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2話 新天地

 大阪カウボーイズ一筋14年、大した選手ではなかった。

 しかし、ファンからは“山さん”と呼ばれ愛された男、山田やまだ幸四郎こうしろうは昨年、惜しまれつつも引退した。


 球団に引退を勧告され、近年感じていた限界を素直に受け止め、引退を決めた。 

 山田が選んだ第二の人生は、十四年在籍した球団の二軍コーチ。

 オフシーズンを終え、今日から、第二の人生が始まる。

 春キャンプ初日、山田は沖縄にいた。


 近年、というか二十一世紀に入ってからのカウボーイズは暗黒時代といえる。

 ペナントにおける半分より上の順位、つまり三位以上の成績であるAクラスは、たったの三回。

 直近のAクラス入りは10年前の話で、最下位は10回以上、昨年も当然のようにドベだった。


 しかし、そろそろ上を狙う機運がチーム内に高まってきた。

 カウボーイズには、エースの森本もりもと怜央れお、主砲の三浦みうら豪成たけなりという、投打の核二人がいる。

 彼らが全盛期を迎えるであろうここ数年に向け、フロントはチーム作りを進めてきた。

 ドラフトでは即戦力というよりも将来を見据えた指名を行い、若い選手を我慢して使ってきた。


 昨季は最下位だったが、投打ともに若い選手の活躍が目立った。

 森本は最優秀防御率、三浦は首位打者を獲得と、チームの柱もさらに凄みを増してきている。

 数年にもわたる戦略と我慢が実を結び、花開く。

 そんな予感をさせるのに充分なシーズンだった。


 この二軍にも、カウボーイズの未来を背負う選手たちが揃っている。

 彼らために粉骨砕身ふんこつさいしん、自分のすべてを授けることが自分の仕事。

 それこそが、こんな大したことの無い選手を十年以上も飼ってくれ、コーチの仕事まで与えてくれた球団への恩返しだ。


「何すか、話って?」


 山田は今シーズンからカウボーイズに加入した、五十嵐陽翔を呼び出した。

 彼もまた、チームの未来を背負う者の一人。

 彼を呼び足したのはチームの、彼への育成方針を伝えるためだった。


「五十嵐、単刀直入に聞くが、お前の持ち味は何だと思う?」


「えっ?」


 唐突な質問に、五十嵐は一瞬戸惑っていたが、すぐに答えた。


「足と……あと守備はどこでも守れますから、ユーティリティ性ですかね」


 妥当な答えである。

 山田が思う五十嵐の持ち味も、彼が言ったそのままだと思っている。

 だが、カウボーイズの一軍監督である大黒おおぐろ喜教よしのりと、四番、三浦豪成は、そうとは考えていなかった。


 だから、五十嵐はこの場にいるのだ。


「ふむ。確かにそれもある。だがな、うちとしては、お前の一番の持ち味は打撃だと思っている」


「えっ?」


 五十嵐は先ほどより強く戸惑っていた。

 実のところ、山田自身も自分の言っていることを信じてはいない。

 ただ大黒監督がそういう方針で五十嵐を育てると決めた以上、自分はそれに従わなければならない。


「チームとしてはお前をウォーリアーズのときような、守備固めや代走メインのサブとしての扱いをしないつもりだ。

 一から鍛え上げ、数年後、上位打線を任せられるような主力になることを期待している。まずは体作りからだな」


 五十嵐は、ぽかんと口を開いていた。

 無理もない。

 おそらく前所属のウォーリアーズでは、バッティングに期待しているとか、上位打線を担って欲しいとか、言われたことがないはずだ。


「は、はい! 俺、頑張ります!」


 ようやく五十嵐は言葉を返してきた。

 その日から、彼の肉体改造の日々が始まった。


 ◇◇◇◇


 春キャンプも終わりかという頃、山田はある人物に電話をかけた。


「山さん。何か用ですか?」


「調子良さそうだな。三浦」


 彼がスマホ越しに話しているのは、カウボーイズの四番、三浦俊成である。

 山田は高卒二年目に早くも台頭してきた三浦を見て、彼こそが、カウボーイズの長きに渡る低迷期を終わらすことのできる逸材だと感じた。


 実際、彼は飛ぶ鳥を落とす勢いで成績を残していく。

 三年目には本塁打王、四年目には本塁打と打点王の二冠、五年目には首位打者と本塁打王の二冠、そして六年目の昨季は首位打者と打点王、そのすべてのシーズンで、ファーストのベストナインに選ばれた。


