09 初陣
「うわっと!!!」
自分から転がって、放り出された衝撃を弱めるリョウ。
そのまま膝立ちで油断なく身構え、回りを見ると、
80mほど先に領主の姉一行らしき一団がモンスターと戦っていた。
モンスターの集団の中に放り込まれなくてよかったと
ほっとするが、のんびりしてる時間はない。
両手を地面につきクラウチングスタートの体勢をとる。
そして軽く頭を振り身体強化をかけ、
80m先にある戦場をにらみ・・・ダッシュする。
マジックバッグから剛斬丸を抜き出し一番近いオーガに向かう。
ちょうどそのオーガの棍棒の一撃を剣で受けた護衛の1人が、
衝撃で尻もちをついたところだった。
「ひっ」
追撃をしようとオーガが棍棒をふりあげる。
ガシッ!
オーガの棍棒を剛斬丸で受け流し、そのままオーガの
脇に踏み込み胴を横薙ぎにする。
剣道でいう「返し胴」というやつだろうか、特訓の成果である。
ほとんど抵抗なく剛斬丸がオーガの胴に食い込み両断する。
さらに手首を返して、近くにいたゴブリンの首をはねた。
尻もちをついている護衛に向かって
「お手伝いします!」
と声をかける。
「あ、ああ・・・」
危ないところを助かってほっとしたせいか、
気の抜けたような返事をする護衛。
「うわああぁぁ!!」
「ジャック!!」
声のした方向を見ると、護衛の1人が倒れており、
足が変な方向に曲がっている。
たぶんジャックと呼ばれた護衛がオーガの棍棒を足に受けたのだろう。
追い討ちしようとするオーガから、彼を守ろうとするもう1人の護衛。
オーガの棍棒を剣で受けるが、オーガのパワーに押され、
自分も倒れこんでしまう。
もうだめだと2人が思ったとき、オーガの頭頂部から
胸を抜け腹まで一本の赤い縦線が入る。
そして、その線から血を噴出しながら、オーガの身体が
左右に分かれていった。
リョウが後ろから唐竹割りにしたのだ。
「大丈夫ですか?!」
左右に分断されたオーガの死体ごしに返り血をあび、
規格はずれの大剣をかついだリョウ・・・ちょっとしたホラーだった。
思わず後ずさる護衛たち。
リョウの人のよさそうな笑顔がさらに恐怖を増加させていた。
「き、君は・・・?!」
「通りすがりの者です」
そう言って、最後のオーガに向かって走り出すリョウ。
その後ろ姿を見ながら2人の護衛は思った。
オーガより怖かったと・・・。