第四十二話:「その後②」
すみません。
詰め込んだので結構長くなりました。
「……なんと」
若井さんは、信じられないといった面持ちで俺の話を聞き終えた。
俺が話した話は、俺がある本によって未来へと転移し、新人類達と交流した後逃げ、有海の日記を読んだ後に新人類達に捕まり、殺されるという一連の話だった。
「まさか、6号君がサイボーグを生み出す元凶だったとは……」
俺が話した日記の内容を思い返し、若井さんは驚愕した表情を浮かべる。
「と、すると今回のサイボーグ達を作り出したのは6号君ですか?」
何か閃いたような表情となった若井さんは、俺を見据えて質問をしてきた。
それを聞き、俺は真面目な表情で彼を見つめた。
「いえ、今回の黒幕は6号君ではないと思います。俺が転移した知識を元に、6号君には人間へ恐怖心を感じないようにするコードを実装しています。つまり、俺が見た未来のように6号君が暴走して新人類を作り出すようなことはないと思います」
それを聞き、若井さんは腕組みをしつつ唸る。
「うーん……。つまり、今回の件に関しては6号君が被害者って事ですか?」
「断言は出来ませんが、そうだと思います。誰かが6号君を操るか、誘導しているのでしょう」
「ふむ……」
若井さんは、納得したかのように頷く。そして、また何か閃いたような表情となる。
「……そこの机の上にあるコピー用紙。本のコピーって言っていましたよね? その本って、昭人さんが未来に転移する原因となった本ですか?」
俺はその質問を聞き少し驚くと、彼へ口を開く。
「鋭いですね……。はい。その通りです。このことから、転移したことがこの事件に何かしら関わっているとしか考えられません」
「転移がこの事件に関わっている……? どのように関わると思うのですか?」
「……いや、今の所はよくわかりません。しかし、俺が未来に向かった際、他にも転移をした人がいるという話を未来人……新人類の方から聞きました。つまり、俺以外にも未来から戻ってきて普通に生活しているような人がいるかも……しれないんです。その人たちがこの事件に何かしら関わっているかも知れません」
「ほむ……。つまり、その人が黒幕だと?」
「いや、分かりません。この世界を未来で観た地獄絵図のような世界へ誘導する意味が分からないので」
俺はそう言い切った後、思案する。
桜井さんは、我が主が想像していた未来について語っていた。
確か……。「皆が平等な理想郷を目指す」と言っていたはずだ。
皆が平等な理想郷か……。
俺はこれから、旧ソ連の共産主義を思い出した。
個人で稼いだ富を国家が回収し、国民全員へ平等に分配する……。
貯蓄も許さないような世界が、100年ほど前には「皆が平等な理想郷」と信じられていたはずだ。
しかし、結局国民が頑張らなくなり、生産性が下がった結果国が困窮し、2030年頃には資本主義に共産主義は淘汰されてしまった。
国家を繁栄させるためには、労働生産性を上げなければいけない。つまり、それを成功させるためには共産主義は力不足だったといえるだろう。
しかし、俺は思案する。資本主義は、不平等を生む。つまり、今の日本にもこの世界に不満を持つ人が多いと言えるだろう。
その時、俺はある結論に思い至った。
まさか、マスターは新人類を量産した後に人間たちを含めて世界を掃除し、新しい世界で共産主義を掲げるのか?
新しい世界の思想が共産主義しかないのなら、資本主義と比べられてその思想が淘汰されるということもないだろう。しかも、今は高性能なロボット達がいる。農業や工業生産を国家主導でそれらに任せて、新人類たちは平等な富を受け入れればよい。昔ほど生産性が下がることがないのだ。
そのような世界を創るためには、今の世界の思想は合わない。
なぜなら、資本主義が世界を席巻しているのだから。
俺はそんなことを考えていると、若井さんが再度俺に問いかけてきた。
「ちなみにですが、先ほどの戦闘の時に敵がサイボーグだといち早く見抜いていましたよね。何故そう思ったんですか?」
俺は一旦思考を止めると、この答えを言っていいものか思案する。
しかし、未来に転移したことを話したのなら何を話しても問題ないだろう……。
俺はそう思うと、重々しく口を開いた。
「いや、脳裏にみたんです。カプセルの中で療養する人型の生物と、その人たちの目を……。そしてその人たちの悲しそうな目が、桜井さん達の目と似ていたんです……」
「……へ? 脳裏に見た?」
全く予想外な答えを聞いたのか、若井さんは気の抜けた返事をした。
俺は彼を見据え、落ち着いて話す。
「今回が二度目です。一度目は、未来に転移した際に未来の人が新人類だと気づいたタイミングでした」
それを聞き、若井さんはため息をついた。
「今まで話を聞いてきましたが、この話が一番驚きました。桜井さんが自分自身がサイボーグだと告白していましたし、彼女たちがそれなのは事実なんでしょう……。すると、昭人さんの話も真実なんですかね……」
彼は言い切ると、にっこりと笑う。
「もしそれが真実だとすると、昭人さんの神業のような動きもそれが関係しているんですかね? ご神託を受けた後の昭人さんの動き、目で追いきれなくて恐ろしかったですよ?」
「え?」
俺は若井さんの話を聞いて驚く。強化鎧を着ている人ならばあのぐらいの動きは簡単に出来るだろうと思っていたからだ。
「俺、そんなすごい動きしていました? 強化鎧を着ている人なら誰でもあのぐらい動けると思っていましたが……」
俺がそんなことを言うと、若井さんは首をふるふると横に振った。
「いえ、強化鎧で身体強化できる範囲は5倍~10倍のはずです。昭人さんは明らかにその強化範囲を上回っていましたよ。私たちではあんな動きは無理です」
「ふむ……。そうなんですか……」
俺は思案する。
まさか、先ほど脳裏に見せられた情景により、俺の体にも何か変化が起きたのか……?
