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2045年問題   作者: 村田こうへい
第一章 転移編
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第三話:「同居人」

「失礼します」


 俺は彼らを見据え、一礼をしながら部屋へ入った。


「では、説明させていただきますね」


 後方から受付の男の人の声が聞こえる。

俺は後ろを振り向くと、彼は説明を続けた。


「ベッドは2段ベッドが2つございますが、右手側1段目は荷物置き場となっております。小林様はこちらの2段目をお使いください。宿生活の注意事項等は明日の午前中に該当者へまとめてお話しいたします。それでは、何か疑問点があれば受付までお問い合わせくださいませ」



 部屋の入口付近で丁寧な口調で説明していた受付係の男の人は、説明が終わると「では」と言い残し、足早に部屋を後にしていった。


 俺含め3人はその場に残される。


 俺は改めて彼らを見る。

顔立ちを見る限り同年代のようだ。

彼らは、俺の真意を探るようにじいっと見つめていた。


 そんな彼らの雰囲気に若干緊張しながらも俺は口を開いた。


「は、始めまして。小林昭人です。出身は仙台です。先ほどまで仙台にいたはずなのですが、気づいたらここにいました。親切な方にこの宿の存在を教えていただき、ここにお世話になります。よろしくお願いします」


 俺は若干曖昧にしながらも正直に打ち明けてみた。

すると二人は顔を見合わせ、険しい面持ちをしながら何やらぶつぶつと話し始めた。


「またか……」


 そう話していたのが聞こえた気がした。


「こちらこそ初めまして。俺は安西隼人。こっちは俺の仕事友達で村田浩平。よろしくな!」


 俺から見て右側の、元気で気さくそうな好青年が答えた。先ほどと打って変わって満面の笑みだ。


「僕が村田だ。よろしくな」


 俺から見て左側のこの方は少し大人しい方のようだ。

まじめそうな方といったほうが良いかも知れない。

そして先ほどと違い落ち着いた面持ちだった。


 挨拶の後話が途切れてしまったので、ふと壁に掛けられているカレンダーを確認した。

そして、俺はカレンダーの年月が思っていた年月と全く違うことに気がついた。


「あれ……。今って西暦何年でしょうか?」


 俺はカレンダーを見て思わず2人に確認してしまった。


「今は2036年だぞ?」


 安西が動じずに答える。


「……え?」


 それを聞き、俺は訝しげな表情となる。

 2036年??? 東京にいたときは2018年だったよな……? なぜ俺は18年後に今いるんだ?

混乱する俺を見て、安西は真面目な表情で口を開く。


「そりゃ混乱するよな。突然未来にタイムリープしたような気分だろ? だけど大丈夫だ。お前はここにくることができた。運が良い」


「……なぜ俺の混乱する理由が分かるんですか?」


 混乱する俺は、安西に少し当たってしまった。

そんな俺の雰囲気に安西は眉をひそめながらも話を続ける。


「最近よくいるんだよ。2020年頃から今までの記憶が消し飛んでしまっているようなやつが。ここ雫石町の無料宿屋へも年に2-3人の割合で来ているな」


「は、はあ……」


俺は感嘆の声を漏らす。なんとも信じがたい話だ。


 しばしの沈黙が流れ、俺の心は落ち着いてくる。


「その方たちは今どこにいますか? この宿にいますか?」


 冷静になった俺は、俺と同じ境遇の人達にまず会い、意見交換をして情報を手に入れなければと思った。

 しかし、ここまでのやり取りを何度も行っているからなのだろうか。

安西は、真面目な表情で淡々と事実を語る。


「今この宿にはいないぞ。皆暫くここにいるんだが、気がつくと勝手に出て行ってしまうんだ。俺たちの間では、『自分の故郷を目指して移動した』という意見が大半だが……」


「あ、僕1人行先を知ってる。ちょっと連絡を取ってみて、アポ取れそうなら小林に教えるよ」


 にぱっとした表情に変わった村田から提案がきた。

俺は雰囲気の変わった村田に少し驚きつつ思う。


 本当に俺みたいな境遇の人達が身近にいるような人達なんだな。


「すみません。是非一度お会いしてお話をしてみたいです。アポ取りをお願いします」


 ここは村田の話に乗ることにした。







「途中で通った国道が荒れていたのですが、過去に何かがあったのですか?」


 この集落へ来る前に気になったことを、俺は二人に確認してみた。

すると、一転暗い表情となった村田が答える。


「ああ……。2年ほど前かな。日本各地で内戦があったんだよ。ロボットと人類との戦争だな。その時に各地のインフラも壊滅的な被害を受けたから、その国道もその1部だと思う。その時に俺たちや他の宿にいる人たちも家を失ってしまってな……」


 それを聞き、俺は驚く。

 なんと、あの道は戦争遺構だったようだ。

場の雰囲気が暗くなってしまったので、これ以上詮索することはやめておいた。


 察するにどうやら2人は戦争難民で、この宿屋は主に戦争難民を保護するために存在しているらしい。


 しかしロボットと人間との戦争か。

この時代にはロボットの知識が飛躍的に進歩しているのだな……。

俺はロボット、特にその内部論理を司るAIの進化が恐ろしくなった。





「眠い」と2人に伝え、俺はベッドの準備だけをして仮眠をとることにした。


 遠くからカチャカチャと食器がこすれる音が聞こえる。

宿の人が夕飯の準備をしているのだろう。


 ちなみに外は今黄昏時。

二人は宿の夕食の準備を手伝わなければいけないとのことで、今は部屋にいない。

宿勤務を兼業することで、宿代が無償になるのだろう。

俺も明日から手伝わなければならないのだろう……。


 俺は一人でベッドに寝転ぶと、有海の笑顔が頭に浮かんだ。

あいつ大丈夫だろうか……。一体今何をやっているのだろうか……。


 有海に会いたい……。

そして俺はこの先どうすればよいのだろうか……。


 心の奥に押し込めていた不安は爆発し、俺は一人ベッドの中で泣いた。

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