恋人があと3か月でダルシムになってしまう難病を患った恋愛小説を書こうとしたら、救急車の音が聞こえた。神は僕を見ている。
「準備はいいかい田中」
「まぁいいが、ほんまにええんか?」
「大丈夫さ。国王は老獪で卑劣で臆病ではあるが、その右腕のミーシャ様は話をすればわかってくれる人さ。すごく優秀ですごく強いし尊敬する人なんだけど、筋道を立てて話をすればわかってくれるんだ。
そして、僕がミーシャ様を説得できたと感じた瞬間に「いまだ!」と叫ぶ。そしたら作戦スタートさ」
「すまんなクルック」
「いいってことだよ、君を魔法少女にするためさ」
ここはまほろば王国。
宇宙の夢のほとんどを管轄する、次元の果てにある国。
いちごケーキのような山に、羽で飛ぶ車、ぬいぐるみの家があちらこちらへ見え、様々な姿かたちの生物たちが右往左往している。全体的にふわふわとしたファンタジックな光景。まさに夢の国。
そんな国の真ん中に鎮座するのは、国のシンボルといっていいほどの巨大な城。
この夢の国を支える国政のすべてがここにはつまっている。私は、そこで国王様を支える総務大臣をしているミーシャというものだ。いわば私はこの国のNo2である。ただ、最近悩みがある。
「王。陳情書が届いております。」
謁見の間で、私は畏まり政務の報告を行う。私の前で王は玉座に座り脚を組み私を見下ろす。その周りには王が寵愛している歳は14・5くらいの美麗しい少年たちが取り囲んでいた。王の趣味だ。
「陳情書。くだらん。余が下々のものの意見に目を通す道理があるものか、そちが適当に処理せい。」
王は煩わしさを隠そうともせず、私を睨みつける。両隣には、少年二人を侍らせている。彼らは王に密着しクスクスと笑っている。この光景にも慣れた、こんなところでいら立ちを覚えると仕事にならない。冷静をつとめる。
「王こそが、下々の者の思いを知っておくことが国政といえるのではないでしょうか」
「親父と同じことを言うでない。他、何かないのか」
王は、強引に話を打ち切ると、侍らせた少年の腰に手をまわし身体を撫でまわす。少年たちはキャッキャと嬉しそうな笑い声をあげている。
「財政が圧迫されています。一番は王宮費です。何度申し上げたかわかりませんが、無用な浪費が多すぎます。先代の10倍ほどの浪費。民へ届く恩恵すら、消費してしまえば政治がなりたたなくなりますぞ」
「静養費である。余が力を蓄えることで、より能力を研鑽し国政に精を出せる。それこそが民への責任にはならんか」
話にならん。そう吐き捨てると王は、親父と比べるなといったはずだと吐き捨て玉座を立った。話は無駄だったようだ。少年たちが焦ったように王の後姿を追う。どれだけみた光景か。ため息が漏れる。
「そうだ、ミーシャ。今日は論功行賞があるんだ。」
ふと王様は私の方へ振り返った。王様の意地の悪さが凝縮されたような邪悪な笑みで、不覚ながらたじろったが
「そうですか」
とすぐ話の続きを促した。王は私の反応になぜか気をよくしたのか
「そうかそうか聞いていないのか」と笑い
「ペニース山田が臥龍艦隊を、地球に使わしたそうだ」
「なっ・・・まさかこのようなことが・・・・王。お戯れはよしてください」
私は驚愕したが、王は依然落ち着いている。だから偽りだと思った。それが事実なら地球と直接門をつないでいるこの王国に瞬く間として艦隊が攻めてきてもおかしくない。そうなると王は狼狽しこのように冷静を務められるわけがないのだから。
「まぁ聞け。その艦隊をな。あの落ちこぼれ外交官クルックが撃破したというではないか。」
