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2045年問題   作者: 村田こうへい
第一章 転移編
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第六話:「追求」

 その後安西教授の発表は続いたが、俺の頭にその発表内容はほとんど入ってこなかった。

先ほど頭に介入してきたイメージ、そして自衛のために『あの文章』を唱えた後の周りの観客の態度……。

この状況から、「新人類サイボーグ」は「旧人類(人間)」と戦い勝利し、「人間」の居住域を奪ったと推測できた。そして俺は悟った。



生き残っている「人間」そして「有海」に会いに行かなければならない。と。





 学会が終了し、俺は安西・村田と共に雫石町の宿へ戻った。

荒涼とした国道を走りながら、イタに乗る二人は安心した表情で俺を見つめ、吐息を漏らした。


「小林が途中で具合を悪くしていた時は焦ったよ。何ともなくてよかった」


 その後、俺はどきまきしながらあの時何を覚えているのかを確認してみたが、話を聞く限り安西と村田は俺が唱えた『あの文章』と、『周りの観客の反応』を覚えていないらしい。


「本能に訴えかける」とはこういう結果を生むらしい。





 そして深夜2人が寝静まった後、俺は安西の「電子マネー」を奪い、何かに導かれるように宿の外へ出た。


 宿の「自走する板」を奪い、真っ暗な国道を爆走した。目指すは盛岡駅だ。

盛岡駅付近まで到着すると「自走する板」を乗り捨てた。時刻はちょうど5時半だった。


 2018年からルールが変わっていなければ、新幹線は深夜0時から朝6時までは線路を走行できない。そして、始発列車は盛岡を朝6時過ぎに出発するはずだった。

だから、この時間に盛岡駅に到着できたことは俺の狙い通りだった。


 俺は奪った電子マネーを使って改札内に入り、新幹線に乗車した。

向かう先は「仙台の実家」だ。まずはそこに行かなければいけない。

何故か俺の思いはそう決まっていた。


 東北新幹線の列車はより新しい車両へ更新されていた。

最高時速も420km/hにアップしているようだ。


 俺は不安な気持ちで朝霧が立ち込める車窓を眺めていると、20分足らずで仙台駅へと到着した。


 仙台駅に到着すると、俺は足早に在来線へ乗り換える。

仙台駅では、若干名が降りた。

早朝なこともあり、利用者が少なかったのだろうか。


 しかし、乗客が多くても少なくても、俺の中で気持ちは変わらない。

こいつらは、新人類(サイボーグ)……。俺とは違う人種のはずだ。


 俺の正体が知られれば、こいつらに殺されてしまう……。

俺は恐怖に顔を歪ませながら、在来線乗り換え口を駆け抜けた。


 そのまま俺は仙石線に乗り換え、最寄り駅で下車した。


 最寄り駅の改札をくぐり、視界に見慣れた光景が映し出された。


「…………」


 しかし、俺はその光景を見て声を失ってしまった。


 目の前の道路は荒れ果て、隙間から雑草が顔を覗かせていた。

近くには、銃弾で穴だらけにされた車らしき物体や、黒く焼け焦げた車が無造作に放置されていた。

俺はそれらを見て、目頭が熱くなる。


 どうやら、この付近も戦禍を免れなかったようだ。駅や建物全てが荒廃していた。


「……そういえば」


 ふと思い至った俺は、俺がタイムリープした現場に向かってみる。

その現場の横には、猫の銅像が存在していたはずだ。

その銅像の横で、俺はあの本を有海に渡したはず……。

 俺は、記憶を頼りに銅像付近に向かった。


 荒れ果てた駅前で、俺はすぐにその銅像らしきものを見つけた。

その銅像は、台座だけがしっかりと残されていた。

しかし、上に乗っていた猫の銅像は存在していなかった。


 新人類に壊されてしまったのだろうか?


 変わり果ててしまった思い出の場所に俺は気落ちしながらも、何か起きるかもしれないと思い、その場所に立ってみた。


 そのまま1分程ぼうっとしてみる。


 生温かい空気が巻き上がり、近くの木々や草花がさらさらと音をたてる。

しかし、それ以外は静寂が支配した。


 俺がここに住んでいた頃は、この駅には頻繁に列車が到着していたように思う。

その列車に乗るために、人々は早朝でも頻繁に行きかい、町は活気に満ちていたはずだ。


 しかし今はどうだろうか?


