セイジの独白
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それまでの俺は、けして目立つ生徒ではなかった。
良い意味でも、悪い意味でも。
勉強が得意なわけでも、スポーツに優れるわけでもなく、かといって悪目立ちするほどに周囲から浮くわけでもない、有象無象のひとりであった。
それが、『クロッカス』入学の日の朝、がらっと変わってしまったのだ。
硬くて寝心地の悪いベッドの上、僅かな時間を惜しんで惰眠をむさぼっていた俺は、夢を見た。
魔王の夢だ。
怖ろしい男だった。
自分勝手で、傍若無人で、エゴイストで、けれど、人を惹きつける魔力のようなものをもつ男。
彼を讃えるのは魔族に限らず、対立勢力である神族や人族の中にも多くいた。
圧倒的な力は、それだけでカリスマ性をもつ。
しかし、彼に最後の瞬間が訪れた。
勇者に討伐されそうになり、その魂を逃がしたのである。
―――転生の術。
他の人物に生まれかわる秘術である。
魂は時間に縛られない。
100年間、じっと待ち続けたわけではなく、宿主のとる存在を感知するや、その器と同化するのだ。
そして、魔王の魂が宿ったのが、俺の母親。
もっと正確に言うのなら、母親の中に宿っていた赤ん坊だった俺に。
自覚なんてものはなかった。
しかし、その夢を見た瞬間、実感したのである。
俺は、魔王の生まれ変わりである、と。
しかし、そんなわけないだろう、と否定する気持ちもある。
いきなり、魔王の生まれ変わりだなんて言われても、そんなの納得できるかよ、そうだろう?
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