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聖女を見る

 アルビルに土産の魔法具『会話人形』を渡して迷宮の東側へと出たアラギウスは、ダークエルフ達が扮した行商人の一行を演じている。ゴブリンやコボルトはさすがにすぐばれるため、ダークエルフ達にターバンをして、人間の格好をさせている。


 ラビスが集めた絶対に信頼のおけるというダークエルフは五人で、男三人女二人という構成だ。そこにラビスとアラギウスが加わり、一行は荷馬車に満載した発掘品の数々を壊さないよう商人連合の中心都市グーリットを目指す。中央大陸にも船を出す港湾を抱えた東方大陸一の商業都市で、他大陸の物品も多く取引されている。


 道中、一行は魔物の群れとよく遭遇した。


 アラギウスは、すでに人間が支配する地域に入っているから、魔物相手に気軽に声をかけるなと皆に厳命し、遭遇すれば逃げるふりをして離れるといったことを徹底していた。すると、騎兵の一団が現れ、魔物達を追い回す。


「先生!」


 ラビスが、助けたいという意志でアラギウスを見たが、大魔導士は首を左右にふる。


「駄目だ。俺達はこれを売って食料を買う必要がある。街に入るまで我慢だ」


(無事に逃げてくれよ)


 祈る彼に、魔物を追っていた騎兵集団の隊長が駆け寄った。


「その方ら、何者か!? ゴズ山脈は危険ゆえ近づくなと布れが出ておっただろう?」


 騎兵が掲げた軍旗で、アラギウスは相手の国がわかった。


(ハイランド王国の貴族か……知らない奴だ……ハイランドが軍勢を派遣しているのか……それだけ、魔物の大移動が派手なんだな)


 彼はそう推測しつつ、説明はなめらかにおこなう。


「地下都市の遺跡調査です。発掘品をグーリットで売り活動資金にします」

「学者か……どこの者か?」

「南の、中央大陸から参りました」

「中央大陸? 本当か?」

「ええ、本当です。しかしながら、皆様ほどに勇壮な騎士様はなかなかお見受けすることありません。お名前を教えて頂けないでしょうか? 中央大陸に帰ったら自慢させて頂きます」

「はっはっは! よく言った! 我はハイランド王国のギー伯爵マイルズと申す! よく覚えておけ! 皆、行くぞ!」


 騎兵の集団がマイルズに率いられて去って行く。


(ハイランドの田舎諸侯でよかった。俺の顔を知ってる相手だったら面倒がおきていたかもしれない……)


 アラギウスは安堵し、一行に先を急ごうと伝えた。




-Arahghys Ghauht-




 グーリットは人口一〇万人が暮らす都市で、周辺の村々を含めた都市圏全体では十五万人を超す大都市である。各国の言語が飛び交い、様々な人種が行き交う街では、褐色の肌であるダークエルフがうろうろしていても目立たない。いや、堂々と歩いているエルフ、ドワーフ、ダークエルフの一行もいて、ラビス達は馬鹿らしくて頭を隠すのをやめた。


「中央大陸のイシュクロン王国から来たんだ。東方のローデシアにすばらしい国がつくられていると噂になっている。今なら移住し開発に協力すれば市民権をすぐに得られると聞いてさ」

「イシュクロンは終わりよ。ゴート共和国の侵略がひどいの。大和の支援も間に合わないわ」


(まずいな)


 移住希望者が多いと知ったアラギウスの感想だ。


 これは当然、人間にも広まっているものとみて探りをいれた。


「エルフやドワーフが多いね。なんでも中央大陸は戦争らしくて逃げてきたらしい。北のハイランドにあるエルフの森に行くんだと」


 移民たちは、ローデシアを目指していることを伏せている様子だった。それでも、なかにはうっかりと話してしまう者もいるだろうとアラギウスは案じて、早急に体制を整えないと詰んでしまうと焦る。


「先生、古物商があそこに!」


 ラビスの示す先に、古物商の看板があった。


 荷馬車をその店先に停め、手分けして品を店内へと運び入れると、まだ若い店主でアラギウスは驚く。


「いらっしゃいませ! お売り物ですか?」

「ああ、買い取りをお願いしたい」


 店主は名詞を差し出す。


『株式会社リオネル商会 代表ラシード・リオネル』


「俺はアラ……アランだ。考古学が専門で大陸のゴート共和国から来た。ゴズの地下都市で発掘した品々だ。売った金を調査費用にしたい」

「承りました! ちょっと失礼して拝見……え?」


 ラシードは運び込まれる品々を見て目を丸くする。


「これら、全部ですか?」

「まだある」

「あ、ダークエルフさん達がお手伝いを?」

「そうだ」

「旦那、中央大陸ではエルフやダークエルフの売買は合法ですが、東方大陸では完全な違法ですよ。大丈夫でしょうね?」

「彼らは奴隷ではない。弟子だ」

「はぁ……」


 ラシードは古代ラーグ文字が掘られた腕輪を手に取り、しげしげと眺め、飾りの宝石が本物のルビーであることに驚き、腕輪の作られた年代を掘られた文字から推測し、その価値がとてつもなく高いことに気付いた。


「……旦那」

「なんだ?」

「これ、とてもうちだけじゃ手におえないですねぇ」

「……どうしたらいい?」

「オークションにかけませんか? うちが仕切りに入らせてもらいます。売上の三割を手数料で頂く。どうです?」

「次もまたもってくる。まけてくれ」

「……二割で」

「頼む。あと、追加で依頼がある」

「なんなりと」

「食料の買付をしたい。商人を紹介してくれ」

「わたしの弟が穀物の取引を専門にしてますんで、そちらに声をかけてみましょう……旦那、どうして食料を?」

「理由が売買に必要か?」


 ラシードは運び込まれた品々を眺めて口を開く。


「俺はまだ三〇にもなっていない若造ですが親父に子供の頃から仕込まれています。この品々……地下都市で発掘したと言うなら、それは相当にもぐらないと駄目だ。というのも、上層は我々古物商がおおよそ目立つものは入手済みですよ」


