【ホラー】短編②
H県とO県との県境の集落がなくなったことを知っているだろうか。
平安時代から山間にあった小村は木々が生い茂る森の深い谷にあったが、山を抜ける道を行くには必ずそこを通り抜けるため、人々の往来が多く宿場町としての役割があった。宿場町の全盛期には4件の宿が建ち並ぶほどの賑わいをみせていた。
しかし、街道の整備が盛んに行われる明治時代に入る前に大型の台風に見舞われ、大規模な土砂崩れでH県側の街道は壊滅状態となった。O県側の街道が通じていたため、国はH県の街道を整備の対象とはせず、小村は宿場町としての機能を失い、明治時代の後半には営業を続ける宿は1件もなくなった。
――どうしたの?
少女は通りがかる人々にそう声をかけた。
小村で生まれた少女にとって「それ」は当たり前のことだった。
街道は昭和の時代になっても不通のままで、道に詳しくない旅行者などが集落によく迷い込んできた。
村民は彷徨う者の半数だけを丁重にもてなした。
O県側で道に迷った者には正しい道を教え、来た道を戻るようにした。O県側の道は比較的に見通しが良かったからだ。
しかし、H県側の人たちには潰れた宿へと案内した。
少女は迷った人たちの案内役だった。
山中に畑があり、その近辺は開けた場所にあった。少女が遊んでいると、道に迷っている人たちは声をかけてくるのだった。
夜遅くても、少女は明るい笑い声で訪問者に話しかけ、複雑な小道を進んだ。
そして、宿まで道を教えると、そっと訪問者たちの前から姿を消すのだった。
少女の役割はここまでだった。
ほとんど訪問者は宿で殺害され、焼かれた後に土葬された。
もし逃げ出しても、訪問人たちは遭難し、集落の人たちに捕らえられた。
その後の調べによると、土葬された場所からは数十にも及ぶ白骨が見つかったという。
少女は言う。
――ここはね、昔からの宿場町なのよ
これからも変わらずに人たちが休んでいくの
だから、ゆっくりしていってね
(完)