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9.バッドエンドとノーマルエンド


 朝ご飯を食べたばかりなのに、お昼が待ち遠しい。


 ぼんやりと部屋のソファーに座りながらチェルさんが来るのを待っていた。


 チェルさんと一緒にチャーシューメンを食べた日から、チェルさんと一緒に食堂でご飯を食べることが日常に加わった。

 チェルさんと一緒にご飯を食べる時間はとても素敵でこのまま勇者が来なければ良いのに。なんて考えまで出てくるほどだ。


 魔王様に勇者対策の方法を伝えればバッドエンドの引き延ばしは出来るだろうか? とも思うが、魔王様の狙いがわからない以上、そんなことはやめた方が良いと思う自分もいる。


 最初に捕まってから私は魔王様と会っていない。

 なので私の中では魔王様は何を考えているかわからない人……じゃない。何を考えているかわからない魔物さんと認識している。


 チェルさんが良い魔物さんと言ってくれれば良いのだが、必ず自分の思い通りに運ばせる気味の悪い魔物なんて言っていた。

 それもあり、この好待遇も裏があるのだと考えている。


「チェルさんが魔王だったら良かったのに」


 口から溢れるように出た。本当に。チェルさんが魔王になったりしないかな。魔王様の代理をしていたこともあったと言っていたし。

 そうしたら私は悩まなくて良、くはないな。いくら私の監視をしてくれると言ってくれていても、勇者が来るは流石に逃げる。


 何も言わない方が良いな。きっと前世なんてあり得ない事をチェルさんは聞いてこないだろうし。


「ロンディネに帰りたくないな」


 そう思いながら天井を見る。

 チェルさんがいない場所で暗殺に脅えながら過ごすのは地獄だ。もしこの城から離れるのなら、その時は死ぬのも良いかもしれない。


 魔王を倒した後なら姫はどうなっても良いだろう。

 どうしような。あっ。魔王様の盾になればロンディネに帰る必要はなくなるのではないか。

 出来ればチェルさんが良いけど、きっとうまく逃げているし。

 だったらチェルさんと時間を作ってくれたお礼で魔王様にあげるのは丁度良いかもしれない。


 ゲームとしては後味が悪いけど、私には関係ない。ロンディネを地獄と思わせた責任を取って貰おう。


「死が救済なんて言葉もあったな」


 ふと頭に浮かんだ言葉を呟く。

 死にたいわけではない。もう少しここで幸せに生きて、幸せなまま死にたい。


 そのまま空へ視線を移すと、私の言葉を肯定するように、綺麗な青が広がっていた。


「このままここに、ん?」


 トントンと扉を叩く音が聞こえた。きっとチェルさんだ。

 確認するように時計を見ると十一時二十五分。

 チェルさんはいつも通り正確だな。急いで扉へ行き、扉を開ける。


「チェルさん。お待たせしました」

「いや。待ってはいない」


 そう言いながら部屋から出るとチェルさんが私に手を差しのべながら言った。


「は、はい」


 そのまま差し出されたチェルさんの手を繋ぐ。未だに慣れないせいか、心臓がうるさいけど、なるべく気にしないようにチェルさんを見る。


 チェルさんは特に気にせず、無表情で食堂へ歩きだした。

 そして食堂につくとユンさんに挨拶をする。これが最近の私のルーチンだ。


「エルちゃん。チェルくん。こんにちは」

「ユンさん! こんにちは」

「ああ。連れて来た」

「ふふっ。そろそろ来ることだと思っていたわ。エルちゃん。おすすめは和定食の魚介よ。貝がとっても美味しそうなのよ」


 ユンさんは私が囚われの姫だからか、死なないように食生活を気にかけてくれている。

 いや。違うな。最初の数日、朝昼晩とチャーシューメンを食べていたのが原因かもしれない。バランスが悪いとラーメン禁止令が出てしまった。


