92 食堂にて
「ほんとに美味いな、このカラアゲっていうのは」
と、ウォルター。
「ちょっと、ウォルター、食べすぎですわよ。もう、ダメです」
パルマがカラアゲの乗った皿をウォルターから遠ざける。
「いいじゃないか、運動して腹が空いてるんだよ」
そう良いながらウォルターが皿を取ろうとするが、さらに
遠ざけられ空振りする。
「だったら、自分のランチを食べなさい。カラアゲの残りは私のです!」
そう言って、パルマは自分のメイドが差し出した収納バッグに
カラアゲを入れる。
「あ!」
ウォルターはさらに手を伸ばすが、パルマに睨まれ、
すごすごとひっこめる。
ここは学園の食堂、パルマの言ったランチは昼食ではなく、
定食の意味である。
リョウとウォルターの剣の訓練後、部外者も利用できるというので
一緒に夕食をということになった。
リョウにボコボコにされたウォルターだが、カラアゲを食べて
元気を取り戻していた。
もちろん、リョウはヒールをしていたが。
逆にリョウは、カラアゲをとられてガックリである。
結局、ガリアから持ってきた分は、2~3個食べただけで、
あとは全部とられてしまった。
まあ、今夜の食事にするつもりだったのが、代わりにランチを
パルマがおごってくれたので、今回はプラマイゼロみたいなものだが。
そして、彼らは食堂の中で目立っていた。
ウォルターとパルマが目立つのはいつものことだが、
そこに2人とは普段接点のないノーレッジ子爵令嬢と
見知らぬ20歳ほどの男が気安く話しているのだ。
しかも、修練場にいた者の話では、その男は剣においては
学園最強と言われるウォルターを手玉にとっていたという。
そして、ウォルターがおいしそうに食べていた茶色の物体は何か。
皆、いろいろと興味はあるが、その中に入る勇気はない。
「こんばんは、パルマ様、ご一緒してもよろしいかしら?」
勇者がいた(笑)
「これはカテリーナ様、どうぞお座りください」
パルマがそう言って話しかけてきた少女に席を勧める。
長い赤毛の髪を後ろでひとまとめにして銀色のリボンで縛り、
青い瞳に気が強そうなツリ目で色白の美少女であった。
「ありがとうございます。失礼しますわね」
そう言って、カテリーナと呼ばれた少女はリョウたちのテーブルの
空いていた椅子に座る。
リョウとオリビアは、食事を止めて会釈するが、ウォルターは
気にしないで食事をパクついている。
「何の用だ?おてんば姫」
そして、食べながら、カテリーナにそう言った。
「無敵のウォルター様がコテンパンにやられたというので
様子を見に来たのですわ」
おてんば姫と呼ばれても気にした様子もなく、そう言い返す。
「世の中には俺より強いやつなんて、いくらでもいる。
そして、こいつもその1人だというだけだ」
リョウをチラっと見ながら、ランチを食べ続けるウォルター。
「なるほど、それで紹介してはくださらないのですか?!」
「ああ、こいつはリョウ、ガリア領で相談役をしていて、
今日は手紙と土産を持ってきてくれたんだ」
「リョウと申します」
リョウは軽く頭を下げながら言う。
「カテリーナ・シルフィードですわ。相談役というのは軍事の?」
家名がこの国と同じということは、やはり本当に姫なのだろう。
「軍事には協力しないことになっております。今やっているのは、
特産品の開発ですね」
リョウが答える。
「あら、ウォルター様を叩きのめすほどの腕の方が、軍事には
関係しないと?!」
「私は、この国の者ではありませんので、軍事には関係しない方が
よろしいかと。ガリア家に仕えているわけではなく、あくまでも
協力させていただいているだけです」
「あら?!異国の方でしたの。どこの国ですの?」
「海の彼方のニホンという島国です」
海の彼方どころか、異世界の彼方だが。
とりあえず、お約束の設定を短くまとめて話すリョウ。
「つまり、ずっと文明が進んでいると・・・」
疑わしげに言うカテリーナ。
「そうですね、例えば・・・ウォルター様、これをご覧になってください」
リョウはそう言って、ショートソードを鞘に入ったまま取り出し、
ウォルターに渡す。
受け取ったウォルターは妙なことに気がつく。
「これ、曲がってないか?!」
注意してみなければ気がつかないほどだが、確かに曲がっている。
さらに、普通は中央が一番厚みがあるはずだが、これは鞘の片側の方が
厚くなっている。
「カテリーナ様、抜いてもらってもよいでしょうか?」
リョウがカテリーナに言う。
「ええ、ウォルター、抜いて見せてちょうだい」
許可をだすカテリーナ。
「ウォルター様、鞘の厚みがある方を下にして抜いてください」
そして、ウォルターが剣を抜いた。
まあ、バレバレなんですが、続きます(笑)
最初のほうから決めていた設定がやっとだせました。
剛斬丸が目立ちすぎて、ずっとだせなかったのです。




