93 脇差
週末なので、連日更新してみました。
「こ、これは!!」
ウォルターが思わずつぶやく。
鞘から出てきたのは見たこともない美しい地金と刃に沿って淡い模様が
這っている片刃の剣、そう日本刀である。
「な、なんだこの剣は?!」
ウォルターが聞く。
「私の国ニホン特有の剣、ニホントウです。これはその中でも
護身用に短く作られた、『脇差』と呼ばれるものです」
リョウが説明する。
「一番の特徴は、刃に沿って浮き出ている刃紋と言われる模様です。
硬さと粘り強さを両立させるための技術の結果です」
「た、確かにすごいが、鍛冶の技術が多少優れていても、文明が
進んでいる証拠にはならないと思うが」
ウォルターが言う。
「その技術が数百年前に確立された古いものだとしてもですか?」
「何?!この技術が数百年前のものだと!」
「年月にして、それぐらいの開きがあるかな・・・と」
「信じられん・・・」
「無理に信じる必要はないです。ところで、そろそろ鞘に納めて下さい。
周りからの注目が・・・」
そう言われて、周りを見て、あわてて脇差を鞘に納めるウォルター。
「私は信じますわ」
オリビアが言う。
「あら、あなたは・・・」
「オリビア・ノーレッジでございます」
「ああ、そうでしたわね、それでなぜ信じられると?」
カテリーナが思い出すふりをしている間に名乗るオリビア。
普通、王女が親しくもない子爵家程度の者の名前を覚えているわけないが、
『知らない』と言うと相手に恥をかかせることになる。
そこで、考えるふりをしている間に名乗らせ、
ちょっと思い出せなかっただけだという形にするのだ。
「昨日、今日とリョウ様と一緒にいて、異国のおいしい料理を
いただき、すばらしい歌を聞かせていただきました。
そのようなものは文明が進み、生活に余裕ができないと作れないかと」
オリビアが言う。
「そういえば、ウォルター様が見たことのないものを食べていらしたわね」
パルマがメイドに目配せして、カラアゲを収納バッグから取り出させる。
「鶏肉の料理でカラアゲというそうでございます」
カテリーナのメイドが皿とナイフとフォークを持ってきて配膳する。
カテリーナはナイフとフォークを持ち、カラアゲを1つ皿に
移すと半分に切って断面を見る。
「確かに鶏肉のようですわね」
そう言って、カラアゲを口にする。
リョウたちばかりか、食堂にいる者の注目を集めながらカラアゲを
咀嚼し飲み込むカテリーナ。
「おいしいですわ」
カテリーナの言葉に、なぜかほっとする見ていた者だち。
「この外側のカリカリが、中のジューシーさを逃がさないのですね。
そして丁寧に下ごしらえされた鶏肉が・・・」
グルメ番組みたいなことを言い出したカテリーナ。
「あの、最初の『おいしい』だけで充分ですので」
長くなりそうなので、リョウが止める。
「た、確かにこれはおいしいわ。でも、これだけでは評価は
下せません。他の料理をだしなさい」
ちょっと顔を赤くしながらカテリーナが言うが。
「いや、単においしいものをもっと食べたいだけでしょ?!」
リョウにあっさりと見破られる。
「よろしいではありませんの!ここの調理室にあるものなら
何を使ってもかまいませんし、費用は私が全てもちますわ」
確かに悪くない条件である。ついでにポテチなどを作って
補充すればよい。
そしてウォルターやパルマたちも期待に満ちた目でこちらを
見ている・・・メイドさんたちまでも同じ目をしている。
「その条件に加えて、料理人たちに手伝ってもらうことと、
作った物をいくらかいただけるなら、今から作りましょう」
「結果的に料理人たちに教えてもらうことになりますし、
常識的な量ならば差し上げますわ」
「では、そういうことでお願いします」
さて、何を作ろうか。




