27話 オールスター②
今シーズン60本ペースで本塁打を量産するカウボーイズの三浦豪成。
オールスター第一戦の主役もやはりこの男になるのか。
彼の二打席連続のツーランホームランで、パリーグが四点をリードした。
しかし迎えた四回表、セリーグも反撃に出る。
三回無安打無失点、五個もの三振を奪った先発森本に代わってパリーグのマウンドに上がったのは、埼玉ブロンコスの岩井。
150キロ中盤のストレートを武器とする、馬力とスタミナを兼ね備えたブロンコスの若きエースだが、セリーグの強力打線に捕まる。
東京ウォーリアーズの阿田、静岡ウッドペッカーズの村山、二人の強打者にタイムリーを浴び、三点を失う。
点差が一点に縮まった四回裏、パリーグの攻撃は、前の回から続投の藤原が三人で切って取る。
五回表のセリーグの攻撃は、岩井が本領を発揮し、三つの三振を奪ってゼロ点に抑えた。
次々と出てくる球界のスターたちに、ドームの観客たちは切れ目なく拍手と声援を送る。
そんな中、次にセリーグのマウンドに上がったピッチャーはひと際大きい大歓声を受けた。
白田幸輝、広島パイレーツに所属する39歳の右腕だ。
彼にとっては、実に十年ぶりの日本のオールスターになる。
長年に渡って海の向こう、メジャーリーグにて活躍した彼は、昨年オフに日本復帰を決めた。
ロサンゼルス、ニューヨークと、アメリカの名門球団を渡り歩き、稼いだ白星はメジャー通算102勝にもなる。
ポストシーズンという大舞台も何度も経験し、アメリカのファンにも愛された。
昨年もメジャーのローテ投手として十分な活躍をした彼には、メジャー球団からの年俸十億円以上のオファーもあったという。
さらに白田が日本球界へ復帰する、という噂が流れると、福岡シーホークスや東京ウォーリアーズを始めとする日本のお金持ち球団たちは、十億円並み、またはそれに準ずるレベルのオファーを出した。
数々の選択肢から白田が選んだのは、金額でも待遇でもなく、古巣への恩返しだった。
メジャーに行く前、日本で所属していた広島パイレーツへの年俸五億円での復帰は、大きな感動を呼び、広島では、もはや神様のような扱いだという。
白田の復帰効果か、現在、広島パイレーツはセリーグ二位と好調を維持している。
彼の十年ぶりの出場、それはこのオールスターにおいて最も注目されているポイントの一つだ。
陽翔にとっては、子供のころのプロ野球オールスターに出ていた、まさにレジェンドいえる存在。
交流戦では対戦がなかったが、この場で対戦できるのは、とても光栄だと思う。
パリーグの攻撃は九番キャッチャー、福岡シーホークスの嘉山から。
白田はツーシーム、カットボールを使い分け、嘉山、そして一番の秋川を連続で内野ゴロに打ち取った。
ベテランの技巧が光る、なんというか、円熟味のある投球だと陽翔は思った。
さきほどまでの両リーグのピッチャーといえば、みんな150キロ中盤以上の速球を投げ、切れ味溢れるスプリットで三振を奪うという、ぱっと見で凄さの伝わる豪快な投球がほとんどだった。
それに対して、白田の投球はどっちかという大人向けというか、玄人志向のものだった。
内角に外れるストレート――決して打ってもフェアゾーンには飛ばず、かといってバッターの体には決定当たらないポイントにボールを投じ、バッターの意識を内角に置く。
打ち気に逸ったバッターをあざ笑うかのような、外から内へ、内から外へ入っていく変化球でひっかけさせる。
白田の術中にはまったバッターの、力の無いゴロが内野に飛ぶ。
この老獪なピッチングこそ、四十歳近くなってもメジャーで活躍しつづけた白田の真骨頂だろう。
ツーアウト、打席に二番の柳沢が左打席に入る。
一球目、二球目、ストライクゾーンぎりぎりの変化球でカウント稼ぎ、ツーストライク。
