表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2045年問題   作者: 村田こうへい
第一章 転移編
3/81

第二話:「草原」

 急な光に思わず目を細める。

俺の脳は色覚の急激な変化に処理が追いつかない。

その結果口から出た声は恥ずかしながらこれだった。


「ひいっ!!!」


 しょうがないよ、恐怖感じるよ……。

数秒たち、頭の処理が追いついてくる。


 そして俺は状況を理解する。





 ここは一面草原だ。

樹木も民家も周囲にはまったく見当たらない。

牧場か? と思うが家畜も見当たらない。

日光がさんさんと降り注ぎ、ほんわかした春の陽気となっている。

 そして、俺の服装は先ほど有海と会っていた服装から変わっていなかった。

ただし、渡そうとしていた本は見当たらない。



 そして目の前にいたはずの有海もいなくなっていた。






 辺りの状況を理解した後、俺はこんな心境となった。


『ここはどこだ? そしてなぜ俺はここにいる?』


 解決することのない疑問が頭の中で堂々巡りとなり、俺は混乱した。





 俺は30分ほどそこに留まり、いろいろと考えた。


俺はまず所持していたスマートフォンを確認した。

しかしここは圏外だった。ただわかることがあった。


 マップで確認すると、GPSは「岩手県岩手郡雫石町」を指し示した。

なぜ仙台から岩手に転移している……? 


