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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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29話 海の向こう

 陽翔は今、新潟にいた。


 現在はプロ野球シーズン真っ只中。

 もちろん、ただの旅行で来ているわけではない。

 今日のカウボーイズの試合は、この北陸の地にて行われる。


 プロ野球は常に十二球団の本拠地で試合するわけではなく、年に何試合かは、地方球場にて公式戦をしたりする。

 基本的には、福岡シーホークスだったら同じ九州の鹿児島といった感じに、何かしらの縁をその地に持つ球団が試合を主催する。


 今回の新潟の試合――カウボーイズと北海道ペンギンズの一戦を主催するのはカウボーイズだ。

 なぜ大阪をホームに持つカウボーイズが新潟で試合を行うかというと、新潟はチームの顔、三浦豪成の出身地だからである。


 おそらく三浦の入団までは、新潟におけるカウボーイズファンなど、かなりレアな存在だっただろう。

 それが今では、都道府県でのプロ野球ファンを占めるカウボーイズファンの割合が最も高い県という調査結果もあるほどだ。

 本拠地のある当の大阪府では、カウボーイズよりも兵庫ブルーサンダースのファンの方が多いため、最もカウボーイズファンの濃度が高い地域ともいえる。


 そんな野球ファンイコール三浦ファンイコールカウボーイズファンという新潟での試合。

 普段の公式戦とは違った雰囲気が、この新潟に到着した時からあった。


 まず、地元マスコミの注目が高い。

 新潟に到着するや否や、陽翔は地元ローカルニュースの取材を受けた。


 ――新潟に来たことはありますか?


「ええと、初めてです」


 ――新潟についての印象は?


「……お米が美味しい、です」


 ――五十嵐選手から見た三浦選手について、どういう印象をお持ちでしょうか?


「ホントもう雲の上の存在というか、凄すぎて理解できないレベルです」


 ――グラウンド内での三浦選手は寡黙な印象ですが、試合の外でも、そうなのでしょうか?


「まあ、野球以外の話はほとんどしないですね」


 ――三浦選手と個人的に親交はあるのでしょうか?


「ほとんどないです」


 ――今シーズンの五十嵐選手の大活躍の秘訣はどこにあるのでしょうか?


