表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/43

11話 シーズン開幕戦③

 試合は5対4とカウボーイズがシーホークスを一点のリード。

 しかし、全然勝っている気がしない。

 一回に四点を先行しながらも、じわじわと追い上げられ、ついには一点差まで追い上げられた。


 この点差のまま残りの攻撃を迎えたいのか、シーホークスは勝ちパターンの投手を投入してきた。

 ライバン・モカイロ――サウスポーリリーフでパリーグ一番の投手が陽翔の前に立ち塞がる。


 既にツーアウトで、バッターは今日二本のホームランを放っているバッターが相手だ。

 モカイロは一発だけを警戒して最悪フォアボールとなって良いぐらいの考えだろう。

 しかしそれは普通の状況ならばの思考だ。


 陽翔の次は四番の三浦だ。

 三浦が後に控えている状態では、相手バッテリーは陽翔と勝負せざるを得ない。


 いかに調子が良さそうといえども、三浦よりは陽翔の方がマシだと考えるだろう。

 あと、陽翔は左打者で、三浦は右というのもある。

 左投げのモカイロは、右打者よりも左打者を断然得意とする。


 相手バッテリーは積極的にストライクを取りに来ると思い、初球から振りにいこうと陽翔は決めていた。

 だが、


「ストライク!」


 球審の右腕が上がる。

 外角低めへのストレートに、手が出なかった。

 振りに行っても中々ヒットにはならない球ではあるが、まったく手が出せなかったのはショックだった。


 これほどの左ピッチャーと対戦したことは無い。

 自分には経験が足りない、そう痛感させられる。

 それでも、思う。

 だったら打席内で慣れればいいだけだ。


 二球目はチェンジアップ

 低めへと緩んでいくボールを見逃すと、判定はボール。


 三球目は、内側から真ん中に向かっていくスライダー。

 コース自体は甘かったのかもしれないが、手が出ないほどのキレ。


 四球目、体に近いところへのストレート。

 見送ってボール、カウントはツーボールツーストライク。


 五球目、カーブ。

 これは逃げてファウル。


 これでモカイロの主要な球種は見た。

 あとはどうするか、打てる球を待つだけ。


 六球目はストレートをファウル。

 七球目はチェンジアップをファウル。

 八球目はスライダーが外に外れ、ボール。


 フルカウントになった後の九球目、十球目もファウルで逃れた。

 そして十一球目、


「ボールフォアッ!」


 低めのチェンジアップを見送り、陽翔はフォアボールで出塁する。


『四番ファースト、三浦豪成』 


 二死一塁、バッターは主砲の三浦という場面だ。

 陽翔は、盗塁を考えた。


 カウボーイズ首脳陣は陽翔にグリーンライト――自分の意志で盗塁をしていい権利を与えている。

 もしここで二塁へ進むことができれば、状況をワンヒットで一点を得られる場面へと変えられる。

 三浦であれば、シングルヒットを打つことなど容易いだろう。


 最近こそ打撃で売っている陽翔だが、本来の持ち味――プロ野球に入れた理由はだ。

 この場面こそ、自分の持ち味を出す時だ。


 初球、陽翔はスタートを切った。

 一瞬本塁側を確認すると、三浦はモカイロが投じたストレートを見送っていた。


 一歩一歩地面を蹴る。

 二塁ベースへ向けて足を回し、最後はスライディング――右足から飛び込む。

 本田セカンドがボールを持ったグラブでタッチに来るが、もう遅い。


「セーフ!」


 二塁審は迷わず判定した。

 二死二塁、得点圏へと陽翔は進む。

 これは大きい盗塁、そう陽翔は自画自賛した。

 しかし、それは無駄だったのかもしれない。


 モカイロの二球目、三浦は強く振り切った。

 高く舞い上がった打球は、速度を落とすことなくレフトスタンドに突き刺さる。


「うーむ……」


 陽翔は決死の盗塁が徒労に終わった気分だった。

 実際のところ自分の盗塁は少なからず相手のメンタルや投球、三浦の狙い球に影響を与えただろうから、無駄だったことはないはず。


 しかし、こうもあっさりとホームランを打たれると、なんだかやるせない。

 ついでに、せっかく陽翔も二本のホームランを放ったのに、また影が薄くなるなあ、なんてことも思う。


 陽翔は先にホームを踏み、三浦を出迎えた。

 一応ハイタッチを交わしたが、三浦は無表情だった。

 やっぱこの人は凄い、そう思った。


 7対4、三浦の今日二本目のホームランはカウボーイズのリードを三点に広げる一発となった。


 ◇◇◇◇


 八回表の一発で、流石に試合の大勢は決したと誰もが思っただろう。

 しかし、今日の試合はまだまだ揺らぐ。

 シーホークスはなおも追いすがる。


 八回裏、カウボーイズのマウンドには不動のセットアッパー、勝ち試合の八回を任せられている佐山が上がった。

 シーホークスの打順は一番からだった。

 出塁率の高い一番の本田、二番の川端を相手に佐山はテンポの良い投球を見せる。

 二人連続で内野ゴロに打ち取る。


 しかし三番、柳沢に初球を打たれる。

 センターを守る陽翔の遥か上空を駆ける、バックスクリーン直撃の一撃だった。


 柳沢も今日二発目だ。

 陽翔、三浦、そして柳沢と三人も二本のホームランを放つとは、この試合はどこかおかしい。


 佐山は後続もランナーを許した。

 それでも最後は六番のライヤ―を空振り三振に打ち取り、この回を終えた。


