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97 フルート

カテリーナたちが食べ終わるタイミングを見計らって

リョウはまた調理室に行く。


鍋に水と砂糖と水飴を入れ、かき混ぜながら焦がした後、

固くなりすぎないように水で微調整してカラメルソースを作り、

ポップコーンにかける。


「デザートのカラメルポップコーンです」


「何だ?!この黒いのは!」

ウォルターが言う。


「砂糖をわざと焦がして苦味と風味をつけたカラメルソースと

呼ばれるものです。ポップコーンはそれ自体にあまり味が

ないので、基本の塩以外にもいろんな種類の味付けが楽しめます」


食後の紅茶を飲みながらカラメルポップコーンを食べる4人。


見物人たちは配られたポテチやカラアゲなどを食べるために

それぞれの席についていたので、ほとんどいなくなっていた。


「では、私はこれで失礼します」

リョウが場を辞そうとするが。


「何を言ってますの?!」

カテリーナが引き止める。

「まだ、歌が残っていますわよ」


「いや、こんなところでダメでしょ」

リョウが断ろうとするが。


「もうすでにこれだけ騒ぎになってたら、歌ぐらいたいしたことは

ありませんわ。それに、教官たちも加わってますし」


周りを見ると、先生らしい人が5人ほどポテチやポップコーンを

おいしそうに食べていた。


「先ほど、許可もいただきました」


(いや、それ、ポテチとかで買収したようなもんじゃないの?

いいのか?!それで!)

と思ったが、さすがに言えないリョウ。

王家の権力も関係しているだろうが・・・。


「このとおり楽器も用意してありますわ」


メイドたちがリュートや笛、太鼓などを持ってくる。


「いや、楽器と言われても・・・」

そう言いながら、フルートのような横笛をなにげなく手に取るリョウ。


そのとき、リョウに電撃のような衝動が走った。


フルートをバトントワラーのようにクルクルと回転させると

ビシッとポーズを決める。


そしてフルートを構え吹き始める。


流れる美しいメロディー。

ビゼー「アルルの女」よりメヌエットである。


(笛なんて、リコーダーとホイッスルぐらいしか吹いたことがない俺が

何でこんなもん吹けるんだよ?!)


というリョウの心の叫びをよそに、観客、特に女生徒たちうっとりである。

さらにシューベルトとドビュッシーの曲を演奏する。


「歌ではなく演奏でしたが、いいですよね?!」

フルートを吹きながら歌えるわけないし、これらの曲に歌詞はない。


「う・・・まあ、いいでしょう」

さすがにこれ以上は、リョウの機嫌が悪くなる・・・というか

すでに悪くなりかけているので、『歌がなかったからダメ』などとは

言えないし、すばらしい演奏であったので文句も言えない。


リョウが退出の挨拶をしようとした時、オリビアが何か言いたそうなのに

気がついた。

そして彼女のそばに行く。


「オリビア様、何かありましたらまたお手伝いしますので、冒険者ギルドに

指名依頼をしてください」


「は、はい。お世話になりました・・・」

オリビア、ちょっとウルっときてる。


「では、皆様、失礼いたします」


「おう、ぜひまた来てくれ」

ウォルターが言う。


「今度はもっと落ち着いて、お話を聞かせてください」

と、パルマ。


「お待ちしていますわ」

カテリーナが言う。


そして、やっとリョウは開放され、学園を出るのだった。

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