。


 ◇◇◇◇


 初回、三浦にホームランを許し二点を取られた則広だったが、その後はカウボーイズ打線を無失点に抑えた。

 決して、完璧に抑えられたわけではない。

 ランナーはたびたび出すものの、ピンチになるとギアを上げたように投球のレベルを上げる。

 結局則広は七回を初回の失点だけの二失点に抑えた。

 奪った三振は11を数えた。


 対するカウボーイズピッチャー、七回途中よりマウンドに上がった森本は、八回表も続投し、無失点に抑える。

 結局スコアは2-3、試合はカウボーイズの一点ビハインドのまま八回裏を迎える。


 また、この時点で3位の千葉オウルズはリードしたままだった。

 つまりカウボーイズのクライマックスシリーズ出場への二つの条件は、どちらも満たすことができていない。


 八回裏、仙台ネッツにとっては、則広の最多勝のタイトルまであと二イニング抑えるだけ。

 マウンドには、ひと際背の高い白人が上がった。


 ミッチ・バーゲルソン、今シーズンよりネッツに加入したアメリカ人投手である。

 身長2メートルを誇る長身から160キロのストレートを投げ込んでくるネッツのセットアッパー――勝ち試合の八回を締める役割の彼だが、今シーズン最初はコントロールに苦しんだ。


 投球イニング数を超えるフォアボールを出すなど、アメリカとは違う日本のボールに適応できなかったのである。

 結局、四月の途中に二軍に降格した。


 しかし二軍の調整によってボールに適応したか、コントロールが改善する。

 六月途中に一軍へ再昇格、その後はネッツのリリーフエースとして活躍した。

 昇格後の防御率は1.80、九回を投げた時に何個三振を奪うか、という指標の奪三振率は10を超えた。

 今シーズン、ある程度のイニングを投げて奪三振率が10を超えた投手は、パリーグでは7人しかいない。


 バーゲルソンもこの試合がネッツにとってただの消化試合でないとこは理解しているようで、気合十分に投球練習を行っていた。

 則広の最多勝のため、一球一球力がこもった投球を見せている。


 この回、絶体絶命のカウボーイズの打順は二番からだった。

 当然、三番の陽翔に打席は回ってくる。

 しかし、陽翔はもう自分の打席はないのではないかと思った。


 今日の陽翔は、一打席目こそヒットを放ったものの、その後の二打席は凡退が続いた。

 ベンチには代打の切り札、岡さんもいる。

 首脳陣がこんな大事な場面で自分を使い続けるとは思えなかった。


 しかし、陽翔は首脳陣に特に何も言われることなく、次の打順が回ってくる打者が待機する、ネクストバッターズサークルに向かうことになった。


 回の先頭の二番バッター、福田はバーゲルソンの二球目のストレートを打った。

 ふらふらと高く上がったフライは、上がった位置が良く、ショートとセカンド、センターの間にポテンと落ちた。

 ノーアウト一塁、同点のランナーが出た。

 ドームが、沸く。


『三番、ショートストップ、いがらしーはると―!』


 左打席に立つ。

 こうなれば自分の役割はわかる。

 ノーアウト一塁、一点差、次打者は四番の三浦。

 送りバントでランナーを二塁に送り、三浦の打席においてワンヒットで同点というチャンスを演出する。


 そう思ってベンチのサインを見た。

 でも。


「えっ……」


 思わずつぶやいた。

 サインは、打て、だった。


「バッター!」


「すいません……」


 サインの不可解さにちょっと我を失っていた。

 球審に注意され、打席で構える。


 監督の考えは、素直に受け取るならば、自分に期待しているのだろうと思った。

 もうどうにでもなれ、と打ちに行くしかないと思った。


 初球、セットポジションから第一球をバーゲルソンが投げ込む。

 ストレートだった。

 打ちに行ったが、その球のスピードにバットが遅れ、空振りを喫する。


 その瞬間、ドーム内でざわめきが起きた。

 あとになって陽翔はわかったことだが、それは3つの衝撃的な出来事が重なったからだった。


 一つはバーゲルソンのたった今投じた球が、彼自身の最速となる162キロを計測したことである。

 これはドームの一角に位置するネッツファンの、そのまた一部しか騒がなかった。


 二つ目は誰もが送りバントをすると思われた陽翔が打ちにいったことである。

 なぜバントしないのか、陽翔や首脳陣を罵るような言葉もドーム内に飛び交った。


 三つ目はこのドームの外での出来事、クライマックスシリーズ出場をカウボーイズと争うオウルズが逆転を許した、という情報を観客たちが得たことである。

 もし、オウルズがそのまま負けたら。

 あとはカウボーイズが勝つだけという状況へと変わる――絶体絶命から、希望の光が見えてきたのである。


 ◇◇◇◇


 724.牛を飼う名無しさん


 バント


 731.牛を飼う名無しさん


 ここはさすがに送るだろ


 756.牛を飼う名無しさん


 きっちり決めてくれよ


 780.牛を飼う名無しさん


 は?


 785.牛を飼う名無しさん


 は?


 792.牛を飼う名無しさん


 は?


 822.牛を飼う名無しさん


 は?


 842.牛を飼う名無しさん


 打たすのかよwwwwww


 867.牛を飼う名無しさん


 史ね無能監督


 888.牛を飼う名無しさん


 あたおか


 901.牛を飼う名無しさん


 オウルズ逆転された!


 921.牛を飼う名無しさん


 おー!


 942.牛を飼う名無しさん


 ファーwwwwwww


 959.牛を飼う名無しさん


 もうなんでいいからゲッツーだけはやめてくれ


 982.牛を飼う名無しさん


 いろいろ起こりすぎてもうわけわからんwwwwwwwww


 991.牛を飼う名無しさん


 スレの勢いやばすぎる


 1000.牛を飼う名無しさん


 頑張れ五十嵐!

 ワイは信じてるで


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