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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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33/44

33話 覚醒・後編

「陽翔さん! やばいっす! マジやばい!」


 陽翔が本塁へ還ってくると、田中と山上は二人して抱き着いてきた。

 その後も、チームメイトにもみくちゃされながら、陽翔の心はここにあらずといった感じに、別のことを考えていた。


 頭の中で快楽物質が溢れかえる。

 やばい、早く次の打席に立ちたい。

 もう一度、あの感触を味わいたい。


 3-3と追いつかれ、敵地のオウルズファンは騒然としていた。

 そんな中でも、佐々山は四番以降を抑え、この回を同点止まりで終わらせた。

 試合は振り出しに戻り、七回裏に入る。


 七回裏、カウボーイズは中継ぎ、比田が上がり、三人で終わらせる。

 八回表、オウルズは佐々山を降ろし、継投に入っていく。

 カウボーイズの攻撃も三者凡退。


 八回裏、カウボーイズのマウンドにはベテラン右腕、平山ひらやま佳人よしひとが上がる。

 今シーズン既に両リーグ最多56の登板数を誇るタフネス右腕だ。

 しかし、その平山が誤算だった。

 三番の谷沢、四番のマルドナードに連続タイムリーを浴び、二点のリードを許してしまう。


 3-5、カウボーイズのこの試合、最後の攻撃へと移る。

 九回表、オウルズのマウンドには守護神の益岡が立つ。

 今シーズンリーグ三位のセーブ数を誇るベテラン右腕だ。


 カウボーイズの攻撃は一番の島岡から。

 島岡は益岡のシンカーにまったく合わず三振。

 ワンアウト。


『二番、セカンド、田中栞緑』


 陽翔はネクストバッターズサークルに立って、バットを振ることもなく、静かに、心を統一する。

 さっきの打席。

 無心で放ったスイングは陽翔史上、最上のスイングで、最高のバッティングだった。

 佐々山の163キロを、軽々とバックスクリーンまで運んだ。

 あのスイングを、再現できるだろうか。


 数メートル先での、栞緑と益岡の対決を見守る。

 栞緑は良くボールを見ていて、益岡のコントロールされた際どい球に手を出さない。

 島岡が敗北を喫したシンカーに付いていき、ファウルで粘る。

 十球に渡るバッテリーとバッターの攻防の後、


「ボールフォア」


 フォアボールで栞緑は出塁した。

 ワンアウト一塁で、陽翔の今日四回目の打席。


 益岡はセットポジションから、右足を上げ、すぐに降ろし、ちょっと体をひねって、反動をつけてボールを投じてくる。

 内角低めへのシンカーだった。

 陽翔は体をひねって腕を畳み、ボールをバットの芯に乗せた。

 打球はライトスタンド――オウルズファンの根城に運ばれていく。


 瞬間、大歓声が陽翔を包んだ。

 陽翔の二打席連続ホームラン――ツーランホームランで、カウボーイズは5-5の同点に追いついた。


 体が火照ほてって、熱い。

 身体中の神経が管のように一本に繋がって、快感が全身を高速で巡って、ずっと循環しているような感じ。

 湧きたつ興奮を抑えながら、陽翔はダイヤモンドを一周した。


 ◇◇◇◇


 九回裏をゼロで凌ぎ、十回表、カウボーイズは先頭バッターが出塁し、勝ち越しのチャンスを作る。

 ベンチが盛り上がる中、陽翔は座り込み、静かに戦況を見つめていた。


「どうしたんや、そないに静かに」


 陽翔の横へ座ってきたのは、島岡だった。


「そんなに、自分のバッティングが惚れ込んだんか」


「いえ……」


 言葉では否定はしたが、

 “自分のバッティングに惚れ込む”、か。

 表現はともかく、今の自分の状態は、ずっとバッティングに浸っている状態だ。


「正直言って、俺はあのバッティング“きもい”と思ったわ」


「き、きもい?」


「あんなの理解できない。三浦みたいな、そう三浦や。あいつのバッティングを見ていて思うような、不快や恐怖や。自分の才能がいかに矮小か見せつけられるような感覚やった。別次元を見せられたわ」


