こぞのきみ、いまいずこ
遥彼方さま主催「ほころび、解ける春」企画 参加作品。
ほころび解けたセーターの糸を弄りながら雪解けの庭に目を向けると、眩しいくらいの陽光に満たされた視界にうんざりして、悲痛な小鳥の鳴き声に耳をかたむけることになった。
ぴいぃぃぃいっ……!
ぴいぃぃぃいっ……!
我が身の軋む音が聴きたい、メムノン鳥の哀鳴に……。今はただそう思うのだが、彼らはついに鳴きやんでしまった。
過ぎゆく時はまぼろしかと、残像に問いかける。セピアがかったその残像には、アルカイックな笑みが浮かんでは私を魅了するばかり。目を閉じて、ジンジャーの香りがする辛口のココアにほっと息をつく。
暖かな陽射しは容赦なく近づき、青虫が現れて成虫になるころにはモンキチョウの奴らが黄色いひらひらを使って飛びまわり、私をひとりにさせるだろう。
過ぎゆくものはまぼろしかと、残像に問いかける。
ぴいぃぃぃいっ……!