 その列車も殆ど来ることはなく、人の気配も全く感じなかった。


 俺はそんな状況に背筋を震わせながら、呟いた。


「……まあ、何も起こらないよな」


 俺は気味が悪い雰囲気に肩を震わせながら、家路へと着いた。




 俺は地元の荒廃した道路を走り、自宅に向かった。

道中人は全くと言って良いほど見かけなかった。

「この地域には誰も住んでいないのではないか」と疑う程だ。


 どうやら新人類は人間を追い払った後、必ずその土地に居住するわけではないようだ。




 自宅に到着した。

自宅の玄関は壊れ、ドア枠にはまりきれずに傾いている。

駐車場には、錆色の車が無残に放置されており、木々は枯れ果てていた。


 俺は、あまりの不気味さに、俯きながら玄関へと向かう。


俺が玄関のドアを開けると、ドアの役割を果たしていた板は庭へと倒れ落ちてしまった。



 俺はどさっと大きな音をたてながら倒れたドアを一瞥しつつ、家の中へと足を踏み入れる。




家の中は、少し埃っぽいが、俺が住んでいた頃の面影を残していた。




「父さん、母さん、爺ちゃん。いるなら返事をしてくれー?」




 俺は叫びながら、家中をくまなく探す。

しかし、その問いかけに答えるものは何もいない。


 そのまま、俺は自分の部屋へと到着する。

その部屋は、俺がタイムリープする前のまま時間が止まったような状況で残されていた。

俺が座っていた勉強机の上には、有海とデートに向かう前に開いていた参考書が残されていた。


 俺は、その参考書を持ち上げパラパラとめくる。

俺の鼻には、香ばしい紙の匂いが纏わりついた。




 俺は自宅の書庫へ向かってみる。

見慣れたドアを開け放つと、嗅ぎなれた古本の匂いを感じた。

俺はその匂いを嗅ぐと、また目頭を熱くしてしまった。


 涙で視界が霞む中、俺はキョロキョロと本棚を見渡す。

どうやら、書庫もそのままの状況で残されているようだ。


 俺が知っている本に紛れ、見覚えのない本が書庫の中には何冊か含まれていた。

俺がタイムリープしてから祖父や両親が購入した物だろう。


 懐かしい気持ちににやにやしながら、俺は本棚を順繰りに見渡す。

その時、俺は違和を感じる。

厚く黒い本に挟まれるように、おしゃれな色彩をした厚い本が押し込まれていたからだ。


 俺は導かれるようにその本を棚から引き抜く。

俺は、その表題を見て目を見開く。



そうそれは、有海の「日記」だった。




 なぜここに有海の日記が存在する?

不思議に思いながらも俺は日記を開いた。





「2018年4月1日 待望の『河合エレクトロニクス』に入社!! 世界一のAIを私は作って見せる!」


 日記は、有海が河合エレクトロニクスに入社した頃から始まっているようだ。

俺がタイムリープしてしまった半年前頃だろうか。


 日記は、一日も途切れずに続く。


「2018年6月10日 昭人と水族館デート デートの時も動物の動きを見てロボットに生かせないか考えてしまう私は変なのだろうか……」


「2018年8月30日 AIを開発するグループに異動になった! 私の能力を評価してくれたのだと思う。すっごくうれしい!!」




 ここまでは順風満帆な有海の生活模様が描かれていた。

しかし、ある時からガラッと変わってしまった。




「2018年9月13日 昭人が倒れた。ファミレスデートの帰りに。救急搬送され、病院で入院することになった。とても心配だよ……」


 俺がタイムリープした日だ。

どうやら現実では俺は気を失って倒れていたようだ……。



 その後日記は、俺を心配した有海の呟きが書かれ続けたが、ある出来事によりそれは止む。


「2018年10月24日 入院先の医者より、昭人の回復見込みがないと告げられた。昭人が植物人間になってしまった……」


 この後、しばらく日記の書き込みは俺の植物人間化したことを悲しむ姿と、植物人間から回復させるために奔走する姿、その悲しみを埋めるためにがむしゃらに仕事に没頭する姿が記載され続けた。

 しかしある時から内容が一変する。


「2022年3月20日 現代医療の限界を知った。ならば、AIを用いて医療の研究を早めさせることはできないだろうか。会社に上申し、私は研究用AIの開発リーダーになった。全ては昭人を治すために!」



 現代医療の限界を知った有海は、俺を助けるためにAIを用いることにしたようだ。



「2022年12月20日 AI初号機が完成した。無論私が考えた人間への攻撃防止システムをそなえた状態! 特許は当然取得済み!!」


「2024年3月14日 AI6号機が完成した。この子には近年開発された量子コンピュータを搭載してみた。6号君の学習速度と解析速度は5号君と比べて飛躍的に上昇した!そろそろ医療の解析を依頼してみてもいいかもしれない」


