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いにしえのまじょ  作者: 凡人(ぼんど)
2/5

2話  探しに・・・

一人で旅する流れ者の冒険者


たまたま助けたのは記憶をなくした小さな魔女だった


たぐいまれなる才能と高度な教育を必要とする魔法


しかし少女は失われた時代の古代文字を理解し、魔導書を読み解く


なくした自分自身の記憶を手繰り寄せるように・・・


アソウギが立てるようになって、日に何度か外へ出るようになった


「ずいぶんしっかり歩けるようになったな」


「うむ、そうじゃな、しかし10日も寝ておっては逆になまって

 歩くのが難儀じゃ」


「はっ、たった10日だぜ、よくあの死にぞこないが10日で立って歩いてるってもんだ」



「おじちゃんたち、冒険者?」

「魔物やっつけてくれたの?ありがとう」


外を歩いていると、ときどき子供に話しかけられる


「お、おじちゃん・・・、ああ、どういたしまして・・・」


「何をしょんぼりしているのだ?」


「お前には、まだ分からねえよ・・・」


子供たちに手を振り、そして村を見渡してみる、


「それにしても、ここは子供が多い、いい村だ」


「そうなのか?」


「ああ、あまりに貧しい村では子が育たん、

 だが、ここは食うものがあるのだろう、

 子供がいるってことは、そこが豊かだということだ」



「それにしても平和だねえー、いい気分だ、こうして昼間からのんびりしていると

 何もかも忘れられる気がするぜ」


「うむ、働かず、ぶらぶらしとると

 いい気分になるのか、お前は変わっておるな」


「ち、ちがう!、お前言い方ってもんがあるだろ、人聞きが悪いんだよ!」


冒険者なのだから、それこそカタギでもあるまいに、

しかし、遊んでいるといわれると、何故か肩身が狭い


「おや、ネオジム様にお連れ様も、もうすっかりお元気そうでなによりです」


向かいから歩いてくる者が声をかけてきた


「ああ、村長さん、おかげでこの通りさ、もうそれほど日もかからず

 ここを出発することもできるだろうよ」


「それは良かった、ですが無理はなさいませんように、

 お連れ様の体の具合しだいで、まだ滞在していただいても

 一向にかまいませんから」


「ああ、すまない、まあ様子を見ながら考えさせてもらうさ」


「それはそうと、ネオジム様、もしよろしければ

 これから我が家にお越しくださいませんか、

 川で良い魚が捕れました、もうすぐ昼でございますから

 ご一緒にいかがでしょうか」


「お?、魚か、ありがたい、ちょうどハラも減ってきたところだ、

 おいアギ、ご馳走になりに行こうぜ」


「お連れ様、アギ様とおっしゃいますか、是非お越しください」


「うむ、では馳走になろう」



村長の家に行くと、もう魚の焼ける匂いがしていた、

それ以外にも汁物や煮物など、いく種類もの料理があった


「おお、こりゃうまい、すまないな、こんなご馳走になっちまって」


「いえ、ご遠慮なく、私どもの村ではトロルに手を焼いておりました 

 ネオジム様のおかげで、もう子供をさらわれることも、なくなります」


「子供を・・・?、そうか、子供をとられてたのか」


「はい・・・この村では川でとれる魚や、

 上流から流れてくる肥えた土で僅かばかりの畑ではありますが

 実りもございます、

 子供が飢えることもございません、

 だから逆に、トロルどもに目をつけられたのかもしれません」


「村の中を流れる川が、ここの要なのじゃな」


アソウギが言った


「はい、さようでございます、ですが、その川も

 良いことばかりでもございません」


「ん?、と言うと?」


「はい、村の言い伝えによりますと、

 この川の上流から泥の混じった水が押し寄せて

 村の全てを押し流したと、そのとき村人は全滅したと

 そのような記録も残っているのです

 もっともこの100年そのようなことは起きておりませんが」


「泥の混じった水・・・」


「はい、それがどのようなものなのか、私もまったく分かりません

 ただ我が家に伝わる魔導書にそれが記されているらしいのですが」


「魔導書か、それでそこには、何と書いてあるのだ?」


「はい、それが・・・ちょっとお待ちください、

 そこの棚にしまってあります、」


村長は自分の座る場所のすぐ横にある棚に手を伸ばした


「これでございます、よろしければご覧ください」