「馬鹿な。そんな訳ありません。あの艦隊は、数々の次元や星をおもうがままに滅ぼしてきたK察の最高戦力といっていいはずで・・」
ここまで言って私ははっとした。王は部下を追い詰めるのが好きだ。王は、部下をどうしようもないほど追い詰めてそして部下に失態を起こさせる。そしてその失態を起こした部下を刑と称し自らの奴隷として使役させる。
「今から論功行賞の儀を行う。クルックにはその英雄を連れてくるように言いつけておる。そこで思うがままの褒賞を与えるつもりだ。事実ならな。もし、万が一偽りだったのなら心痛いが、国のためクルックには厳しい仕置きを与えてやらんとならんな」
王はニヤリと笑った。私は内心しまったなと思った。自分の情報収集力のなさと、部下を庇える機会を失ったことだ。大方、クルックも王に不必要に追い詰められたのだろう。今度こそ去り行く王の背中を見つめたあと私もこの場をあとにした。
廊下に出た私は考えるK察の3幹部には近辺の星や国はすべて抵抗するも安易に滅ぼされてしまっている、それほどまでに圧倒的な軍事力を兼ね揃えていた。嘘の申告をしたクルックも悪いがそう仕向けたのは王の方だろう。
いや万が一クルックが、あの初代魔法少女与謝野晶子を超える逸材を獲得できていたのならこの話もあり得るのかもしれないがそれを彼に期待するのも酷なものだ。
「ミーシャ様お聞きになりましたか」
しばし思案に耽っていた私に、外交官達が声をかけてきた。彼らは地球と違う次元の担当である、戦火の遠い場所へ自ら志願してきた者だ。命は大切であるし、それを私は別に咎めない。
「何のことかな」
なんとなく把握している。どうせ、クルックのことであろう。
「クルックがペニース山田を倒したとかいう夢物語をですよ」
一人が言うと周囲の人間が一斉に笑い出した。私の嫌いな空気だ。
「元々変人だったけど、まさか妄想までするようになるとは思いませんでしたよ」
「初代魔法少女の再来を!だとか身の程わきまえない夢みてたから頭ぶっこわれたんでしょうな」
クルックは、周囲と距離を置いていた。そして他人へ迎合することはしなかった。それが気に入らなかったのだろう、彼らはクルックの批評及び陳言を私に行っている、ため息が出そうだ。確かにクルックは変人ではあるが、それでも自ら戦火の激しい地球へ立候補し職務を全うしている。安全圏でただ、戦っているものをあざ笑う奴よりよほど偉いのだと、言おうとしたが私自身王をろくに諫めない時点で同類だと思い、躊躇い拳を握る。
そんな時だった。 開門の合図が聞こえた。そうだ、もう論功行賞の時刻だ、
王が彼をどのような手段をもって苦しめようと考えているのかと思うだけでクルックを哀れに思う。
だから、いっそのことクルックよここにこないでくれとも思ったがそれも果たされない。
「ただいまもどりました」
聞きなれた声。だがいつものような無駄に自信ありげな声ではなかった。沈んだ、何か憚るような声、そんな声を彼の口からききたくなかった。
「よう、クルック。さいきょうのまほうしょうじょでもみつかったか」
「それか、土下座の練習でも学んできたのか地球でよ」
「あとで楽しみに待ってるぜ」
汚い陳言を行っていた彼らは、クルックの落ち込んだ様子をみて思いの他満足したのか笑いながらクルックの横を通り過ぎて行った。クルックは、明らかに落ち込んでいた。だが私自身もう責めるつもりはなかった。
「ミーシャ様、ごめんなさい・・僕。どうかしていたんです。今思えば・・」
言葉を絞り出すように私へ話しかけてきた。彼のいつもの自信満々さは失われていた。それがつらくてもう私が彼にかける言葉は慰めしかない。クルックは何事にも一生懸命なのだ。私は、そんな彼をどんなことがあろうと怒ることなどできない
