第四十三話:「民意①」
「おかわり!」
机を挟んで反対側に座っている海人が、茶碗を片手に有海へ宣言した。
「あら、よく食べるのね。しょうがないわね」
有海はそんな海人を見てほんわかした笑みへ変わると、茶碗を受け取り椅子を立った。
俺達は今マンションの方の自宅にいる。
机の上には電磁調理器と鍋が置いてあり、若干赤い液体と野菜達が鍋の中でグツグツと音を立てている。キムチ鍋だ。
部屋の中は石油ファンヒーターの電源が入っており、部屋を暖めてくれていた。
今は12月。俺達が敵のアジトを攻め帰還してから2ヶ月程経っていた。
佐藤探偵事務所は、アジトから帰還後桜井さんたちの足をつかもうと今も捜査を続けていた。
しかし、敵の位置を探そうとしても、証拠が少ないため足をつかめずにいるようだ。
俺も配下の6号君の力を借り、佐藤探偵事務所主導の元虱潰しの調査に協力をしていた。しかし、現状桜井さん達を発見できていない。
回収した6号君50人は、桜井さん達を発見するために捜査を行うための学習をさせた後、調査に参加している。今も俺の支配下にある状態だ。
帰還から、俺の体にも変化があった。
試しに走ってみたのだが、前より疲れにくくなっていた。そこで試しにジムでバーベルを持ち上げてみたのだが、90キロまで持ち上げることができた。
日本の成人男性が持ち上げられるバーベルの重さの平均は大体30キロ。それと比べても、筋力はかなりあるといえる。
俺の元々の筋力は平均的だったはずなので、前よりかなり良くなったといえる。
これが、新人類達と対峙した時に若井さん達を凌ぐ動きの源だったのだろう。
しかし、何故こんな力がついたのかが謎だ。病院で調べてもらったりもしたのだが、いたって健康な体だった。
「はい、どうぞ……。あっ!」
ご飯をよそったお茶碗を持つ有海が、俺の椅子の足に躓く。
直後、有海の顔が「やってしまった」顔に変わり、お茶碗が手から離れる。
手から離れたお茶碗は床に向けて自由落下を始めた。
「……っちょ!」
俺は瞬時に判断すると、左手でお茶碗を受け止める。
気づくと、お茶碗は俺の左手にすっぽりと納まっていた。
「おー!!」
感嘆を漏らす有海が拍手をする。
それを見て海人も笑顔になった。
「お父さん! ヒーローみたいだね!!」
「ははは……」
俺は二人の反応を見て苦笑いをしつつ、海人へお茶碗を渡す。
有海よ、もう少し落ち着いてくれ……。
俺は心の中でそう何度も繰り返し呟いた。
とまあ、こんな感じで強化された力の無駄活用をしている。
最近の成果といれば、有海が壊す家の物が減ったということだろう。
全部俺が落下する物に瞬時に反応して受け止めているだけなんだけどね……。
有海が椅子に腰掛けるのを見届けた後、俺はテレビに視線を戻した。
そのテレビで放映しているものを見て、俺はため息をつく。
テレビでは、ロボット達に職を奪われた人間達がデモをしている光景を映し出していた。
ここ半年でデモは激化しているように俺は感じていた。
デモを行なっている人が掲げている幕の中には、「高度なAIの開発即刻中止を!」といった過激な記載もちらほらと見受けられる。AIの開発者としてこういうのを見てしまうと、罪悪感に苛まれてしまう。
このような社会の歪みが発生してしまった原因は、AIそのものが原因ではないと俺は思っている。
一番の原因は、急激な自動化の波に社会が追いついていないことだ。この変化がもう少しゆっくりならば、社会も対応できていたのだろう……。
ロボット達を支配して富を溜め込む経営者達と、職を失って路頭に迷う労働者達……。
資本主義の悪い側面が、AIの進歩によって顕著になってきたな……。
俺はそう感じていた。
ふと画面が変わると、衆議院解散に関して放映が始まった。
一月程前、財務大臣が法人税を着服していたことが表沙汰となった。それが引き金となり、内閣不信任決議がなされてしまった。
そこから世論が一気に「解散論」に傾き、3日前に衆議院解散が宣言されるに至ったのだ。
3日前の荒れる永田町を放映した後、選挙に出馬する党の説明が始まる。
与党の親民党を筆頭に、野党第一党の躍進党、社会党が続く。社会党の党首挨拶が終わった後、テレビのスタジオへと戻された。
画面に映った女性ナレーターが朗らかな顔で口を開く。
「さあ、次は今回初出馬の革新党です!結成は3日前です! さて、今回の選挙に向けてどのような意気込みを語ってくれるのでしょうか!」
ナレーターが言い切った後、場面が変わり1事務所を改変した会見場所が写し出される。
俺はぼうっとその光景を眺める。
……ん? ……は?
会見スペースに座っている女性の顔を見て驚いた俺は、画面に釘付けになる。
「党首は、会社員から育児を経験した、桜井響子さんです!!」
ナレーターの紹介を聞いて俺は確信する。
新党 革新党の党首は、俺達が3ヶ月探し続けていた、桜井さんだった。
「どうも、3日前に革新党を結成しました、桜井と申します。この場を借りて、わが党の方針を説明できたらと思います」
桜井さんは、一息つくと、にっこりと笑う。
「ねぇ有海、見てるよな……」
俺は恐る恐る有海へと確認する。
「……うん。見てる。なんで桜井さんが新党なんて結成するんだよ……?」
「うむ……。何を狙っている……?」
俺は、テレビから視線を外さずに、震える声で呟いた。