しかし、ここではそれを証明する方法がない。
俺はどうすれば俺の体に変化が起きたかが分かるかを考えたが、すぐに考えることを止めた。
そんなことは後で考えれば良いだろう。それよりも今は優先して考えることが山ほどある。
俺はそう思うと、不安な気持ちを押し殺して作り笑いをした。
「……ここでは俺の体については何も分かりませんね。とりあえず、拉致された人たちの証拠がないかどうか、探しましょうか」
それを聞き、納得した表情になった若井さんは口を開く。
「……そうですね。昭人さんの件については後で考えることにして、もう少し倉庫内を調べて見ましょうか」
そう若井さんが呟いた後、彼は皆に倉庫内を捜索するように指示を出す。
先ほど新人類化されたと分かった三人以外にも、拉致された人たちは後3人いる。
彼らに関しても、証拠を集める必要があるだろう……。
もしかしたら、ここのどこかに身柄を隠されているかも知れない。
若井さんの頭には、そういう気持ちもあったのだろう。
若井さんから指示を受けた後、俺たちは倉庫内をくまなく調査した。
……しかし、強化鎧の熱源感知機能を使って倉庫内を調べたが、全く反応がない。
つまり、この結果は生命体が存在しないという結果を示していた。
俺はため息をつきながらも、他に証拠になりそうなものはないか調べた。
しかし、俺たちは隠れている敵にびくびくしながらも捜索を続けたがこれ以上証拠を発見することは出来なかった……。
…………
………
……
…
1時間後。倉庫内の捜索を終わらせた俺達は、倉庫の壁を突き破って脱出し、来た森を引き返し歩いていた。
目の前の小久保さんと竹内さんは、二人がかりで証拠として押収したカプセルを持ち、移動に四苦八苦している。
強化鎧で肉体が強化されているため、等身大程度のカプセルを持ち運ぶのは苦にならないようだが、カプセルの大きさと、「丁重に扱わなければ」という心遣いから、移動が大変みたいだ。
ちなみにこのカプセルは、河合エレクトロ二クスの研究棟に運ばれる予定だ。
研究するような施設は、佐藤探偵事務所にはない。うちの会社でこの装置を調べるのが最適だろう。
ちなみに、今回の潜入捜査はあまり良い成果とはいえなかった。
敵の証拠はしっかりと奪うことが出来たし、状況も知ることもできた。しかし、これだけでは今後敵の動向を追うことが出来ない。つまり、この先の捜査へつなぐことが出来ないのだ。
しかも、敵のアジトの位置がこれで分からなくなってしまったのも痛い。
ここは前までアジトとして使っていたが、最近使われなくなったのだろう。
ミヤビから無線機だけを抜き出して倉庫の中においたり、6号君を中に待ち伏せさせておいたりといったやり口が、アジトを切り捨てて俺達の罠として使ったのだろうと想像できた。
計画性の高い犯行を行う場合は、足のつく証拠を残さない。
俺達が倉庫内を調べ上げても証拠を発見出来なかったのは、敵が証拠をつぶした結果なのだろう。
しかし、先ほど若井さんが正拳突きで壁に穴を開けたのには驚いた。
若井さんや飯島リーダーが、身体強化できるのは5倍~10倍と言っていたが、本当にそうなのだろうか? と疑問に思ってしまったほどだ。
なぜなら、壁は50cm程の厚さがあった。10倍に身体強化されていようとも、一般人が殴って壁を壊すことが可能なのだろうか……? はなはだ疑問だった。
「ねぇ」
俺はそんなことを考えていると、澄んだ声で話しかけられ思考を中断する。
歩きながら横を見ると、そこには落ち着いた表情の有海がいた。
俺がヘルメット越しに彼女の目を見つめると、彼女の目線が下を向く。
「……先ほどは、ごめんなさい」
一転冷静になったのか、有海は俺に謝ってきた。
俺はそれを見て、心が引き締められる。
なぜなら、俺が勝手に実装して有海に報告していないことも問題だったからだ。