「2024年12月8日 昭人の容態を6号君に解析してもらった。出力結果は、『体は正常』『意識だけが抜けたような状態』『意識は別のところに存在する』『未来に存在するのではないか』という内容だった。何度解析させても結果は変わらなかった。これには担当医と私もびっくりした。『未来に意識が存在している』とはどういうこと?」


「2025年3月13日 6号君を量産することになった。生産工場が建設されることになった! 私の頑張りが認められた気分!」


「2026年7月1日 6号君の量産型試作機が私のところに届いた。試験を行った限り特に異常はなさそうだ。工場の本格稼働は10月1日からとのこと!」


「2026年11月12日 世界各地で植物人間が増えていることがテレビで紹介されていた。しかも共通することは『意識を失う前にある本を持っていたこと』だ。そういえば昭人も意識を失う前に私に本を渡していた……」


「2026年11月13日 昭人が貸してくれた本を久しぶりに読んだ後、その本を机の上に置いておいた。そしたら昭人を解析してくれた6号君がその本を読んでいるのを見かけた!AIの自己学習機能に興味深々な私は、隠れて6号君の観察を続けていたんだけど……。突然6号君は挙動不審になり、本を持ったまま走り去って失踪してしまった。6号君いったいどこへ」


「2027年2月7日 工場が不正アクセスされ、会社の機密情報が漏洩してしまった。合わせて作成が完了していた6号君たちが50台ほど逃げ出してしまった。私の頑張りの成果が外に漏れてしまったかもしれない……」



 しかしその後しばらくは何も起きなかったようで、この先は『6号君』の順調な生産と順調な売り上げを記録したようだ。

『河合エレクトロニクス』の繁栄と、俺が入院している病院へのお見舞いや、俺の意識を未来から引き戻そうと奔走するが上手くいかない有海の状況が書かれていた。

有海の俺への献身的な態度に、俺は少し涙ぐむ。





 しかし、いくらかの月日が経った頃、日記は別の展開を見せる。




「2033年3月1日 『人類に似た形をした物体』が人類に戦線布告をしてきた。『俺たちは『新人類』であり、『旧人類』である人間を制圧するために生まれたのだ』と力説したらしい。でも戦線布告した相手が新潟の交番にいた警察官だったから、軽くあしらわれたみたい。世の中不思議な人がいるよね」


「2033年4月2日 『新人類』を名乗る一軍が新潟市を制圧。新潟市に常駐している自衛隊がいなかったから、即時陥落したらしい。仙台は大丈夫かな……?」


「2033年4月15日 自衛隊による奪還作戦を決行。しかし相手の破壊兵器等により圧倒されて自衛隊は敗走してしまった……」


「2033年5月20日 勢いに乗った『新人類軍』は新潟県と秋田県、山形県を制圧。制圧された各地で人間が虐殺されているらしい」


「2033年5月25日 捕えた新人類の残骸を解析。そいつらは機械と生物を合成した『サイボーグ』……。なぜこんな物が日本に……」


「2033年7月13日 新人類の解析依頼を受けていた私は、こいつらが私の作ったAIを搭載していることを突き止めた。そして推測した。多分あの逃げ出した6号君がこれをつくっているのではないか……。ならば私のやるべきことは1つだ」


「2033年7月14日 日本政府に解析結果と、殺されそうになった場合は『I am your fellow』『私はあなたの同胞です』と新人類に伝えれば本能に従って人間を殺す処理を止める可能性がある旨を伝えた」


「2033年7月20日 日本国民に『I am your fellow』『私はあなたの同胞です』と新人類へ伝えろと伝達された。これで攻撃も止まるだろう」


「2033年8月20日 一度やんだ攻撃がまた再開された。なぜかはわからない。まさか、同じ文章を何度も唱えられたことで、AIの学習能力が『I am your fellow』『私はあなたの同胞です』と唱えた人たちを『旧人類』だと認識するように自分たちの本能を上書きしてしまったのか……」


「2033年10月1日 仙台も新人類に宣戦布告された。私たちは北海道に疎開することにした」






「意識が未来にタイムリープしている昭人。昭人が未来でも立ち寄りそうな場所にこの日記を置いておきます。もしその『未来』でこの日記を見たら、ぜひここに来てほしい。私たち『人間』が暮らしています。待っています。 北海道根室市●●地区」


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