「いいんだ、君は悪くない。別に。もう気にしなくていい嘘の報告をしたくらいで私は・」
「なんであんなやつを連れてきてしまったのか・・・」
クルックがこう話し出した。私の想像していた言葉とは全く違っていてしばらくその言葉を吟味していた。いやそういえば妙に外が静かだ。今から儀式を行うにしては静かすぎる、少し怪訝に思ったが私が動く前に
「ここが王宮か」
声がした。声がしたほうをみると、世の中のヤクザを煮詰めに煮詰めた果てに生じたような凶悪な顔面をし、銃で撃ったところで何の外傷も与えられないくらいの肉体を持った男がそこにいた。私は、瞬間身構えた。K察の刺客かと思い刀の柄に手を触れて叫ぶ。
「何者だ!?」
「クルックに言われて魔法少女になりにきたんや」
「・・・は?」
一瞬の間を空ける。目の前の彼が何を言っているのかわからなかった私はクルックの方をみた。クルックは、私から目を反らし口笛を吹いた。ドラクエのレベルアップの音だった。物事を胡麻化すにはあまりにも不適合な曲のチョイス。
「クルック、ついに頭がイカれてしまったのか」
「ついに?まるで頭がおかしくなる予兆が僕にあったみたいじゃないですか嫌だな。むしろ僕は目が覚めたんですよ。差別や偏見を無くして自由な世界を作る素晴らしさを。ねえ?オッサンの魔法少女が存在するのは罪ですか?」
「罪だよ」
「はぁ、これだから大人は嫌いなんだ。全く話にならない。こんな糞みたいな大人は排除して素晴らしい世界を作りたいもんだね」
「お前のセリフの中に速攻で差別や偏見が登場しているんだが」
「やめておけ、クルック。この大臣の立ち位置も理解すべきやぞ。ここで無理矢理我を通したところでそれは我々の我儘や。魔法少女ってのはこの国の一大プロジェクトなんやろ?」
「おや、そちらの生足でスカートをはいている男性は良識があるようですな」
「大臣の立場で国事を判断することはできんから国王の所へ誠心誠意伝えに殴り込みにいこうや」
「よく考えたら生足でスカート穿いている男性に良識を期待するだけ無駄だったな!」
「じゃあ大臣の承諾も頂いたところだしいこうや」
「なあ、いつ承諾を頂いたんだ?教えてほしいんだが」
「うむ是非ともいい考えだ。この総務大臣ミーシャが許可しよう。王もわかってくれるはずさ」
「ふざけるなおい」
「この世界はセリフの前に名前もないし地の文もないから、発言を捏造し放題なんだ」
「クルック、お前はアホだけどもう少しかしこいと思っていたよ」
「でも、大臣。この人は、ペニース山田の軍を一人でほとんど壊滅させたんだよ」
「地球が狙われているはずなのに怪物の気もほとんど感じないでしょ?ミーシャ様ならわかるでしょ?ペニース山田軍が倒されたことも。そして目の前の田中が、与謝野晶子やクリストル=ブストスのような歴代最強の地球魔法少女に勝るほどの力を持っていることも、(補足ですが魔法少女は例外なくミニスカートをはきます)」
「むぅ・・確かに、とはならんよ。そんな強い奴が国王の所へ殴り込みにいくなら余計にここでとめなきゃならんだろ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「いまや!」
ピーピー エマージェンシー 警報!警報!
まほろば王国 城下町 8番の66地に強大な次元の割れ目 発生!!
災害レベル 測定不可能!! 災害レベル測定不可能!!
周辺住民は戦闘を放棄しただちに本城へ避難せよ。
まほろば五賢帝は、配置につき災害へ備えよ 繰り返す!