対柳沢も、白田のペース、そう思った矢先だった。
閃光が飛びでるような、痛烈な打球がライトに飛ぶ。
内角からさらに内側を抉るように入ってくるカットボールを、柳沢は強引に打っていき、しかも完璧に捉え、おまけにライトスタンドのフェアゾーンに入れた。
ソロホームラン、パリーグのリードは一点から二点に広がる。
白田と柳沢の対決は、技術VSパワー、形容するならそんな感じ。
まさにオールスターな対決だと思った。
続いて打席に入ったのは陽翔だ。
柳沢ほどではなかったが、陽翔も内角のカットボールを右中間に運んだ。
二塁打となり、今日はこれで三塁打、シングルヒット、二塁打と猛打賞になった。
二打席連続ホームラン中の三浦が打席に立つ。
大阪ドームは当然、三打席連続を期待する声で溢れる。
しかし、そこは白田の投球術が勝った。
変化球中心で攻め、最後は外角の外からストライクゾーンに入ってくる変化球、いわゆる“バックドア”で三浦を見逃し三振に切って取る。
打ち取った白田、そして打ち取られた三浦も軽く笑顔を見せた。
◇◇◇◇
「お前、次ホームラン打てばサイクルヒットじゃねえか」
何人ものパリーグ代表の面々にそんな言葉を言われる。
サイクルヒットとは、一試合で単打、二塁打、三塁打、本塁打を全部記録すること。
陽翔自身は、白田からツーベースを打った瞬間は、自分があとホームランを打てばサイクルヒットになるなどまったく気づかず、チームメイトに言われて状況を理解した。
試合はリードを許したセリーグが、パリーグに追いすがる。
六回に一点、七回に一点を返し、スコアは5-5と、ついに追いつく。
対してパリーグ選抜は、セリーグ中継ぎ陣相手から追加点の気配すらない。
八回裏、セリーグのマウンドには名古屋ウイングズのストッパー、ラファエル・マルティネスが登場する。
セリーグにて、いや日本プロ野球にて現在最強の抑えといえば誰? という問いに対し、福岡シーホークスのエリック・サファットと並んで名前が挙がるのが、このラファエル・マルティネス――通常ラファマルだろう。
160キロを超えるストレートに加え、打者直前まではストレートと同軌道から急速に横へと滑るカットボールに、急速に失速しバッターを崩すチェンジアップ。
今シーズンは未だ失点は最小の1で、防御率は限りなくゼロに近い0.32。
セーブ失敗は一度もない。
去年の被本塁打はわずかに一本で、交流戦で三浦に打たれたのみだ。
今年の打たれた本塁打はゼロで、九回を投げた際に何個三振を奪うか、という指標の奪三振率は脅威の15%。
投げている球を見れば、メジャーでだってトップクラスの抑えになれるはず。
そんな彼がなぜ日本でプレーとしているかというと、社会的事情でしかない。
キューバ出身の彼は、キューバと関係性が悪いアメリカのチームと契約を結ぶことができない。
彼がメジャーでプレーするには、多くのキューバ出身選手がそうしているように、亡命する――祖国を捨てるしかない。
生まれた国の事情によって、日本でプレーしているだけ。
いってしまえば、バリバリのメジャーリーガーが日本でプレーしているようなもので、このような圧倒的な成績を残しても当然かもしれない。
マルティネスに対するパリーグ打線は二番の柳沢から、三番の陽翔、四番の三浦へとつながる打順だ。
今日のパリーグの全安打は六本、そのうちの五本がこの三人が占める。
全五得点にいたっては、柳沢の一本と、三浦の二本のホームランによってもたらされたものだ。
マルティネス対この三人の対決に、おそらく実況はかなり期待を込めて囃し立てていることだろう。
柳沢が打席に立つと、マルティネスは早いテンポで三球連続、ストレートを繰り出した。
全球160キロ越えの直球勝負。
勝ったのは、
「ストライクっ! バッターアウトっ!!」
