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組織をつくる

 冬も厳しくなり、雪がちらつき始めた。暦では終年月に入っていて、ローデシアであっても寒い。それでも北国に比べればマシだろうとアラギウスは思う。


 彼は魔法で炎を宙につくり、暖をとりながら魔道書を読んでいた。その彼の背に、ミューレゲイトは背をくっつける格好で床に座り、背の低い卓に並べた各地からの手紙を広げている。


 北方騎士団領の雪原に住む雪男からの手紙や、中央大陸の魔王アルフレッド・マーキュリーから届いた手紙の上に、その重要な手紙が広げられていた。


「アラギウス、エルフの三賢人のひとり、オーギュスタが来るらしい」

「オーギュスタが? あの冷血の女帝が?」

「ああ」

「ハイランド王国の森からだろ? 遠い。わざわざ何をしに来るんだ?」

「西側のダークエルフがわらわに協力してくれているのが気に入らないのかもしれない」

「三賢人はいずれも、ローデシアを見捨てて離れた者達だろ? ローデシアの森に残ったダークエルフは見捨てられたようなものだったじゃないか」

「だとしても、気に入らんのだろうな……出迎えはすべきだ。面倒でもな」

「エルフが喜ぶものでもてなすか?」

生命の水シングルモルトはここでは作れないからな……職人も施設もない」

「では、誠心誠意、お付き合いするしかないだろうな」


 ミューレゲイトはうんざりとした表情をつくった。




-Arahghys Ghauht-




 ハイエルフのなかでも長寿である三人のエルフを、三賢人と呼ぶ。


 そのなかでも、他種族に対して冷徹であることで有名なエルフが、ファウスの町に入った。


 ミューレゲイトが出迎える。


「エルフの足でも一〇日かかったわ。ひさしぶりね」

「ようこそ、オーギュスタ。ひさしいな」

「一〇〇年ぶり? 無様に人間ごときに負けた魔王がまたこりずに何を……あんた、そいつ人間じゃない?」


 オーギュスタの視線の先に、アラギウスが立っている。


 彼は一礼し名乗った。


「お初にお目にかかります。三賢人たる貴女にお会いできて光栄です。アラギウス・ファウスと申します」

「あら、そうなの? あんたを殺した勇者隊の大魔導士と同じ名前じゃない。あれね? 同じ名前をもつ人間をこき使って憂さ晴らししてんでしょ?」

「彼はわらわの仲間、協力者だ。頭を下げて依頼して協力してもらっている」

「……負けたら性格がすごく変わったのね?」

「負けたくないからな。だから、戦わないことにした。それに彼はアラギウス本人だぞ」

「あらそう? そういう冗談を言えるようになったのね? ……本当なの?」


 オーギュスタの問いに、アラギウスは頷く。


「ええ、本当です」

「なにしてんの? あなた大魔導士でしょ?」

「国づくりです」


 オーギュスタはミューレゲイトに近づき、耳元で囁くように尋ねた。


「あんた、不老不死の呪いをかけたらしいけど、これを狙ってたんじゃないわよね?」

「どういうことだ?」

「生まれ変わって素敵な出会いをして……いい仲になって……彼、大魔導士だし理知的な顔立ちは人間のくせに素敵じゃない? 狙ってたんでしょ?」

「そなたはあいかわらず脳内お花畑だな? 死ぬ間際にそんな考える余裕などない。とにかく、やって来た目的はなんだ? ダークエルフ達を集めておいたが?」

「いや、あんたに用があるのよ」


 オーギュスタはそこですいっと動き、魔王と大魔導士の正面に立つ。青い瞳をキラキラと輝かせた。


「おもしろいことしてると噂を聞いたから来たの! 手伝わせて!」

「……」

「……ミューレゲイト、噂になっているようだぞ」


 アラギウスの指摘に、魔王は思い当たるところがあると認める。彼女はあちこちに出向き、手紙を出し、人間との棲み分けを行う目的でローデシアに魔物の国をつくるから協力しないかと、声をかけていたのだ。