「むーー、さっぱり分からん、どこの国の文字かさえ分からんな」


「はい、私も村の者も、誰も読める者がおりません」


「雨の少ない年の夏の終わり、山で長雨が降ることがある、

 そのときに気をつけろ、と書いてある」


魚を頬張りながら、開いた本をのぞき込み、アソウギが言った


「な、お前、読めるのか!?」


「うむ、どうやらそのようじゃ」


「なんと、お連れ様は魔導書がお分かりで、ならば是非お教えください

 ここにはなんと書いてあるのでしょう」


驚くのも当然だった、

魔法そのものが珍しく、魔導書を読める者など、それなりの英才教育を

受けた者のみ、ましてこのような不明な文字の書など

分かる者がいるなど誰も思いもしなかったろう


「・・・内容は、うむ、ようは山の上で集中豪雨が発生すると

 土石流が起きて、村を押し流す、そのときに備えよ、

 と、書いてあるのじゃ」


「土石流とは、なんでございますか、それに、備えよと申しましても」


「ここには、その対策として一つの魔法が記されておる、」


「魔法?、どんなやつだ?」


「流れてくるその濁流を逆に押し返す術じゃ、

 どうやら時の魔法のようじゃな」


「村長さんよ、そんな魔法が使えそうな人間がこの村にいるか?」


「ま、まさか、濁流を押し返すどころではなく、

 そもそも魔法を使える者が誰もおりません」


「だろうな、魔法使いなんて王都の中にも数人しかいねえ、

 しかもそうとうなエリートだ、

 こんなところにいいるわけねえよな」


「それに、そのような魔法、たとえ王都の魔法使い様でも

 不可能なのでは・・・」


「だな、いにしえの大魔女でもあるまいし、

 自然災害を人の力でなんとかしようなんて、とてもありえねえ、

 それに、まあ、そんな洪水のような雨が降れば、の話だしな」


そのときはまるで他人事のように考えていた、

それから数日後に起きることなど、想像もできなかった




「おいおい、こりゃ、いよいよまずいぜ!、

 もうこんな雨が5日も降ってるじゃねえか」


宿の部屋から一歩も出られず、アソウギに向かって言った


「ああ、すでに5日、上流ではさらに激しく降っている様子じゃ、」


窓の外を見ながらアソウギが言った


「お客様、この辺りはもう危険です、下の村へ避難の準備をしております

 明日から村の者がすべて移動することになっております、

 お客様もご一緒に来てくださいまし」


宿の主人が、部屋の入口でそう告げた


「分かった、明日だな、一緒に行くとしよう、やっかいをかけてすまねえな」


「いえ、お気になさらずに」



それからも、雨はさらに強くなった、

窓の外を見ていたアソウギが立ち上がった


「ネオジム、ちょっとこい」


「ん?なんだ、おいどうしたよ、こんな雨の中どこいくんだよ」


「黙ってついてこい」


雨に濡れるのもかまわず、アソウギは歩いた


「これを見ろ」


村を流れる川のたもとまで来た


「あ?、これがどうかしたかよ、水かさが増して、濁って・・・」


「そうじゃ、昨日までの川の色とは違う、明日では間に合わんぞ」


アソウギのその真剣さが、今が危険であることを伝えていた

裏付けなど必要ない、ただ、そう感じ、それを信じた




「ネオジム様、これは、いったい・・・」


「オレの連れの話じゃよ、明日じゃ間に合わねえとよ、

 まあ本当かどうかオレには分からねえが、

 昨日までとは様子が違うってことは確かだ、どうするよ村長さん」


「分かりました、万が一があっては手遅れ、早いにこしたことはありません

 皆を今すぐ避難させましょう」


そしてすぐさま、土砂降りの中、女、子供、年寄りが

下流の村へ向かうことになり、男衆数人が付きそい

村を出発した


「どうした!、何故進まん!?」


「それが村長、道が、土砂崩れでふさがって・・・」


「何ということだ、これではまったく通ることができん、

 迂回しての道はいけないのか?」


「村長、そりゃ無理だ、男衆の何人かは行ける者もおるが

 大半はその険しい道を通れん、ましてや女子供や年寄りじゃ・・・」


「なんてことだ・・・しかたがない、よし皆戻ろう

 戻ってできるだけ高い場所に集まるんだ」


「だったら、オレの家が村の中で一番高いところにある、

 オレの家に皆、集まってくれ」


ある者が比較的安全だと思う自分の家を避難場所として提案した



「ここがこの村で一番安全な場所か、アギ、ここなら大丈夫だと思うか?」


「分からんな、どれほどの規模でその土石流が来るのか、

