19.可愛い恋のライバル
「ねぇ。君の隣。空いてる?」
それはいつも通り食堂でご飯を食べているときだった。突然、可愛い女の子の声が聞こえた。
食堂で私達に声をかける魔物さんはいない。君とは私の事だろうか? 恐る恐る声の方向を見ると美少女と目が合った。
女の子は私と目が合うと柔らかく笑いながら「ダメかな?」と言った。
どうやら私で合っていたらしいそれにしても可愛い女の子だ。青みがかった緑色のセミロング。星形のクリップが凄く似合っている。
グロスを塗っているみたいな艶やかなピンク色の唇。まつ毛も長いし、可愛いを凝縮したような外観だ。
アイドルみたいで思わず見とれそうになってしまう。
白いシャツに胸元には緑色のネクタイ。緑をベースとしたタータンチェックのズボン。ボーイッシュな格好のはずなのにとても可愛く着こなしていた。
「は、はい」
私が返事をすると美少女は「ありがとう」と可愛く笑いながら言い、私の隣に座った。
それから私の目を見て柔らかく微笑んだ。その表情は私が男だったらメロメロになりそうなくらいに可愛い。さっきから可愛いとしか言っていない気がする。それほどまでに可愛い女の子だった。
「俺は座って良いと言ってないんだが」
チェルさんが私の横で言った。美少女はチェルさんの知り合いのようだった。
って、ちょっと待って。チェルさんの知り合い? この美少女とチェルさんはどんな関係だ。
私の隣に座った美少女を見る。もしかして私は選択肢を間違えたのかもしれない。
「チェルくんの隣じゃないんだから良いじゃない」
「くん」
チェルさんの事をチェルくんと呼んでいる。その言葉に心臓がバクバクとうるさくなる。
「ふふっ、君もはそう呼んでいないんだね。君はチェルくんのお嫁さんじゃないの?」
お嫁さん。チェルさんの事は私が一方的に好きなだけで。ってお嫁さん? 恋人じゃないの? 突然流れてきた言葉に頭がパンクしてしまいそうになる。
ん? それより目の前の美少女はどうしてそんな事を聞くのだろう。リサーチ? もしかしたらこの子は私の恋のライバルかもしれない。こんなに可愛い子が? 未だに心臓の鼓動は早いままだ。
「わ、わた、私は」
「違う。姫だ」
チェルさんがはっきりと否定した。チェルさんがそう言うとはわかっていた。だがそこまではっきり言われると切ない。脈がないと改めて実感する。
ライバルさんはその言葉に驚きながらもにやりと笑った。私のがチェルさんと仲が良いのよ。そう言っているようだった。
「えっ? この子がお姫様? 嘘でしょ。こんな呑気に天ぷらを食べているよ」
魔王様から許可をもらっているからここで食べるのは問題はない。だがやはり姫が天ぷらを食べるのはおかしいことなのかもしれない。
「食堂の飯はうまいからな」
「そっかー。部屋から出てこないって聞いていたから、怖がっているのかなって思っていたんだけど、そう言うわけじゃないみたいだね」
「外に出ていたら危ないだろう。部屋で大人しくしているだけだ。飯ぐらい構わないだろう」
「別に部屋の中にずっと居ろなんて言ってないよ。ただ、良い子なんだなーって。あっ、そうだ! 名乗っていなかったね。僕はラビア。お姫様。よろしくね」
私の横に座ったのは噂のラビア様だったようだ。チェルさんに続き。なんでゲームに出てこないのだろう。そう思うほどに見目麗しい。確実に男性の心を落としている。
幼馴染み、姫に続く第三勢力だな。
ユンさんがラビアくんと言っていたので、勝手に男性だと思っていた。女性だったんだ。色々と気になることが出てくるが、まずは返事をしないと。
「ラビア様。初めまして。 エリーゼと申します」
「ラビアで良いよ。お姫様。ふふっ。僕は敵ではないから、そんなピリピリしないで」
「お前が突然話しかけてきたから警戒しているんだろう」
敵ではないって、私なんか敵ではないくて、自分の圧勝とでも思っているんだろうな。
だから突然出て来た私に牽制をしに来た。だからそんな事を微塵にも思っていないのに、最初にお嫁さんなの? なんて聞いた。