 大魔導士は懸念を述べる。


「たしかに人手……魔手はいるが、こう激しく動くと人に知られるぞ。魔物の動きが活発になるから……」

「すまぬ。考えていなかった」

「いや、俺も悪かった。失念していた……オーギュスタ様、貴女のおかげで気づけました。ありがとうございます」

「お礼なんていいのよ。で、いいでしょ? いいわよね? わたしはここに住むから」

「……ここに? 町にか?」

「ダークエルフ達は森でしょ? わたしもそこでいいわ。屋敷を用意して」


 ミューレゲイトがアラギウスを見る。


(俺に設計しろと……)


「ミューレゲイト、ゴブリンやコボルトを集めてくれるか? 取り掛かる」

「頼む……オーギュスタ」


 魔王がハイエルフに威厳のある声を発した。


「なぁに?」

「お前だけか? 他のエルフは?」

「わたしだけ。わたしくらいよ、暇を嫌うエルフは」

「……では、ハイエルフ、エルフはやはりわらわのような魔族とは敵対か?」

「貴女のおかげでローデシアから出るしかなかった者達は、まだ恨みを忘れてないわよ……でも、わたしはそんなことはどうでもいいの。この長い生、退屈したくないから、ワクワクさせてくれる側の味方」


 アラギウスは、エルフにもこんな変わった者がいるんだと呆気に取られていた。その彼をオーギュスタが見据え、冷徹に言い放った


「屋敷、浴室はふたつ! これ、絶対」




-Arahghys ghauht-




 アラギウスは組織案をミューレゲイトに見せる。


「……いいな、これにしよう」

「よかった」

「いろいろと確認していいか?」

「ああ」


 夜。


 大樹の家。


 二人は林檎酒を飲みながら向かい合っている。


「オーギュスタの監査役というのは、わらわがすることを監査するという理解でよいな?」

「正確には、ミューレゲイトを魔王とする行政府たる魔王府を監査する。法の番人としての役割ももってもらうから、けっこう重要だが、魔王にもズケズケと物言いができる存在は他にはいないし、彼女は魔族ではなく妖精だから、そういう意味でも監査役に彼女……三賢人の一人がついたのは対人間界という意味でもいいと思う」

「そういうことか……将来的に、人間と棲み分けを成立させるにあたり、彼らにも堂々と我々を認めさせる考えなのだな?」

「そうだ。他にもあるか?」


 ミューレゲイトは組織表を眺めながら口を開く。


「評議会で決まり事をつくっていくとあるが、評議会のところにはお前しか名前がない。どういうことだ?」

「すぐにはまだ無理だが、評議員を選挙で選ぶようにしたい。ずっと未来のことだろうが……今は魔王府からの任命という形で、俺が担当する」

「では、アラギウスの役職は評議員ということだな?」

「そうだ。評議会は監査役を監査する役目ももつ。つまり、魔王府は監査役に監査され、監査役は評議会に監査され、評議会は魔王府に監査される」

「うん……魔王府のところ、各担当者のところは空白だがまだ決めておらず、役職だけがあるということだな?」

「これから見極めて、ミューレゲイトが任命していくのがいいと思う」

「では、この農業長官にはグンナルについてもらう」

「ホビットだな?」

「そうだ。あと、この軍務卿はオーガの長、ベラウについてもらう」

「面倒だと言わないかな?」

「そこはわらわが説得する」

「無理強いは駄目だぞ?」

「わかっておる」


 こうして、魔王軍の組織を借りていたミューレゲイト達は、新たな組織をつくった。


 魔王は竜とサキュバスのハーフで東方大陸最強の魔族であるミューレゲイト。

 監査には、三賢人の一人として知られるハイエルフのオーギュスタ。

 評議員は大魔導士アラギウス・ファウス。

 農業長官はホビット達を率いたグンナル。

 職人組合長はゴブリンながら金属加工の技術をもつゲルーズ。

 軍務卿にはオーガ族の長であるベラウ。


 他に、外務卿という外部との交渉を行う責任者や、経済産業を管轄する商人組合長、財務関連を扱う財務長官など空白になっているが、最初は魔王が兼任するかたちで発足することになった。


 魔王府、評議会館、監査院の建物をアラギウスが設計し、工事が始まる。


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