 それしだいじゃな」


避難場所となった家と、その周り数件に別れて、村の者達が集まっていた



「男衆は川の上流を見張っていてくれ、もし、なにかあれば知らせてくれ」


村長が指示を出す、もしものときは何も持たず、

身一つで、さらに上に逃げるしかないだろう、そのタイミングを計っているのだ


「おじちゃん、こわいよ、トロルやっつけてくれた、おじちゃん、

 洪水もやっつけてよ」

「・・・ああ、心配すんな、大丈夫だ」


くそ、なんとかならねえのか、


「ネオジム、どこへ行くのだ?」


「ああ、居ても立ってもいられねえ、オレも外で上流を見張るぜ」


「見張って、どうするつもりじゃ?」


「ど、そうも・・・できねえだろうな、

 そういうお前こそ、何でついて来てんだよ」


土砂降りの中にアソウギもいた


「また理由もなく行動するお前が不思議でな、

 観察しておる」


「な、こんなときに呑気なこと言いやがる・・・

 しかし、そうだな、深刻ぶっても始まらねえ、

 もう覚悟を決めるしかねえな、

 考えたらお前とは妙な縁だな、下手すりゃそろってあの世行きだ

 それまでの間、すきなだけ観察でもなんでもしな」




ゴーー・・・と、いやな地響きが聞こえた

「あーー!、あれを見ろーー!」


見張りの者が叫んだ


「山肌が崩れるぞーー」

「なんだあれはーー!?、か、川が、泥の龍が襲ってくるぞーー!」


「だめだーー、助からねえ、あの流れから逃げる場所なんかねえ・・・」


それはあまりに絶望的な光景だった、

村のどこにいれば助かるという話ではない、

この場所の全てが飲み込まれるだろうことが、

誰の目にも明らかだった、そんな巨大な現象が迫っていた


「アギ、すまねえな、お前の楽しい観察も、どうやら仕舞のようだぜ

 お前のことも、村の子供達も助けてやれなかったな、すまねえ」



「お前のそれは、やはり理由ではなく感情だな、

 おもしろい男だ、

 お前のようなおもしろい男の観察を

 ここで仕舞にするつもりなどないぞ」


「な、何言ってんだよ、アギ・・・」


アソウギの横顔を見ていた

たまたま助けたやせっぽちの、この少女の横顔は

迫りくる死を受け入れるつもりなど、まったくないのだと

そう告げていた




「水と地をつくりしすべてのものよ我が声をきけ、

 水と地に宿りし精霊よ我が声につどえ

 時のことわり)を覆し我が声に従え

 時空間逆行三重魔法陣展開」


アソウギのかざした手の前、その空間に現れた魔法陣は

その同軸上に三重に展開された


「我が名はアソウギ、発現せよ!」


そして、それは彼女の意思により、その力を解放した




泥の龍が止まった・・・そして、ゆるゆると、後ずさるように

上へ上へと、後ろへ後ろへと、

逆さまに動いていく・・・


「何だ・・・ありゃ・・・」


そしてそのまま、やがて・・・姿を、消した



「助かったのか・・・オレ達・・・」

「ああ、たすかったんだーー、オレ達はたすかったんだーー」


雨は止んだ、何事もなかったかのように、そこに青い空があった





村の者達は同じことがおきる可能性を考え、村の避難場所を相談している

オレ達は、これからの村がどうなるのか、

それを見ることなく、村を出た


全てを理解したうえで、選ぶ道なら

その結果は本人たちのものだろう、

もう、オレ達が知る必要もないだろう、



「おい、お前、ほんとに何者だ?」


歩きながらアソウギに言った、オレ達は一緒だった


「だから憶えておらんと言ったじゃろう」


「とはいってもなーー、あんな魔法が使える奴なんて聞いたこともねえ、

 どうなってんだよ」


「名前さえ憶えておれば魔法は使える、さして困らん

 それ以外のことはゆっくり思い出すつもりじゃ」


「だけどよーー、思い出すっていってもよーー」


「大丈夫じゃ、あちこちにあるじゃろう魔導書をさがし、

 それを目にすれば、何かしら思い出すやもしれん、

 それにワシはお前に興味がある、

 旅をしながらお前を観察する楽しみもある」


「何なんだよ、それはよ、全部お前の用事とお前の楽しみじゃねえかよ」


「お前には旅のあてがないのだろう?ならばワシとこい」


「来い、じゃねえだろ、オレはお供かよ」


「さて東西南北どこへ行くかのう」


「お前だってあてがねえじゃねえかよ」



「うむ、今日も良い天気じゃな」



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