「そうだね。僕が逆だったら同じような態度を取るかもしれないし」
やっぱり探って牽制しに来ている。
私だってチェルさんと一緒に休日を過ごしている。ご飯だって毎食一緒に食べているし。って監視の一環だ。何考えているんだろう。
そんな風に思ったらチェルさんに面倒がられる。
「よろしくお願いします。ラビアさん」
なるべく気にしないように心に言い聞かせ笑顔で言った。
「うん。よろしくね。お姫様。好きなんだね」
「えっと」
「て、ん、ぷ、ら」
ラビアさんが意味深な表情で言った。こっちの気持ちなんか知らないで、ライバル宣言してきた。悔しいけど何も出来ない。なるべく表情を崩さないようにラビアさんを見る。
「こいつは食堂の飯が気に入っているからな」
チェルさんは女の戦いが始まっていることなど知らずにそう言うと天ぷらを食べた。鈍感さんめ。そんなマイペースなところも大好きと思ってしまう。
「そう言えばチェルくんも天ぷらなんだ。お姫様とお揃いなんだね」
お揃い。こっちの気持ちを揺さぶらないで欲しい。
お揃いなのはただチェルさんがこだわっていないからだ。だからチェルさんと私は一緒のご飯を食べている。それ以上はない。
なるべく無を意識してラビアさんを見ると少し不思議そうに私の方を見ていた。
「ああ、ユンにすすめられた」
「ユンちゃんに?」
「姫は可愛さでユンからうまい食い物を聞き出している」
ユンさんが優しいから気にかけてくれているだけだ。聞き出しているなんて、そんなことないですよ。そんな視線を送りながらチェルさん達のやり取りを見る。
ってそれよりも可愛い? 今更ながらその言葉にドキドキする。
「美味しいんだ。チェルくんがね。って可愛い?」
チェルさんを見つめていたらラビアさんが言った。さすがライバル。チェルさんの言葉をチェックしている。私もラビアさんのことをチェルさんが可愛いと言ったら穏やかではない。わかる。
「見ていると物を与えたくなる。それを可愛いと言うのだろう?」
「そうだよ。うん。お姫様は可愛いね」
「ラビアさんも可愛いです」
チェルさんの可愛いは可哀想も混ざっていそうだ。その言葉に少し心臓の鼓動が落ち着いた。チェルさんの可愛いと言う意味は置いておこう。
ラビアさんが小さく微笑みながら言う。余裕たっぷりだ。それが悔しくて拗ねるように言うとラビアさんがそのまま口を開いた。
「ん? 僕が? 褒め言葉は嬉しいけど、僕は男だからどちらかと言うと格好良いって言って欲しいな?」
「おとこ?」
男? 一気に今まで考えていた事が恥ずかしくなる。
ラビアさんは私をじっと見つめる。ずっと見ていると魂を吸い取られそうな気がした。なのにどうしてかラビアさんから目が離せない。
「うん。だから話すならチェルくんより君の方が良いかな。だから次からは格好良いって言ってね。お姫様」
そのままラビアさんが目を細める。そんなに可愛い顔でそんな優しい表情をするとドキドキしてしまう。
ん? なんだ? ラビアさんを見ていたら、ハートが突然目の前に現れ、こちらに向かってくる。ハートは私の前ではじけ『無効』と出てきた。ラビアさんを見ると、「残念」と呟いた。今、何があった?
「おい、姫に何しようとしているんだ?」
チェルさんが怒っている。近くにいた魔物さん達がそっと席を外した。
一触即発でとてつもなくヤバいはずなのに、私の頭は逃げる事よりもラビアさんの次の手を考える。戦いを挑まれたのなら返り討ちにするしかない。
返り討ちに? ああ、そうか――私は戦闘が好きな勇者だった。
いや、それは覚えていた。だが私は自分が思っていたよりもこのゲームをやりこんでいた。なんで忘れていたんだろう? それよりも今はラビアさんだ。勇者の記憶が戻ったせいか怖いよりもラビアさんの行動パターンとか技が気になって仕方ない。
私は唾を飲み込むとラビアさんを見る。
「ちょっとした好奇心だよ。お姫様には意味がないみたいだけどね」
にやりとラビアさんが笑った。そんなことよりも私はラビアさんからの攻撃をどう躱そうかと頭の中が占められていた。




