159.ラビアの意図
チェルさんと一緒にラビアさんの執務室に確認に行くことになった。
すぐに部屋から出て、ラビアさん達の執務室に向かっていると途中でラビアさんとニクスさんとサリマさんを見かけた。もしかしてこれから、用事があるのかな。
声をかけようか迷っているとラビアさんが話かけた。
「チェルくん。姫ちゃん。僕に用事でしょ。どうしたの?」
そのままラビアさんが言った。なんでわかったんだろう。確かにこの先はラビアさんの執務室だからそこは間違いないけど、タイミングが良すぎないか?
「なんだ。気付いていたのか」
「うん。せっかくだし、迎えに来ちゃった。姫ちゃんの気配がこっちに向かっていたからね」
ラビアさんは可愛らしく笑った。私の気配で気づかれてしまったらしい。どうしようか考えようとしたら、ニクスさんの声が聞こえた。
「姫様。すみません。俺も気になってしまって、次はラビアを止めます!」
「い、いえ、大丈夫です」
ニクスさんは申し訳なさそうな表情だった。
その表情に思わず大丈夫と言ってしまったが、チェルさんの予定とは違うことになってしまったのは良くない。謝ろうとチェルさんを見たら。いつもと変わらない表情で口を開いた。
「エル。気にする必要はない。良くあることだ」
良くあるんだ。確認するようのラビアさん達を見ると否定はしていない。良く、あるんだ。
「ほら、もともと僕たち魔物は誰かが自分たちに向かって来たら意識するでしょ。その延長」
「そうだな。俺もたまにしているし、大した事じゃない。そんな事よりもラビア。お前と話がしたくて来た。空いている時間はあるか?」
そんな事。チェルさんは全く気にしていないようだ。あっさりしている。ならこれ以上は気にしない方が良い。そのまま何も言わずにラビアさんへ視線を移動する。
「うん。今でも大丈夫だよ。ニクスとサリマにも一緒のが良い?」
ラビアさんがニクスさんとサリマさんに視線を動かしながら言った。
ニクスさんとサリマさん。いない方が良い気がするけど、なんか変に思われるのもな。
「俺たちが用事があるのはお前にだけだ」
「僕としてはニクス達も一緒のが良いけど。ダメ?」
「それはニクス達に確認する事だ。ニクス達には関係ない話だ。時間の無駄になる」
「俺たちの事を心配するのなら必要ない。ってか、ここで追い返された方が気になるだろ」
「うん。そうそう。チェルサン達が話に来るのは珍しいしね~」
悪い方向に考えられるよりも、話を聞いて貰った方が良いかもしれない。
何かあったら私が出来る限りフォローする。チェルさんはラビアさんを信じたいから話す。それが伝われば良い。よし。そう思いながらニクスさん達を見るとニクスさんが驚いた表情で見た。
「あっ。ラッ。ラビアが何か変な事を言ったら、俺が制止します」
「僕も公平だからね。ラビちゃんが悪いことしていたらちゃんとメッって言うからね~」
「は、はい。ありがとう、ございます」
「あーもう。なんで僕が悪者になっているの」
ニクスさんもサリマさんもちゃんと聞いてくれそうだ。ラビアさんが少し可哀想だけど、目の前のやり取りを見て安心した。
「決まったのか。なら今から俺たちの部屋に」
「あーそれなら。会議室が空いているし、会議室にしよ!」
チェルさんの話している途中でラビアさんが遮って言った。
近いからかな? そう思いたいけど、なんとなくそっちの方がラビアさんの都合が良いのかと疑ってしまいそうになる。良くないけど少し気になる。
「会議室のが良いのか?」
「一番近いからね。ふわふわな椅子もあるよ。姫ちゃんの部屋のソファーには負けるけど、さすがに女の子の部屋だし」
「ついこの前までエルの部屋に良く来ていただろう」
「それはあの時のチェルくんは危険だからって姫ちゃんを部屋の外に出さなかったでしょ。だーかーら!」
そう言えばそんな状況だったかもしれない。チェルさんも心当たりがあるみたいで苦い顔で言った。
「そうか」
「でしょ。わかったなら会議室に行くよ。ほら、チェルくんだって姫ちゃんと一緒にいる部屋に他の魔物が入るのは嫌でしょ」
「そうだが、何か裏があるようで気にかかる」
「強いて言えば、チェルくんが部屋だと油断して僕たちの目の前でも姫ちゃんに求愛するからかな」
その言葉にチェルさんが言葉につまる。少ししてから「そうか、部屋はお前に任せる」とチェルさんが淡々と言った。
その言葉に恥ずかしくなってきた。ここから私の部屋になるのは嫌だ。
「ラビアさん。お言葉に甘えて会議室にお邪魔しますね」
「うん、案内するよ」
ラビアさんがこれ以上ない笑顔で言うと、会議室へ向かった。ラビアさんの予定どおりだけど、これは仕方ない。
そっとニクスさんを見ると気まずそうにちょっとだけ視線を外してから誤魔化すように笑った。
***
案内された会議室はこの前と同じ部屋だった。
前回と同じ場所に座ると、チェルさんがラビアさん達が座ったか確認するようにまわりを見る。そしてすぐに口を開いた。
「お前はなぜあの時、ヘイロンの話を聞こうと言った。意図を知りたい」
「ヘイロンの?」
「ああ。ヘイロンが仲間になるのを見通していたのか? それとも他の思惑があったのか知りたい」
相変わらず直球だった。だけどラビアさんが動揺している様子はなさそうだ。
ラビアさんはチェルさんの言葉に少し考える素振りをしてから、困ったように笑った。
「構わないけど」
ラビアさんは少し言いよどんでいる。だからか何かを隠そうとしているようにも見える。そんなラビアさんを見るとなんかちょっと心配になる。
「言えないのか?」
そんなラビアさんにチェルさんは見逃さずに追い打ちのように言った。ラビアさんは小さく息を吐いて観念するように口を開いた。
「違う違う。説明が難しいんだ。チェルくんに伝わる自信がないから、もし僕の話が理解できなかったら話を止めてね。君は僕にとって突拍子もない事を考えるから」
「突拍子もない事を言うのはお前だろう」
「仕方ないじゃん。考えが違うからね」
「そうだが。まぁいい。わかった。理解できなかったらすぐに言う」
「ありがと」
チェルさんの言葉にラビアさんはいつもの少し何を考えているかわからない表情に戻るとくすくすと笑った。
「僕はチェルくんにとっては見通していたかもしれないね。君の言うことはあっているけど少し違う。僕は正解を選んだんだ」
「正解?」
「正直な所。チェルくんと僕の二匹だけだったらヘイロンの話を聞かずに討伐していたよ」
ラビアさんが感情を見せないような表情ではっきりと言い切った。ラビアさんはヘイロンを仲間にしたいわけじゃなかったんだ。
その言葉に色々と思うところがあるが、とりあえずラビアさんの話か。