 あの時のユンさんは怖かった。


 けど悪いのは私なので仕方ない。そして今はユンさんのおすすめを頂いている。

 お肉の次はお魚。揚げ物の次は焼き物などとてもバランス良い。そして美味しい。


「ありがとうございます。チェルさんはどうされますか?」

「俺も一緒のにする」


 チェルさんはお腹がたまれば良いと思っているせいか、あまり食にこだわりがなかった。必然的に私と一緒になる。

 それでも一緒に美味しいおかずに話が出来るので嬉しい。


「ふふっ。ゆっくり食べるのよ」

「はい」


 ユンさんと別れると、そのままチェルさんと一緒にトレイを取り、和食のカウンターに並ぶ。

 カウンターでご飯を頂き、いつもの様にチェルさんのお気に入りの席へと向かう。

 チェルさんが座ってから向かいに座る。チェルさんがよく見える特等席だ。


 それから手を合わせて頂きますと言い、お茶碗を持つ。今日は牡蠣のご飯だ。色のついたご飯は珍しい。特別な日に感じた。


「今日はいつもよりも嬉しそうだな」

「色のついたご飯ですよ」

「相変わらずだな」


 チェル私とは正反対にチェルさんが淡々と言った。


「炊き込みご飯はご馳走ですよ」

「お前はいつもご馳走と言っているな」

「魔王城のご飯は美味しくて全部ご馳走です」

「そうか」


 チェルさんはそう言うとご飯を一口食べた。

 私もチェルさんに続いてご飯を食べようとしたら「エルちゃん」と私を呼ぶユンさんの声が聞こえた。

 どうしたんだろう? 振り向いて声がした方向を見ると、お皿を持ったユンさんがいた。


「お邪魔しちゃってごめんね。おまけを持ってきちゃった」


 おまけ? なんだろうとユンさんの様子を見る。ユンさんはいつものように優しくふわりと笑い、トレイの上にお皿を置く。そのまま置かれたお皿の上を見ると、そこには苺がのっかっていた。


「おまけ?」

「ええ。エルちゃんが可愛いからおまけよ」


 嬉しい。プレゼントを貰うのは初めてかもしれない。

 ユンさんへ再び視線を戻すとユンさんがふわりと笑っていた。とても綺麗な笑顔で。ユンさんは魔物さんだが天使のようだった。


「ありがとうございます!」

「どういたしまして。エルちゃんが喜んでくれるて嬉しいわ」

「そんなこと」

「ユン。姫に餌付けをするな。飯が食えなくなる」


 ユンさんと話していたら後ろからチェルさんの声が聞こえた。声も僅かに低い。そっとチェルさんの方向に視線を移動する。すると私の視界に眉間の皺を増やしたチェルさんが入った。


「少しくらいなら良いのよ。ちゃんと魔王様から許可も貰っているわよ」

「魔王が言っていたのか? まったく。あいつは何考えているんだ。なら仕方ない。姫は? 気を遣う必要はないからな」


 チェルさんは私が料理に警戒しているのを知っていた。きっと私のことを気にかけてくれるているんだと思う。チェルさんの気持ちは嬉しいが、ユンさんの気持ちも嬉しい。


「嬉しいです」

「そうか。……ならいい」


 チェルさんに安心してもらうように明るく言うと、チェルさんが小さくため息をついた。


「ふふっ。ありがとう。私が食べ過ぎは良くないって言っているからかしらね。チェルくん。ちゃんとエルちゃんの体に害がない量にしているわ。それにエルちゃんはちゃんとラーメンを我慢しているから、たまには良いの」

「我慢していないです。他のご飯も美味しいです」

「ふふっ。それは嬉しいわ。エルちゃん。食べ過ぎはだめだけど、いっぱい食べてね」

「はい」


 返事をするとユンさんが優しく微笑む。

 ちょっと怖いけど優しくて、私を見守ってくれている。ユンさんはお母さんみたいだ。


 だからかユンさんから頂いた苺を見ると心が温かくなった。


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