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2045年問題   作者: 村田こうへい
第一章 転移編
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第八話:「目標」

 ふと俺は意識を取り戻した。

俺は机に向かって勉強をしていた。


 右手にはシャープペンシル。

机の上にはノートが広げられ、左側には赤色の参考書が広げられていた。



「……は?」



 俺は驚くと、机の横に掲げられている時計の日時を確認した。

日時、時刻は2018年9月2日19時5分。俺が有海にあの本を渡す11日前のようだった。



 俺はシャープペンシルを机の上に放り投げると、即座に立ち上がり自宅の書庫へ向かった。


 少し乱暴に書庫のドアを開く。

書庫の中に入ると、いつも通りの古本の匂いが鼻に纏わりつき、俺の決意を後押ししてくれた。



 書庫の中から、俺は目的の『あの本』をすぐに見つける。

それは俺が引き抜いたはずの場所にちゃんと存在していた。


俺はその本を回収すると、足早に自室へと戻り、机の中に隠した。


 その後、俺は机の上に存在したスマートフォンで有海に電話をした。

どうしても有海の存在を確認したかったからだ。




「もしもし?? やっほ~。あきと~。あきとどうしたの? やだ、泣いてるの?」




俺は普段通りの気の抜けた有海の声を聴き、号泣してしまった。









 その後、俺は有海と再会した。


「どうしたの?そんなに泣いちゃって?」


 有海は心配した表情で集合場所に現れた。

今回は黒縁眼鏡に合わせて普段着ているワンピース姿だった。


 俺は張り詰めていた気持ちがどろどろに溶けると、即座に有海を抱きしめた。

どうしても有海の存在をこの手で確認しておきたかった。


「おお!! ……ふふ、よしよし」


 気の抜けた有海の慰め方に、俺はさらに泣いてしまった。






 その後、俺は有海とファミレスにいた。

本を渡す前にデートをした、あのファミレスだ。


 今日は普段通りの客足のようで、高校生や家族連れで繁盛していた。


「……というわけなんだ。信じられないよな?」


 四人席に向かい合うように座りながら、俺は今まで経験した事と、なぜか過去に戻れたことを伝えた。


 有海は、メロンソーダをすすりながら吐息する。


「うん、さすがにちょっと突飛すぎて、信じることはできないけど……」


 有海は続ける。


「でも、そんな状況になっていたとしてもなお私を思い続けてくれたことはすごくうれしいな! そしてあきとの()()()の中で私の思いが他の人に移らなかったことを聞く限り、あきとの中では私を信頼してくれてるってことなんでしょ? えへへ、ありがとうね」


 有海にキスされた。

ドキドキしてしまった。


 しかし、有海の話っぷりに俺は眉間にしわを寄せる。

完全に俺の夢の中の話だと思われているようだ……。


「それにしてもその話結構現実味あるよね。本当に未来から帰ってきたように感じちゃうよ~」


 ニコニコ顔の有海が俺に語り掛ける。


そんな有海を見て、俺はぼそっと呟く。


「まあ、本当に帰ってきたんだけどな……」


「え? なんか言った?」


「いや、なんでもないよ」


 しらを切ろうとする俺を見て、有海の頬がむくれる。

しかし、すぐに機嫌を戻したのか、俺に畳みかけるように話を始めた。


「今の昭人の話の中だと、私もAIの研究グループのリーダーか~。確かに3日前に開発グループに抜擢されたから、そうなれるように頑張らないとね!!」


Yes, I can! yes, I can! と意気込んだ有海が連呼する。

ちょっとバカっぽいからやめてほしい。



「でも、その話の中だと私のせいでAIの発展が早まって、AIの知識が人間を超えちゃって戦争が起きちゃったんでしょ? 私が開発しないにしろ、2045年以降にはその状況が発生する可能性があるといわれているし……。しかもさっき言っていた『I am your fellow』『私はあなたの同胞です』その合言葉、本当に今私考えついていたんだよ……。うん、確かにそんな状況になりえるよね。もう少し抜本的に考え直さないとな……。ふふ、なんかヒントになりそう!ありがとね!」



 俺は天真爛漫な有海の姿を見て、顔が緩んでしまった。




 俺達は、いつも通り割り勘で会計をすると、ファミレスを出る。


 駅までの道中で、俺は有海に未来での出来事を話す。

有海は、その話をニコニコ顔で興味津々に聞いてくれた。




 そして、俺達は猫型の銅像の前に着く。


 そこで、俺達は別れの挨拶を交わす。

「またね。また明日」だ。


 俺はその言葉を聞き、また目頭が熱くなってしまった。


 俺が感動しつつ、涙ぐんだ自分が若干恥ずかしくなり、有海から目線を外そうとした時だ。

有海ははっと思いついたような表情になると、俺を見つめて叫んだ。



「せっかくいい内容が思いついているんだから、それ小説にしなよ!! 私誰よりも先に読むから!」



 有海は言い切ると、ニマニマとした表情でプラットホームへと駆けていった。






 有海と別れ、俺は自室で考えこんでいた。

今回体験した内容は是非小説にして、読者と共有したい。

しかし、本当に小説にしてよいのだろうか。



 有海がこれからAI開発を頑張ってくれるだろうが、『人間を攻撃しないシステム』を構築するのは、AIの自己学習機能が存在する限り非常に難しいと思う。

なぜなら、今回の体験通り、設定を本能に叩き込んでも、AIの自己学習機能で本能を上書きされてしまうのだから。


 つまりこの内容を小説に書き、皆に対AIの対策を知らしめたとしたらどうなるか。

AIが人間へ攻撃してきた時に皆が同様な対策を取り、結果AIが対策を学習して対抗する手だてがなくなってしまうリスクが非常に高い。



 では()()()が生き延びるには一体どうすればいいのだろうか。



 それは、AIが攻撃してきた際の対応策を俺と有海の中だけにとどめておき、他の人間に知らせなければよい。その対応策を唱えると、『俺たちはこの人に服従しなければならない』と勘違いしてくれるとなお良い。




 つまりAIが人間を超えた後、人間を迫害する『新人類』の頂点に俺達2人が君臨できるように、俺達2人が『サイボーグ(旧人類)』の上にたつ『新人類』となれるように、俺はより勉強し、知識を蓄え、有海のAI開発をこれからあるべき姿へ誘導(・・)していこうと思う。

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