 山田は三浦に目を掛けてやり、彼が選手としてプレーしやすい環境を作ってやった。

 彼の活躍の一厘ぐらいは、自分のおかげだと思っている。

 だが、この無愛想な男は山田への感謝など、一切持っていないだろう。

 こいつはそういう男だ。


「お前が絶賛した五十嵐陽翔だが」


「ああ」


「めちゃくちゃ熱心にトレーニングしてるよ。よっぽど、お前や大黒監督に期待されてんのが嬉しいらしい」


「ふーん、まあなんにせよ頑張って欲しいですね。あいつも、俺の計画・・に必要な人間の一人なんで」


「計画……?」


「山さんには関係ないことですよ」


 三浦がニヤリと口角を上げた姿が山田の頭に思い浮かんだ。

 何年もの付き合いになるが、未だに三浦の考えていることを理解できないし、恐ろしさを感じることばかりだ。


 しばらく沈黙が流れた。

 三浦と会話していると、こちらから話題を振ってやらないとすぐにこうなる。


「しかし俺にはわかんねえよ。コーチの俺が言うべき言葉じゃないかもしれんが、あいつが本当に打線の上位を打つようなバッターに育つんかね。まあ確かにそれなりにセンスはあるかもしれんが、言うほどか? と思う」


「山さんは見る目がないから」


「失礼だな。俺はお前がすごいバッターになることはすぐにわかったぞ」


それ(・・)は、誰から見ても明らかだったでしょう」


「そうかいそうかい」


 三浦は、歯に衣着せぬ言動を躊躇なくする。

 そのせいで、チームメイトと不穏な雰囲気になることも多々あった。

 その度に折衝役となったのが山田だった。


「まあ確かに、普通の人にはわからないでしょう」


「……信じられねえが、お前や大黒監督が絶賛するってことは、そういうことなんだろうな」


 大黒監督は現役時代、首位打者、本塁打王、打点王を同時に獲得する――三冠王を三度も獲得するという大偉業を成し遂げた。

 そんな偉大な人と、今やカウボーイズどころか日本の四番である三浦が言うのだから、五十嵐陽翔は大成するのだろう。

 山田は、大黒監督、三浦、そしてなにより五十嵐の可能性を信じてみることにした。


 ◇◇◇◇


 陽翔はシーズンの序盤、思うように結果がでなかった。

 激しいトレーニング、フォームの改造、それらの合間を縫って二軍の試合に出たが、やはり、まだ体が思うように動いてくれなかった。


 ただ七月を過ぎた頃から、やってきた努力が実り始めたか、スイングが見違えるほどに鋭くなった。

 二軍での打率は三割を超え、ホームラン数も二桁に乗せた。


「俺いつ一軍上がれるんすか?」


 八月を過ぎた頃から、陽翔は頻繁に山田へ聞くようになった。


「一軍はAクラス争いしてるからな。いつもならこの時期にはドベ争いか、もしくはドベ決定してるかで、若手に経験積ませてやれるんだが……」


 一軍は現在、パリーグ四位、数年ぶりのAクラス争いのまっただ中である。

 なんといっても最多勝レーストップのエース森本怜央を中心に、投手陣が頑張っている。 

 野手は……いつも通りの三浦頼みであったが。


「まあ五十嵐、お前は今年から選手としての再出発を切ったんだ。うちに来たのも今年からだし、まだプロ一年目だと思って、気長にやれや。まずは、二軍でやることないぐらい結果を出すことだ」


 結局、陽翔が一軍に上がったのはシーズン最終戦。

 勝てば3位の可能性が出てくる、シーズンのラストにして最も重要な一戦の前だった。

 