「あ、ありがとうございます」


「俺のエラーのおかげで代走やっと試合に出られてたようなガキが、あんな化け物やったなんてな。実質俺のエラーのおかげやな」


 ワハハと島岡は豪快に笑った。


「呑まれるなよ、陽翔。」


 急に島岡が真剣な顔を作り、陽翔に向き合った。


「よくアニメとかでよくあるやろ。闇の力を借りて強くなったのいいが、その闇に呑まれて悪堕ちするやつ。今のお前を見てると、その感じ思い出すわ」


 島岡は打席の準備に向かう。

 ツーアウト二塁勝ち越しのチャンス。

 三球目を打った九番坂本の打球は、力の無いショートフライとなり、この回が終わる。


 そして十回裏のオウルズの攻撃を無得点で凌ぎ、試合は十一回に入っていく。


 ◇◇◇◇


 時刻は、九時半を過ぎたぐらい。

 両チームのピッチャーがテンポよく抑えているせいか、延長に入っている割に試合時間はまだ浅い。 


 海に近いこのスタジアム特有の風は、レフトからライト方向へ強く吹いている。

 バックスクリーン上にはためく球団旗が、強い風に煽られてせわしなく暴れている。


 試合開始時はわりとぎっしり埋まっていたスタンドは、この時間になっても空白が増えない。

 この試合の結末を見届けたいファンが大多数なのだろう。


 十一回の表、カウボーイズの攻撃は、打順よく一番の島岡からだった。

 マウンドには六番手、種丸たねまるが上がる。

 陽翔は、今日五回目の打席に向け、ダグアウトでバットを持った。


 種丸は一番の島岡を、得意のスプリットで空振り三振に抑えた。

 二番の栞緑も、スプリットとストレートのコンビネーションで三振に切って取る。


『三番センター、五十嵐陽翔』


 コールされ、左打席に立つと、異様な雰囲気を感じた。

 種丸が指先からボールが離れ、外角低めをついてくる。

 150キロを超えるストレート。

 陽翔は、逆らわず流した。


 打球は綺麗な角度で上がったが、レフトからライト方向へ吹く、激しい風と真正面からぶつかる。

 けれど、打球の勢いは負けなかった。

 カウボーイズファンが陣取るレフトスタンドまで届いた。


 大歓声を浴びた。

 オウルズファンの多い一塁側からもたくさんの声が聞こえた。


 陽翔の三打席連続ホームランで、カウボーイズはついに6-5と勝ち越す。

 11回裏をカウボーイズの抑え、コディ・アレンビーが抑え、勝利。

 試合後のヒーローインタビューはもちろん陽翔だった。


 ◇◇◇◇


 771.牛を飼う名無し


 きたあああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 772.牛を飼う名無し


 神


 773.牛を飼う名無し


 3打席連続wwwwwwwwwwwwwwwwwwww


 774.牛を飼う名無し


 ファーーーーーーーーーーーーーーーーー



 774.牛を飼う名無し


 完  全  覚  醒


 780.牛を飼う名無し


 トリプルスリー不可避


 791.牛を飼う名無し


 海風に負けず逆方向にスタンドインとかおいおい三浦か


 800.牛を飼う名無し


 草野球通算打率8割ニキやけど

 1打席目みた瞬間に今日は五十嵐の日やなって思ったわ


 821.牛を飼う名無し


 >>800

 今までの打席と何が違ったんや


 825.牛を飼う名無し


 >>821

 雰囲気と目つきやな


 827.牛を飼う名無し

 

 >>821

 ふわふわしてて草

 誰でも言えることやんけ


 852.牛を飼う名無し


 カウボーイズの優勝見るためにニートになったワイ、号泣

 まだあきらなくていいんやな

 就活はまだやめとくわ

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