気持ちの良いストレートに、気持ちの良いフルスイング、球審の声、ジェスチャーもいつにも増して大きかった。
ほぼ、ど真ん中のストレートだった。
柳沢はフルスイングで迎え撃ったが、捉えきれず、二回後ろにファウルが飛んだ。
最後はまたも真ん中のストレート。
柳沢のバットは空を切り、ヘルメットが頭を離れ、地面に落ちた。
ドームは一瞬息を呑んだような間が生まれた後、拍手が巻き起こった。
「ありゃすげえや」
ダグアウトに戻る途中、陽翔とすれ違った柳沢は苦笑いだった。
柳沢といえば、速球にめっぽう強いはず。
150キロを超えるストレートに対する打率が昨年、両リーグ一位だったっけ。
その柳沢が三回真ん中にストレートを投じられ、前に飛ばないのだから、球速表示以上のスピードを打席では感じるのだろう。
『三番、センターフィールダー、いがらしーはるとー!』
ここは大阪ドーム。
カウボーイズの本拠地。
オールスターだけど、いつもと変わらないスタジアムDJの声。
ドーム中に、陽翔のホームラン――サイクルヒットを期待する声が乱れ舞って、やがて陽翔の個人応援の一つへと重なっていく。
ドームの声が一つになる。
ラファエル・マルティネスは陽翔を見ると、ニヤッと笑った。
おそらく自分に対しても、ストレート勝負、という宣言だろう。
初球、打った瞬間、不思議な感触があった。
低めの160キロストレートに、何も考えずバットが出る。
バットにボールが乗ったというのに、全然重さを感じない。
顔を洗うとか、ドアを開けるとか、ラーメンを啜るとか、日常生活の慣れ親しんだ、当たり前の行為ぐらいスムーズなスイングに感じた。
打球は、いつのまにかセンターバックスクリーンに突き刺さっていた。
おそらく、陽翔史上最高飛距離のホームランで、推定で140メートル近く飛んだ。
ホームランで、6-5とパリーグが勝ち越す。
大歓声の中、ガッツポーズをすることもなく陽翔は戸惑っていた。
今までホームランは何本も打ったことがあるけど、初めての感触が手に残っている。
あの、ラファマルの重いストレートを打ったというのに、まるでソフトテニスの軽すぎるボールを打ったみたいな感触だ。
「どうしたんだ、打ったってのに、変な顔して」
ダイヤモンドを一周し、迎えた三浦に言われたが、陽翔は「いえ…」としか返せなかった。
体に力が入っていない力感の無いスイングで、あの飛距離。
もしかしたら、あれが自分のスイングの理想形なのかもしれない。
三浦の打席でも快音が響き、彼の今日三本目のホームランを期待する観客は立ち上がった。
でも、打球はセンターフェンスを越えようかというところで失速し、センターのグラブに収まった。
マルティネスの剛球が三浦のスイングに勝った形か。
柳沢、そして三浦相手にストレートで押し勝った相手に、自分はホームランを打てた。
試合はそのまま、6-5でパリーグの勝利となった。
今日一番活躍した選手に与えられるMVPは、サイクルヒット達成の陽翔が受賞した。
◇◇◇◇
11.牛を飼う名無し
三浦「二打席連続ホームラン」
森本「三回無失点五奪三振」
三浦森本「MVP逃しました」
18.牛を飼う名無し
>>11
おかしなことやっとる
22.牛を飼う名無し
>>11
サイクルヒット相手じゃしゃーない
31.牛を飼う名無し
サイクルヒットもだけど最後の五十嵐のホームラン飛距離やばくね
38.牛を飼う名無し
>>31
140メートルは飛んでたな
44.牛を飼う名無し
>>31
三浦のホームランみたいだった
51.牛を飼う名無し
五十嵐は中距離ヒッターで基本ヒットの延長線上がホームランみたいな感じでシーズン通して20,30本が限界な感じかと思ったけど
いつかホームラン王とるんじゃねって思った
来年からは三浦おらんし