「自分の野球ができているところだと思います。シーズン前に準備してきたことが形になってきて、自信をもってプレーできています」


 ――最後に、新潟のファンへメッセージをお願いします。


「良いプレーを見せられるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします」


 若い女性アナウンサーの陽翔への質問は新潟と三浦の話ばっかりで、最後らへんにとってつけたような陽翔自身に関する質問があっただけ。

 なんだか海外で活躍する日本人選手がいて、そのチームメイトが日本のメディアにその選手のことではなく、日本人選手のことばかり質問しているのを思い出した。


 あまり良い気持ちはしなかったが、それぐらいこの新潟では三浦がスターであるということだろう。

 たぶん陽翔の地元で公式戦をしていたら、逆の立場になっていただろうから、しょうがないよなと思うことにした。


 ◇◇◇◇


 今日は新潟への移動日で、試合は明日からの土日、昼間の試合――デーゲーム二連戦で行われる。

 普通チームの遠征先の宿舎は、それなりに豪華なホテルだったりする。

 ただ新潟遠征では、三浦の希望で、少し街の中心から外れた海辺の旅館に泊まる。

 なんでも、この辺が三浦の育った町らしい。


 移動のバスから見えた日本海は、陽翔にとってどこか懐かしさを感じた。

 陽翔は、自分が新潟と同じ日本海側出身だからだろうと思う。

 町の風景も既視感がある。


「おい、海に行ってみろよ。面白いものが見れるぞ」


 旅館での豪勢な夕食を終えた後、陽翔はチームメイトたちにそそのかされた。

 海に行けという、チームメイトの言葉は謎だらけだったが、陽翔は散歩がてら外に出た。


 七月後半の夏真っ盛りで、ようやく日が落ち、辺りが暗くなってくる時間だった。

 セミはやかましいぐらい鳴いているけど、辺りには人の気配がない。

 街灯以外に、周囲を照らす明かりはない。

 都会の喧騒に慣れてきた陽翔にとっては、海までの道は新鮮かつ懐古な気持ちになった。


 旅館から海までは、すぐだった。

 少し歩き、海辺に出ると、陽翔の視界いっぱいに日本海がどこまでも広がる。

 薄暗く、どことなく寂しさを感じる夜の海は、故郷の山陰の海を想起させた。


 波の音が支配する海辺で、なにか空気を切り裂くような音がリズムよく聞こえる。

 それは、陽翔たちが良く耳にするスイングの音だった。


 桟橋の先に、一つだけランプがあって、その音の正体が見えた。

 雑に停留された小さな舟の上で、ひとりの男がバットを持ち、そして振っていた。

 三浦だった。 


 陽翔が恐る恐る近づくと、三浦がこちらに気づいたが、すぐに何も見なかったかのように視線を海の先に向けた。


「何を……しているんですか?」


「素振り」


 それは陽翔にもわかる。 

 小舟の上で釣りをしているようには見えないし、三浦が野球のバットを持って、野球のスイングをしていることは明白だ。

 問題は、なぜ舟の上でやっているか。


 三浦が少し足を上げ、バットを振る。

 それはグラウンドで見せるのと同じ、豪快なスイング。


 舟の上は不安定で、波で揺れるし、スイングでもぐらつく。

 それでも三浦の体は揺らぐことなく、一本の巨木のように立つ。

 強靭な体幹が成す技だ。


 三浦は桟橋へ登ると、言う。


「子供のとき、ずっと舟の上で素振りしてたんだ。何回も海に落ちたな」


「凄いすね……」


 舟の上で思いっきりスイングし、海に落ちてしまう子供を想像すると、周りの大人や親は止めなかったのかと思う。

 しかし、その積み重ねが、今の三浦の体幹のぶれないスイングを作り上げたのだろう。


「俺の親父は漁師でな。海に出て、うちにいないときが多かった」


 三浦は桟橋を歩き出し、砂浜まで足を進める。


「そんなとき俺はこの砂浜に出て、あの水平線に向かってボールを打ってたな。親父に届くように、って。ボールがすぐなくなるからお袋にバレてやめさせられたが。それからも……ボールを海に打ち捨てることはなくなったが、ひたすらここでバットを振っていた」


 いつになく饒舌だった。

 故郷に帰り口が軽くなっていると思うと、初めて三浦から人間らしさを感じた。


「親父は酒を飲んで暴れたり、完璧な父親ではなかったが、俺の野球には惜しみなく時間とお金を費やしてくれたよ。どんなに仕事で疲れていても、練習に付き合ってくれたし、行ける試合は見に来てくれた。」


「お父さんは明日の試合を見に来るんですか?」


「ああ、去年十月に死んだ。六十六歳。遠洋漁業での体の酷使。酒、タバコ……まあ、長生きはしないわな」


 陽翔と話をしている間も、三浦はスイングを繰り返す。

 その視線は、陽翔ではなく、水平線の彼方を向いていた。


「親父の言葉で印象に残っているのが一つある。小さい頃、この海に来た時、親父に俺は聞いた。“この海の向こうには何があるの?”と。

 親父は言った。海の向こうにはすげえ奴らがいる。体も大きく、日本人も何倍も速い球を投げ、何倍も飛ばすやつらがな。豪成、お前もいつか海の向こうにいけ。この日本で敵う者がいないぐらいの選手。三冠王を獲得するような選手になって海の向こうにいけ、ってな。