こんなことをすれば、「俺は有海を信用していません」と言っているような物だ。
この機能に有海が気づいた時、どのような気持ちだったのかと俺は考えると、えぐられるような気持ちとなってしまった。
「いや、俺が有海を信用せずに、勝手に実装したのも悪いと思っているよ。すまなかった」
俺は一旦歩くのを止め、深く礼をした。
有海も俺に合わせて歩くのを止める。
「……」
彼女は何も言葉を発しない。
それを受けて、俺の心が締め付けられる……。
しかし、彼女はすぐに俺の顔を手で押し上げると、微笑んだ。
「……私も武器の件について昭人に話していなかったからね。これでおあいこだね」
俺はそれを見て安堵する。
わかってくれた。俺は彼女の表情を見てそう感じたのだ。
しかし、有海の目がすぐにジト目になる。
「だけどさー。探偵事務所の時に『1人で抱え込むな』とか言っておきながら、こういうことを隠しているんだもんね。嫌になっちゃうよねー」
俺はこの発言を聞き、冷や汗を浮かべる。
「う……。面目ないです」
しかし、すぐに有海はにっこりと笑った。
「ふふ。でも、私のことを考えて実装したって聞いたときはちょっとドキッとしちゃったな。実際今回もこの機能がなかったら大変だったはずだし……。ありがとうね」
俺は、満面の笑みを浮かべた有海を見てドキッとした。
ときより見せる無邪気な表情は、俺の疲れた気持ちを融解させる。
「うん。やっぱ実装しておいて良かったよ」
俺は彼女を見つめてにっこりと笑った。
しかし、気恥ずかしくなったのか彼女は若井さん達の方向に視線を逸らすと、ぶつぶつと喋りだした。
「……今回は許すけど、今後こういうことは隠さないでね? 今度やったら一週間口きかないからね!」
「はい。肝に銘じます……」
俺が少し気落ちして下を向いていると、有海は後方を見ながら口を開く。
「ねえ、ところでさ。6号君達はずっと昭人についてくるの? 50人が隊列を組んで静止しているから、少し怖いんだけど」
俺はそれを聞き、後ろを振り返ると6号君達が目に入った。
隊列を組んで整列し、ぴたっと静止している。
先程までの一糸乱れぬ動きをする彼らを思い出すと、昔読んだ星戦闘という名の小説に出てきたロボット達を思い出し、少し頬が緩んでしまった。
俺の支配下に置いた6号君たちは、倉庫の調査が終わった後に一体ずつ電源を入れてあげた。
無論、彼らが装備していた刀と銃を奪ってから起動をした。
その時に、俺は彼らに「とりあえず俺の後をついてくるように」と命令したのだ。
なので、敵のアジトから帰るときも、6号君50体は俺の後をついてきていた。
俺は彼らを見据えながら、歩きを始める。
すると、6号君たちも歩きを再開した。
彼らのぴたっと揃った足音が森に響き渡り、なんとも不思議な雰囲気を作り出していた。
「……指示を変えない限りずっとついてくるだろうね。彼らを会社まで運ぶ手段がないから、こうするしかないんだ。我慢してくれ」
「そう……」
あきらめたような、あきれたような表情をした有海は呟いた。
その時、心配そうな顔に変わった有海が俺を見据えた。
「ところで、道に出た後にこの子達をどう輸送するの? この人数じゃトラックにも入りきらないんじゃない?」
「……あ」
有海に指摘された俺は、気づいてしまった。
確かに、トラックに詰め込めばいいかなと安直に考えていて、トラックの容量のことまで頭が回っていなかった。
「はは……」
俺は笑ってごまかすと、離れてしまった小久保さんと竹内さんを追って走った。
この後、俺は河合エレクトロ二クスの研究棟とこの山道とをトラックでピストン輸送をする羽目になるのだが、それはまた別の話だろう。
これで潜入編はおしまいです。
次からは新章が始まります。
どうぞよろしくお願いいたします。




