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154.ヘイロンとラーメン


 食堂につくといつものようにユンさんが出迎えてくれた。

 いつもと変わらないやり取りは何となく気持ちが落ち着く。


「ユンさん。来ました!」

「ふふっ。待っていたわ。エルちゃん。チェルくんもヘイロンくんの案内。ありがとうね」

「いえ。こちらこそ、ヘイロンさんの事、ありがとうございます」

「気にしないで、パイロンちゃん達も仲間が来てくれて喜んでいるのよ」


 ユンさんがふわりと笑った。ヘイロンさんが歓迎されているようで嬉しい。

 そのままチェルに笑いかけるとチェルさんも優しく笑った。


「そうか。歓迎されているのなら問題ない。ヘイロン。飯は食ったのか?」

「まだだ」


 チェルさんはヘイロンさんの答えを聞くと再び私の方を見た。


「エル。ヘイロンも一緒に飯を食っても良いか」

「はい」

「ヘイロン。俺たちは今から飯を食う。お前はどうする」

「あぁ。ラーメンを食うぞ」


 そう言うとヘイロンさんはチンロンさんの所へ向かおうとした。まずはトレイを取らないと、ヘイロンさんに声をかけようとしたら、その前にチェルさんが言った。


「ヘイロン」

「どうした。チェル。飯を食う時はチンロンの所に行くと」

「そうだが。その前にこの盆を持ってからだ」


 そう言うとチェルさんが入り口近くのトレイをヘイロンさんに渡す。

 ヘイロンさんは受け取るとトレイをぐるぐると回し見ていた。


「どう使うんだ?」

「この上に飯を載せて席まで運ぶ。今日は俺の真似をすれば良い」


 そう言うとヘイロンさんはチェルさんを真似るようにトレイを両手で持った。


「わかった。やり方があるのだな」

「あぁ。そんなに複雑ではない。俺たちの通りにすれば問題ない」


 そう言うとヘイロンさんはトレイを持ちながらチェルさんと私の後に続いて、ラーメンの所に向かった。


「チンロン。ラーメンだ。チェルとエリーゼもだ」


 ラーメンの場所に着くとヘイロンさんがチンロンさんに向けて言った。チンロンさんはヘイロンさんに気付くといつもとは違い柔らかい表情を向けた。


「まぁ待て。すぐに準備する」

「あぁ、わかった」


 ヘイロンさんと話が終わるとチンロンさんが私の方を見た。


「嬢ちゃん。いつもので良いか」

「はい。お願いします」

「そうかい」


 あっ、そうだ。ヘイロンさんの事を言わないと。チンロンさんがお玉を持っていないことを確認し、急いで声をかける。


「チンロンさん。ヘイロンさんの事ありがとうございます」


 私の言葉にチンロンさんはヘイロンさんをチラッと見て、ゆっくりと口を開いた。


「いや。我も竜の仲間が増えて嬉しい。あやつは可愛げがある。一緒にいて心地良い」


 ヘイロンさんはまっすぐだもんな。チェルさんもなんだけど、チェルさんと違う感じ。

 真っ直ぐに受け止めて、真っ直ぐに返してくれる。何となくヘイロンさんを見ていると私も楽しくなる。


「ありがとうございます」

「嬢ちゃん。我もだ。ヘイロンを連れて来てくれて礼を言う。ヘイロン。ラーメンだ」


 そう言うとチンロンさんがヘイロンさんの前にラーメンを置いた。

 ヘイロンさんはきょとんと器を見ているだけだった。そんなヘイロンさんにチェルさんが「盆にのせる」と声をかけるとチェルさんがそのままヘイロンさんのトレイにラーメンをゆっくりと載せた。


「これがラーメンか?」


 予想と違ったのかヘイロンさんがチェルさんに向けて言った。


「どうした」

「見たことがない食べ物だ」

「この城にしか存在しないからな」


 ヘイロンの反応が正しい反応だ。あの時は知っている食べ物とチェルさんと一緒にご飯と言うこともあったけど、舞い上がりすぎていた。

 これは確かに記憶があるとバレるな。ラーメンに喜んでいた自分が少し恥ずかしくなる。


「嬢ちゃん。チェルもここに置く」

「はい。ありがとうございます」


 チンロンさんに呼ばれ、カウンターを見るとラーメンが二個置かれていた。

 急いで受け取るとトレイにのせる。カウンター横にある箸を取ろうとしてからヘイロンさんの分を思い出す。

 ヘイロンさんは箸を使えるかな。そう思った瞬間、チンロンさんの声が聞こえた。


「ヘイロン。主はこれだ」


 そう言いながら、チンロンさんがヘイロンさんへ先割れスプーンを渡す。ヘイロンさんは再びきょとんとした表情でスプーンを受け取る。


「なんだこれは」

「これを使って食う。チェル頼めるか」

「ああ。もちろんだ。ヘイロン。それは盆の上に置け」

「ラーメンを食わないのか?」

「飯を食う場所がある。案内をする」

「わかった」

「汁を零さないようにゆっくりと持て」


 そう言うとヘイロンさんはゆっくりとトレイを持つ。それからチンロンさんにお礼を行ってから、席へと向かった。ちょうど良くいつもの席が空いていたので、そこに座った。

 ヘイロンさんが座ったことを確認するとチェルさんがヘイロンさんに声をかけた。


「飯は手でつかんで食ってはいけない。そこのフォークを持って食う」

「そうなのか?」

「あぁ。だがその前に挨拶だ」

「挨拶?」

「いただきますと言う」

「なんだ。何かの呪文か?」


 呪文ではない。いただきますはいただきますだ。これからご飯を食べると言う気合いを入れる言葉? ちょっと違う。


「違う。飯が食えることに感謝する言葉だ」


 考えているとチェルさんがヘイロンさんに言った。ご飯が食べられることに。凄いしっかりとくる。チェルさんの言葉に同調するように頷くとヘイロンさんが口を開いた。


「それは大事だな。いただきます」


 そう言うとヘイロンさんが言った。私たちもヘイロンさんに続いていただきますと言うと箸を持った。


「チェル。その棒でどうやって食べるんだ?」

「こうやって食う」


 チェルさんが箸で麺を掴むとそのまま口に運ぶ。ヘイロンさんはその光景を不思議そうに見ていた。


「ほう、慣れるまでは大変だな」

「ああ、それまではそれを使った方が良い。針の隙間に麺をはさんだり、針で刺して食う。人の体は丸呑みすると苦しくなる。歯でよく噛んでから飲み込む」

「そうなのか」


 そう言うと、ヘイロンさんがフォークをお椀に入れて麺を掬う。そしてそのまま口の中に入れた。

 口の中を動かしてから少しして、ごくりと飲み込んだ。


「チェル。うまいな。今までに食ったことがない味だ」


 ヘイロンさんはそのまま嬉しそうに笑いながら言った。


「あぁ、これを食っていたら変わる」


 その様子を見たチェルさんがラーメンを見ると、目を細めて言った。


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