「ミーシャ様!大変です。災害レベルらしいですよ 8番の66地といえばこの近くじゃないですか!五賢帝の一人としてすぐ現場に向かわないと!」
「お前、さっきいまやって叫ばなかったか?」
「ミーシャ様。もしこの災害で被害が出た場合、前線で戦うべきミーシャ様がボサボサしていたことが理由になるんですが、その際言い訳として「クルックがいまやって言ったから尋問してました」が通用すると思いますか?」
「わかった。じゃあお前らもこい。その男性も戦力になるだろ。山田の部隊を倒したってことはそいつをみてれば嫌でも信じてしまうからな。ただ、目は離したくない。私が見ていない間に王様の所へ突撃しに行く可能性も十分にあるからな」
「大臣!ワイは地球の平和のためを考えてるんや!そんなことはせん!」
「そうだよ、ミーシャ。確かに田中はハゲで臭いけど、平和を思う気持ちだけは偽りはないんだ!」
「それは私が見極める。黙ってついてこい」
私は、走る。この国に伝わる瞬歩術を下地にこの30年研究に研究を重ねた結果出来上がった瞬破。
人は、片足で地を蹴りながら歩く。瞬歩術は地を蹴り空気をも蹴るため人より何倍もの速さで歩くことができる。そして私が作り上げた瞬破は、なんか足をうずまきみたいにまわしてなんか早く歩くことだった。
誰にもまねできない私の秘術だったはずだが、クルックの連れてきた男はそんな私の速さについてきている。
疑うわけではないが、確かに強いのはわかる。殺気は全く感じないのだが、呼吸と鼓動で相手の強さは嫌でもわかる。生唾を飲み込む。これからのこの国はどうなるものか、いやそれよりもまずは目の前の危機に対抗すべきだ。まほろば国、世界の平和のために。
「8番の66地ってここか」
「油断しないでね田中、今は全く気を感じない。全く感じないというのは全く居ないのか或いは、非常に強い使い手が気を漏らすことなく押し殺しているのどちらかだからだ」
「お前がさっき俺を臭いハゲと言ったことも、俺の心の中で押し殺すからな ついでにお前も殺すけど」
「おやおやプンプン異臭がすると思ったらハゲが激しく怒っている匂いだったか」
「うるさいぞお前ら!ちなみにさっき呼び捨てにされたことも覚えてるからなクルック」
「ミーシャ様!上!!」
クルックが叫ぶと同時だった。悪寒が背中を走る。
今まで何度も何度も襲った感覚。命が刈り取られる刹那の感覚。柄に手をかけていた、何故?誰?感じる前に 衝撃に備え経験則で刀を抜き背部に手を回した。 しかし衝撃はこない。
後ろに目をやると、田中が見えた。田中は歯を食いしばっていた、この間0,1秒。訳が一瞬わからなくなったが瞬歩でその場から移動してようやくすべてを把握する。田中が杖で剣を受け止めていた。
その剣を握っているのは私が忘れもしない天敵のアナール山田であった。K察の三大幹部。
わたしは魔法を詠唱しアナール山田へ雷撃を与える、もちろんアナール山田は瞬時に気付き素早く移動し私の横へ瞬間移動したので剣をそこへ向けてふり斬った。宙を斬った。
「田中。助かった。」
杖を構えている田中へ向け礼を言う。魔法少女になって間もないというのにもう隙のない構えができている。まごうことなき猛者だ。
「お礼は言わなくていいって。どうせ田中さんがこなくてもさっきの攻撃はアンタ防いでたよ」
アナール山田はそう言うと、頭上に剣を掲げてクルクルと片手で回し始める。七三分けで黒髪中肉中背で申し訳程度の顎鬚に黒ぶち眼鏡。さらにスーツと言った出で立ちで地球の日本のサラリーマンと何ら変わりはないそれもそのはずアナール山田の担当は地球だ。地球で魔法少女になりそうな人間を片っ端から狩っていくのが仕事だから地球に溶け込むような人畜無害な外観で何ら不思議なことはない。
最も目の前のアナール山田のスーツは真っ赤なのだが。
「どうせ返り血で汚れるから」