10話 シーズン開幕戦②
大阪カウボーイズと福岡シーホークスの開幕戦、試合は初回から動いた。
一回の表のカウボーイズの攻撃は、一番島村、二番パーキンスが連続ヒット、さらには三番の陽翔、四番の三浦の連続ホームランで一気に四点を奪う。
難攻不落かと思われたシーホークスのエース千堂からの、願ってもない出来すぎな展開だった。
一回の裏シーホークスの攻撃、守るカウボーイズのマウンドにはエースの森本玲央が上がる。
森本はシーホークスの上位打線、一番本田、二番川端、三番柳沢を三者連続三振に切って取る。
千堂が四点も取れられたことで異様な雰囲気のマウンドになったが、完璧なスタートを切る。
二回の表、初回に先制パンチを食らった千堂だったが、二回は立ち直りを見せる。
カウボーイズは八番からの攻撃だったが、三人連続で空振り三振を喫する。
これにより二回表終わって、千堂と森本が奪ったアウトはすべて三振となった。
一回表の四点こそあれ、これからは前評判通りなかなか点が入らない展開が続くのではないか。
ならば有利なのは、先に四点奪ったカウボーイズだ。
ドームにいるすべての者がそう予感しただろう。
しかしそうさせないのが昨年の日本一、試合強者なシーホークスだ
二回の裏のシーホークスの攻撃は、四番の松山武彦だった。
松山は森本のパワーカーブを叩き、右中間を真っ二つに割るツーベースヒットを放つ。
五番のキューバ出身の巨漢男、ホルヘ・デルパイネはライトの深いところへフライを打つ。
その間に二塁ランナーの松山は三塁へ進塁する。
一死三塁のチャンスで打席に入ったのはアメリカ出身の新外国人、デヴィッド・ライヤー。
右打者のライヤーへの初球、バッテリーは内角へのストレートを選択した。
ライヤーは見事にストレートをさばくと、打球はレフト後方へのフライとなった。
犠牲フライには十分で、松山がホームへと帰ってきた。
シーホークスが一点を返す。
この回、森本の投球に悪いところはなく、点をあっさりと取ったシーホークスの中軸を褒めるしかない。
序盤にリード、マウンドにはエース森本、この状況でもまだまだ油断はできないと陽翔は思った。
そして三回の表、陽翔の今日二度目の打席がやってくる。
先頭は二番のパーキンス。
一回は千堂から見事にヒットを打った彼だったが、本領発揮した千堂の前にあっさりと三振に倒れた。
ストレート二つで追い込まれ、千堂最大の武器、フォークの前にバットが空を切る。
これで千堂は一回の表から七者連続三振。
今日の試合のアウトはすべて三振でとっている。
『三番センター、五十嵐陽翔』
左打席に入って、思考を整理した。
千堂からは初回にホームランを打ったが、そのイメージはもう忘れた方がいいだろう。
三浦にホームランを打たれて以降は完璧に立ち直ったか、コントロールミスがなく、打てる球が一個もなかった。
初球、相手バッテリーは外角低めへのストレートを選んだ。
「ストライク!」
ストライクゾーンぎりぎりを通った球は、ズバッと嘉山のミットに収まった。
今のは振りにいってても打てないだろう。
二球目、今度はタイミングをずらしてきた。
打ち気にはやった陽翔をあざ笑うかのよう、ボールは失速し、やってこない。
ドロリとストライクゾーンを斜めに割っていくカーブが、ストライクゾーンを悠々と過ぎていく。
あっさりと追い込まれた。
こうなってくると“フォーク”を警戒しないといけない。
今も続いている七者連続三振のうち五人のバッターは、フォークによって空振り三振を喫している。
バッテリーは、一球高めへと外れていくストレートを挟んだ。
そして四球目、千堂の右腕が放ったボールは予想通り、フォークだった。
陽翔のベルトの高さ――最も打ち頃の高さから、突然消えるように鋭く落ちる。
でも、それは知っている。
ボールを掬い上げる。
一打席目のホームランより速度はなかったが、角度があった。
バレルゾーン――打球速度、角度の理想的な数値――に乗った打球は、スタンドまで届く。
今度はセンター後方、バックスクリーンだった。
これで5-1、チームとしては一点を返された直後、千堂の調子がうなぎ上り、こういったタイミングでホームランを放てたのは大きい。
千堂は膝に手をつき、項垂れていた。
陽翔個人にしても、もちろん大きいホームランだった。
もう自分の実力を疑わない、疑う者もいない。
オフにやってきて、オープン戦でできていたことが、問題なくシーズンでも発揮できている。
千堂という好投手相手にも、自分の土俵で勝負できた。
充実感が心身に溢れる。
二打席連続ホームラン、最高のシーズン開幕である。
ちなみにこれで陽翔は、一昨年のウォーリアーズ時代の最後の試合、昨年のシーズン最終戦、そして今日の試合と、三年間にまたがっての三試合連続となるホームランを放ったことになる。
