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98 ケモ耳少女

リョウは、学園の受付で紹介してもらった宿屋に来ていた。


「こんばんは、部屋は空いてますか?」


「ああ、空いてるぜ、食事はどうする?」

ヒゲ面の人のよさそうなゴツイおっさんが答える。

たぶん、この宿の主人だろう。


「食べてきたので夕食はいりません。朝食・・・も、とりあえずナシで」


「素泊まりなら銀貨4枚だな。ほい部屋の鍵だ、2階の3号室だ」


リョウが代金を払い宿の主人から鍵を受け取ったとき、

小さな女の子がやってきた。


「お父さん、おやすみなさいなのです」

そう言った少女の頭には獣のような耳がついている。

そう少女は獣人であった。


そのかわいらしさに癒されるリョウだが、少女が何かに気づき

リョウをキッとにらむ。


「えっ?!」


もちろんリョウにはにらまれるような覚えはないのだが、少女は

リョウのほうに近づいてきた。


「ええっ?!」


そして、リョウにしがみついてきた。


「えええっ?!」


「お客さん、おいしそうな匂いがするです」

少女が言う。


「え?!俺、おいしそうなの?」

思わず言うリョウ。


「あ、いや、あんた何かうまい料理を食べてきたんじゃないか?

うちの子は見てのとおり獣人なんで鼻が利くんだ」

宿の主人が説明する。


「ああ、先ほど学園で料理を作ってきましたので」

そういうことかとホッとするリョウ。


「何を作ったですか?」

少女が聞いてくる。


「他の国の料理なので、名前を言ってもわからないよ」

少女の頭を撫でながら言うリョウ。


「学園って・・・あそこは貴族様がいっぱいいるところだろう?!」


「別の用事で行ったんですが、カテリーナ王女様に出会って

頼まれてしまいましたので」


「王女様?!!」

驚く宿の主人。


「私の国の家庭料理なんですが、お気に召したようでした」

リョウがそう言うと。


「食べたいです!ミーナも食べたいです!!」

少女が両足をピョンピョンさせながらねだる。


「いや、おやすみって言ってたじゃん。寝る前に食べたらダメでしょ」

ミーナという少女だけではなく、宿の主人の顔も見ながら言うリョウ。


「うむ、たしかにそうだな」

宿の主人も同意するが。


「でも家庭料理っていうことは、ここでも作れるんだろ?!」

期待した目で見てくる。


(お前も食べたいんかい!)

と心の中でツッコミを入れるリョウ。

「いや、それおかしいでしょ!私、泊まりに来た客ですよ。

作る理由ないでしょ?!」


「理由は、この子が食べたいと言ってるからだ」


「いや、理由になってないでしょ?!」


「いや、とりあえず説明を聞いてくれ」


宿の主人の説明によると、このミーナという獣人の娘は

匂いでおいしいものがわかるそうで、この娘が食べたいと

言ったものはおいしいと評判なのだそうだ。


そして、こんなに抱きついて匂いをいでるということは

間違いなくおいしいに違いないと。


「いや、おいしいのはいいですけど、それあなたたちが食べたい理由で

私が作る理由じゃないですよね?!」


「ダメか?!」


いや、おっさんが上目づかいしてもかわいくないから。


「ダメですか?!」


ケモ耳少女の上目づかい・・・効果はバツグンである。


「ううっ・・・私、仕事がありますので、明日以降に時間が

もしとれたら・・・ということなら」

リョウは承諾しそうになったが、なんとか踏みとどまって、条件をつけた。


「ああ、こっちも無理を言ってるのはわかってるので、それで頼む」

宿の主人もそれで納得したようだ。


「明日なら作ってくれるですね」

ミーナが嬉しそうに言う。


そのかわいさに、時間があればではなく、無理にでも時間を

作ることになると確信したリョウであった。

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