89 護衛終了
ドミニク商会に寄ったおかげで、学園に着いたときには
夕方近くになってしまっていた。
馬車が3~4台は並んで通れるほどの大きさの門が見える。
王立シルフィード学園、この国には他に学園と言えるほどの
ものはないので、普通は単に学園と言われる。
大門は何かの行事のときにしか開けられないそうで、
今回は通用門でチェックを受け、中に入る。
オリビアの身は、これでもう安心である。
王国が誇る学園で暗殺事件なんて起きたら、国の威信をかけて
犯人の追及が行われる。
そうでなければ、貴族たちは大事な子供達を預けられない。
王家の跡目騒動で、過去に2回、事件があったそうだが、
たかが、子爵家の跡継ぎになるぐらいでは割が合わなさ過ぎる。
そして、リョウたちは馬車置き場で別れの挨拶をしていた。
「皆、ご苦労様でした」
オリビアが護衛たちをねぎらう。
「いや~、リョウの旦那に助けてもらってほんとによかった。
お嬢様に天が味方してくれたんでしょうな」
そう言って護衛隊長がリョウの方に向きなおる。
「本当に助かった。すごいのは剣だけじゃなく、聖魔法までとはな」
「そのへんは、あまり吹聴しないでくださいね」
リョウが言う。
「ああ、わかってる、言いふらすようなことはしないさ。
旦那の実力が知られたら、あちこちから依頼がひっきりなしで、
大変だろうからな。
もっとも、知れ渡るのも時間の問題という気もするが」
そう言われて、ガリアの冒険者ギルドで見ていた者が、
メイフィールドの冒険者ギルドにいたことを思い出すリョウ。
まさに『人の口に戸は立てられぬ』である。
「まあ、そのときはそのときです」
面倒なことになったら、さっさと他の国に逃げる気である。
「リョウ、本当に助かった!ありがとう」
怪我をヒールしてもらったベンが握手をしてくる。
「あのときは強がったが、本当は下手したら死ぬんじゃないかと・・・」
ちょっと涙ぐんでいた。
この世界、医療が進んでいないので、ちょっとした怪我でも
破傷風などで死ぬことがわりとあった。
「いえ、元気に・・・」
と、リョウの言葉の途中で。
「リョウざま~~・・・」
ジュリアが抱きついてきた。
こっちは、マジ泣きである。
ドミニク商会からここに着くまでの間、リョウに付いて行くと
駄々をこねていたのだ。
「だから、一旦子爵領に帰って、ノーレッジ子爵や
あなたのご両親と相談してからと話はついたでしょう」
オリビアが言うが、
「ぜっだい、ばんだいされる~~~」
それはそうである。
貴重なスキル持ちであり、ずっと子爵家に仕えていた血筋の
ジュリアにそんな勝手が許されるはずがない。
リョウとしても、1~2年で日本に帰るつもりなので
その後の責任がとれない。
護衛隊長がなだめるが、こんなときに理屈は通用しない。
「とりあえず、デートしましょうか!」
泣いて離れようとしないジュリアをなだめるために、
リョウがだした精一杯のアイディアであった。
「オリビア様、護衛の方たちは、この後休暇がもらえるんですよね?!」
「ええ、明後日まで休みですが」
オリビアが答える。
「じゃ、明日は冒険者ギルドに行かないといけないので
明後日、デートしましょ」
「リョウ様、本当ですか?!」
ジュリアが抱きついたままリョウの顔を見上げる。
「はい、それでとりあえず我慢してください」
どうせ、明後日までにドミニク商会に行かなければならないので
そのついでに、何かプレゼントを買ってあげようと考えるリョウ。
ただし、側室指輪はナシである。
そして、明後日の約束をしてやっとジュリアはリョウから離れ、
他の護衛たちとノーレッジ子爵家の王都邸に向かった。
彼らを見送り、あとはウォルターとパルマに会って
手紙とお土産を渡せば今日は終わりだと、振り向いたリョウの
目の前には、ジト目で睨むオリビアとメイドがいたのであった。