◇◇◇◇
両チームのエースにより投手戦。
誰もがそう予想した開幕戦は、思わぬ方向へと進んでいく。
陽翔のホームランで5-1となった直後の三回裏にも試合は動く。
先頭のシーホークス八番、東口晃生が四球で出塁する。
足のスペシャリストである彼は、盗塁を簡単に決めてしまう。
無死二塁となり、九番の嘉山は送りバント。
一死三塁から一番の本田は犠牲フライには十分のライトフライで、東口がホームへと還ってくる。
これで5対2。
さらには四回、シーホークス打線の核であり日本代表の正中堅手、柳沢が森本のストレートをライトスタンド上段へとぶちこむ。
これで、5対3。
じわじわと点差が詰まる。
結局、森本は6回3失点と本来の無双的投球を見せつけられなかった。
対してカウボーイズ打線は、四回以降奮わなかった。
代わる代わる出てくる高品質なシーホークス投手陣に手も足も出なかった。
千堂は三回でマウンドを降りた。
代わって四回、五回とマウンドに上がった田山は、カウボーイズ打線を6人連続で打ち取り、勢いを完全に鎮火した。
チェンジアップが武器の若手左腕の前に、陽翔も空振り三振を喫した。
六回は大型速球派右腕、杉原がマウンドに上がる。
彼もまた、完璧な投球を見せる。
七回にマウンドに登った猪野も、文句の付け所がない投球だった。
気づけばカウボーイズ打線は、四回から十二人連続でアウトに打ち取られた。
恐るべきことは、四回以降に投げた三人の投手はシーホークスのピッチャー陣の中でも序列の低い――力の劣る選手たちであることだ。
ともすれば他球団であれば勝ち試合に投げるようなピッチャーが、ビハインド――負け試合でも出てくる。
シーホークスの投手陣の潤沢さ、選手層の厚さが感じられ、陽翔は昨季日本一の所以を知った。
まだ勝っているのに、アウェーな雰囲気も相まって、嫌な予感しかしない。
その予感は当たる。
七回裏、カウボーイズのマウンドには平山が上がる。
平山はこの回の先頭、六番のライヤ―を打ち取ったものの、平凡なゴロをサードの前川がエラーをした。
無死一塁、試合強者はこのミスを逃すような真似をしてくれない。
犠打、バッテリーミス――ワイルドピッチなどを絡め、最後は内野ゴロの間にライヤーがホームを踏む。
5対4、ついに、一点差に詰め寄られる。
全得点をホームラン三本で挙げているカウボーイズに対し、シーホークスは柳沢のホームラン以外、繋いで点を取っている。
特に下位打線がいやらしい。
全員よく球を見て、粘って、塁に出れば小技を仕掛け来る。
少しこっちがミスをして塁に出してしまうと、しっかりと塁を進めホームまで還してくる。
パワー溢れる中軸だけでなく、下位打線も仕事人揃いなのがシーホークス打線だ。
なんとか七回裏は一点で凌いだ。
だが、試合は完全にシーホークスの流れだった。
流れを確実に持ってこようとシーホークス監督の秋本は、ビハインドながら勝ち試合を締めに行く――勝ちパターンの投手を投入する。
マウンドに上がったのはライバン・モカイロ――キューバ出身の豪球左腕だった。
モカイロは来日五年目、四年間シーホークスのセットアッパーとして活躍してきた。
150キロ中盤のストレート、落差とスピードを持ち合わすカーブ、スライダー、チェンジアップにより日本のバッターを翻弄し続けた。
右打者に対しても被打率二割前半と優秀だが、対左打者に至っては一割だ。
左打者の陽翔にとっては、難敵だ。
この回の先頭は打順よく一番の島岡から。
しかし、左の島岡にとってモカイロを打つのは容易でない。
島岡は簡単に見逃し三振。
打てる気配がなかった。
二番のパーキンスは右打者であるが、だからといって、モカイロを打つのが簡単なわけじゃない。
左打者よりは打ちやすいとはいえ、右打者にとっても難敵には違いない。
力のないショートゴロに倒れ、ツーアウトとなってしまう。
『三番センター、五十嵐陽翔』
まずい流れなのは間違いない。
一点差に詰め寄られ、ここで上位打線が三人で終わってしまえば、シーホークスは俄然勢いづくだろう。
何としてでも塁に出て、次の三浦に回す。
決意を胸に、陽翔はパリーグ屈指の左腕と対する。
◇◇◇◇
588.牛を飼う名無しさん
モカイロ投入か
勝ちにきたな
601.牛を飼う名無しさん
嫌な流れすぎる
612.牛を飼う名無しさん
もう終わりだよこのチーム
632.牛を飼う名無しさん
>>612
まだ勝ってるのに
644.牛を飼う名無しさん
どうやって打つんだよこの化け物
651.牛を飼う名無しさん
頼みは五十嵐と三浦だけや
打ってくれ
667.牛を飼う名無しさん
左打者にモカイロはきついが
今日の五十嵐ならやってくれる気がする




