ゲームセンターって楽しいよね
これは高校生になってから既に1ヶ月が経つが、部活にも勉強にも特に心血を捧げるわけでもなくただ無為な日常なすごしている主人公「柏木 遼人」の物語である。
──チャイムがなる
やっと今日の授業も終わりを告げた。
「やっと授業終わったな、さっきの古文はマジでやばかったわ·····途中マジで記憶ねーもん」
授業が終わるなりいきなり話しかけてきたこいつは、隣の席の「五十嵐 楓牙」だ。
野球部に所属しており、1年生ながらにスタメンという野球に関しては天才的な才能を持っていたのである。
しかし、自他ともに認める野球バカであり成績はお察しの通りである。
「あぁ、そうだな。お前成績危ないんだからあんまり寝てる余裕無いんじゃないか?」
「グッ·····厳しいこと言ってくれるじゃないか·····まあ、事実だから受け止めるしかないな·····」
そんな他愛ない会話をしていると、
「おーい、楓牙ー部活行くぞー」
野球部Aが五十嵐を呼ぶ。
「おう!今行くわー。じゃ、遼人またあしたなー」
「はいはい、またあした」
さてと·····ゲーセンにでも行くか·····
今日は新しい景品が入るから家の近くのゲーセンにしとくか·····たまに神設定の台あるし乱獲したらしたで持って帰るの大変だからな·····
────移動後
やっぱ田舎のゲーセンって人あんまいないから新商品入っても過疎ってるな·····取り敢えずあの橋渡しからやってみるか
「1クレやってみるか·····!?」
店側の設定ミスなのかアームパワーが異常に強く景品がかなり動いた、いや、下手すれば持ち上がるんじゃないか·····
通常橋渡しはあまりアームパワーが強くないか景品が落ちるための幅が景品分より僅かに大きいだけで上手いことやらないとゲットできないはずだったが
「3手·····下手すれば2手で行けるんじゃ·····」
アームパワーは最強。幅は景品よりもだいぶ余裕がある。
取ってくださいと言っているようなものでは·····いや、逆にこの設定で乱獲しない方が失礼だろ·····
──数十分後·····
ガコンッ
最後のひとつを獲得し筐体の中を空っぽにしてしまったのである。
「あーあ·····全部取っちゃったよ·····こんなにいっぱい取ってどうやって持って帰るんだよ·····」
いつもなら数個とったら止めに来る店員が何故か止めに来なかったためやりすぎてしまったのである。別にあんまり興味のないフィギュアだったが、景品が落ちる時の快感に負けてしまったのあった。
「しゃーなし、頑張って持って帰るか·····」
そう呟き帰ろうとすると·····
「ああああああああ!!!!マジでこの台アーム弱すぎでしょ全然ゲットできないじゃん!!こんなゴミ台こうしてやる!!!」
謎にボタンを強打しまくる少女はがいた。
多分年は俺と同じくらいだろう。高校生になってもこんなはしゃげるのはある意味すごいなぁ·····
とぼんやり眺めていると
「ちょっと!あんた何見てるのよ!」
絡まれた。
どーしよー。とても面倒臭い。
「え、なに、おれ?」
せっかく乱獲して気分よく帰ろうと思ってたのに·····
「そうよ、あんたよ!どうせ私がクレーンゲーム下手くそだからって笑いものにしよって魂胆でしょ!あんたもどうせそんなに上手じゃないんでし·····」
少女は俺が乱獲した景品に目が止まった瞬間早口でまくしたてていたのが嘘みたいに口をパクパクとしだした。
「おい、どうしたんだ?俺のとった景品を見つめて?」
「あんた·····クレーンゲーム上手いのね·····」
「まぁ、人並みにはな」
急にしおらしくなった少女は
「あの·····ちょっといい·····ですか·····」
あ、これは厄介事に巻き込まれるパターンじゃないですか。
あらあら、俺の平和な人生もここまでですか。
何かとイチャモンつけられて俺のとった景品たちが奪われてしまうんですね。
「あのぬいぐるみ取ってくれませんか·····」
今にも消えそうな声でお願いしてきた。
俺もこの痛いけ?な少女のお願いを断るほど鬼じゃない。
「別にいいぞ。」
「え、ほんと?」
どんな設定の筐体か確認してないが別になんとかなるだろう·····と思ってた時期が僕にもありました。
その筐体には少女の身の丈ほどもありそうな超巨大なサメの人形が入っていたのである。しかも景品がデカすぎて筐体の中でパンパンになっている。
「えっと·····ごめんこれはちょっと·····」
言いながら少女の方を振り返ると期待の眼差しがすごいことになっている。期待というか取らないと命が危なそうな感じがすごい。
「ええい、もうどうにでもなれ」
半分やけくそでゲームを初めたがやっぱり景品がデカすぎて掴んでもすぐに離してしまう。
やっぱり確率機だった。
ここまででかいと確率を無視して自力で取るのは無理だ。
確率を待つか·····
と、持ち金を全てを捧げる覚悟を決めていると
「お?これは?」
4クレ目でちょうど確率が来た。
あ、まじかなんか確率機って自力で取らないとなんか負けた気分になるんだよな·····なんか萎えたわ·····
「!!!ありがとう!!!あなたってほんとにクレーンゲームが上手いのね!これに関しては感謝してあげるわ!」
少女は純粋な笑顔で礼を言ってくれている。
やめろ·····その笑顔は俺のプライドに効く·····
もうやめてくれ·····
「ま、まあなこれくらいは楽勝だよ、はは·····」