 アラギウスは肩をすくめる。


「旦那、これらはゴズの地下都市よりも古い遺跡……ゴズ方面となると、ローデシアの大墳墓でしょう? ダークエルフの方々……旦那、俺は魔族と取引をして捕まりたくないんですがね?」

「そこまで言うのは取引をする気だな? いいだろう。お前は俺に騙されていたことにすればいい。俺はアラギウス・ファウスだ」

「アラギウスぅううううううううう!?」


 ラシードが驚いて後ろに倒れた。


 それを見てダークエルフ達が慌てふためく。


 店の従業員たちが何事かと代表へ駆け寄り抱き起した。


「やめるか?」


 アラギウスの問いに、立ちあがったラシードは首を左右に振った。


「オークション、仕切らせてもらいます。手数料は二割。ただし、条件があります」

「聞こう」

「専売契約を結びたい。今回、次回と二回。どうです?」

「いいだろう」

交渉成立ダン


 ラシードはそう叫び、従業員たちに叫ぶ。


「オークションを開く。皆に広めろ! でかいオークションになるとな! 明後日の午後五時開始! 場所はリオネル商会! 急げよ!」


 彼はその後、アラギウス達にもみ手をして尋ねた。


「宿の手配も、いたしましょうか?」


 こうしてアラギウス一行は、宿でのんびりとオークション開催を待つことになった……わけではなかった。




-Arahghys Ghauht-




 ラシード商会が紹介した宿は、世界各国からの渡航者が利用する施設で、ダークエルフが混じっていても問題ない宿であった。このあたりの気配りはさすがだとアラギウスは思い、最初に入った店がいい相手で良かったと思う。当初、値段を聞いて、アラギウスの値付けと開きがあれば取引しない予定であったが、ラシードはすぐに手におえないと正直に話し、さらに売主に有利なオークション形式を提案した。


 信用できる奴だとアラギウスは思っている。ただ、これはアラギウス達がもちこんだ品物がそれだけの価値があるからこその反応だとも理解していた。


 利益を齎さない者に冷たいのが商人であることも、彼は十分に知っていた。


 ラビス達は自由行動となり、アラギウスはひさしぶりに味わう人間達との会話に新鮮さを覚えて、街の中をあちこち見てまわった。


 古本を扱う店に寄り、魔道書の棚を眺めたが、彼の知識欲を刺激するものはなかった。


 外が騒がしい。


 アラギウスは店から通りへと出た。


 少年が、旅行者らしき男達に囲まれている。


 どうやらスリがばれたようだ。


「待ちなさい!」


 聞き覚えのある声に、アラギウスは視線を転じた。


 エリーネだ。


(どうしてここに!?)


 アラギウスは咄嗟に店内へと戻り、身を棚に隠して様子をうかがう。


「少年を大人達で囲むなど! そこに愛はありますか!?」


(お前が愛を口にするようになったとは……)


 男達は事情をエリーネに訴え、彼女は男達に告げる。


「少年は預かります。お前達は取り戻したのでしょう? この子はこちらが裁きます」


 男達は退散し、少年はエリーネに逃げられないように封印の魔法をかけられて運ばれていった。


(どうしてここに聖女が?)


 彼は騒動をみていた見物人に尋ねる。


「あれは聖女エリーネ様だろ? どうしてここに? 王都のなかの王都タリルガルにいらっしゃるのでは?」

「知らないのか? エリーネ様はローデシア調査に向かわれる。ここで支度をしているようだよ」


(最悪だ!)


 聖女がローデシアの現状を知れば、魔物がうようよといることがばれて、それこそ結界魔法で国づくりの邪魔をされるは必定だと予想する。


(オーギュスタ様に、エリーネを止めてもらう)


 ハイエルフのオーギュスタであれば、例えば「ここから先は遠慮なさい」という交渉を人間の、聖女であるエリーナにもおこなえる。エリーネも、大精霊で神にも匹敵する存在であるハイエルフ相手に、無理矢理おし通ることなどできないだろうと期待した。


 彼は急いで宿に帰りラビス達に頼む。


「頼む! すぐに二人ほど、ローデシアに急いでくれ」


 アラギウスが事情を説明すると、皆、誰が行くかと悩むことになった。


「先生、ここは先生が戻って、わたし達が商売を見守るほうがいいんじゃないでしょうか? 先生ならオーギュスタ様やミューレゲイト様への説明も正確でしょう?」


(たしかに)


 彼は悩む。


 ダークエルフ達に、ラシードとの交渉を任せていいものかと考える。


(だけど今は、ラビス達を信用するしかない)


 彼は急ぎ旅支度をして、街を出る前にリオネル商会に寄り、急いでローデシアに帰らないといけないことをラシードに告げた。


「承知しました。商人は信用第一。旦那、必ず十分な金額で売ってみせます」

「頼む。それと、その金で食料を買いつけて、ローデシアに運ぶ準備をしたい」

「さすがに陸路はまずい。海路になりますが、接岸できるようなところありますか?」

「ない……」

「砂浜は? 沿岸に商船を停泊させて、小舟で往復して運ぶ方法があります」

「わかった。落ち着いたら打ち合わせに来る。今はとにかくすぐに戻る」

「お気をつけて」


 アラギウスは、ひさしぶりに馬を駆った。


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