 ◇◇◇◇


 事の発端は、カウボーイズ不動の遊撃手ショートにして三番打者、島岡しまおか壮太そうたが前日の試合で死球を受け、ケガをしてしまったことだ。

 チームからの離脱を余儀なくされた彼の代わりに、ショートを守れる陽翔に白羽の矢が立った。


 今日の試合は、カウボーイズの本拠地、大阪ドームで行われる。

 相手は宮城ネッツ、今季のパリーグ最下位のチームである。


 現在カウボーイズは4位、3位の千葉オウルズとのゲーム差はわずか1。

 カウボーイズが3位になるには、今日の試合に勝利することと、同時刻に行われる埼玉ブロンコスと千葉オウルズの試合で、オウルズが敗北するという二つの条件が必要となる。

 つまり、自力での3位はない。


 リーグ成績が3位以上のチームは、リーグ代表として日本シリーズに進出するチームを決定するクライマックスシリーズ、通称CSへの出場権を得られる。

 15年ほど前に始まったCSだが、カウボーイズが進出したのは未だ10年前の1回のみだ。


 リーグ最終戦にして10年ぶりのCS出場が決まるかという大一番、チーム内には、やってやるぞ! という機運、緊張感で溢れていた。

 ドームにやってきてすぐ、陽翔は大黒監督と話した。


「三番でショートです」


「えっ?」


 陽翔の大黒への印象は、恰幅のいい白ひげをたたえたおじいちゃん、お腹周りはだらしなく、常時ニコニコしているおじいちゃん。

 外見が与える印象だけだと、この人が現役時代、三冠王を三回獲得したレジェンドだとは思えない。

 ただの気の良いおじいちゃん、ウォーリアーズ森田監督の、周囲にプレッシャーを無作為にばらまく雰囲気とは真反対だ。


 もう五年もカウボーイズの監督を務める彼が陽翔に話したのは、驚くべきことだった。


「三番でショートです」


 同じ言葉の反復だ。


「俺がですか……?」


「うん。それが一番チームの勝ちに繋がると、私は思っています」

 

 さらっと柔らかい口調で監督は言った。

 陽翔は大きな唾を飲み込み、グッと両拳に力を込めた。

 シーズン最終戦、そしてカウボーイズにおけるデビュー戦、陽翔は三番ショートでスタメン出場することとなった。


◇◇◇◇


 676.牛を飼う名無しさん


 1(二)田中栞緑

 2(右)福田周人

 3(遊)五十嵐陽翔

 4(一)三浦豪成

 5(DH)アルバラード・ロペス

 6(三)前川航平

 7(左)本木直人

 8(捕)伊原祐樹

 9(中)宇内仁

 先発 結木亮


 677.牛を飼う名無しさん


 >>676

 うせやろ!?


 678.牛を飼う名無しさん


 >>676

 ヒエ……


 687.牛を飼う名無しさん


 >>676

 は?









 は?


 683.牛を飼う名無しさん


 >>676

 こんな大事な試合に今季初昇格の選手を三番で使うとか

 首脳陣頭いかれたか


 685.牛を飼う名無しさん


 精一杯五十嵐を三番で使う理由を考えてみると

 今のカウボーイズ打線は好調でかなり機能してるから打順を崩したくない

 →島岡が抜けたところにそのまま五十嵐を入れた


 688.牛を飼う名無しさん


 >>685

 打線の形を変えたくないのはわかるけど

 今シーズンの島岡の成績

 .302 17本 

 これと五十嵐が同レベルの働きする前提じゃないですかね…?


 690.牛を飼う名無しさん


 五十嵐がシーホークス先発の田中と2軍で相性良いのかなて思ったんだけど

 9打数1安打一四球


 別にそんなことは無かったんだが


 694.牛を飼う名無しさん


 >>690

 ワイもそう思ったのに

 なにがなんだかわからん


 697.牛を飼う名無しさん


 >>676

 陽翔きたあああああ

 頑張れー!


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