「今日はほんとにありがとね!私このゲーセンよく来るからまた会うかもしれないわね!今はお金なくなっちゃったから何も出来ないけど、またあったらご馳走するわ!」
そう言って少女は自分の身の丈ほどもあるサメの人形を抱えて歩き出したのである。
「ああ、またな」
そう言い後ろ姿を見送ったあと自分も乱獲したフィギュアを抱えて家路に着くのであった。
────────
「やっとマンションまで着いた·····」
大量のフィギュアを抱えて帰ったため手ぶらの時よりだいぶ時間がかかってしまった。そして帰る途中人々のヤバいやつを見る視線が結構精神的にキツかった。
両手がフィギュアで塞がっているためやっとの思いでオートロックを解除し、マンションマンションの中に入っていくと、何かと見覚えがあるサメの人形がモゾモゾしていた。
「ああ、もう!ムカつく!なんでこんな時に限って家に誰もいないのよ!ドア開けれないじゃない!」
モゾモゾしていたと思ったら、サメが家のドアに向かって悪態を着いていた。
なんでオートロックは解除できたのに家のドアは開けられないんだ·····というツッコミは胸の中にそっと閉まっておくことにした。
「ほらよ」
悪態を垂れるサメの目の前にあるドアを開けてやると
「あ、開いた·····今がチャンス!」
と、訳の分からないことを叫びながら家の中に向かってダイブして行った。
「誰だか知らないけどありがと·····ってなんであんたがここにいるのよ!」
サメを家の中に置いた少女はすぐさまこちらを振り向きそう叫んだ。
「別にまたあったらお礼はするって言ったけど家まで着いてくることないてしょ!あんたってストーカーだったの?」
何故か親切でドアを開けてやったらストーカーといういわれのない罪を掛けられてしまった。
これから無闇に人に親切にするのはやめようと固く誓った。
仕方ない。軽く弁明だけしておくか。
「俺はストーカーじゃない。俺の家ここだし。お前をつけてここにきた訳じゃない。」
なんか知らないけどめっちゃセリフが棒読みになってしまった。
「何よ白々しい言い訳は!着くならもうちょっと嘘つきなさいよ!それになんでそんなに棒読みなのよ!」
やらかした。棒読みが完全に裏目に出た。
あーあ、やだやだもう家に帰ろ。
「まあ、そういうことだから、じゃあな」
普通に家の扉を開けて家に帰る。
やっぱ我が家だよな。面倒事に巻き込まれそうになったらホームに戻ってセーブするに限るな。
「ちょっと!あんた!開けなさいよ!」
あーきこえないー。今夜はお隣さんで夫婦喧嘩でもしているのかしら。
もう疲れたからご飯食べよ。
ちなみにうちの両親は居酒屋を経営しているため夕方から早朝にかけては家にいないのである。
2つ上の姉がいるが海外留学中のため今は家にいない。
つまり家には俺しかいないわけだ。
すごい気楽。嗚呼天国。我が領地何人たりとも汚させない。
──数分後夜飯を作っていると
ー♪♪
気の抜けるようなチャイムが鳴り響く。
インターホンにて応答する。
「はい、どちら様でしょう」
「隣の部屋の桜崎です。さっきはストーカー扱いしてごめんなさい。改めてお話がしたいからドア開けてくれないかしら?」
··········
「新聞の勧誘なら結構です。うちはデジタルで購読してるんで」
「ちょっと!待って!お願いだから!」
「はー、わかったよ。ちょっと待ってろ」
あー、絶対めんどくさいやつやん。
さよなら俺の平和な王国。
こんにちはめんどくさい日常。
「あ、まさかほんとに開けてくれるとはね·····」
「おかしいな誰もいないじゃないか。ついにこの家にも幽霊が来たか。あー怖い怖い。」
ドアを閉めようとすると桜崎さん(仮)はすごい力でドアをこじ開けようとする。
「ちょっと待ちなさいよ·····」
なんだこいつはこんな小さい体のどこにこんな強大な力があるんだ·····
恐れ、慄いていると、力負けしてドアをこじ開けられてしまった。
これじゃオートロック付きのいい部屋に住んでる意味無くね?
親に引っ越した方がいいって言っとこ。
「あんたね!ここに!私が!いるじゃない!なのになんで閉めようとしてんのよ!」
「あー、はいはい、悪かったから。んで、話ってなんだ?」
「さっきは悪かったわね。あんたを疑って·····」
少女は急に鼻をスンスンとならし始めた。
ギュルルル
虫が鳴いた。
俺は紳士だから聞いてなかったことにした。
「最近は腹の虫が騒がしいからな気をつけろよ。じゃあな」
すると顔を真っ赤にした桜崎が
「さっきからいい加減にしてよね!何よあんた!私の事おちょくり回してそんなに楽しいわけ!」
めっちゃ怒ってる
お腹の音は無視しようと思ったが無理だった。
仕方ない。俺は悪くない。俺の無意識が悪いんだ。
「あー、はいはい、俺が悪かったから。腹減ってんなら飯食ってくか?」
「だ、誰があんたのクサイ飯なんて食べるもんですか!」
ギュルルルゴゴォォキュゥ
もう、訳の分からないような音が聞こえた。
腹の虫虫どころが、猛獣が鳴いていた。いや、哭いていた。
「ご馳走になってもいいかしら·····」
桜崎は消え入りそうな声でそういった。
「はいはい、お上がりよ。」
「お邪魔します·····」
「はいはい、いらっしゃい」
有り合わせで作った生姜焼きだったが、いつもひとりで食べていた夜飯より何故か美味しく感じた。
第1話ここまで読んでいただきありがとうございました。
ただ趣味で書いているだけなので多分失踪します。
今年の目標は失踪しないこと。
に何となく決めました。