 7対5、二点差に変わる。

 落ち着く素振りを見せないカウボーイズとシーホークスの開幕戦は、最終回にドラマがあった。


 九回表、シーホークスのマウンドには勝ちパターンの一人、森村が上がる。

 森村は六番から始まるカウボーイズの攻撃をあっさりと三人で切り取った。


 最後の攻防、九回裏、カウボーイズベンチはもちろんストッパーをマウンドに送る。

 コディ・アレンビー、来日三年目の不動のストッパーだ。


 二点差の九回裏、首脳陣にとっては満を持した投入だっただろう。

 昨季34セーブのアメリカ出身右腕への信頼は、首脳陣、選手ファンと、全方位から厚い。 

 普通の試合なら、アレンビーはなんなく試合を締めていただろう。


 しかし、今日の試合は普通じゃない。

 開幕戦の荒れた雰囲気は、アレンビーをあっさりと飲み込む。


 シーホークスの攻撃は七番の下川からだった。

 下川は二球目をヒットにし、ノーアウト一塁となる。


 八番の東口相手にはストライクが入らなかった。

 四球連続でボールとなり、フォアボール。


 無死一二塁、九番の嘉山は送りバントを決める。

 ワンアウト二三塁と、得点圏に同点のランナーが進む。


 さらに一番の本田は、フォアボールを選ぶ。

 そして、二番の川端は、


「デッドボールッ!」


 アレンビーの投じた160キロ近いストレートは川端の太ももへと当たった。

 川端は苦悶の表情を浮かべた。

 治療のため、一瞬、川端はベンチ裏に下がったが、すぐ元気そうにグラウンドへ戻ってきた。


 その間に、アレンビーの交代が告げられた。

 こうもストライクが入らないとしょうがないだろう。


 押し出し死球で再び一点差となった場面でマウンドに上がったのは、ルーキーの木嶋だった。

 社会人からドラフト一位でカウボーイズに入団した木嶋は、当然のことながら今日がプロ初登板。

 九回裏、一点差、ワンアウト満塁、バッターは今日二本塁打の柳沢と、ルーキーには酷すぎる場面だった。


 柳沢の名がコールされる。

 ドームの360°から大歓声が上がり、彼の登場曲である有名アニメの主題歌が流れる。

 興奮の坩堝、柳沢が左打席に入る。


 シーホークスのチャンステーマがドームを包む。

 異様な雰囲気の中、木嶋が柳沢に渾身の球を投げ込む。


 快音が鳴った。

 鋭い打球が、陽翔センターの前方左を襲う。


 陽翔は数歩前へ走り、飛び込んだ。

 伸ばしたグラブが、ボールをしっかりと掴む。

 ノーバウンドキャッチ、これでツーアウト。

 誰かが言った、「バックホーム!」と。


 三塁ランナー東口がタッチアップでスタートしていた。

 陽翔は立ち上がり、本塁へ送球する。

 狙い通りの送球が、坂本キャッチャーへと届く。

 東口はタッチを交わしにかかるが、無駄だった。


「アウトッ!」


 球審が強く右腕を振るった。

 タッチアップ失敗でスリーアウト。

 7対6、長かった試合が終わる。


 チームメイトに祝福をされ、試合後のヒーローインタビューを受けた。

 今日の試合はどうでしたか? と問われた陽翔の第一声は「疲れました」だった。

 長い試合、息もつかせぬような展開に、呼吸がずっと苦しかった。


 カウボーイズとシーホークスの開幕戦はカウボーイズの一点差勝利で終わった。

 これが今シーズンずっと続く両チームの優勝争い――熾烈しれつなデッドヒートの始まりだった。


 ◇◇◇◇


 678.牛を飼う名無しさん


 疲れた……

 開幕戦からなんちゅう試合してんねん


 690.牛を飼う名無しさん


 最後柳沢の打球終わったと思ったわ

 五十嵐の守備範囲広すぎだし

 肩も強すぎ


 699.牛を飼う名無しさん


 あんな体勢からよくあんな送球できるわ


 702.牛を飼う名無しさん


 五十嵐は本来守備走塁の選手だからな

 なぜか打撃が覚醒して完璧な5ツールプレイヤーになったが


 712.牛を飼う名無しさん


 三浦もすごかったけど

 ほんま今日は五十嵐の日やな


 718.牛を飼う名無しさん


 シーホークスもいやらしすぎる

 どんだけ追いすがってくんねん


 732.牛を飼う名無しさん


 >>718

 これで打線に近城やグラテアル欠いてるからな

 完全体になったら恐ろしすぎる


 741.牛を飼う名無しさん


 >>732

 左のエースの林崎もケガでおらんしなあ

 層厚すぎてそりゃ解説者全員圧倒的優勝にしますわ


 751.牛を飼う名無しさん


 >>741

 あいついつ復帰すんの?


 753.牛を飼う名無しさん


 >>751

 オールスター前くらいらしい


 768.牛を飼う名無しさん


 とにかく面白い試合だった

 今年は楽しめそうだな

やっとあらすじ通りの一年間を始めることができました。

頑張って続き書いていきますので、いいね、評価、感想、レビューなど頂けるととても嬉しいです。

今後もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 守備、走塁が得意な選手が打撃覚醒して5ツールプレイヤーになる設定が良き。 毎回少しだけファンの反応があって見てて楽しいです。 メインはこの一年だろうけどずっと続いて欲しいですね。 [一言]…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