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いにしえのまじょ  作者: 凡人(ぼんど)
5/5

5話 我が名は

ヘンリーム伯爵のお屋敷に行った翌日、

ただ宿でのんびり過ごしていた


「しかしアギ、お前もなかなか味なことするじゃねえかよ、

 あのご令嬢に出発を1日遅らせて、明日にしろだなんてよ、

 粋な計らいってやつか?」


「ふん、呑気な物言いをするな、

 今日の出立をやめさせたのには、訳があるのだ

 あの魔導書に気がかりなことが書いてあったのでな」


「ん?、あの雨よけの魔法の書にか?、あれも粋な魔法だったな」


「お前はあれが、そんな呑気な代物だと本気で思っておるのか?」


「何だよ、違うっていうのかよ」


「あの空の色を、見てみろ」


アソウギは遠くの空を指さして言った


「空?・・・お、おいおい、なんだあの真っ黒い雲はよ、

 さっきまであんなにいい天気だったじゃねえかよ」


それはあきらかに災害をもたらすだろう異常な黒さの雲だった、

それが今、近づこうとしていた


「通常なら6月、しかしこの地方には稀に9月の終わり、

 ブドウの収穫期にそれが降ることがあるらしい、

 しかも、リンゴほどの大きさでな」


「リンゴほどの?・・・何が降るってんだよ」


「雹じゃ」


「ひょ、ひょう?、雹ってあれか、あの氷のつぶつぶが降ってくるやつか?」


「そうじゃ、氷のつぶつぶじゃ」


「それがリンゴのでかさって、うそだろ?」


「あの本にはカボチャほどのものが降ったこともあると記されておった」


「そんなのが降ってきたらよ、今収穫してるブドウは全滅なんじゃねえのかよ」


収穫前のブドウの実だけではない、それほどの大きさで雹が降れば

ブドウの樹そのものがダメージを受け、枯れてしまうかもしれない、

来年以降の収穫にも、おおきな影響が出るだろう


「その通りじゃ、だからわざわざそのために、術まで編み出して

 この地を守ろうとしたのであろう・・・ネオジム、いくぞ」


「行くって、どこに!?」


「この地の中心じゃ、そこで術式を展開する、

 ロージーを探してくれ」


「分かった、ロージーを連れてくるんだな?、待ってろ、行ってくる」


その大きな体からは想像できないほどの速さで町の中へと走っていった、

そして、それほど時間も失わず、ロージーを連れて戻ってきた

さすがに冒険者だけあって、危険を察知したのちの行動の速さと

正確性には、目を見張るものがあった


「あわわわわ、アギー、あれ何なの?、あんな黒い雲、

 見たことないよーー」


「ロージー、ひとつ聞きたい、この時期にブドウが全滅した話を、

 お前は聞いたことがあるか?」


「え?・・・、あっ!ある、あるよ、昔、あたしの親が生きてたころ

 父さんから聞いたことがある、

 でかい雹が降った話、そうだ、9月に雹が降ったって言ってた」


「やはりな、あの雲はその前兆であろう、

 ロージー、この地方のブドウ畑はどのくらいの広さなのだ?」


「このへんのブドウ畑全部?えーと、たぶん、15キロ四方くらいかな」


「ならば、その中心と思われる場所に案内せえ、そこで術式を唱える」


「分かった。案内する、こっちよ!」

「おい、そんな広い範囲をどうにかできるのか?」


「やってみなくては何ともいえん、ワシが作った術ではないからな、

 その威力も分からん、が、やるしかなかろう」



ブドウ畑が広がる中、ロージーの後をアソウギを背負い、

ネオジムは走った、

丘陵地帯の道を、30分以上も走っただろうか、


「この、あたりよ、たぶん、ここが、まんなか、」


ぜえぜえと息を切らし、ロージーはヘトヘトになりながら、その場所を示した


「承知した、ネオジム、ロージー、少し離れておれ、

 今からは略式ではなく、多重魔法陣を展開するでな」


「多重?、よくわかんねえけど、分かった」

「アギ、おねがい!ブドウを助けてーー!」


「風となるすべてのものよ我が声をきけ、

 風に宿りし精霊よ我が声につどえ、

 理を守り我が声に従え、

 空間障壁三重魔法陣、展開・・・」


「我が名はアソウギ、発現せよ!」



ヘンリームの屋敷で使って見せたのと同じその魔法は

その術式魔法陣をさらに積み重ね、アソウギの魔力を増幅させた

それはバラの庭を優しく包んだのと同様

このブドウ畑の全てを巨大な空気の壁で覆いつくし

降り注ぐ氷の槍達からそれを守った


そしてヘンリームとナトリーヌも今、その中にいた


「これは・・・ヘンリーム様、世界が何かに守られていますわ」


「はい、ナトリーヌ様・・・神に感謝を・・・」


バラの庭で空を見上げ、ヘンリームとナトリーヌは

神に祈りを捧げた。




~~~~~~~~~~~~~


雹が降った翌日、町を出ることにした


朝食のあと、宿をでようとしていた


「ネオジム、かんじきを持っておるか?」


「・・・?なんだそりゃ、そんなもん持ってるわけねえだろ」


雪が降る時期にはまだ早い今、それを装備しているわけもない


「ならば町を出る前に道具屋によっていけ、出発はそれからじゃ、」


「よく分かんねえけど、分かったよ」



「あーー、いたいた、良かった間に合った」


宿を出ようとしたそのとき、ロージーが来た


「ん?、ロージー、どうしたよ?」


「うん、あんた達をさ、見送ろうと思って、それと、これ」


「お?、弁当じゃねえか、ありがてえ」


2人分の弁当だった


「あたしが作ったんだよ、持っていってよ」


「ああ、ありがたくいただくぜ」


「・・・ねえ、ほんとに、川の上流へ向かうの?」


町を出るとき斬ると言った魔物のことだ、

ロージーは心配そうに言った


「もちろんだぜ、そのでっかいヘビをよ退治しなきゃ

 お前の商売も上がったりなんだろ?」


「そうだけど・・・、でもさーー、大丈夫なの?」


「まかせとけ、作戦はバッチリよ!」


「さくせん?」


「ああ、だよな、アギ」


「お前がしくじったりしなければ完璧じゃ!」


「しくじるかよ!、オレを誰だと思ってんだよ!」


「誰じゃ?」


「うっ・・・、それは・・・そのうち教えてやる」


3人は川沿いに歩き町が見えなくなるほどの所までやってきた

ロージーの話だと、このあたりでよく目撃されるらしい

川辺に腰を下ろし、その魔物が現れるのを待つことにした


そして、それはほどなくして現れた、

最初にそれを見つけたのはロージーだった、


「や、や、やーー!、あんなの無理だよーー、何よあれ、ヘビってゆうか

 もうほとんど龍じゃないの!、逃げようよーー!」


「心配すんなって・・・よし、アギ行くぜ!」


「かんじきは履いたか?」


「おう、バッチリだぜ」


心配をするロージーを横に見て、ネオジムとアソウギは走ってゆく

己が感情に突き動かされて、



「水と火と風をかたちづくりしものよ我が声をきけ、

 水と火と風の精霊よ我が声につどえ、理を守り我が声に従え、

 氷結二重魔法陣、展開・・・」

 


「我が名はアソウギ、発現せよ!」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


この物語は、ここで完結いたします、


ありがとうございました。



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