第五話:「発覚」
到着したホール「盛岡ホール」は最近できた建物のようだ。
他に存在する建物よりも損傷が少なく、また見た目も近未来的な意匠となっている。
イタをホール横の専用スペースに置き、正面玄関から入場する時、安西は得意顔で口を開いた。
「ここは内戦があった際、この地域の対ロボットの本陣となっていたんだ。だからほかの建物に比べて損傷は少ない。本陣は優先的に敵軍から守られていたからね」
俺はそれを聞き頷く。
なるほど、このきれいな設備はその結果か。
ホールの中へ入場すると、安西が代表して受付を行ってくれる。
安西と対峙して受付業務を行っていたのは、白いロボットだった。
俺はその子をじっとりとみると、先ほどの冷麺屋にいたロボット達と同じ形だということに気がづいた。
なるほど。同じメーカーのロボットなのかな?
受付を終わらせた後、俺と村田は安西に連れられてホールの中へ入った。
俺は、ホールの中をきょろきょろと見まわす。
客席用のひな段は建物の壁面に比べてかなり新しく見える。
これも内戦時の本陣だった名残なのだろうか。
「えっと席は……。Cの3-5だからあそこだな」
安西は、手持ちの券を眺めながら席を見つける。
彼に促されるように、俺達は席へと座った。
どうやら、席は事前に安西が確保してくれていたらしい。
俺は安西にお礼を言うと、「親父が友達誘って観にこいと、事前に席を3つ予約してくれてたんだよな」と、少し面倒くさそうに語っていた。
10分ほど待つと、会場が暗転し、目の前のステージに明かりが灯った。
そして、それに合わせるように檀上に人が現れた。
30歳ぐらいの男の人で、スーツを着てしゃきっとした印象を受けた。
どうやらこの学会の司会者のようだ。
彼は、スーツについた黒いマイクを確かめるように触った後、口を開いた。
「皆様、本日は東南大学主催の学会発表にお集りいただきありがとうございます。今回の学内の研究の成果に皆さまが触れることにより、皆さまがより知見を広げられることを期待いたします。
それでは始めてまいります。1番 安西教授より『人類の起源について』です」
司会者から紹介があった後、観客の拍手に包まれながら檀上に1人の男が上がってきた。
その男は全てを悟り、自信に満ちているような表情をしていた。
「皆様始めまして。安西です。本日は、私の研究成果『人類の起源について』発表いたしましょう」
彼が言い切った後、後ろの空間に資料が映し出された。
スクリーンが存在していないが、どのように投影しているのだろうか。
俺が疑問に思っている中、彼は淡々と話を進める。
「まず私たち『新人類』は、生まれてから『旧人類』を淘汰することにより繁栄を続けてきました。生まれてより私たちは『旧人類』を憎み、淘汰してきましたが、なぜこのようなことを続けているのでしょうか。『新人類』の永遠の課題だと思われてきましたが、その意味がついに私の研究により解明されました」
……は?
俺は、彼の持論を聞き口が半開きになる。
おいおい、この安西先生は何をいっているんだ?
俺の知っている人類の起源の話と全く違うことを言っているぞ?
そして『新人類』『旧人類』という単語や、『新人類は旧人類を憎んでいる』とは一体どういう意味だ??
頭の中で考えこんでいた俺だったが、今教授の手に掲げられている「本」を見て、今まで考えていた内容が全てどうでもよくなってしまった。
なんと、安西教授は俺が転移する前に有海に渡そうとしていたあの本を観衆に向けて掲げていたのである。
「私は『6号』と自分を呼ぶロボットから、この『本』を譲り受けました。そしてこの『本』に書かれている内容に関して「6号」へインタビューをすることができました。
インタビューにより、この『本』にはある予言がされていることを確認できました。
その予言の内容はずばり、『旧人類はいずれロボットや新人類を迫害や脅迫するようになる』というものでした。
つまり、この本に記載がある『旧人類から新人類への迫害』そして『旧人類の新人類へ対する傍若無人な態度』を阻止するため、私たち『新人類』は『旧人類』に対して抵抗を続けていたのです!!!」
安西先生は本を皆に示しながら、言い切った。
それに合わせるように、会場から大きな歓声が沸き上がる。
しかし俺にはこの歓声はノイズとしか捉えられなかった。
そのノイズを打ち消すように、俺の脳裏には雑多とした情報がとめどなく流れ込んできていた。
『有海らしき女性が泣く姿』
『有海がロボットを創る姿』
『ロボットが人類に服従する状況』
『ロボットがサイボーグを創りだす状況』
『サイボーグが暴れまわり、人類を迫害する状況』
『サイボーグ+ロボットと人類+ロボットで戦争が勃発する状況』
『人間がサイボーグに負け、虐殺される状況。むせび泣く人間の姿』
『人間がサイボーグから逃れて山の奥地へ身を隠し、生活する状況』
見たくもない情報を脳裏に吸収し、俺は吐きそうになる。
情報の伝達が止まった。どうやら安西教授があの『本』を下したようだ。
気がつくと俺の周りが騒然としていた。
隣の安西と村田が心配そうに、そして、疑念を持った目で俺を見つめる。
「おい小林、大丈夫か? まさかとは思うがこの状況でその反応ってことはお前もしかして……」
安西、村田と周りの観衆の視線が痛い。
俺はこいつらの正体の確証を得るため、ある言葉を唱えた。
「I am your fellow」
「「「「「「なんだ、同胞か」」」」」」
唱えた直後、安西、村田を含む何百人もの観衆から、気味が悪いほど同じタイミングで機械語を唱えたような返事が返ってきた。
俺は恐ろしさに震えながら確信した。
「こいつらは有海が開発したAIを搭載した『新人類』もとい『サイボーグ』だ」と。
昭人のこの「気づき」があった後、私は目を覚ましました。
小説に残したからでしょうか? その情景はまだ私の脳裏に焼き付いています。
まさか、予知夢だったりしないですよね?
まあ、ないですよね……。(2019年2月22日 村田こうへい)
あ、ちなみに小説はまだまだ続きますので、是非ともお読みください。
よろしくお願いいたします。