 ……去年、今際いまわきわ――最後に親父が俺に言った言葉もそれだった。

 いつまで日本でやる気だ? 早く三冠王になって、海の向こうにいけ。早くしないと、俺が死んじまう……俺がそれを達成する前に死んじまったが」


 暗くてよく見えなかったが、三浦は確かに笑っていた。


「だから、三浦さんは三冠王になって、メジャーに行くと」


「親父の言葉が全てではないが、俺の人生に大きく影響したのは事実だな」


「……今日は、よくしゃべりますね。やっぱ、故郷だから?」


「柄にもねえな。故郷に帰って感傷的になるなんて。今日のことは忘れろ」


「忘れませんよ。嬉しかったです、話してくれて」 


 ◇◇◇◇


 試合開始は午後二時予定。

 試合前、練習のためにダグアウトを出た瞬間、ファンの持つ熱気を全身に感じた。

 まだプレイボールまで数時間もあるというのに、三万人収容のスタジアムはかなり埋まっている。


 観客の大半がカウボーイズのユニフォーム、というか三浦のユニフォームを着用していて、大阪ドームでのホーム戦とはまた違う雰囲気だ。

 陽翔も田舎育ちだからわかるが、彼らがプロ野球を見に行ける機会はなかなか無い。

 期待感を持って今日の観戦に訪れているはず。

 そして、彼らが望んでいるのは、地元のスター、三浦のホームランだろう。


「なにがいいんやろうな。あの仏頂面が」


 三浦のことを“仏頂面”と称したのは、島岡壮太だった。


「ファンもニュースも全部、地元出身だからって三浦のことを神様かなんかのように扱っとるわ。さながら三浦教。キモくてしゃーない」


「壮太さんだって、地元じゃ神様でしょ」


「大阪なんて、有名プロ野球選手ようけおるから、俺のことなんてもてはやしてくれんねん。せいぜい実家の半径二キロ圏内ぐらいや」


「二キロ……うちだったら住んでる人全員知り合いぐらいです」


 陽翔の実家周りは畑や田んぼばかりで、民家は数えるほどだった。


「そういえば陽翔、お前も地元ド田舎やろ。やっぱ、地元じゃ五十嵐教が勃興しとるんか?」


「知らないです……帰ってないし」


「この感じだと、数年後は陽翔の凱旋試合もあるやろな。で、相手はシーホークスやろ。林崎と同郷なんやろ? ええやん、盛り上がるで」


「まあ盛り上がるかもしれないですけど……」


 ◇◇◇◇


 試合は大盛況になった。

 三浦の登場、一挙手一投足の度に歓声が上がる。


 陽翔は、やはり三浦は凄いと思った。

 観衆みんながホームランを期待する中、三浦は期待通り打って見せた。

 しかも二本も、だ。


 一本目は一回裏、ツーアウトから三番の陽翔が出塁したところからツーランホームラン。

 二本目は五回裏、島岡と陽翔が塁にいる状態でのスリーランホームラン。

 この二本のホームランで、今シーズンの三浦の本塁打は34本、打点は102に達した。


 三浦の二本のホームランで試合を優位に進めたカウボーイズに対し、ペンギンズも追いすがった。

 カウボーイズリリーフ陣を攻め立て、八回表に6-6の同点に追いつく。


 同点のまま九回裏、カウボーイズの攻撃は打順よく、一番の島岡から。

 島岡は四球で出塁すると、二番の田中が送りバントでランナーは二塁。


 ワンアウトランナー二塁。サヨナラのチャンスで陽翔の打席が回る。

 ここで陽翔は見事にライトスタンドへ飛び込むホームラン――サヨナラホームランを放ち、試合は決した。


 三浦の凱旋試合初戦は見事なサヨナラで、カウボーイズの勝利となった。


「今日は“俺の日”なんだが。俺に任せとけよ」


 三浦は、ホームへ還ってきた陽翔へ言った。

 言葉と裏腹に、三浦は少し笑みを浮かべ、手を上げていた。

 二人はハイタッチをした。


 翌日の試合はカウボーイズの完勝。

 二連勝で新潟遠征を終え、未だがっちりパリーグの首位をキープしている。

 陽翔は、このままの勢いが続くなら絶対にシーホークスに抜かれないだろう、そう感じた。


 ◇◇◇◇


 473.牛を飼う名無し


 三浦豪成(90試合時点) .340 34本 102打点 


 打率本塁打打点得点出塁率長打率OPSなど打撃全項目一位


 474.牛を飼う名無し


 >>473

 強い


 475.牛を飼う名無し


 >>473

 シーズン終了時の成績でもおかしくないやん


 478.牛を飼う名無し


 >>473

 144試合だと55本ペースか


 490.牛を飼う名無し


 >>478

 謎の力で56本目打たせてもらえなさそう


 492.牛を飼う名無し


 五十嵐陽翔(90試合時点) .320 18本 60打点 21盗塁


 地味にトリプルスリーペース狙えるペース


 498.牛を飼う名無し


 五十嵐がトリプルスリーやっても三浦が55本打って三冠王取ればMVPは三浦やろうな


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