 次にこれは夢だとも疑った。

しかし、自分を殴れば痛い。

草のにおいや日光の陽気もリアルだ。


 いやまあ「明晰夢」っていう可能性もあるが……。

いやまあこんなリアルなことは明晰夢ではありえないと思う。


 そして考えた結果、1つわかったことがある。


「ここにとどまっていても何もわからない」


 なので、俺はマップを頼りにこの付近を恐る恐る探索することにした。

とりあえず慎重に探索し、もし付近が問題なかった場合はマップが示す国道にまず出よう。

その後この国道沿いにある雫石町の集落を目指して、状況把握に努めよう。


「有海大丈夫かな……。有海も同じ状況になっているのだろうか……」


 非常に気がかりだった。







 俺は草をかき分け、さらに1時間ほど歩く。

マップ上で「国道」が存在する位置に到達する。


 しかし、俺はその惨状を見て言葉を失った。



 なぜなら、そこには荒廃した道路が存在していたからだ。



 地割れがいたるところで発生しており、路面はボロボロ。

森に隣接するガードレールは寂れ、一部が倒壊している。

しかも所々に山の斜面から落ちてきたと思われる落石が存在していた。


 一転山の斜面を見ると、落石防止ネットは穴だらけとなっていた。

どうやらこの石たちはその穴をすり抜けて落ちてきたらしい。


 意味不明な状況を前に、俺の頭に恐怖がよぎる。


「どうなっているんだ……?」



 俺は、仕方がなくその廃道に沿ってさらに2時間ほど歩く。


 スマホのマップ機能は通信機能が使えないとマップ情報を保持できないため、今マップを開いても真っ白な画面と自分を示す青丸しか表示されない……。


 俺は襲い掛かる不安によりため息をつく。


 そして、俺に睡魔が襲う。

ここが安心できる場所ならば、座り込んでひと眠りしたいくらいだ。


 こうなってしまうのもしょうがないだろう。

何故なら、こんな場所に飛ばされていなければ今は深夜2時ぐらいだろうし。


「さっきのマップどおりに進めば、そろそろ集落に到着するはずなんだが……」


 俺は廃道を歩きながら呟く。

自分の行先により不安が増幅する俺だったが、さらに10分ほど歩き進めると1つの集落にたどり着いた。




 その集落には、近代的な木造家屋がパラパラと立ち並び、所々に水田があった。

集落の入口付近には看板があり、すぐ横にそびえたつ杉の木は、木洩れ日を看板に与えつつさらさらと音をたてていた。


 俺はすぐさま集落入口に掲示されている看板を眺める。

そこにはこの集落の地図と思われるものが描かれており、地図の上方にはしっかりとこう書かれていた。


『雫石町清水地区』


「日本語で書かれているな……」


 俺はマップを見て安堵する。なぜなら、知っている言語でかかれていたからだ。


 その後、期待を込めてスマートフォンの電波状態を確認した。


 しかしそれはまだ圏外を示していた。


 俺はまたため息をつくと、再度地図を眺める。

掲示されている地図には交番の地図記号が書かれていたので、まずはそこに向かうことにした。



 10分ほど集落の中を歩き、交番に到着する。

鉄筋コンクリート作りの建物で、部屋の中には椅子と机だけが置かれていた。

そして、その中には見知った服を着ている男性の警官がいた。


 俺は安堵すると、彼に助力をお願いすることにした。


「すみません。仙台にいたはずなのですが気づいたら雫石町にいました。できれば仙台に帰りたいのですが、交通費がなく……」


「……え?」


 目を丸くした彼は、俺をまじまじと見つめた。

突飛なことを聞き、驚いてしまったようだ。


 そんな彼をみて、俺は思う。

 いやまあ、そういう反応になりますよね……。

言い訳しようと思ったんですけど、何も思いつかなくてどうしようもないんですよね……。


 俺は罪悪感を感じつつどきまきしていると、彼が口を開いた。


「では身分証を提示してください」


 先ほどの驚きが嘘のように事務的な返答がきた。

彼の顔を見ると、無表情になっていた。どうやら、考えるのをやめたらしい。


 しかし、俺は突然ここに飛ばされた身。身分証なんて持ち合わせていなかった。


「すみません。自宅に置きっぱなしで今持参していないんです」


「はあ……」


 仕方なく俺は正直に返答すると、彼は面倒臭い来客と感じたようで、大きなため息をつく。

そんな彼を見て、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。


「……じゃあ、固定電話をお貸ししますのでご自宅と連絡を取ってみますか?」


 一転可哀そうな人を見るような目で、彼は俺に提案をする。


 そんな彼の雰囲気に俺は若干苛立ちながらも、俺はその問いに承諾した。

実家と連絡が取れれば、ここまで迎えに来てもらえるからだ。


 俺は机の上にある固定電話の受話器と握ると、発信ボタンを押す。


 若干の発信音のあと、ぶつぶつ途切れるような音が続く。


 その後、呼び出し音へと変わる。

俺は祈りつつ電話をかけ続けるが、その呼び出し音から変化はない。

それは、何度掛けなおしても変わることはなかった。


「すみません。今はつながらないみたいです」


 俺は気落ちし、俯きながら警官に伝えた。


 彼は俺の発言を聞き、決心したように頷くと、こう話を切り出した。


「……わかりました。実はそういう方達のために、雫石町では宿を無料開放しています。この券を持ち、指定の宿へ行ってください。あと名前と住民票の住所を伺います。自分の名前はわかりますか?」


「……小林昭人です。住所は宮城県仙台市●●です」


 彼は満足した顔をし、話を続ける。


「小林様かしこまりました。ではこちらの紹介状を持ち、この民宿へ出向いていただければと思います」




 トントン拍子で進む話を聞きながら、俺は不安な気持ちとなる。

なぜなら、無料開放している宿など俺が住んでいた場所では聞いたこともなく、俺はその怪しい場所に向かう話となっているからだった。


「あの、身分証なしでお金を借りれる銀行とかないですよね……?」


 若干の期待を込めて、俺は警察官に問う。


「この付近にはないかと。とりあえずその宿に泊まっていただいて、ご両親に再度連絡を取っていただくのが良いかと思います」


 警察官のその回答を聞き、俺はあきらめた。

まあ、取られるものもないしいいか……。

警官からの紹介だし大丈夫だろう。


 とりあえず、俺は眠いんだ。




 その後、俺は交番を後にし、指定の宿へ向かう。


 道中きょろきょろと集落の中を確認するが、農作業に従事る人を数人見かけるだけで、後は人を見かけなかった。

 閑散とした状況を不信に思いながら俺は歩き続けると、徒歩5分程でその宿に着いた。




 紹介された宿は、粗末なつくりの木造2階建ての民家だった。

看板を見る限り、民宿のようだ。


 俺は立て付けが悪い木製のドアを開け、中に立ち入る。


「……いらっしゃいませ!!」


 玄関の脇で受付をしていた男の人は、俺が入ってくるのを見計らいニコニコ顔で元気に挨拶をしてきた。

俺は彼を見据えると、彼に警官からもらった券を見せた。

 それを見た彼は、一転真顔になる。


「……ああ、そのような用途ですね。では、お履き物はそちらに脱ぎ、私についてきてください」


 俺は彼の表情の変化に戸惑いつつも、彼の案内に従い宿の廊下を進む。

その廊下は薄暗い。照明をあまりつけていないように見受けられた。


そして、男の人はある部屋で立ち止まる。俺もそれにつられてその部屋の前で止まる。


 受付の男の人は、部屋のドアを手で示しつつ、俺を見据えて口を開いた。


「お客様、こちらでございます。ご迷惑をおかけしますが、部屋は3人共用となっております」


 共用……? 彼から聞いた内容に一抹の不安を覚える。


「はいりますよー」といった彼の掛け声と共に、ドアが開け放たれる。

俺はドアの中を恐る恐る眺めると、同年代に見える男2人が、興味津々にこちらを眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